第21巻 審査・稟議と、保全・制度の枠組み

― 融資の入口② 誰に貸すと決め、どう書き、何で守るのか

対象読者:信用金庫の営業店で融資を担当し、これから稟議書を書く方。あるいは融資部門で稟議を審査する立場になった方。第20巻で貸出の形式と金利は理解したが、「では、この先に貸してよいのか」をどう判断し、どう文書にするかが分からない、という段階を想定しています。

ねらい:与信判断を3つの問いに分解して考えられるようになること。そして、判断を稟議書という文書に落とす技術と、判断を補強する保全・制度の枠組み(担保・保証・信用保証協会・制度融資・政策金融)を理解すること。

このテキストの特徴:稟議書を「通すための書類」ではなく、「何年も後に読まれる判断の記録」として扱います。第22巻(期中管理)・第23巻(出口)で読み返されるのは、この文書だからです。

他巻との接続:貸出形式と金利は →第20巻。PD・LGD・EAD の分解は →第15巻第6章6-1。債務者区分と引当は →第14巻。ラインシートの運用と条件変更は →第22巻。保証の履行(代位弁済)と回収は →第23巻。理事会の決裁権限は →第16巻第5章。


全体マップ(この一枚で流れがつかめます)

flowchart TD
    Z["【手前の関門】<br/>そもそも取り扱う先か<br/>与信方針・除外業種 (第Ⅰ部)"] --> Q
    Q["「貸してよいか」を判断する"]
    Q --> A["①返せるか<br/>返済能力の分析 (第Ⅰ部)<br/>決算書・資金繰り・事業の実態<br/>→ 信用格付にまとめる"]
    Q --> B["②返す気があるか<br/>経営者と取引の姿勢 (第Ⅰ部)"]
    Q --> C["③返せなかったらどうするか<br/>保全 (第Ⅲ部)<br/>担保・保証・保証協会"]
    A --> D["稟議書に書く (第Ⅱ部)<br/>判断とその根拠を、<br/>何年も後に読める形で残す"]
    B --> D
    C --> D
    D --> E["決裁 → 実行<br/>→ ラインシートに載る (第Ⅱ部)"]
    C --> F["制度の枠組み (第Ⅳ部)<br/>信用保証協会・信用補完制度・制度融資<br/>政策金融機関(公庫・商工中金)の協調融資・代理貸付・コロナ融資"]
    F --> D
    E --> G["→ 期中管理は第22巻<br/>→ 出口は第23巻"]
    style D fill:#fde,stroke:#c39

この図の読みどころは、すべての矢印が「稟議書」に集まっていることです。 与信判断とは、頭の中で考えることではなく、文書にして初めて判断になります。第Ⅱ部が本巻の中心である理由がここにあります。


目次

第Ⅰ部 与信判断編 ― 3つの問い

  1. 与信判断を3つに分解する(1-2 与信方針と取扱除外業種)
  2. ①返せるか ― 返済能力をどう読むか(2-2 信用格付 ― 決算データを読み込んでスコアにする)
  3. ②返す気があるか ― 数字に出ないものを見る
  4. ③返せなかったらどうするか ― 保全の位置づけ

第Ⅱ部 稟議編(核心)

  1. 稟議書とは何のための文書か
  2. 稟議書に何を書くか(6-3 【サンプル】期間5年の長期運転資金の稟議書)
  3. 決裁権限 ― 誰が決めるのか
  4. ラインシート ― 与信の全体像を1枚にする(8-2 【サンプル】1枚のラインシートを読む)

第Ⅲ部 保全編

  1. 担保 ― 種類と、評価の考え方
  2. 保証 ― 誰が、何を保証するのか
  3. 経営者保証という論点

第Ⅳ部 制度編

  1. 信用保証協会 ― 組織・仕組みと責任共有制度(12-2 信用補完制度 ― 保証協会は誰に支えられているのか)
  2. 制度融資 ― 自治体・金融機関・保証協会の三者協調(13-2 預託金の仕組みと、金庫にとっての損得)
  3. 政策金融機関との関係(14-2 代理貸付と制度融資は何が違うのか/14-3 国民生活事業と中小企業事業/14-4 商工中金とは何か)
  4. コロナ禍の実質無利子・無担保融資が残したもの

第Ⅴ部 比較編

  1. 地域銀行ならどうか/国際的にはどう考えられているか

第Ⅵ部 まとめ

  1. 実務での留意点
  2. つまずきやすいポイント総まとめ/セルフチェック/用語集

第Ⅰ部 与信判断編 ― 3つの問い

1. 与信判断を3つに分解する

「貸してよいか」という問いは、そのままでは大きすぎて答えられません。実務では、3つの問いに分解します。

# 問い 何を見るか 対応する概念
① 返せるか 返済能力。事業から返済原資が生まれるか PD(倒れる確率)
② 返す気があるか 返済意思。経営者の姿勢、取引の履歴 PD(同上)
③ 返せなかったらどうするか 保全。担保・保証で回収できるか LGD(倒れたときに失う割合)

第15巻第6章6-1 の分解を思い出してください。\(\text{損失} = \text{PD} \times \text{LGD} \times \text{EAD}\)。①②が PD を、③が LGD を見る作業にあたります。EAD(いくら貸すか)は、①の返済能力から決まります。

この順序が決定的に重要です。

①②で判断し、③で備える。③から始めてはいけない。

第20巻第2章でも述べましたが、担保から入る発想は実務で最も陥りやすい誤りです。担保があれば貸せる、というのは、「返ってこなくてもよい」と言っているのと同じです。しかし実際には、担保処分は時間もコストもかかり、想定どおりに回収できないことのほうが多い(→第23巻)。

⭐ポイント⭐:「①②は貸すかどうかを決め、③は貸し方を決める」。保全は、貸すという判断を覆す材料ではなく、貸すと決めた後の条件を整える材料です。

💡 ここでつまずきやすい:「保全が十分だから審査は簡略でよい」

信用保証協会の保証が付く案件や、預金担保の案件で起こりがちです。しかし、

  • 保証には免責事由があります。金庫の側に落ち度があれば、保証が履行されないことがあります(第12章)
  • 保全されていても、事業が傾けば地域が傷みます。信用金庫は地域と運命を共にする業態です(→第0巻第4章)
  • 何より、返せない先に貸すことは、その事業者を助けることになりません。返せない借金を増やすだけです

保全は金庫を守る仕組みであって、取引先を守る仕組みではありません。この区別を見失うと、「保全さえあれば貸す」という姿勢になり、結果として取引先を追い込みます。

1-2. 3つの問いに入る前に ― 与信方針と「取り扱わない先」

実は、上の3つの問いを検討する手前に、もう1つの関門があります。

「この先は、そもそも当金庫が取り扱う対象か」

どれだけ返済能力が高く、保全が万全でも、入口で断らなければならない先があります。これを定めているのが、各金庫の与信方針(クレジットポリシー)であり、その中でもっとも明確な形をとるのが取扱除外業種(除外先)の定めです。

類型 例 断る理由
反社会的勢力・その関係先 暴力団関係、共生者 法令・監督指針上、関係遮断が義務。採算の問題ではない(→第27巻第8-2節)
公序良俗に反する事業 違法な事業、賭博に関わるもの 公共性(→第20巻第1-2節)。信用金庫の資金は会員の資金である
金庫が方針として扱わない業種 風俗営業関連、投機的な取引を主とする先など。範囲は金庫ごとに異なる 経営判断。地域・会員の理解、レピュテーション
政治団体・宗教団体等 ― 中立性の観点から、取扱いに制限や上位決裁を設けている例がある
制度上、対象外の先 地区外の先、会員資格のない先(員外貸出の枠を超える) 信用金庫法上の制約(→第0巻第4章、第16巻第10章)
業種としての集中回避 特定業種への与信が上限に達している場合 ポートフォリオ管理(→第15巻)

