第22巻 期中管理と条件変更

― 融資の中間 貸した後、何を見て、どう動くのか

対象読者:信用金庫の営業店・融資管理部門で、既存の融資先を担当している方。実行までの流れ(→第20巻・第21巻)は理解したが、「貸した後に何をすればよいのか」が分からない、という段階を想定しています。

ねらい:期中管理を「決算書を受け取る事務」ではなく、「変化に気づき、手遅れになる前に動く」活動として理解すること。そして、条件変更(リスケジュール)という選択肢を、その意味と帰結を正確に理解したうえで使えるようになること。

このテキストの特徴:融資実務で最も長い時間を占めるのに、最も体系的に教えられていないのがこの領域です。本巻は、「兆候をどう捉えるか」「条件変更は何を意味するか」「本業支援とは何をすることか」の3つに紙幅を集中させます。

他巻との接続:稟議書に書いたモニタリング方針は →第21巻第6章。ラインシートの見方は →第21巻第8章。条件変更が債務者区分・引当に与える影響は →第14巻。保証協会との関係は →第21巻第12章。返済が滞った後の対応は →第23巻。当局の信用リスクの着眼は →第6巻第3章。


全体マップ(この一枚で流れがつかめます)

flowchart TD
    A["融資実行<br/>(→第20巻・第21巻)"] --> B["【平時の期中管理】(第Ⅰ部)<br/>決算書の受領・ラインシートの更新<br/>訪問・面談・取引の観察"]
    B --> C{"変化の兆候を捉える<br/>(第Ⅱ部)"}
    C -->|変化なし| B
    C -->|悪化の兆候| D["【早期の対応】(第Ⅲ部)<br/>事実の確認 → 原因の特定<br/>→ 打ち手の選択"]
    D --> E["①本業支援<br/>収益構造に手を入れる (第Ⅴ部)"]
    D --> F["②条件変更<br/>返済の負担を軽くする (第Ⅳ部)"]
    D --> G["③追加融資<br/>資金繰りをつなぐ"]
    D --> K["④引き上げ・保全強化<br/>これ以上出さない (第7-1節)"]
    E --> H["再建の道筋<br/>→ 改善すれば平時へ戻る"]
    F --> H
    G --> H
    F -.->|"債務者区分への影響"| I["要管理先へ<br/>(→第14巻)"]
    H -.->|"改善しない場合"| J["→ 出口の判断は第23巻"]
    K --> J
    style C fill:#fde,stroke:#c39
    style F fill:#fde,stroke:#c39

この図の読みどころは、中央の分岐(C)です。 期中管理の成否は、変化に気づけるかどうかでほぼ決まります。気づくのが早ければ選択肢は4つありますが、遅れれば第23巻の出口の話になります。期中管理とは、選択肢が残っているうちに気づく活動だと考えてください。

なお、打ち手のうち ①〜③は「支援する」方向、④は「引き上げる」方向です。この二方向を分けるのは「その事業は続く見込みがあるか」という一つの問いであり、期中管理の判断はすべてこの問いに帰ってきます(第8章)。


目次

第Ⅰ部 基礎編 ― 期中管理とは何をすることか

  1. なぜ期中管理が最も難しいのか
  2. 期中管理の3つの柱
  3. 決算書を受け取る ― 何を見るか

第Ⅱ部 兆候編(核心)

  1. 数字に出る兆候
  2. 数字に出ない兆候
  3. 【設例】兆候を時系列で読む

第Ⅲ部 対応編

  1. 気づいた後、最初にすること(7-1 融資の引き上げ/7-2 折り返しに応じない)
  2. 4つの打ち手と、その選び方

第Ⅳ部 条件変更編(核心)

  1. 条件変更とは何か
  2. 金融円滑化法とその後 ― この実務の背景
  3. 条件変更が持つ3つの意味
  4. 経営改善計画 ― 条件変更に必要なもの
  5. 【設例】条件変更の前後で何が変わるか

第Ⅴ部 本業支援編

  1. 資金繰り支援と本業支援は違う
  2. 信用金庫にできること

第Ⅵ部 比較編

  1. 地域銀行ならどうか/国際的にはどう考えられているか

第Ⅶ部 まとめ

  1. 実務での留意点
  2. つまずきやすいポイント総まとめ/セルフチェック/用語集

第Ⅰ部 基礎編 ― 期中管理とは何をすることか

1. なぜ期中管理が最も難しいのか

融資実務のうち、時間の大半を占めるのが期中管理です。1件の融資を実行するのに要する時間は数週間ですが、その融資は5年、10年と残ります。ところが、この領域は最も体系的に語られてきませんでした。

理由は、期中管理には「明確な締切がない」からです。

場面 締切 何をすべきかの明確さ
融資実行 実行日 明確(稟議・決裁・契約・実行)
自己査定 決算期 明確(基準に沿って判定)
期中管理 なし 曖昧

締切がなく、やることも定型化しにくい。だから、放っておくと何もしないまま時間が過ぎます。そして、何もしないことの結果は、何年も後に、突然表面化します。

⭐ポイント⭐:「実行には締切があり、期中管理には締切がない。だから期中管理は、意識的に仕組みにしなければ消える。」

もう一つの難しさは、悪い情報ほど入ってこないことです。

取引先は、業況が悪化しているとき、金融機関に伝えたがりません。伝えれば融資を引き上げられるのではないか、という恐れがあるからです(→第21巻第11章の経営者保証の副作用)。つまり、

最も知りたい情報が、最も入ってきにくい。

この構造を理解しておかないと、「決算書が出てこない」「面談を断られる」といった事象を、単なる事務の遅れとして処理してしまいます。情報が入ってこないこと自体が、最も重要な情報です(第5章)。

2. 期中管理の3つの柱

期中管理は、大きく3つの活動から成ります。

柱 内容 頻度
①定期的な情報収集 決算書・試算表の受領、ラインシートの更新 年1回〜四半期
②継続的な観察 訪問・面談、預金や決済の動きの観察 日常的
③稟議書に書いた方針の実行 「四半期ごとに○○を確認する」と書いたことを実行する 稟議書のとおり

③が最も見落とされます。 第21巻第6章で、稟議書には「懸念点・その評価・モニタリング方針」を書くと述べました。その方針を実行するのが期中管理です。

担当者の心得:担当を引き継いだら、まず稟議書を読んでください。そこには、前任者が何を懸念し、何を見続けると約束したかが書かれています(書かれていなければ、それ自体が問題です)。期中管理の出発点は、現在の数字ではなく、当初の判断です。 当初の前提が崩れていないかを確認することが、期中管理の本質だからです。

3. 決算書を受け取る ― 何を見るか

決算書の受領は、期中管理の最も基本的な行為です。しかし、受け取ることと、見ることは違います。

見るべき順序

第一に、「前期と何が変わったか」。第21巻第8章のラインシートと同じで、変化に情報があります。売上、利益、借入金、在庫、売掛金 ― どれかが大きく動いていれば、必ず理由があります。

第二に、「稟議時の見立てとどう違うか」。稟議書に「今期の売上は○○を見込む」と書いてあれば、それと実績を比べます。見立てどおりなら、その事業の理解は正しかったことになります。大きく外れていれば、理解が間違っていたか、事業環境が変わったかのどちらかです。

第三に、「返済能力は維持されているか」。第21巻第2章の債務償還年数を、改めて計算します。

とくに注意して見る項目

項目 何を疑うか
売掛金の増加 回収が遅れていないか。実在しない売掛金はないか
棚卸資産の増加 売れない在庫が滞留していないか
短期借入金の増加 資金繰りが厳しくなっていないか
役員貸付金・仮払金 会社の資金が私的に流出していないか
利益は出ているが現金が減っている 利益の質。実態を伴わない利益ではないか

💡 ここでつまずきやすい:「黒字だから問題ない」

最も危険な読み方です。利益が出ていても、現金が回らなければ倒れます(黒字倒産)。第21巻第2章で資金繰り表の重要性を述べたのは、このためです。

とくに、売掛金と棚卸資産が増えながら利益が出ているという状態には注意が必要です。売上を計上しても、代金が回収できていなければ現金は入ってきません。在庫が積み上がっていれば、仕入代金は出ていったまま戻ってきていません。損益計算書の利益と、現金の増減は別物です。