具体的にどの業種を除外するかは、法令が一律に定めているものと、各金庫が自ら定めているものが混在しています。 反社会的勢力の排除は前者、業種方針は後者です。必ず自金庫の与信方針・融資規程で確認してください。

💡 ここでつまずきやすい:「良い会社なのに、なぜ断るのか」

誤解:業績も良く、担保もあり、経営者も誠実だ。それなのに業種だけを理由に断るのは、営業として合理的でない。

正しい理解:与信方針は、1件ごとの合理性ではなく、金庫全体としてどういうポートフォリオを持つかの意思決定です(→第18巻のリスクアペタイト)。1件ずつ「この先は良いから例外」と積み上げれば、方針は数年で溶けます。方針の価値は、例外を作らないことで担保されます。

そして、信用金庫にはもう一つ固有の理由があります。貸し出す原資は会員から預かった資金です。「会員に説明できる使われ方か」という問いは、株式会社の銀行以上に重い(→第0巻第2章)。

担当者の心得:除外に該当しそうな案件は、渉外の段階で本部に照会してください。稟議に上げてから差し戻すのでは、取引先に期待を持たせた分だけ関係を損ないます。断るなら、早く、理由を言える形で断る ― これが、断り方の実務です。

2. ①返せるか ― 返済能力をどう読むか

返済能力の分析は、「返済原資がどこから、いくら、いつ生まれるか」を確かめる作業です(→第20巻第2章)。

基本となる考え方

事業から返済に充てられる現金は、大づかみには次のように捉えられます。

\[\text{返済に充てられる現金} \approx \text{税引後利益} + \text{減価償却費}\]

なぜ減価償却費を足すのか。 減価償却費は費用だが、現金が出ていかない費用だからです。損益計算書では利益を減らしていますが、その分の現金は手元に残っています。だから返済原資になります。

【設例】債務償還年数を計算する(単純化した仮の数字)

項目 金額
税引後利益 20
減価償却費 30
返済原資(年間) 50
借入金残高 400
うち運転資金として恒常的に必要な分 100
実質的な借入金 300
\[\text{債務償還年数} = \frac{\underbrace{300}_{\text{実質的な借入金}}}{\underbrace{50}_{\text{年間返済原資}}} = \mathbf{6\,\text{年}}\]

債務償還年数は、「今の返済能力で、借入金を何年で返せるか」を表します。実務で最も広く使われる指標の一つです。

💡 ここでつまずきやすい:借入金から運転資金を差し引く理由

上の計算で、借入金400から100を差し引いて300としました。この100は正常運転資金(事業を回すために恒常的に必要な運転資金。→第20巻第3章)に対応する借入で、事業を続ける限り、返済しては再び借りることが繰り返される性質のものです。

つまり、この部分は「返す/返さない」を問う対象ではなく、事業に張り付いている資金です。これを含めて債務償還年数を計算すると、正常な会社でも過大に見えてしまいます。

正常運転資金は、大づかみには「売上債権 + 棚卸資産 − 仕入債務」で捉えられます。差し引く根拠を説明できるかどうかが、この調整を使ってよいかの分かれ目です。「差し引いたら年数が短くなったから差し引く」のでは、単なる数字合わせです。

債務償還年数をどう読むか。 一般に、年数が短いほど返済能力は高いと評価されます。ただし、何年なら良いという絶対的な基準はありません。業種によって設備投資の重さが違い、必要な借入水準も違うからです。同業他社との比較と、自社の時系列の変化で読むのが実務的です。

キャッシュフロー計算書と資金繰り表

決算書だけでは分からないことがあります。利益が出ていても、資金繰りが回らないことがあるからです(いわゆる黒字倒産)。

資料 何が分かるか
損益計算書 期間の利益。ただし現金の動きとは一致しない
貸借対照表 一時点の財政状態
キャッシュフロー計算書 現金がどう動いたか(営業・投資・財務の3区分)
資金繰り表 これから現金がどう動くか(将来の予定)

中小企業では、キャッシュフロー計算書の作成が義務づけられていないことが多く、資金繰り表も整備されていないことがあります。その場合、金庫の担当者が取引先と一緒に作ることも、実務では珍しくありません。これは融資判断のためであると同時に、取引先支援そのものでもあります。

担当者の心得:決算書は過去の記録です。融資の判断で本当に知りたいのは将来の返済能力です。だから、決算書の分析で終わらせず、「今期はどうなりそうか」「その根拠は何か」まで踏み込んでください。受注状況、主要取引先の動向、設備の稼働、人員の状況 ― こうした現場の事実が、決算書という数字の裏づけになります。決算書だけで判断できるなら、営業店は要りません。

2-2. 信用格付 ― 返済能力を「段階」に落とす仕組み

ここまでは、1件の取引先を人が読む話でした。しかし、金庫が抱える取引先は数千から数万にのぼります。すべてを担当者の目だけで評価すれば、店ごと・人ごとに目線がばらつきます。 そこで、どの金庫でも信用格付(内部格付)という仕組みが動いています。

信用格付とは、取引先の信用力を、金庫共通のものさしで段階に置き換えたものです。

何のためにあるのか

目的 内容
目線を揃える A店とB店で、同じ会社が違う評価になることを防ぐ
価格に接続する 格付ごとに信用コストが決まり、必要金利に入る(→第20巻第12章)
権限に接続する 格付が低い先ほど、上位の決裁が必要になる(→第7章)
査定・引当に接続する 債務者区分の出発点になる(→第14巻第2章)
ポートフォリオを見る 格付別の残高構成で、金庫全体の与信の質を見る(→第15巻・第18巻)

この5つが、格付が「審査部の内部資料」ではなく、経営管理の背骨である理由です。

仕組み ― 決算データを読み込んで、点数にする

多くの金庫では、信用格付システムが導入されています。担当者から見ると、次のように動きます。

flowchart TD
    A["①決算データの入力<br/>BS・PLの各科目を<br/>システムに登録する"] --> B["②定量評価<br/>財務指標を計算し、<br/>点数(スコア)にする"]
    B --> C["③定性評価<br/>業界動向・経営者・市場地位<br/>など、数字に出ない要素"]
    C --> D["④実態修正<br/>代表者資産・役員借入金<br/>粉飾の疑い・含み損益"]
    D --> E["⑤信用格付<br/>(例:1〜10段階などに整理)"]
    E --> F["プライシング/決裁権限/<br/>債務者区分/ポートフォリオ管理"]
    style B fill:#fde,stroke:#c39

②の定量評価が、いわゆる「スコアリング」です。 中身は、それほど神秘的なものではありません。財務指標をいくつか計算し、それぞれに点数をつけ、重みを掛けて合計するという作業です。指標は、おおむね次の4つの観点から選ばれます。

観点 代表的な指標 何を見ているか
安全性 自己資本比率、ギアリング比率 財務の厚み。倒れにくさ
収益性 売上高経常利益率、総資本経常利益率 稼ぐ力
成長性 売上高・経常利益の趨勢 伸びているか、縮んでいるか
返済能力 債務償還年数(前節)、インタレスト・カバレッジ・レシオ、営業キャッシュフロー 借入を返せるか

【設例】スコアがどう計算されるか(配点・重みはすべて単純化した仮の数字。実際の配点は金庫・システムごとに異なります)

観点 指標の値 素点(100点満点) 重み 寄与
安全性 自己資本比率 25% 70 0.3 21.0
収益性 売上高経常利益率 2% 50 0.2 10.0
成長性 売上横ばい 50 0.1 5.0
返済能力 債務償還年数 6年 60 0.4 24.0
合計スコア 60.0
\[\text{スコア} = \sum_{i} w_i \times s_i \qquad (w_i:\text{重み},\; s_i:\text{各指標の素点})\]

この式が言っているのは、「複数の指標を、重みをつけて1つの数字にまとめている」ということだけです。 そして、この合計スコアを格付の段階に割り当てます(例:スコア60台は格付5、など)。