見るべきは、「利益がどれだけ現金になっているか」です。この視点は、第0巻第8章の「4つの数字」― 会計上の利益と、経営管理上の実態は別 ― の、融資先版だと考えてください。

担当者の心得:決算書を受け取ったら、必ず取引先と対話してください。数字だけでは、なぜそうなったかが分かりません。「売上が減っていますが、何が起きましたか」と聞くこと自体が、期中管理であり、同時に関係づくりです。そして、この対話の記録を残してください。第21巻第5章で述べたとおり、記録がなければ判断の過程は残りません。

ここまでの筋(3行)

① 期中管理には締切がなく、意識的に仕組みにしなければ消える。

② 最も知りたい悪い情報ほど、入ってきにくい構造がある。

③ 出発点は現在の数字ではなく、稟議書に書かれた当初の判断と方針。


第Ⅱ部 兆候編(核心)

4. 数字に出る兆候

業況の悪化は、いきなり返済不能として現れるのではなく、必ず前兆があります。前兆を捉えられれば、選択肢が残っているうちに動けます。

まず、数字に出る兆候から。

兆候 何を示唆するか
返済の遅延 最も直接的な兆候。1日でも遅れたら理由を確認する
当座貸越の恒常的な使い切り 資金繰りの逼迫(→第20巻第6章)
手形貸付の書替が続き、減額されない 返済原資が生まれていない(→第20巻第5章)
預金残高の減少傾向 手元資金が細っている
他行借入の増加 自金庫に相談せず他行で調達している=何かを言えていない
売掛金の回転期間の長期化 回収の悪化、あるいは押し込み販売
在庫の回転期間の長期化 売れない在庫の滞留
税金・社会保険料の滞納 極めて重い兆候。優先的に支払うべきものを払えていない

最後の項目を強調しておきます。 税金や社会保険料は、事業を続けるうえで最も優先して支払うべきものです。これを滞納しているということは、それ以外の支払いに回す資金がすでにないことを意味します。しかも、滞納が続けば滞納処分(差押え)により、事業の継続そのものが困難になります。この兆候を把握したら、直ちに対応が必要です。

💡 ここでつまずきやすい:「返済は遅れていないから大丈夫」

返済の遅延は最も分かりやすい兆候ですが、最も遅く現れる兆候でもあります。事業者は、金融機関への返済を最後まで守ろうとします。返済が遅れる頃には、既に他の支払い(仕入代金、税金、給与)が滞っていることが少なくありません。

つまり、返済遅延を待って対応を始めるのでは遅い。だから、返済以外の兆候 ― 当座貸越の使い切り、預金の減少、税金の滞納 ― を見る必要があるのです。「約定どおり返済されている」ことは、健全性の証明にはなりません。

5. 数字に出ない兆候

数字より早く現れるのが、行動や態度の変化です。 これらは決算書には載りませんが、実務ではむしろこちらが先に見えます。

兆候 何を示唆するか
決算書の提出が遅れる 数字を見せたくない、あるいは作れていない
面談を避ける・訪問を断られる 説明したくない事情がある
説明が曖昧になる、話が変わる 実態と説明が乖離している
経理担当者・幹部の退職 内部の混乱。情報を知る人が去っている
主要取引先の変更、取引条件の悪化 事業基盤の変化
社長が資金繰りに追われている 本業に手が回っていない
設備の稼働状況、職場の様子の変化 現場に行かなければ分からない情報
融通手形の兆候 極めて重い(→第20巻第7章)

とくに1〜3行目 ― 情報が入ってこなくなること ― が重要です。

第1章で述べたとおり、最も知りたい情報が最も入ってきにくい。だから、情報が入ってこなくなること自体を、兆候として扱う必要があります。

⭐ポイント⭐:「悪い情報が来なくなったことが、最も悪い情報である」。

担当者の心得:第21巻第3章で「悪い情報を早く出してくる先ほど、再建の可能性は高い」と述べました。逆に言えば、情報を出さなくなった先は、対応が難しくなります。だから、平時から「悪い情報も言える関係」を作っておくことが、期中管理の本体です。これは精神論ではなく、情報の非対称性を減らす、極めて実務的な取り組みです。

具体的には、業況が良いときにこそ訪問し、「厳しくなったら早めに相談してください。早ければ打てる手が多い」と、繰り返し伝えておくことです。悪化してから信頼関係を作ることはできません。

6. 【設例】兆候を時系列で読む

すべて単純化した仮の設定です。ある製造業の取引先について、2年間の経過を追います。

時期 起きたこと どう読むか
X年4月 決算書受領。売上横ばい、利益微減 大きな変化なし
X年7月 当座貸越の使用残高が増加、月末に極度額近くまで使用 ①資金繰りの兆候。理由を確認すべき
X年10月 経理課長が退職 ②情報を知る人が去った。以後の情報の質に注意
X年12月 賞与資金の申込。前年より増額 資金繰りの逼迫の可能性。使途と返済原資を確認
Y年3月 決算書の提出が2か月遅れる ③情報が出てこなくなった。最も重い兆候
Y年5月 決算書受領。売上10%減、赤字転落。売掛金と在庫が大幅増 数字にも現れた
Y年6月 社会保険料の滞納が判明 ④極めて重い兆候。直ちに対応が必要
Y年8月 返済の遅延が発生 最も遅い兆候。ここまで来ると選択肢は限られる

この時系列の読みどころは3つあります。

第一に、最初の兆候(X年7月)から返済遅延(Y年8月)まで、13か月あります。 この間に動けていれば、選択肢は多くありました。

第二に、数字に出ない兆候(②③)が、数字(Y年5月の決算書)より先に現れています。 経理課長の退職も、決算書の遅延も、決算書には載りません。

第三に、返済遅延が最後に来ています。 第4章で述べたとおり、これは最も遅い兆候です。

では、いつ動くべきだったのか。

X年7月の当座貸越の使い切りを見た時点で、「なぜ資金繰りが厳しいのか」を確認すべきでした。

この時点で理由を掘り下げていれば、売掛金の回収遅延や在庫の滞留といった、Y年5月の決算書で判明した事象を、10か月早く把握できた可能性があります。

担当者の心得:兆候は、1つでは判断できませんが、重なれば意味を持ちます。上の設例でも、当座貸越の使用増だけなら季節要因かもしれません。しかし、それに経理課長の退職と決算書の遅延が重なれば、明らかに何かが起きています。

ラインシートに、兆候を記録してください(→第21巻第8章)。個々の事象は忘れられますが、記録があれば重なりが見えます。「そういえば去年も…」を、記憶ではなく記録にすることが、期中管理を仕組みにするということです。

ここまでの筋(3行)

① 数字に出る兆候のうち、返済遅延は最も分かりやすいが最も遅い。

② 数字に出ない兆候(情報が入ってこなくなること)のほうが早く現れる。

③ 兆候は重なって意味を持つ。記録しなければ重なりは見えない。


第Ⅲ部 対応編

7. 気づいた後、最初にすること

兆候を捉えたら、すぐに打ち手を考えたくなります。しかし、その前にやることがあります。

手順は3段階です。

段階 やること よくある失敗
①事実の確認 何が起きているのかを、正確に把握する 推測で動く
②原因の特定 なぜそうなったのかを突き止める 症状に対処して原因を放置
③打ち手の選択 原因に対応する手を選ぶ 資金繰りだけを見て融資する

②が決定的に重要です。

たとえば「資金繰りが苦しい」という事実に対して、原因はいくつも考えられます。

原因 対応すべき打ち手
一時的な入金遅れ 短期のつなぎ資金で足りる
売上の減少が続いている 収益構造の見直しが必要(第Ⅴ部)
過大な設備投資の返済負担 条件変更が有効(第Ⅳ部)
私的な資金流出 融資では解決しない。ガバナンスの問題
事業の継続が見込めない/資金使途違反・粉飾 これ以上は出さない。保全の確保と回収へ(第7-1節。出口は→第23巻)

原因が違えば、打ち手も違います。 原因を特定せずに資金を出せば、問題を先送りしたうえ、債務を増やすことになります。第21巻第15章で述べた「資金供給と事業再建は別」という論点が、ここで具体的に現れます。

💡 ここでつまずきやすい:「とりあえず資金繰りをつなぐ」

緊急性が高い場面では、まず資金を出すという判断が正しいこともあります。しかし、それは時間を買う行為であって、問題の解決ではありません。買った時間で何をするかを決めていなければ、同じ状況が数か月後に、より悪い形で再来します。

したがって、つなぎ資金を出す場合でも、「この期間に何を確認し、何を決めるか」をセットで決めてください。それが稟議書に書かれていなければ、その融資は問題の先送りです。

なお、回収の見込みが乏しい先に、既存の融資を焦げつかせたくないという理由で資金を追加することを、実務では追い貸しと呼びます。「今止めれば損失が確定してしまう」という動機から出る融資であり、判断の基準が取引先の事業ではなく自金庫の損失計上の先送りにすり替わっている点が問題です。追い貸しかどうかを見分ける問いは1つです ― 「この先が今日はじめて融資を申し込んできた新規先だったとして、それでも貸すか」。貸さないと答えるなら、それは追い貸しです。

担当者の心得:悪い情報を掴んだとき、担当者個人で抱え込まないでください。上司・融資部門に速やかに報告することが、組織としての対応の起点になります。報告が遅れることは、選択肢が減ることを意味します。「もう少し様子を見てから」という判断が、第6章の設例のような13か月を生みます。

7-1. 打ち手は「出す」方向だけではない ― 融資の引き上げ

ここまで挙げた打ち手は、つなぎ資金・条件変更・本業支援と、いずれも「出す」「軽くする」方向のものでした。しかし、期中管理の打ち手には、もう一方向があります。

これ以上は出さない。減らす。守りを固める。 ― 融資の引き上げです。

新任担当者がここでつまずくのは、「引き上げ」を、取引先を見捨てる特別な決断だと思ってしまうことです。そうではありません。貸すか貸さないかを判断するのが与信であり、「貸さない」もまた与信判断の半分です。第21巻第1章で立てた3つの問い(返せるか/返す気があるか/返せなかったらどうするか)は、実行のときだけでなく、期中にも同じ形で問い直されます。その答えが変わったのなら、対応も変わるのが当然です。

「引き上げ」と一言でいっても、中身は一様ではありません。 まず、最も大きな分かれ目を押さえてください。

期限の到来を待つのか、待たないのか。

待たないのが、約定違反等を理由に残額の一括返済を請求する期限の利益の喪失です(→第23巻第2章)。これは出口の局面であり、相応の事由と手続を要します。

これに対して、実務で行われる引き上げの大半は「待つ」ほうです。 すなわち、既存の融資を無理に失期させることはせず、期限が到来したものについて、次を出さない。約定違反は何も起きておらず、金庫は契約上の期限が来たという事実に従っているだけです。にもかかわらず、残高は確実に落ちていきます。

段階 具体的な行為 期限の到来を 残高への効き方
①新規に応じない 新たな融資の申込みを謝絶する ― 残高は減らないが、増えない
②枠を絞る 当座貸越の極度額を減額する、期日に更新しない(→第20巻第6章) 待つ 使用分だけ、徐々に減る
③書替・折り返しに応じない 手形貸付の書替に応じない(→第20巻第5章)、証書貸付の返済が進んだ分の折り返し実行を行わない(→第20巻3-3) 待つ 期日ごとに、段階的に減る
④保全を固める 追加の担保・保証を求める、預金を相殺に備えて確保する(→第21巻第9章・第10章、→第23巻第3章) ― 残高は変わらないが、回収可能性が上がる
⑤期限の利益を喪失させる 約定違反等を理由に、残額の一括返済を請求する 待たない 出口の局面。→第23巻第2章

この表の読みどころは2つあります。

第一に、①〜③と④は別の話です。 ①〜③はエクスポージャー(与信残高)を減らす行為、④は残高はそのままに、返ってくる確率を上げる行為です。前者は取引先の資金繰りに直接効きますが、後者は効きません。「引き上げる」と言うとき、自分がどちらを指しているのかを、常に区別してください。

第二に、実務の中心は③です。 そして、③は穏当な手段に見えて、そうとは限りません。この点は、本章の最後(第7-2節)で改めて扱います。

どういう場面で選ぶのか。 第7章の原因の表に戻ります。条件変更も追加融資も、「事業が続く」ことを前提にした打ち手です。したがって、その前提が崩れている次のような場合には、どちらも誤った打ち手になります。

  • 事業の継続そのものが見込めない(市場が消滅した、主要設備が失われた など)
  • 資金使途違反・粉飾が判明した(貸した前提そのものが偽られていた)
  • 私的な資金流出が続いている(出した資金が事業に入らない)
  • 経営者に再建の意思がなく、計画の作成にも応じない

この場合に資金を出すことは、支援ではありません。回収可能性を下げながら、地域の他の取引先に回るはずだった資金を減らす行為です。第0巻第4章で見たとおり、信用金庫の原資は地区の会員から預かった預金です。「出さない」という判断は、その預金に対する責任でもあります。

【設例】保全を固めることの効き方(すべて単純化した仮の数字。第13章の設例と同じ前提を使います)

残高100、うち担保・保証で保全されている部分50、保全されていない部分50。要管理先に区分された場合の引当率を15%(→第14巻第10章の設例の率)とします。

ケース 非保全部分 引当額
何もしない 50 50 × 15% = 7.5
追加担保20を取得 30 30 × 15% = 4.5

保全を20固めるだけで、引当は3.0軽くなります。 残高は1円も減っていません。④の保全強化が「残高を減らさずに効く打ち手」だというのは、こういう意味です。ただし ― これが肝心なところですが ― 取引先の資金繰りは、これによって1円も楽になっていません。

💡 ここでつまずきやすい:「円滑化法以降、引き上げてはいけない」

誤解:条件変更に柔軟に応じるのが当局の方針なのだから、融資を引き上げる判断はしてはいけない。

正しい理解:そうではありません。 第10章で述べた当局の方針が求めているのは、「顧客の状況をよく把握し、対話したうえで判断し、その判断の理由を説明できること」です。応じられないという結論そのものが否定されているわけではありません。 問題とされるのは、十分な把握も対話もないまま、機械的に絞ること(いわゆる貸し渋り・貸し剥がしと呼ばれてきた対応)です。

つまり、引き上げてはいけないのではなく、説明できない引き上げをしてはいけない。ここを取り違えると、担当者は「引き上げるべき先を引き上げられない」か「説明のないまま絞る」かの、どちらの方向にも誤ります。

💡 ここでつまずきやすい:「兆候を掴んだら、まず保全を固めればよい」

保全強化は金庫にとって合理的ですが、副作用があります。

第一に、取引先は敏感に察知します。 担保の追加を求められた経営者は、「この金庫は自分を見限った」と受け取ります。第5章で述べた「悪い情報を言える関係」は、その瞬間に失われます。

第二に、他の金融機関に伝わります。 複数行と取引がある先では、1行の動きは必ず他行に伝わり、他行も同時に動きます。結果として、資金繰りが一気に詰まることがあります。

第三に、自金庫だけが先に保全を固める行為は、他行との関係で「抜け駆け」と受け取られます。後に私的整理で足並みを揃えるべき局面(→第23巻第6章・第7章)で、その経緯は必ず持ち出されます。

したがって、保全強化は「早ければ早いほどよい」ものではありません。事業に将来性があるなら、まず対話と支援が先に来ます。保全を固めるという判断は、「この先の関係をどうするか」の判断とセットだと考えてください。

担当者の心得:引き上げの判断こそ、稟議と記録を残してください(→第21巻第5章・第6章)。何を確認し、何を根拠に、いつ、誰が決めたのか。 出す判断に稟議が要るのと同じ理由で、出さない判断にも稟議が要ります。とくに信用金庫は、地区から出られない業態です(→第16章)。1件の引き上げ方は、その取引先だけでなく、地域における金庫の評判として残ります。「やむを得ない判断だったが、説明は尽くした」と言える状態にしておくことが、担当者と金庫の双方を守ります。