重みはどこから来るのか。 ここが、この仕組みのいちばん大事な点です。重みは誰かの主観で決めているのではなく、過去に実際に倒れた先と倒れなかった先のデータから、「どの指標が倒産をよく説明したか」を統計的に推定して決めるのが本来の姿です。つまり格付は、過去のデフォルト実績を圧縮したものです。

💡 ここでつまずきやすい:「格付はシステムが出す答えである」

誤解:決算書を入力すれば格付が出るのだから、担当者の仕事は入力の正確さだけだ。

正しい理解:システムが出すのは②定量評価までの機械的な結果です。その後に、③定性評価と④実態修正という人の判断が必ず入ります。中小企業では、この人の判断のほうが決定的なことすらあります。

  • 役員借入金は、形式上は負債ですが、実質的に返済を求められないなら自己資本に近い性格を持ちます
  • 代表者個人の資産(不動産・預金)は、会社の決算書には出てきませんが、中小企業では実質的な支えです
  • 逆に、在庫や売掛金が実在しない(粉飾)なら、入力された数字自体が誤りです

「システムが出した格付だから」は、上司にも検査官にも通用しません。 修正したのなら、なぜ修正したかを記録に残す。修正しなかったのなら、それも判断です。

信用格付と債務者区分は、同じものではありません

新任者がもっとも混乱するのがここです。両者は対応しますが、一致はしません。

信用格付 債務者区分
何のため 経営管理・価格付けのため 資産の査定と引当のため(→第14巻)
誰が決めるか 金庫が自ら設計する。段階数も金庫ごと 制度上の考え方が共通の枠としてある
段階 細かい(10段階前後のことが多い) 粗い(正常先/要注意先/破綻懸念先…)
更新のタイミング 決算期ごと、および重要な事象の発生時 自己査定の基準日

対応関係は、大づかみには「格付の上位いくつかが正常先、中位が要注意先、下位が破綻懸念先以下」という形で自金庫の基準に定められています。具体的な対応表は、必ず自金庫の信用格付規程・自己査定基準で確認してください。

⭐ポイント⭐:「格付は値段を決めるための物差し、債務者区分は引当を積むための物差し」。同じ会社を測っていても、目的が違うから目盛りが違うのです。第0巻の「4つの数字」が、与信の領域に現れた姿だと考えてください。

担当者の心得:格付が下がる決算が出てきたとき、担当者にとって最初の仕事は「格付を上げる材料を探すこと」ではありません。なぜ下がったのかを説明できるようにすることです。格付の低下は、プライシング・決裁権限・引当のすべてに波及します(上の表)。したがって、格付の低下を認識した時点が、期中管理としての対応の開始点になります(→第22巻第Ⅱ部)。格付を守ろうとして実態を歪めることは、金庫にとっても取引先にとっても、最悪の選択です。

3. ②返す気があるか ― 数字に出ないものを見る

返済能力と並んで重要なのが、返済意思です。能力があっても意思がなければ返済されませんし、逆に、能力が不足していても誠実に対応する経営者であれば、再建の可能性は高まります。

何を見るか

観点 具体的に見るもの
返済履歴 過去の約定どおり返済されてきたか。延滞の有無と、その際の対応
情報開示の姿勢 決算書を期限どおり提出するか。悪い情報も伝えてくるか
資金使途の説明 何に使うかを具体的に説明できるか
他行取引の状況 他行での借入・延滞の状況。取引の集約か分散か
経営者の姿勢 事業への理解、後継者の状況、私生活と事業の区分

💡 ここでつまずきやすい:「返す気」は精神論ではない

「返済意思」という言葉から、担当者の主観的な印象の話だと受け取られがちですが、そうではありません。観察可能な事実として表れます。

  • 業況が悪化したときに、早めに相談に来るか、隠すか
  • 資金使途と実際の使途が一致しているか
  • 決算書の内容と、現場で見える実態が整合しているか

とくに1つ目が決定的です。悪い情報を早く出してくる先ほど、再建の可能性は高い。逆に、資金繰りが破綻する直前まで何も言ってこなかった先は、その後の対応も難しくなります。第22巻の期中管理は、この関係を平時から作っておくことでもあります。

そして、稟議書にはこれを書かなければなりません。 「経営者は誠実である」ではなく、「過去5年間、決算書は毎期3か月以内に提出されている」「昨年の業況悪化の際は、事前に相談があった」という事実を書きます。印象は評価が分かれますが、事実は残ります(第6章)。

4. ③返せなかったらどうするか ― 保全の位置づけ

3つめの問いが保全です。詳細は第Ⅲ部・第Ⅳ部で扱いますが、位置づけをここで確認します。

保全とは、返済されなかった場合に回収を確保する手段です。第15巻第6章6-1 の言葉でいえば、LGD(倒れたときに失う割合)を下げる手段です。

手段 内容 詳細
担保 特定の財産から優先的に回収する権利 第9章
保証 第三者が債務を引き受ける 第10章
信用保証協会の保証 公的な保証機関による保証 第12章

保全の限界を、入口の段階で理解しておくことが重要です。

  1. 時間がかかる。不動産担保の処分は、任意売却でも競売でも、年単位の時間を要することがあります(→第23巻)。
  2. 評価どおりには回収できない。処分価格は評価額を下回るのが通例です(→第9章)。
  3. 保証には免責がある。保証協会の保証も、金庫の側に落ち度があれば履行されないことがあります(→第12章)。

⭐ポイント⭐:「保全は保険であって、返済ではない」。保険に入っているから事故を起こしてよい、とはならないのと同じです。

ここまでの筋(3行)

① 3つの問いの手前に「そもそも取り扱う先か」(与信方針・除外業種)という関門があり、ここは採算では覆らない。

② 与信判断は「返せるか/返す気があるか/返せなかったらどうするか」の3つに分解する。①②で貸すかを決め、③で貸し方を決める。返済意思は精神論ではなく、観察可能な事実として現れる。

③ 返済能力の評価は信用格付という共通の物差しにまとめられ、価格・決裁権限・債務者区分・ポートフォリオ管理へ接続する。ただし格付は機械の出す答えではなく、定性評価と実態修正という人の判断を含む。


第Ⅱ部 稟議編(核心)

5. 稟議書とは何のための文書か

融資稟議書(以下、稟議書)は、融資の実行について決裁を求める文書です。しかし、この理解だけでは足りません。

稟議書は、「なぜ貸すと判断したか」を、何年も後に読み返せる形で残す文書です。

誰が、いつ読むのか。

読み手 いつ 何を見るか
決裁者 実行前 貸してよいかの判断材料
後任の担当者 数か月〜数年後 前任者がなぜそう判断したか
期中管理の担当者 業況が変化したとき 当初の前提が崩れていないか(→第22巻)
自己査定の担当者 毎期 債務者区分の判断材料(→第14巻)
検査官・監査人 数年後 判断の過程が説明できる状態か(→第17巻第5章)
出口の担当者 問題が生じたとき 保全の内容、当初の見立てとの乖離(→第23巻)

この表が、本章の核心です。 稟議書を「決裁を通すための書類」と捉えると、通りやすいことだけを書く文書になります。しかし実際には、通った後のほうが長く読まれます。

第17巻第5章で「検査マニュアル廃止後は、自らの判断を根拠をもって説明する力が問われる」と述べました。その説明の材料になるのが、稟議書です。 判断の過程が記録に残っていない、担当者が代わると説明できない ― これが最も指摘されやすい状態でした。稟議書は、その指摘を防ぐ最前線の文書です。

担当者の心得:稟議書を書くときは、「3年後、自分がいない場所で、この文書だけが読まれる」と想像してください。そのとき伝わらないことは、書けていないということです。とくに、懸念点をどう評価したかは必ず書いてください。懸念がない案件などありません。懸念が書かれていない稟議書は、懸念を検討しなかったか、隠したかのどちらかに見えます。

6. 稟議書に何を書くか

6-1. 書くべき中身

様式は金庫によって異なりますが、書くべき中身は共通しています。

項目 何を書くか よくある不足
申込内容 金額・期間・形式・金利・返済方法(→第20巻) ―
資金使途 何に使うのか。具体的に 「運転資金」だけで終わる
返済原資 何で返すのか。金額と時期 使途は書くが原資が曖昧
企業概要・事業内容 何をして稼いでいる会社か 業種名だけ
業況・財務分析 決算書の分析、債務償還年数、変化の要因 数字の羅列で、なぜそうなったかがない
他行取引 各行の残高・シェア・保全状況 ―
保全 担保・保証の内容と評価額、保全率 評価の根拠がない
懸念点と、その評価 リスクは何か。それをどう見るか そもそも書かれていない
取引方針・採算 この先とどう付き合うか。採算はどうか(→第20巻第13章) 融資単体の採算だけ
結論 貸すべきと考える理由 ―

6-2. とくに重要な3項目

①資金使途 ―「運転資金」では書いたことにならない

「運転資金 3,000万円」とだけ書かれた稟議書は、何も説明していません。書くべきは、

「主要取引先A社向けの受注(○月納品、金額○○)に伴う材料仕入と外注費。入金は納品の翌々月末のため、それまでの立替資金として必要。」

この形で書くと、返済原資が自動的に決まります(A社からの入金)。第20巻第2章で「資金使途と返済原資は対で確認する」と述べたのは、稟議書の書き方としてはこういうことです。

②業況分析 ―「なぜそうなったか」まで書く

「売上高が前期比10%減少」は事実ですが、分析ではありません。書くべきは、

「売上高が前期比10%減少。主因は、前期にあった大口スポット案件(○○)の反動。経常的な取引は横ばいで推移しており、当期の受注残は前年同期並み。」

数字の変化には必ず理由があります。理由を書けていない稟議書は、担当者が理由を把握していないことを示しています。

③懸念点 ― 書かないことが最大のリスク

すべての案件に懸念点があります。書くべきは、懸念があることではなく、その懸念をどう評価したかです。

「懸念点:主要取引先A社への売上依存度が60%と高く、同社の動向に業績が左右される。ただしA社との取引は15年継続しており、直近も取引条件に変更はない。また当社は昨年からB社との取引を開始し、依存度の低減に着手している。当面は、A社の業況とB社向け売上の推移を四半期ごとに確認する。」

この一段落には、3つの要素があります。

  1. リスクの特定(依存度60%)
  2. リスクの評価(15年継続・条件変更なし・分散に着手)
  3. モニタリングの方針(四半期ごとに確認)

3つめが、第22巻の期中管理につながります。稟議書に「何を見続けるか」が書かれていれば、期中管理は自動的に始まります。書かれていなければ、期中管理は「何となく見る」ことになります。

💡 ここでつまずきやすい:「稟議は通すもの」という発想

稟議書を「決裁者を説得する文書」と捉えると、懸念を小さく見せ、良い材料を強調する書き方になります。しかし、それで通った融資が問題化したとき、読み返されるのは同じ文書です。「懸念が書かれていない」ことは、判断の過程が記録されていないことを意味します。

逆に、懸念とその評価がきちんと書かれていれば、たとえ結果として問題化しても、「その時点の判断としては合理的だった」と説明できます。融資に結果責任だけを問うことはできません。問えるのは判断の過程の合理性です。だから、過程を残すことが担当者を守ります。

6-3. 【サンプル】期間5年の長期運転資金の稟議書

ここまでの説明を、1件の稟議書として書き切ってみます。 題材は、実務で最も件数の多い類型のひとつ ― 期間5年・分割返済の運転資金です(→第20巻第3章3-2)。

以下はすべて単純化した仮の数字による記載例であり、様式・項目名は金庫によって異なります。自金庫の様式に読み替えて使ってください。 金額の単位は百万円です。


【稟議書(記載例)】

1. 申込内容

項目 内容
申込先 株式会社A製作所(仮称)/金属プレス部品加工/設立1978年/従業員42名
金額 50
資金使途 増加運転資金 30 + 既往長期運転資金の折り返し 20
形式・期間 証書貸付・5年(60か月)
返済方法 元金均等・年2回(6月・12月)各5、計 年10
金利 短期プライムレート連動(短プラ+0.5%)。本稟議では短プラを年1.5%と仮定し、適用金利 年2.0%として採算を試算 →第20巻第10章
保全 当金庫第1順位根抵当権(工場土地建物)/代表者保証(下記4参照)
決裁区分 本部審査部(当金庫与信合計 180 のため。→第7章)

2. 資金使途と返済原資

資金使途:主力取引先B社(自動車部品1次サプライヤー)からの新規部品の受注(20XX年10月量産開始、年間受注見込 120)に伴い、材料仕入および外注加工費の立替が増加する。B社の支払条件は月末締・翌々月末振込(でんさい)であり、材料の手当てから入金までを通算すると約4か月分の立替が新たに発生する。

算定根拠:当該部品の材料費・外注加工費は受注額の約75%であり、年間 120 × 75% = 90。その4か月分として 90 × 4/12 = 30 を増加運転資金と算定した。これにより正常運転資金は現在の130から160程度に増加する見込みである(下記3の当期実績130は量産開始前の数値)。

あわせて、既往の長期運転資金(当初50・残高20)が2年後に完済期を迎えるが、当該20は所要運転資金に対応する恒常的な資金であり、完済させれば手元資金が枯渇する。したがって同額を折り返して手当てする。

返済原資:税引後利益+減価償却費(年間40)。増加運転資金分については、受注増に伴う限界利益の増加(年間8程度を見込む)がこれに上乗せされる。

※ 本件は「運転資金だから売上代金で返済」ではない。 所要運転資金は事業継続中は解消しないため、分割返済の原資はキャッシュフローである(→第20巻第3章3-3)。

3. 業況・財務(直近3期)

項目 前々期 前期 当期(直近決算)
売上高 640 620 600
経常利益 34 32 30
税引後利益 24 22 21
減価償却費 21 20 19
返済原資(税引後利益+減価償却費) 45 42 40
純資産 96 108 120
売上債権+棚卸資産−仕入債務(正常運転資金) 120 125 130
有利子負債(割引残高を含む・自金庫基準) 280 275 270
実質有利子負債(有利子負債−正常運転資金) 160 150 140
債務償還年数 3.6年 3.6年 3.5年

分析:売上高は3期連続で微減(前期比▲3.2%)。主因は、汎用品の一部を単価競争により失注したことによるものであり、数量の減少というより単価の下落である。一方、利益率の高い少量多品種品の構成比が上がっており、売上総利益率は前々期23.1% → 当期24.5%と改善。減収だが、収益の質はむしろ改善していると評価する。

純資産は3期で96→120と着実に増加(内部留保の蓄積)。債務償還年数は3.5年で横ばいから微改善。当金庫の目安(10年以内)を十分に下回る(算式・目安は自金庫の内部基準による)。

4. 保全

保全 内容 金額
不動産担保 工場土地建物(当金庫第1順位根抵当権・極度70)。処分可能見込額 55
信用保証協会 既往の設備資金のうち保証付部分(残高40)について、責任共有制度による80%部分(→第12章) 32
保全額 合計 87
当金庫与信残高(本件実行後) 借入 156 + 割引 24 180
保全率 87 ÷ 180 48.3%

被担保債権の範囲:当金庫の根抵当権について、被担保債権の範囲に手形債権・電子記録債権が含まれていることを登記事項証明書で確認済み。割引による与信(24)を保全の対象として見込むには、この確認が前提となる(→第9章)。