⭐ポイント⭐:「出すも出さぬも与信判断。出さない判断にも、稟議と記録が要る」。

7-2. 折り返しに応じない ― 最も多く使われ、最も誤解される判断

第20巻3-2〜3-3で、運転資金には①短期継続融資型(手形貸付・当座貸越を書替で継続)と②長期運転資金型(証書貸付を分割返済し、途中で折り返しの実行を行って残高を保つ)の2つがあり、どちらも所要運転資金が事業を続ける限り消えないことを前提にした設計だ、と述べました。

ということは、こういうことです。

書替や折り返しに応じないという判断は、「新しく貸さない」ように見えて、実質は「返済を求める」ことと同じです。

取引先の側から見れば、消えない運転資金の穴が、期日ごとに現金で埋めることを求められる状態になります。第20巻3-3の設例(所要運転資金10,000万円)でいえば、書替に応じないという一つの判断で、その期日に10,000万円の資金繰り負担が発生します。第20巻の 💡 で「短期融資だから機動的に引き上げられるという前提は、取引先の資金繰りを止めることを意味するため、実際には簡単に行使できない」と述べたのは、この意味です。

だから、③には手加減の余地があります。 全額を断つか、残高を落としながら継続するかは、こちらが選べます。

対応 内容 取引先への効き方
全額の折り返しに応じない 期日に全額の返済を求める 最も重い。資金繰りを直撃する
減額して折り返す 例:10,000万円の期日到来分を、8,000万円で実行する 段階的。期日ごとに2,000万円ずつ残高が落ちる
同額で折り返す(継続) 従来どおり 残高は減らない

中央の「減額して折り返す」が、実務で最も多く選ばれる形です。取引先に急激な資金繰りの負担をかけずに、金庫のエクスポージャーは着実に落ちていきます。引き上げとは、多くの場合、この「落とし方の設計」のことです。

💡 ここでつまずきやすい:「失期させていないのだから、穏当な対応だ」

誤解:期限の利益は喪失させていない。期日が来たものを更新しないだけだから、強い措置ではない。

正しい理解:取引先にとっての重さは、法律構成では決まりません。資金繰りへの効き方で決まります。 全額の折り返しを断ることは、その期日において、期限の利益を喪失させたのと同じ額の返済を求めているのと変わりません。「失期させていない」は、金庫側の手続の話であって、取引先の資金繰りの話ではないのです。

逆もまた真です。長期の証書貸付だけの先には、そもそも折り返しの機会がありません。約定弁済が進むにつれ、残高は自動的に落ちていきます。第20巻3-2で「①は判断の機会が定期的に来るが形骸化しやすく、②は判断の機会が来ない」と述べましたが、引き上げの局面では、この非対称がそのまま反転して効きます ― 短期継続融資の先は、判断のたびに関係が試され、長期の証書貸付の先は、何もしなくても残高が落ちていく。

💡 ここでつまずきやすい:「折り返しの申込を断ったのだから、記録は不要」

むしろ逆です。 第20巻3-3で、実行時に「5年で返しきる融資なのか、折り返しを前提に残高を維持する融資なのか」を稟議書に書くべきだ、と述べました。その答えが「折り返し前提」だったのなら、折り返しに応じないという判断は、当初の設計を金庫の側から変更する判断です。 当初の稟議に何と書いてあったかを確認し、なぜ設計を変えるのかを記録に残してください。 当初の設計を知らないまま断れば、それは判断ではなく、担当者が代わったことによる事故です(→第2章「担当を引き継いだら、まず稟議書を読む」)。

担当者の心得:折り返しに応じない、または減額するときは、期日の相当前に取引先へ伝えてください。期日の直前に「今回は折り返しません」と告げることは、取引先から代替手段を探す時間を奪う行為です。他行への相談、保証協会の枠の確認、資産の売却 ― どれも時間がかかります。判断そのものは正当でも、伝え方によって「貸し剥がし」になります。 伝える時期は、判断の内容と同じくらい重要だと考えてください。

8. 4つの打ち手と、その選び方

原因が特定できたら、打ち手を選びます。大きく4つです。

打ち手 内容 有効な場面
①本業支援 収益構造そのものに手を入れる 事業に構造的な課題がある(第Ⅴ部)
②条件変更 返済の負担を軽くする 事業は継続できるが、返済負担が過大(第Ⅳ部)
③追加融資 資金繰りをつなぐ 一時的な資金不足。回復の道筋が見える
④引き上げ・保全強化 これ以上出さない。減らす。守りを固める 事業の継続が見込めない、資金使途違反・粉飾がある(第7-1節)

①〜③と④を分けるのは、たった一つの問いです。

その事業は、続く見込みがあるか。

続く見込みがあるなら①〜③、ないなら④です。この問いは、第23巻第1章で「出口を分けるたった一つの問い」として改めて立てることになります。期中管理の段階で立てる同じ問いの、手前版だと考えてください。期中管理でこの問いを立てられていれば、出口の判断は突然やってきません。

①〜③は、排他的ではありません。 実務では組み合わせて使います。とくに、②条件変更と①本業支援はセットで行うべきものです。理由は第Ⅳ部で詳しく述べますが、一言でいえば、

条件変更は返済を軽くするだけで、事業を良くはしない。

返済負担を軽くして時間を作り、その時間で事業を立て直す ― この組み合わせで初めて意味を持ちます。条件変更だけを繰り返せば、時間は過ぎ、債務は残ったままになります。

④は方向が逆ですが、④のうち「保全を固める」だけは、①〜③と併存します。 条件変更に応じるにあたって追加の保全を求める、といった組合せは実務でもあります。ただし、その場合は第7-1節で述べた副作用を踏まえ、なぜ両方が必要なのかを稟議に書いてください。

⭐ポイント⭐:「条件変更は時間を作り、本業支援は中身を変える。そして引き上げは、時間を打ち切る」。

ここまでの筋(3行)

① 兆候を捉えたら、事実の確認 → 原因の特定 → 打ち手の選択、の順で進む。

② 原因を特定せずに資金を出すのは、債務を増やしながらの先送り。

③ 打ち手は4つ。①〜③(支援)と④(引き上げ)を分けるのは「事業が続く見込みがあるか」の一問。


第Ⅳ部 条件変更編(核心)

9. 条件変更とは何か

条件変更(実務ではリスケジュール、略してリスケとも呼ばれます)とは、当初の約定を変更して、返済の負担を軽くすることです。

主な形態

形態 内容
返済期間の延長 返済期限を延ばし、毎回の返済額を減らす
元金返済の猶予(据置) 一定期間、元金の返済を止め、利息のみとする
返済額の減額 毎回の返済額を減らす(期間は延びる)
金利の減免 金利を引き下げる、または免除する

最も多く用いられるのは、元金返済の猶予と期間の延長です。金利の減免は、金庫の収益に直接影響するため、より慎重な判断を要します。

条件変更が持つ、根本的な性質を押さえてください。

条件変更は、貸したお金を減らすわけではありません。返す時期を後ろにずらすだけです。

元金は残ります。したがって、事業が立ち直らなければ、後ろにずらした時点で同じ問題に直面します。この当たり前の事実が、実務では見失われがちです。

10. 金融円滑化法とその後 ― この実務の背景

条件変更をめぐる現在の実務は、2009年に施行された中小企業金融円滑化法(以下、円滑化法)の影響を強く受けています。新任担当者が現在の実務を理解するには、この背景を知っておく必要があります。

円滑化法とは何だったか。 金融危機後の厳しい経済環境の下で、中小企業や住宅ローン借入者から返済条件の変更等の申込みがあった場合、金融機関はできる限り応じるよう努めることを定めた時限立法でした。金融機関には、条件変更の実施状況の開示・報告も求められました。

この法律は既に期限を迎えて終了しています。しかし、その考え方は実務に残りました。 当局は、法の終了後も、貸付条件の変更等に柔軟に応じるという対応を継続すべきという方針を示し、金融機関の実務もそれに沿って運営されてきました。具体的な現在の当局の方針は、監督指針および最新の公表資料で必ず確認してください。