担保評価の根拠:20XX年X月の当金庫評価による。近隣の取引事例および路線価を参照し、評価額に自金庫基準の掛目を乗じて処分可能見込額を算出している(掛目は自金庫の担保評価規程による)。工場用地であり、汎用性が高いとはいえない点は減価要因として織り込んだ。

代表者保証:経営者保証ガイドラインの3要件(法人と個人の資産・経理の分離、法人のみの資産・収益力での返済可能性、財務情報の適時適切な開示。→第11章)について検討した。現時点では、法人が代表者所有の土地の一部を無償で使用しており「分離」の要件を満たさないため、保証を徴求する。ただし、賃貸借契約の締結による分離を今後1年以内に進めることを取引先と合意しており、分離が完了した段階で保証の解除を検討する旨を、面談記録に残している。

5. 他行取引と当金庫のシェア

金融機関 借入残高 シェア 保全 摘要
当金庫 156(本件実行後) 53% 不動産・保証協会 メイン。給与振込・主要決済口座
B銀行 90 30% 無担保 20XX年より取引
日本政策金融公庫 50 17% 無担保 設備資金(→第14章)
合計 296 100% ※ほかに当金庫割引残高24

6. 返済能力の検証(本件実行後)

項目 向こう2年間 3年目以降
当金庫・設備資金(残高56) 8 8
当金庫・既往長期運転(残高20) 10 0(完済)
当金庫・本件(50) 10 10
B銀行 10 10
日本政策金融公庫 6 6
年間約定返済額 計 44 34
年間返済原資(キャッシュフロー) 40 40〜48
差引 ▲4 +6〜+14

検証結果:向こう2年間は、既往長期運転資金の返済と本件の返済が並走するため、年間4の不足が生じる。この不足は、当金庫の手形貸付枠(30)および割引極度(40)の範囲内で吸収可能と判断する。3年目以降は既往分が完済となり、年間約定返済額は34に低下する。受注増による限界利益の増加を見込めば、返済負担は十分に吸収できる水準である。

本件の位置づけ:本件は5年で完済させることを予定した融資ではない。所要運転資金130のうち、当金庫が長期運転資金として対応する部分は50であり、返済の進捗に応じて折り返しを行い、残高を維持することを前提とする。ただし、折り返しの都度、①正常運転資金の水準が維持されているか ②業況に悪化がないか を確認するものとし、漫然と継続しない。

7. 懸念点と、その評価

懸念①:B社への依存度。本件受注により、B社向け売上構成比は現在の38%から48%に上昇する見込みである。同社の減産は、当社の資金繰りを直撃する。

評価:B社との取引は12年継続しており、当社は同社の協力会において品質評価上位の位置づけにある。また、当社は2年前からC社(建設機械部品)との取引を開始しており、当該分野の売上は3期で0→45と伸長している。依存度の上昇は今回の受注に伴う一時的なものであり、分散の取組み自体は継続していると評価する。四半期ごとに、B社向け・C社向けの売上推移と受注残を確認する(→第22巻)。

懸念②:期間5年という長さ。5年間、当社の信用リスクを抱えることになる。また、短プラ連動のため、金利上昇局面では当社の負担が増加する(→第20巻第9章)。

評価:債務償還年数3.5年、純資産120(自己資本比率25%)という財務基盤に照らせば、5年の期間は過大とはいえない。金利上昇については、本件について1%の上昇が生じても年間の支払利息の増加は0.5であり、返済原資40に対し十分に吸収可能な水準である。なお、当社の借入のうち短プラ連動は本件50と既往長期運転20の計70であり、全借入が同時に上昇した場合でも増加は0.7にとどまる。

懸念③:売上高の3期連続減少。減収傾向そのものは事実である。

評価:上記3のとおり、単価下落による減収であり、利益率はむしろ改善している。ただし、単価競争が少量多品種品にも及ぶ場合は収益構造が変わるため、売上総利益率を四半期ごとの確認項目とする。

8. 取引方針・採算

当金庫をメインとする先であり、給与振込(42名)・主要決済口座・でんさいの持込を受けている。融資単体の採算だけでなく、取引全体で評価する(→第20巻第13章)。

本件の適用金利2.0%は、調達コスト・経費・信用コスト・資本コストの積み上げによる下限金利(試算1.75%)を上回っており、単体でも採算を確保している。

9. 結論

本件を承認相当と判断する。 理由は3点である。①資金使途が受注増という具体的な事実に対応し、金額も所要運転資金の増加額と整合していること。②返済原資であるキャッシュフローが安定的に40の水準を確保しており、債務償還年数3.5年と財務基盤に問題がないこと。③保全率48.3%を確保し、メイン先として取引全体の採算も確保されていること。

懸念であるB社依存度の上昇については、四半期ごとのモニタリング項目として設定し、期中管理に引き継ぐ。


このサンプルの読みどころは、次の4点です。

第一に、「6. 返済能力の検証」が独立した項目になっていること。 5年の分割返済を組む以上、年間の約定返済額とキャッシュフローの突き合わせは必須です。ここが表になっていない稟議書は、「返せるか」を検証していないのと同じです。しかも、他行を含めた全体の返済額で見なければ意味がありません。自金庫分だけが返せても、他行への返済で資金が尽きれば同じことです。

第二に、「5年で完済させるのか、折り返すのか」を明示していること。 これが、第20巻第3章3-3で述べた論点への答えです。この一文があるかないかで、3年後に折り返しの申込を受けた後任者の判断がまったく変わります。書いてあれば「当初からの設計どおり」、書いていなければ「返済に窮した結果かもしれない」。同じ行為が、記録の有無で正反対の意味を持ちます。

第三に、懸念点を3つ挙げ、それぞれに評価とモニタリング方針を付けていること。 懸念①には四半期ごとの売上推移、懸念③には売上総利益率という、具体的な確認項目が設定されています。この2つが、そのまま第22巻の期中管理のチェック項目になります。

第四に、不足が出ている事実を隠していないこと。 「6」の表は、向こう2年間は▲4の不足が生じることを正面から書いています。そのうえで、どの枠で吸収するのかまで示している。都合の悪い数字を書いたうえで、それをどう手当てするかを示すのが稟議書です。不足を書かずに通した稟議書は、2年後に必ず問題になります。

💡 ここでつまずきやすい:「サンプルどおりに書けばよい」

誤解:この様式を埋めれば稟議書は完成する。

正しい理解:埋めるべきは様式ではなく、論理です。上のサンプルで実際に機能しているのは、「受注増 → 立替期間4か月 → 増加運転資金30」という数字の因果関係と、「依存度上昇 → だが分散に着手 → だから四半期で確認」という評価の筋道です。同じ様式でも、資金使途欄に「運転資金」、懸念点欄に「特になし」と書けば、何も説明していない稟議書ができあがります。様式は器であって、中身ではありません。

7. 決裁権限 ― 誰が決めるのか

稟議書は、金額や条件に応じて、定められた決裁権限者の決裁を受けます。

段階 典型的な決裁者
小口・定型 営業店長の専決
中規模 本部の融資部門
大口・重要案件 常務会・理事会

具体的な金額基準・区分は、自金庫の決裁権限規程で必ず確認してください。

この階層が存在する理由は2つあります。

第一に、金額が大きいほど、判断を誤ったときの影響が大きいから。第15巻第1章で見たとおり、大口の与信は自己資本を直撃します。だから、自己資本に対して大きい与信ほど、上位の意思決定機関で決めるという設計になっています。

第二に、営業と審査を分けるため。 営業店は取引を増やしたい立場にあり、審査部門は独立した目でリスクを見る立場にあります。この牽制関係が、第16巻第6章で扱った3つの防衛線(第1線=業務部門、第2線=リスク管理部門)の、融資における具体形です。