この経緯が実務に残した、最も重要な帰結は次の点です。

条件変更を行っても、一定の要件を満たせば、債務者区分を要管理先等に落とさなくてよい場合がある。

これを理解するには、第14巻の債務者区分の知識が必要です。貸出条件の緩和が行われた債権は、原則として要管理先(要注意先のうち、一定期間以上の延滞や貸出条件の緩和があるもの)に区分されます(→第14巻第2章)。要管理先になれば、引当率は大きく上がります(→第14巻第10章の設例では、要注意先3%から要管理先15%へ)。

ところが、実現可能性の高い抜本的な経営再建計画があるなど、一定の要件を満たす場合には、条件変更を行っても要管理先としないことができるとされてきました。具体的な要件は、金融庁の公表資料および自金庫の自己査定基準で必ず確認してください。

💡 ここでつまずきやすい:「条件変更に応じれば区分は落ちない」ではない

上記の取扱いがあるため、「条件変更しても区分は落ちない」と単純化して理解されることがありますが、誤りです。落とさなくてよいのは、要件を満たす場合に限られます。そして、その要件の中心にあるのが経営改善計画です(第12章)。

計画がない、あるいは計画の実現可能性が乏しい条件変更は、要管理先への区分低下と、引当の増加をもたらします。「条件変更に柔軟に応じる」ことと、「区分と引当が影響を受けない」ことは、別の話です。

担当者の心得:条件変更の相談を受けたとき、「応じるかどうか」だけを考えないでください。同時に考えるべきは、「どういう計画とセットにすれば、この先が本当に立ち直るか」です。前者だけを考えると、計画のない条件変更を繰り返すことになり、結果として取引先も金庫も傷みます。

11. 条件変更が持つ3つの意味

条件変更は、3つの異なる面を持ちます。この3面を分けて考えられることが、本章の到達目標です。

面 条件変更が意味すること
①取引先にとって 時間を得る。返済負担が軽くなり、事業立て直しの余地が生まれる
②金庫の会計・査定にとって 要件を満たさなければ要管理先へ区分低下 → 引当の増加(→第14巻)
③金庫の収益にとって 元金の回収が遅れ、金利減免があれば収益が直接減る(→第3巻の資金利益)

それぞれを、もう少し掘り下げます。

①取引先にとって ― これは明確なメリットです。ただし、元金は消えていません。据置期間が終われば、返済は再開します。しかも、期間を延ばした分、総支払利息は増えます。「楽になった」という感覚と、「債務は残っている」という事実の乖離に注意が必要です。

②査定への影響 ― 第10章のとおりです。要件を満たすかどうかが分岐点になります。

③収益への影響 ― 見落とされがちですが、重要です。元金の回収が遅れれば、その資金は他に運用できません。金利を減免すれば、資金利益が直接減ります(→第3巻第3章)。条件変更は、金庫にとってコストを伴う判断です。

担当者の心得:条件変更の稟議には、この3面をすべて書いてください。「取引先の資金繰りが改善する」だけでは不十分です。「債務者区分にどう影響するか」「引当がいくら増えるか」「収益がいくら減るか」を明示したうえで、それでもなお実施すべき理由を書く。これが、第21巻第6章で述べた「懸念点とその評価」の、条件変更版です。

12. 経営改善計画 ― 条件変更に必要なもの

第10章で述べたとおり、条件変更の帰結を分けるのは経営改善計画の有無と質です。

経営改善計画とは何か。 一言でいえば、「どうやって事業を立て直し、いつまでに返済できる状態に戻すか」の道筋を示した文書です。

含むべき要素

要素 内容
現状分析 なぜこうなったのか。原因の特定(第7章の②)
改善策 何をするのか。具体的な行動
数値計画 売上・利益・資金繰りの見通し。改善策と数字が対応していること
返済計画 いつから、どのように返済を再開するか
モニタリングの方法 進捗をどう確認するか

計画の質を判断する基準は、一言でいえば「実現可能性」です。

💡 ここでつまずきやすい:「計画があればよい」ではない

計画書という文書が存在することと、実現可能性があることは別です。実務でよく見るのは、「売上が毎年10%伸びる」という前提だけで数字が合っている計画です。

しかし、なぜ伸びるのかが書かれていなければ、それは願望であって計画ではありません。第14巻第6章で DCF 法について「再建計画の実現可能性の評価が引当額のすべてを決める」「『計画に書いてあるから』は根拠にならない」と述べたのは、まさにこのことです。

見るべきは、①改善策が具体的か ②数字が改善策と対応しているか ③過去の実績や業界の状況に照らして妥当か、の3点です。

誰が計画を作るのか。 中小企業では、自力で計画を作れないことが少なくありません。そのため、実務では次のような支援の枠組みが用いられます。

  • 金融機関が伴走して作成を支援する
  • 認定支援機関(税理士・公認会計士・金融機関等で、一定の認定を受けた者)の支援を受ける
  • 中小企業活性化協議会など、公的な支援機関の関与を得る(→第23巻第7章で詳述)

担当者の心得:計画作成を「取引先の宿題」にしてはいけません。作れないから困っているのが実情です。かといって、金庫が代わりに作ってしまえば、それは取引先の計画になりません。実行するのは取引先だからです。

適切な関与は、「一緒に考えるが、決めるのは経営者」という距離感です。そして、作れない場合には、外部の支援機関につなぐ。第15章の本業支援の話と、ここでつながります。

13. 【設例】条件変更の前後で何が変わるか

すべて単純化した仮の数字です。実効税率30%。

前提:ある取引先への証書貸付。残高100、残存5年、年20の元金返済(毎年)、金利2.0%。業況悪化により、年20の返済が困難になった。

条件変更の内容:元金返済を2年間猶予(据置)し、その後7年で返済する。金利は据え置き。

①取引先にとっての変化

変更前 変更後
年間の元金返済 20 0(2年間)→ その後 約14.3
年間の利息 約2.0 約2.0(残高が減らないため当面は横ばい)
年間の返済負担 約22 約2(2年間)
完済までの期間 5年 9年

2年間で、年20の資金繰り負担が消えます。これが条件変更の効果です。ただし、完済は5年後から9年後へと、4年遅れます。

②金庫の査定への影響(→第14巻)

ケース 債務者区分 引当への影響
実現可能性の高い経営改善計画がある(要件を満たす) 要注意先のまま(区分低下せず) 影響は限定的
計画がない/実現可能性が乏しい 要管理先へ 引当が大きく増加

第14巻第10章の設例の率(要注意先3%、要管理先15%)を、保全されていない部分50に当てはめると、

\[\begin{aligned} \text{計画あり(要注意先のまま)} &: 50 \times 3\% = 1.5 \\ \text{計画なし(要管理先へ)} &: 50 \times 15\% = 7.5 \end{aligned}\]

差の 6.0が追加の引当繰入(税引後で約4.2)になります。

同じ条件変更でも、計画の有無で引当が5倍変わります。 これが、第12章で経営改善計画を重視する理由の、数字としての意味です。

③金庫の収益への影響

元金の回収が2年遅れることで、その資金を他に運用する機会が失われます。また、期間が延びる分、貸倒れのリスクに晒される期間も延びます。

3面を一枚に

面 変化
①取引先 年間の返済負担 約22 → 約2(2年間)。完済は4年遅れる
②査定・引当 計画があれば影響は限定的。なければ引当が +6.0(税引後 約4.2)
③収益 元金回収の遅れ。金利減免があればさらに減少

一言まとめ:条件変更は、取引先に時間を与え、金庫にコストを負わせる判断です。 そのコストに見合うのは、その時間で事業が立ち直る場合だけです。だから経営改善計画が要る ― この論理を、稟議書に書けるようにしてください。

ここまでの筋(3行)

① 条件変更は債務を減らさない。返す時期を後ろにずらすだけ。

② 円滑化法以降、柔軟に応じる実務が定着したが、区分・引当への影響は要件次第。

③ 同じ条件変更でも、経営改善計画の有無で引当が大きく変わる。


第Ⅴ部 本業支援編

14. 資金繰り支援と本業支援は違う

第21巻第15章で、コロナ禍の融資が残した論点として「資金を供給することと、事業を立て直すことは別である」と述べました。本章は、その続きです。

資金繰り支援 本業支援
何をするか 資金を供給する、返済を軽くする 事業の中身に関わる
効果 時間を作る 収益構造を変える
金庫にとって 融資・条件変更という既存の手段 情報・ネットワーク・助言の提供
単独では 問題を先送りする 資金繰りが持たなければ間に合わない

この表の最後の行が本質です。 資金繰り支援だけでは、時間が過ぎるだけで構造は変わりません。一方、本業支援だけでは、手を打つ前に資金が尽きます。

⭐ポイント⭐:「資金繰り支援は延命、本業支援は治療。どちらか一方では足りない。」

なぜ信用金庫が本業支援に取り組むのか。 理由は3つあります。

第一に、それが取引先のためになるから。 返済できない事業者に貸し続けることは、支援ではありません。

第二に、それが金庫のためになるから。 取引先が立ち直れば、債務者区分は改善し、引当は戻り(→第14巻)、取引は続きます。

第三に、それが地域のためになるから。 第0巻第4章で見たとおり、信用金庫は地区と運命を共にします。地域の事業者が失われることは、地域経済の縮小であり、金庫の将来の縮小でもあります。この3つ目の理由が、協同組織金融機関にとって本業支援が単なる「サービス」ではなく、業態の存在意義そのものであることを意味します(→第16巻第9章のリスクアペタイト)。

15. 信用金庫にできること

「本業支援」と言われても、金融機関の担当者が経営コンサルタントになれるわけではありません。信用金庫が現実にできることは何かを、具体的に整理します。

できること 内容 なぜ信用金庫にできるのか
現状を整理する 資金繰り表・数値計画の作成支援 財務の見方を知っているから
つなぐ 取引先同士の紹介、販路の紹介 地区内の企業を面で知っているから
専門家につなぐ 税理士、中小企業診断士、認定支援機関、公的支援機関 外部のネットワークがあるから
事業承継を支援する 後継者の問題、M&A の相談 経営者と長期の関係があるから
他の金融機関と調整する 複数行取引の場合の足並みの調整 主力行としての立場

2行目の「つなぐ」が、信用金庫の最大の強みです。

信用金庫は、地区内の多数の事業者と取引しています。「この製品を作れる会社を探している」「この技術を必要としている会社がある」という情報が、金庫には集まります。これは、地区に限定されているからこそ持てる情報です(→第0巻第4章)。

第0巻第4章では、地区制限を「地域集中リスクを生む制約」として説明しました。同じ制約が、面的な情報という強みも生んでいる ― この両面性を理解しておいてください。

💡 ここでつまずきやすい:「本業支援は儲からないから後回し」

短期的には、本業支援に直接の収益はつきません。しかし、

  • 取引先が改善すれば、引当が戻り、与信費用が減ります(→第14巻)。これは損益に直接効きます
  • 取引が継続し、長期の関係から生まれる収益があります
  • 地域が保たれることが、金庫の事業基盤そのものです

第4巻第1章で「稼ぐことは目的ではなく、地域に資金を供給し続けるための手段」と述べました。本業支援は、その逆方向 ― 地域を保つことが、稼ぐ基盤を保つこと ― の実践です。ただし、これは「収益を度外視してよい」という意味ではありません。限られた人員をどこに投じるかは、経営資源の配分の判断です。

担当者の心得:本業支援で最も重要なのは、できないことを引き受けないことです。金融機関の担当者は、事業の専門家ではありません。分かったふりをして助言することは、取引先を誤らせます。

現実的な姿勢は、「財務のことは自分が見る。事業のことは経営者と専門家に委ねる。その間をつなぐのが自分の役割」という線引きです。そして、つなげる先を平時から持っておくことが、この線引きを実効的にします。

ここまでの筋(3行)

① 資金繰り支援は延命、本業支援は治療。どちらか一方では足りない。

② 信用金庫が本業支援に取り組むのは、取引先・金庫・地域の3つの理由から。

③ できないことは引き受けず、つなぐ。地区に限定されているからこそ持てる面的な情報が強み。


第Ⅵ部 比較編

16. 地域銀行ならどうか/国際的にはどう考えられているか

期中管理と条件変更は、日本の地域金融機関に固有の実務のように見えます。金融円滑化法(第10章)という国内の立法を背景に持ち、経営改善計画という日本語の枠組みで動いているからです。しかし、同じ問題は世界中の銀行が抱えており、国際的にも整理された概念があります。それを知っておくと、自分たちの実務の位置が見えます。

16-1. 地域銀行ならどうか

期中管理の3つの柱も、条件変更の枠組みも、経営改善計画の位置づけも、地域銀行と共通です。 貸出条件緩和債権の考え方も、債務者区分と引当の連動(→第14巻)も、業態による違いはありません。

差が出るのは、兆候をどう捉えるかです。

論点 信用金庫 地域銀行
兆候の捉え方 担当者が見聞きする定性情報の比重が高い(第5章) 口座動態・スコアリング等のシステム的な検知の比重が相対的に高い
取引先との距離 近い。訪問頻度が高く、経営者と直接話せる 相対的に遠い。先数が多く、1先あたりの接触は薄くなりやすい
本業支援の担い手 担当者と本部の少人数。外部につなぐのが基本(第15章) 専門部署・子会社・コンサルティング機能を持つ行がある
撤退という選択肢 地区から出られない。取引先が傾けば地域ごと傷む(→第0巻第4章) 営業地盤の見直し余地が相対的に大きい

最後の行が、信用金庫の期中管理を根本的に規定しています。 地区の外に出られない業態にとって、取引先の再生は慈善ではなく自衛です。第15章で「本業支援は儲からないのか」という問いに答えたのは、この構造があるからです。

一方、強みの裏には弱みがあります。 定性情報に依存する期中管理は、担当者が代われば途切れます。地域銀行がシステムで担保している継続性を、信用金庫は記録で担保するしかありません。第21巻第16章で「地銀は階層で牽制し、信金は記録で牽制する」と述べたのと、同じ構図が期中管理でも現れます。

⭐ポイント⭐:「地銀は仕組みで拾い、信金は足で拾う。だが足で拾ったものは、書かなければ残らない」。

16-2. 国際的にはどう考えられているか(第3層)

条件変更に相当する国際的な概念が、フォベアランス(forbearance、返済の猶予・条件の緩和)です。 借り手の財務的な困難を理由に、返済期限の延長・金利の減免・元本の据置きといった譲歩を与えること ― 定義の中身は、日本の貸出条件緩和とほぼ同じです。

国際的な枠組みで押さえるべき考え方は、次の3つです。

①フォベアランス先は、識別して別管理し、開示する。 条件変更を行った先を通常先と混ぜてしまうと、「返済されている」という外形だけが残り、実態が見えなくなります。だから、識別のルールを定め、一定期間は経過観察の状態に置き、その残高を開示する ― という設計になっています。日本の要管理先・貸出条件緩和債権という枠組みが果たしている役割と同じです。

②条件変更は、引当の判断に直結する。 第14巻第12章で扱った IFRS9 の予想信用損失(ECL)では、「信用リスクが当初認識時から著しく増大したか」でステージが変わり、ステージ2以降は全期間の予想損失を引き当てます。フォベアランスは、その「著しい増大」の代表的な兆候として扱われます。 第13章の設例で「計画の有無で引当が5倍変わる」という結果になったのは、日本流の表現をしているだけで、発想は国際的な会計基準と同じです。

③時間が経つほど、回収の見込みは劣化する。 欧州では不良債権の削減が監督上の中心課題になった時期があり、延滞から一定期間が経過した債権について、経過年数に応じて引当の水準を引き上げていくという考え方が導入されました。「待てば回収できるかもしれない」という期待を、時間とともに機械的に打ち消していく発想です。第11章で「条件変更は時間を与えるが、その時間にはコストがある」と述べたことの、規制版だと考えてください。

なぜ信用金庫にこれらが直接適用されないのか。 IFRS9 は、日本の信用金庫が適用する会計基準ではありません(→第14巻第12章)。欧州の不良債権規制も、その国の監督当局が自国の銀行に課したものです。そして日本では、金融検査マニュアルの廃止以降、一律の基準を外から与えるのではなく、各金融機関が自らの融資方針と顧客特性に即して判断し、それを説明するという方向が採られています(→第14巻第7章)。中小企業の再生は、機械的な期間ルールになじまないという実務上の事情も、この選択の背景にあります。