担当者の心得:「この案件は本部に上げるべきか」と迷ったら、上げてください。第16巻第5章でも同じことを述べました。事後に「なぜ上げなかったのか」と問われるほうが、はるかに重い問題になります。とくに、分割して決裁権限内に収める(1件2,000万円の権限に対し、1,000万円ずつ2件にする等)ことは、規程の潜脱であり、検査で最も厳しく問われる類型の一つです。

8. ラインシート ― 与信の全体像を1枚にする

8-1. 何のための帳票か

ラインシートは、取引先ごとの与信の全体像を一覧にした管理帳票です。呼称や様式は金庫により異なりますが、機能は共通しています。

何が載っているか

区分 記載事項
企業情報 商号、代表者、業種、所在地、設立、従業員数
与信の状況 形式別の残高(証書貸付・手形貸付・当座貸越・手形割引 →第20巻)、金利、期日
保全の状況 担保の種類と評価額、保証の内容、保全率
財務情報 直近数期の主要財務指標の推移
取引の状況 預金残高、為替、給与振込等の取引全体
債務者区分 直近の自己査定結果(→第14巻)
経緯 取引の履歴、条件変更の有無

ラインシートが果たす3つの機能

①与信の合算。第15巻第3章で「貸出金だけを見て集中度を測る」誤りを挙げました。ラインシートは、形式の違う与信を1枚に集約することで、この漏れを防ぎます。支払承諾(私募債の保証など。→第20巻第16章)や当座貸越の未実行枠も、ここに載せるべきものです。

②保全率の把握。与信額に対して、どれだけが保全されているか。

\[\text{保全率} = \frac{\text{保全額(担保評価額+保証額)}}{\text{与信残高}}\]

この比率が、第15巻の LGD に直結します。

③時系列の変化の把握。数期分を並べることで、残高が増えているのか、保全が薄くなっているのか、財務が悪化しているのかが見えます。これが第22巻の期中管理の出発点です。

8-2. 【サンプル】1枚のラインシートを読む

抽象的な説明だけでは身につきません。第6章3のサンプルと同じ先(株式会社A製作所)のラインシートを、実際に組み立ててみます。稟議書が「この1件をなぜ貸すか」の文書であるのに対し、ラインシートは「この先との取引の全体が、いまどうなっているか」の文書です。同じ会社を2つの角度から見ることになります。

以下も単純化した仮の数字による記載例です(単位:百万円。金利は第6章6-3と同じく、短期プライムレートを年1.5%と仮定しています)。


【ラインシート(記載例)】 作成基準日:20XX年X月末/担当:○○支店 △△

①企業概要

項目 内容
商号 株式会社A製作所(仮称)
業種/事業内容 金属プレス部品加工(自動車部品・建設機械部品)
設立/従業員 1978年/42名
代表者 代表取締役(2代目・就任20XX年)/後継者:専務(実子・42歳)
決算期/当金庫取引開始 3月/1985年
債務者区分(直近自己査定 →第14巻) 正常先

②与信の状況(形式別)

形式 資金使途 当初 残高 金利 最終期日 摘要
証書貸付 設備(プレス機更新) 80 56 1.7%(固定) 20XX年9月 うち40は保証協会保証付
証書貸付 長期運転 50 20 短プラ+0.4%(1.9%) 20XX年3月 年2回元金均等
証書貸付 長期運転(本件) 50 50 短プラ+0.5%(2.0%) 20XX年X月 5年・年2回各5
手形貸付 短期運転(季節) 30 30 1.8% 3か月ごと書替 正常運転資金の範囲内(→第20巻第3章3-2)
でんさい割引 売上債権の資金化 極度40 24 1.8% ― 支払企業:B社18・C社6(→第20巻第7章7-2)
与信合計 180 うち借入156・割引24

③保全の状況

保全 内容 評価額/保証額
不動産 工場土地建物(第1順位根抵当権・極度70) 55
保証協会 責任共有80%部分(対象残高40) 32
代表者保証 経営者保証GLの3要件を検討済(→第11章)。分離未了により徴求。1年以内に賃貸借契約締結予定 ―
保全額 計 87
保全率 87 ÷ 180 48.3%

④財務の推移

項目 前々期 前期 当期
売上高 640 620 600
売上総利益率 23.1% 23.9% 24.5%
税引後利益+減価償却費 45 42 40
正常運転資金 120 125 130
実質有利子負債 160 150 140
債務償還年数 3.6年 3.6年 3.5年

⑤取引の全体像(与信以外)

項目 内容
預金 当座12・普通8・定期20(平残 合計 約35)
為替・決済 主要決済口座。給与振込42名。でんさいの受取・持込あり
他行取引 B銀行90(30%)・日本政策金融公庫50(17%)。当金庫シェア53%(メイン)
役務取引 経営者の個人年金保険1件、従業員の財形

⑥経緯・特記事項

1985年取引開始。20XX年のリーマン・ショック時に条件変更(元金据置6か月)を実施したが、その後は約定どおりに返済され、20XX年に正常化(条件変更の履歴は→第22巻)。

20XX年X月:本件(長期運転資金50・5年)実行。「所要運転資金に対応する部分であり、返済の進捗に応じて折り返しを前提とする」旨、稟議書に明記済み。

モニタリング項目:①B社向け・C社向けの売上推移と受注残(四半期)②売上総利益率(四半期)③でんさい持込の支払企業別残高(月次)。


このラインシートの読みどころは、3点です。

第一に、②の与信合計180が「4形式+割引」の合算になっていること。 証書貸付だけを見れば126、借入だけを見れば156ですが、この先に対して当金庫が負っている信用リスクは180です。第15巻第3章で「貸出金だけを見て集中度を測る」誤りを挙げましたが、その誤りは、ラインシートの合計欄をどう定義するかという地味な作業のなかで起きます。

第二に、②の摘要欄に「正常運転資金の範囲内」「支払企業:B社18・C社6」と書かれていること。 前者は、手形貸付30の書替が惰性ではなく、根拠のある継続であることの記録です(→第20巻第3章3-2)。後者は、でんさい割引の裏にいる支払企業への与信を可視化するものです。B社への与信は、A製作所向けの与信180とは別に、割引を通じて18が積み上がっている。同じB社のでんさいを他の取引先からも割り引いていれば、それは合算して見る必要があります(→第20巻第7章7-2、第15巻第3章)。

第三に、④の財務推移と⑥のモニタリング項目が接続していること。 売上高は減少しているが売上総利益率は改善している ― この方向の食い違いこそが、稟議書で「単価下落による減収」と分析した内容の裏づけです。だから⑥で売上総利益率が確認項目になっている。ラインシートの数字の並びと、モニタリング項目が対応しているか ― これが、その金庫の与信管理の質を最もよく表します。

担当者の心得:ラインシートは作ることが目的ではなく、見て気づくための道具です。最も重要な見方は、「前回と何が変わったか」です。残高、保全率、財務指標、取引の状況 ― 変化のあった項目にこそ、情報があります。変化がないことを確認するのも、立派な管理です。第22巻では、この「変化を読む」技術を正面から扱います。

💡 ここでつまずきやすい:稟議書とラインシートの役割の違い

誤解:どちらも取引先の情報を書くのだから、内容は重複している。

正しい理解:時間軸が違います。稟議書は「その1件を実行する時点」で凍結される文書であり、あとから書き換えません(だからこそ判断の記録になります)。ラインシートは「いま現在」を映し続ける文書であり、更新され続けます。過去の判断を保存するのが稟議書、現在の状態を映すのがラインシート。 両者を突き合わせて「当初の前提はまだ生きているか」を問うのが、第22巻で扱う期中管理の中身そのものです。

ここまでの筋(3行)

① 稟議書は決裁のためだけでなく、何年も後に読まれる判断の記録である。

② 資金使途は具体的に、業況分析は理由まで、懸念点は評価とモニタリング方針まで書く。長期運転資金なら、年間の約定返済額とキャッシュフローの突き合わせと、「完済させるのか折り返すのか」を必ず書く。