必ず押さえる位置づけ:フォベアランスの識別・開示の枠組みも、ECL の考え方も、信用金庫に直接適用されるものではありません。しかし、「条件変更した先は識別して別に管理する」「条件変更は引当の判断に直結する」「時間の経過は回収可能性を劣化させる」という3つの発想は、業界標準の"ものさし"として、国内の実務にも検査・考査の着眼にも入り込んでいます。本巻で扱った要管理先の管理も経営改善計画の要件も、日本ローカルの事務手続ではなく、国際的にも共有された問題意識を、日本の中小企業金融の実態に合わせて具体化したものです。

💡 ここでつまずきやすい:「条件変更に応じるのは、日本的な甘さだ」

そういう批判を耳にすることがありますが、正確ではありません。フォベアランスという概念が国際的に整備されているのは、条件変更が世界中で行われているからです。国際的な枠組みが求めているのは「条件変更をするな」ではなく、「したのなら、そう分かるようにして、相応の引当を積め」ということです。問題は条件変更そのものではなく、条件変更を通常先と同じ顔で管理してしまうこと ― この一点に尽きます。第9章で「条件変更は債務を減らさない。返す時期をずらすだけ」と述べたのは、まさにこの意味です。

ここまでの筋(3行)

① 期中管理と条件変更の骨格は地銀と共通。差は兆候の捉え方と、地区から出られないという制約に出る。

② 足で拾った定性情報は、書かなければ残らない。信金の継続性は記録が支える。

③ 条件変更は国際的にはフォベアランスとして整理され、識別・開示・引当への直結・時間による劣化という発想が共有されている。直接適用はされないが"ものさし"である。


第Ⅶ部 まとめ

17. 実務での留意点

  • 期中管理には締切がない。意識的に仕組みにしなければ消える。
  • 担当を引き継いだら、まず稟議書を読む。期中管理の出発点は当初の判断と方針(→第21巻第6章)。
  • 決算書は受け取るだけでなく、対話し、記録を残す。
  • 「黒字だから問題ない」は最も危険な読み方。利益がどれだけ現金になっているかを見る。
  • 返済遅延は最も遅い兆候。それ以外の兆候(当座貸越の使い切り、預金の減少、税金の滞納)を見る。
  • 税金・社会保険料の滞納は極めて重い兆候。直ちに対応する。
  • 情報が入ってこなくなることが、最も悪い情報。平時から悪い情報を言える関係を作る。
  • 兆候は重なって意味を持つ。ラインシートに記録する。
  • 事実の確認 → 原因の特定 → 打ち手の選択の順を守る。原因を特定せずに資金を出さない。
  • 悪い情報を担当者個人で抱え込まない。報告の遅れは選択肢の減少。
  • 打ち手は4つ。支援(本業支援・条件変更・追加融資)と引き上げを分けるのは、「その事業は続く見込みがあるか」の一問。
  • 「出さない」も与信判断。事業の継続が見込めない、資金使途違反・粉飾がある場合、条件変更も追加融資も誤った打ち手になる。
  • 引き上げの中身を区別する。残高を減らす行為(新規謝絶・枠の減額・期日回収)と、残高を減らさず回収可能性を上げる行為(保全強化)は別物。
  • 引き上げてはいけないのではなく、説明できない引き上げをしてはいけない。出さない判断にも稟議と記録を残す。
  • 保全強化は「早ければよい」ではない。取引先の離反、他行への波及、抜け駆けと受け取られる副作用がある。
  • 引き上げの大半は「期限の到来を待つ」もの。既存融資を無理に失期させず、期日が来たものを折り返さない・減額して折り返すという形をとる。
  • 「失期させていないから穏当」ではない。所要運転資金は事業が続く限り消えないため、折り返しの拒否は実質的に返済を求めることと同じ(→第20巻3-2〜3-3)。
  • 折り返しに応じない/減額するときは、期日の相当前に伝える。判断が正当でも、伝え方によって「貸し剥がし」になる。
  • 当初の稟議に「折り返し前提」と書かれていたなら、応じない判断は設計の変更。理由を記録に残す。
  • 条件変更は債務を減らさない。返す時期を後ろにずらすだけ。
  • 条件変更の稟議には3面を書く。取引先への効果、査定・引当への影響、収益への影響。
  • 経営改善計画の有無で引当が大きく変わる。計画は「あればよい」ではなく実現可能性が問われる。
  • 計画を代わりに作らない。一緒に考えるが、決めるのは経営者。
  • 資金繰り支援と本業支援はセットで。どちらか一方では足りない。
  • できないことを引き受けない。財務は自分が見て、事業は専門家につなぐ。
  • 円滑化法後の当局の方針・区分の要件は、最新の監督指針と自金庫の基準で必ず確認する。

18. つまずきやすいポイント総まとめ

用語・概念 章 一言で言うと
期中管理には締切がない 第1章 仕組みにしなければ消える
最も知りたい情報が最も入らない 第1章 悪化しているときほど伝えたくない
出発点は現在の数字ではない 第2章 稟議書に書かれた当初の判断と方針
「黒字だから問題ない」 第3章 利益と現金は別物。売掛金・在庫の増加に注意
「返済は遅れていないから大丈夫」 第4章 返済遅延は最も遅く現れる兆候
税金・社会保険料の滞納 第4章 優先すべきものを払えていない。極めて重い
情報が来なくなることが最悪の情報 第5章 決算書の遅延、面談の回避
兆候は重なって意味を持つ 第6章 記録しなければ重なりは見えない
「とりあえず資金繰りをつなぐ」 第7章 時間を買う行為。買った時間で何をするか決める
追い貸し 第7章 損失計上の先送りが動機。「新規先でも貸すか」で見分ける
原因が違えば打ち手も違う 第7章 症状に対処して原因を放置しない
「出さない」も与信判断 第7-1節 引き上げは特別な決断ではなく、打ち手の一つ
「円滑化法以降、引き上げてはいけない」 第7-1節 否定されているのは、説明のない機械的な引き締め
「まず保全を固めればよい」 第7-1節 取引先の離反・他行への波及・抜け駆けという副作用
「失期させていないのだから穏当」 第7-2節 重さは法律構成ではなく、資金繰りへの効き方で決まる
折り返しの拒否は「返済を求める」こと 第7-2節 所要運転資金は消えない。断てば期日に全額の負担が出る
減額して折り返す 第7-2節 引き上げの実務は「落とし方の設計」
支援と引き上げを分ける一問 第8章 「その事業は続く見込みがあるか」
条件変更は債務を減らさない 第9章 返す時期を後ろにずらすだけ
「条件変更しても区分は落ちない」 第10章 落ちないのは要件を満たす場合のみ
条件変更の3面 第11章 取引先の時間、査定・引当、金庫の収益
「計画があればよい」ではない 第12章 実現可能性。改善策と数字が対応しているか
計画を代わりに作らない 第12章 実行するのは取引先。決めるのは経営者
計画の有無で引当が5倍変わる 第13章 経営改善計画を重視する理由の数字としての意味
資金繰り支援と本業支援は違う 第14章 延命と治療。どちらか一方では足りない
地区制限の両面性 第15章 地域集中リスクを生むが、面的な情報という強みも生む
「本業支援は儲からない」 第15章 与信費用の減少と、事業基盤の維持に効く
「条件変更は日本的な甘さ」 第16章 国際的にはフォベアランスとして整理済み。問題は識別と引当

まとめとセルフチェック

一枚でわかる全体像

  1. 期中管理には締切がない。意識的に仕組みにしなければ消える。しかも最も知りたい悪い情報ほど入ってこない。
  2. 出発点は稟議書に書かれた当初の判断とモニタリング方針(→第21巻第6章)。
  3. 決算書は「前期と何が変わったか」「稟議時の見立てとどう違うか」の順で見る。利益と現金は別物。
  4. 数字に出る兆候のうち、返済遅延は最も遅い。当座貸越の使い切り、預金の減少、税金・社会保険料の滞納を見る。
  5. 数字に出ない兆候のほうが早い。とくに情報が入ってこなくなることが最も重い。
  6. 兆候は重なって意味を持つ。ラインシートに記録する。
  7. 対応は事実の確認 → 原因の特定 → 打ち手の選択の順。原因を特定せずに資金を出さない。
  8. 打ち手は本業支援・条件変更・追加融資・引き上げの4つ。前3つ(支援)と④(引き上げ)を分けるのは「その事業は続く見込みがあるか」の一問。条件変更と本業支援はセット。「出さない」も与信判断であり、引き上げには残高を減らす行為(新規謝絶・枠の減額・期日回収)と残高を減らさず回収可能性を上げる行為(保全強化)がある。引き上げてはいけないのではなく、説明できない引き上げをしてはいけない。実務の中心は期限の到来を待つ引き上げ(折り返さない・減額して折り返す)であり、「失期させていないから穏当」ではない。
  9. 条件変更は債務を減らさない。返す時期を後ろにずらすだけ。3面(取引先の時間・査定と引当・金庫の収益)で評価する。
  10. 円滑化法以降、柔軟に応じる実務が定着したが、区分・引当への影響は経営改善計画の要件次第。計画の有無で引当が大きく変わる。
  11. 資金繰り支援は延命、本業支援は治療。信用金庫の強みは、地区に限定されているからこそ持てる面的な情報。
  12. 骨格は地銀と共通。差は兆候の捉え方と、地区から出られないという制約に出る。足で拾った情報は、書かなければ残らない。
  13. 条件変更は国際的にはフォベアランスとして整理され、識別・開示・引当への直結・時間による劣化という発想が共有されている。直接適用されないが"ものさし"として実務に入り込む。

セルフチェック(説明できますか?)

  • 期中管理が最も難しい理由を、締切と情報の非対称性の2点で説明できる
  • 期中管理の3つの柱を挙げ、最も見落とされるものを言える
  • 担当を引き継いだとき、最初に何を読むべきか、その理由を説明できる
  • 「黒字だから問題ない」がなぜ危険か、売掛金・棚卸資産と結びつけて説明できる
  • 数字に出る兆候を5つ以上挙げられる
  • 「返済は遅れていないから大丈夫」がなぜ誤りか説明できる
  • 税金・社会保険料の滞納がなぜ極めて重い兆候か説明できる
  • 数字に出ない兆候を5つ以上挙げ、なぜそちらが早く現れるか説明できる
  • 「悪い情報が来なくなったことが最も悪い情報」の意味を説明できる
  • 兆候を捉えた後の3段階の手順を説明できる
  • 「資金繰りが苦しい」という事実に対し、原因ごとに異なる打ち手を挙げられる
  • 追い貸しとは何か、それを見分ける問いを説明できる
  • 4つの打ち手を挙げ、支援と引き上げを分ける問いを言える
  • 融資の引き上げの5つの段階を挙げ、「残高が減る行為」と「保全を固める行為」を区別できる
  • 「期限の到来を待つ引き上げ」と「待たない引き上げ」の違いを説明できる
  • 折り返しに応じないことが、なぜ実質的に「返済を求める」ことになるのか説明できる
  • 短期継続融資の先と長期の証書貸付だけの先で、引き上げの効き方がどう違うか説明できる
  • 条件変更も追加融資も誤った打ち手になる場面を3つ以上挙げられる
  • 追加担保を取ると引当がどう変わるか、設例で計算できる
  • 「円滑化法以降は引き上げてはいけない」がなぜ不正確か説明できる
  • 保全強化を急ぐことの副作用を3つ挙げられる
  • 条件変更の主な形態を4つ挙げられる
  • 「条件変更は債務を減らさない」の意味を説明できる
  • 金融円滑化法がこの実務に残した帰結を説明できる
  • 「条件変更しても区分は落ちない」がなぜ不正確か説明できる
  • 条件変更の3面(取引先・査定と引当・収益)を挙げられる
  • 経営改善計画に含むべき要素を挙げ、実現可能性の判断基準3点を言える
  • 計画の有無で引当がどれだけ変わるか、設例で計算できる
  • 資金繰り支援と本業支援の違いを説明できる
  • 信用金庫が本業支援に取り組む3つの理由を挙げられる
  • 信用金庫の「つなぐ」機能が、地区制限とどう結びついているか説明できる
  • 期中管理について、信用金庫と地域銀行で何が同じで何が違うかを4点挙げられる
  • フォベアランスとは何か、日本の貸出条件緩和との関係を説明できる
  • 条件変更が引当の判断に直結することを、IFRS9 のステージの考え方と結びつけて説明できる
  • 「条件変更は日本的な甘さだ」という批判のどこが不正確か説明できる

用語集

用語 意味
期中管理 融資実行後、完済までの間に行う継続的な管理活動
ラインシート 取引先ごとの与信・保全・財務・取引の全体像を一覧にした帳票(→第21巻第8章)
試算表 決算期を待たず、期中の一時点の財政状態・損益を示す表
資金繰り表 将来の現金の出入りの予定を示す表
黒字倒産 利益は出ているが資金繰りが行き詰まって倒産すること
回転期間 売掛金や在庫が現金化されるまでの期間。長期化は滞留を示唆する
滞納処分 税金等の滞納に対し、差押え等により強制的に徴収する手続
融通手形 商取引の裏づけがなく資金調達のために振り出された手形(→第20巻第7章)
追い貸し 回収の見込みが乏しい先に、既存与信の損失計上を先送りする目的で資金を追加すること
折り返し 返済が進んだ分について、あらためて実行し、与信残高を一定の水準に保つこと(→第20巻3-3)
融資の引き上げ 新規に応じない、枠を減額する、期日に回収するなどにより、与信残高を減らしていくこと
保全強化 追加の担保・保証の取得等により、残高を減らさずに回収可能性を高めること(→第21巻第9章・第10章)
期日回収 手形貸付等の書替・折り返しに応じず、期日に返済を受けること(→第20巻第5章)
貸し渋り・貸し剥がし 十分な把握・対話のないまま新規融資を絞り、または回収を進める対応を指す批判的な呼称
条件変更(リスケジュール) 当初の約定を変更し、返済負担を軽くすること
据置(元金返済の猶予) 一定期間、元金の返済を止め、利息のみとすること
金利減免 金利を引き下げ、または免除すること
貸出条件の緩和 債務者に有利となる条件変更。原則として要管理先の判定要素となる(→第14巻)
要管理先 要注意先のうち、一定期間以上の延滞や貸出条件の緩和があるもの(→第14巻)
中小企業金融円滑化法 2009年施行の時限立法。条件変更等への対応を求めた。既に期限を迎えて終了
経営改善計画 事業をどう立て直し、いつまでに返済できる状態に戻すかを示した計画
実現可能性 計画が実際に達成されうるかの見込み。改善策・数字・過去の実績の整合で判断する
認定支援機関 中小企業支援について一定の認定を受けた税理士・金融機関等
中小企業活性化協議会 中小企業の再生を支援する公的な機関(→第23巻)
本業支援 資金供給にとどまらず、事業の収益構造そのものに関わる支援
与信費用 貸倒引当金繰入額・貸出金償却等(→第14巻)

参考文献・出典

  • 金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(信用リスク管理態勢、顧客の状況に応じた対応の着眼)
  • 金融庁「融資に関する検査・監督実務についての考え方と進め方」(→第14巻・第17巻)
  • 中小企業金融円滑化法および同法終了後の当局の対応方針に関する公表資料(現在の方針は最新資料で確認すること)
  • 金融庁・中小企業庁の公表資料(貸付条件の変更等の状況、事業者支援の枠組み)
  • 中小企業庁「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」および関係する公表資料
  • 中小企業活性化協議会・認定支援機関に関する中小企業庁の公表資料
  • 自金庫の自己査定基準・融資管理規程・ラインシート様式(実際の適用は必ずこちらで確認する)

本テキストは制度理解のための教育用資料です。本文中の金額・引当率・年数はすべて設例用に単純化した仮の数字であり、実際の基準を示すものではありません。条件変更を行った債権の債務者区分の取扱い、経営改善計画に求められる要件、当局の対応方針は、個別事情や最新の監督指針・公表資料により異なり、また継続的に見直されています。実際の判断・処理にあたっては、自金庫の融資管理/審査部門および監査法人・当局公表資料で必ずご確認ください。

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