③ ラインシートは与信を合算し、保全率と時系列の変化を見るための道具。過去を保存するのが稟議書、現在を映すのがラインシート。


第Ⅲ部 保全編

9. 担保 ― 種類と、評価の考え方

担保とは、債務が履行されない場合に、特定の財産から優先的に弁済を受ける権利です。

主な種類

種類 対象 実務上の特徴
不動産担保(抵当権・根抵当権) 土地・建物 中小企業融資の中心。根抵当権は極度額の範囲で継続的な取引を担保
預金担保 自金庫の預金 最も確実。相殺により回収できる
有価証券担保 上場株式等 価格変動がある
売掛債権担保・動産担保 売掛金、在庫、機械等 いわゆる ABL。評価と管理が難しい

💡 ここでつまずきやすい:「抵当権」と「根抵当権」の違い

  • 抵当権:特定の債権を担保します。その債権が返済されれば、抵当権は消滅します。
  • 根抵当権:一定の範囲の、継続的に発生する債権を、極度額の範囲でまとめて担保します。個々の債権が返済されても消滅せず、次の融資も同じ根抵当権で担保されます。

中小企業との継続的な取引では、根抵当権が使われるのが通例です。融資のたびに設定し直す手間がないからです。ただし、極度額を超える部分は担保されません。与信が増えたときに極度額の見直しをしないまま、実質的に無担保の部分が増えているということが実務では起こります。ラインシートで保全率を見る意味は、ここにもあります。

評価の考え方 ― 最も重要な原則

担保は「今いくらか」ではなく、「処分するときにいくらで売れるか」で見る。

第14巻第3章でも同じことを述べました。実務では、評価額に掛目を適用して処分可能見込額を算出します。

【設例】(単純化した仮の数字)

項目 金額
不動産の評価額 100
掛目(設例上) 70%
処分可能見込額 70
先順位の他行担保 30
自金庫の保全額 40

掛目を適用する理由は3つあります。

  1. 処分価格は評価額を下回るのが通例(競売では市場価格を大きく下回ることがある)
  2. 処分に時間とコストがかかる(→第23巻)
  3. 処分時点の市場環境が読めない(地価が下落していれば、評価額そのものが変わっている)

💡 ここでつまずきやすい:先順位・後順位を見落とす

上の設例で、先順位の他行担保30を差し引いています。同じ不動産に複数の担保が設定されている場合、順位が先の債権者から優先的に配当を受けます。したがって、後順位の担保は、先順位を弁済してなお残る部分にしか効きません。

評価額100の不動産に、他行が先順位で80の担保を設定していれば、自金庫が後順位で設定しても、実質的な保全はほとんどないことになります。「担保を取った」という事実と、「保全されている」という状態は別物です。登記簿で順位と極度額を必ず確認してください。

掛目・評価方法は自金庫の担保評価基準によります。必ず規程で確認してください。

10. 保証 ― 誰が、何を保証するのか

保証は、主債務者が返済できない場合に、第三者(保証人)が代わって履行するという契約です。

保証の種類

種類 内容
連帯保証 保証人が主債務者と連帯して責任を負う。実務ではこれが中心
根保証 一定の範囲の継続的な債務を、極度額の範囲で保証
信用保証協会の保証 公的な保証機関による保証(第12章)

💡 ここでつまずきやすい:「保証」と「連帯保証」の違い

単なる保証人には、催告の抗弁(まず主債務者に請求せよと言える)や検索の抗弁(まず主債務者の財産から取り立てよと言える)といった防御手段があります。連帯保証人には、これらがありません。つまり、主債務者が返済できるかどうかにかかわらず、金庫は連帯保証人に直接請求できます。

実務で用いられる保証は、ほぼ連帯保証です。この違いは、保証人にとって極めて重い意味を持ちます。保証人に対する説明義務の観点からも、この性質を正確に伝えることが求められます(具体的な説明義務の内容は法令・自金庫の規程で確認してください)。

11. 経営者保証という論点

中小企業向け融資では、経営者(代表者)が個人として連帯保証することが広く行われてきました。これを経営者保証と呼びます。

なぜ求められてきたのか。 中小企業では、会社と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていないことが多く、また経営者の経営姿勢が業績を大きく左右します。経営者保証には、①個人資産からの回収を確保する機能と、②経営者の規律を高める機能があるとされてきました。

しかし、大きな副作用が指摘されてきました。

副作用 内容
事業承継の阻害 後継者が保証を引き継ぐことを嫌い、承継が進まない
早期の再チャレンジの阻害 失敗した経営者が個人破産に至り、再起が困難になる
早期の相談の阻害 個人資産を失うことを恐れ、業況悪化を隠す方向に働く

とくに3つめは、金庫にとっても不利益です。 第3章で「悪い情報を早く出してくる先ほど再建の可能性が高い」と述べましたが、経営者保証は、悪い情報を出しにくくする方向に働きます。

この問題意識から、「経営者保証に関するガイドライン」が策定され、一定の要件を満たす場合に、経営者保証を求めない、あるいは既存の保証を解除するという実務が広がってきました。要件として一般に挙げられるのは、

  • 法人と経営者の資産・経理が明確に分離されていること
  • 法人のみの資産・収益力で返済が可能と判断しうること
  • 金融機関に対して適時適切に財務情報が開示されていること

具体的な要件・運用は、ガイドラインの原文および最新の当局の方針・自金庫の規程で必ず確認してください。 この領域は近年、実務の運用が継続的に見直されている分野です。

担当者の心得:経営者保証を求めるかどうかは、単なる保全の判断ではなく、その事業者との関係全体に関わる判断です。「念のため取っておく」という発想は、上記の副作用を考えると、必ずしも金庫にとって有利とは限りません。なぜ求めるのか(あるいは求めないのか)を、稟議書に理由とともに書くことが、この論点における最も重要な実務です。

ここまでの筋(3行)

① 担保は「処分するときにいくらか」で見る。掛目と先順位の確認が要。

② 実務の保証はほぼ連帯保証で、保証人に抗弁権がない。説明が重要。

③ 経営者保証には副作用があり、ガイドラインに基づく運用が広がっている。求める/求めない理由を稟議書に書く。


第Ⅳ部 制度編

12. 信用保証協会 ― 組織・仕組みと責任共有制度

信用保証協会は、中小企業の借入について公的に保証を行う機関です。信用金庫の実務では、極めて大きな比重を占めます。

まず、協会がどういう組織なのかを押さえます。 ここを曖昧にしたまま実務に入ると、「なぜ隣県では取扱いが違うのか」「なぜ自治体の制度と協会の保証がセットで動くのか」が理解できません。

論点 内容
根拠法・法人格 信用保証協会法に基づく認可法人。国の役所でも民間企業でもない
数と単位 全国に51協会。47都道府県と、4市(横浜市・川崎市・名古屋市・岐阜市)に置かれている
財産の出どころ 地方公共団体や金融機関等からの出捐金・負担金が運営の基礎。自金庫が出捐者になっていることもある
背後の支え 日本政策金融公庫の信用保険(→12-2)と、地方公共団体による一部の損失補償
監督 金融庁・中小企業庁(信用保証協会向けの監督指針が定められている→第17巻)

この表からいちばん重要な含意を2つ引き出してください。

第一に、協会は「地域ごとの法人」です。 全国一律の1つの組織ではありません。制度の骨格(信用保険や責任共有)は共通ですが、独自の保証制度や運用の細部は協会ごとに異なりえます。取引先が隣県に本店を移した、事業所が複数県にまたがる、といった場面では、どの協会の保証になるのかを確認する必要があります。

第二に、協会は自治体と深く結びついています。 自治体は出捐者であり、損失補償の担い手であり、次章で見る制度融資の設計者でもあります。だからこそ、自治体の産業政策と協会の保証は、セットで動くのです。「保証協会は国の機関」というイメージを持っていると、この結びつきが見えません。

💡 ここでつまずきやすい:「保証協会は国の出先機関だ」

違います。信用保証協会法に基づく認可法人であり、その財産は地方公共団体や金融機関の出捐によって支えられています。国が関与するのは、公庫の信用保険(→12-2)と監督を通じてです。「地域の関係者が出し合って作り、国が保険で支える」という二段構えだと理解してください。自金庫も出捐者の一員でありうるという点は、協会を「外部の審査機関」とだけ見る見方を改めるきっかけになります。

仕組み

flowchart LR
    A["中小企業"] -->|"①保証を申込<br/>信用保証料を支払う"| B["信用保証協会"]
    B -->|"②保証を承諾"| C["信用金庫"]
    C -->|"③融資を実行"| A
    A -->|"④返済"| C
    A -.->|"返済できない場合"| D["⑤協会が金庫に代位弁済"]
    B --> D
    D -.->|"⑥協会が企業に求償"| A
    style B fill:#fde,stroke:#c39

この図の読みどころは、⑤と⑥です。 企業が返済できない場合、協会が金庫に代位弁済します。金庫はそこで回収できますが、話は終わりません。協会は企業に対して求償権を取得し、企業への請求は続きます(→第23巻第5章)。「保証協会が払ったから企業の債務が消える」わけではないという点は、取引先への説明でも極めて重要です。

信用保証料は、企業が負担します。したがって、保証付き融資は、企業から見れば「貸出金利+信用保証料」が実質的な負担です。第20巻第13章で「保証が付けば必要金利は下がる」と述べましたが、借り手全体の負担が必ず軽くなるとは限らないのは、この保証料があるためです。

責任共有制度

かつて保証協会の保証は、原則として借入額の全額を保証するものでした。しかし、これには問題がありました。

全額が保証されるなら、金融機関は審査もモニタリングも真剣に行わなくてよいことになる。

このモラルハザード(倫理の欠如ではなく、リスクを負わないことで行動が変わる現象)を防ぐため、責任共有制度が導入されました。保証協会が一定割合を保証し、残りは金融機関が負担するという仕組みです(割合・対象・例外は制度により異なるため、必ず最新の制度内容で確認してください)。

これにより、金融機関にも一定のリスクが残ることになり、審査と期中管理を行う動機が制度的に確保されました。

責任共有には2つの方式があります。 一般に、部分保証方式(個別の貸出について協会が8割を保証し、残る2割は金庫が負う)と、負担金方式(保証自体は全額だが、代位弁済の状況に応じて金庫が協会に負担金を支払う)の2つがあり、どちらを採るかは金融機関が選択します。方式は違っても、金庫側の負担は2割相当になるよう設計されています。自金庫がどちらの方式を採っているかは、収益の見え方(貸倒れが個別案件で出るか、負担金として後からまとめて出るか)が変わるため、融資担当としては知っておくべき前提です。

一方で、全額保証となる特別な保証制度(セーフティネット関連や危機時の制度など)も設けられており、危機時にはこちらが活用されます。どの保証制度が適用されるかで、金庫が負うリスクの大きさが変わります。(責任共有の対象・保証割合・例外は制度改正で見直されます。適用の可否は必ず最新の制度内容で確認してください。)

💡 ここでつまずきやすい:「保証付きだから100%安全」ではない

3つの理由があります。

①責任共有制度により、一部は金庫の負担です(全額保証の制度を除く)。

②免責事由があります。金庫の側に、保証条件の違反、故意・重過失による回収怠慢、目的外使用の看過などがあれば、保証が履行されない(免責される)ことがあります。「保証があるから審査を簡略に」という姿勢は、まさに免責リスクを高めます。

③保証の対象外の部分があります。同じ取引先への融資でも、保証付きの部分とプロパー(保証なし)の部分が併存するのが通常です。ラインシートで保証付きとプロパーを分けて把握してください。

具体的な免責事由は保証契約・約定書によりますので、必ず原文と自金庫の規程で確認してください。

担当者の心得:保証付き融資であっても、期中管理の手を抜いてはいけません。免責リスクという直接の理由に加え、保証付きの部分だけ見ていても、その取引先の実態は分からないからです。取引先は1つであり、保証の有無は金庫側の保全の話にすぎません。

12-2. 信用補完制度 ― 保証協会は、誰に支えられているのか

ここまでの説明には、まだ答えていない問いが1つ残っています。 保証協会は代位弁済を続けて、なぜ倒れないのか ― という問いです。全国で膨大な代位弁済が発生するなかで、協会の財務はどう保たれているのか。ここを知らないと、保証制度が改正されるたびに「なぜこの見直しが必要なのか」が読めません。

答えは、協会の背後にもう一段の引受け手がいるからです。 それが日本政策金融公庫(中小企業事業)の信用保険です。

仕組みはこうです。 信用保証協会は、一定の要件を満たす保証について、公庫に保険料を支払います(要件を満たす保証には、保険関係が自動的に成立します)。企業が返済できずに協会が金庫へ代位弁済したとき、協会は公庫から保険金を受け取ります。保険金の割合(てん補率)は、代位弁済額の70%・80%・90%のいずれかです。その後、協会が企業から求償権を回収したときは、てん補率に応じた金額を公庫に納付します(回収納付)。

この二層構造 ― 協会による「信用保証制度」と、公庫による「信用保険制度」を合わせたものを、信用補完制度といいます。 公庫には国が出資していますから、最終的には国が支えている構造です。加えて、制度によっては地方公共団体による損失補償という、もう一本の支えが入ります。国と地方の双方が、協会の後ろに立っているわけです。

1件の貸倒れが、誰にどう配分されるかを追うと、次のようになります。

段階 何が起きるか 誰が負担を引き受けるか
① 企業が返済できなくなる 企業の債務は消えない(以下はすべて金庫側の損失処理の話)
② 協会が金庫に代位弁済する 保証が付いた部分は金庫が回収できる
③ 責任共有の残り 金庫が2割相当を自ら負担(→本章の責任共有制度)
④ 協会が損失を抱える 公庫が代位弁済額の70〜90%(てん補率)を保険金として支払う。協会は保険料を払っている
⑤ 制度によっては、さらに 地方公共団体が一部を損失補償する(自治体は協会への出捐者でもある)
⑥ 公庫の原資 国(公庫への出資)
⑦ その後、企業から回収できたら 協会が求償権を回収し、保険金・損失補償金の割合に応じて公庫・自治体へ納付(回収納付)

⭐ポイント⭐:「信用保証協会は、リスクの終着点ではなく中継地点である」。

この構造を知っておくべき理由は、3つあります。

第一に、「公庫」は融資の相手としてだけでなく、保証の背後にもいるということです。第14章では公庫を「貸してくれる相手」として扱いますが、保証付き融資を1件実行するたびに、金庫は間接的に公庫の保険制度にも接している。同じ機関が、この巻に2つの顔で登場します。

第二に、制度改正の意味が読めるようになります。 保証割合や責任共有の見直しは、この二層構造のどこに負担を置き直すかという議論です。「協会の負担を軽くする/重くする」だけでなく、「公庫のてん補率をどうするか」「金庫にどれだけ残すか」がセットで動きます。改正のニュースを、負担の付け替えとして読めるかどうかが、制度を理解しているかの分かれ目です。

第三に、保証協会の判断が協会の裁量だけで決まっていないことが分かります。 協会は保険という制度的な枠組みの中で動いており、保険の対象になる保証の要件が、協会の実務を規定しています。「なぜこの案件は保証が付かないのか」の背景には、協会独自の判断だけでなく制度上の要件があることも少なくありません。

💡 ここでつまずきやすい:「保証協会は自前の資金で全部かぶっている」

違います。協会は保険料を払って公庫の信用保険でリスクの大部分を移転しており、代位弁済額の70〜90%は公庫から補填されます。ただし、これは金庫にとって有利にも不利にもなりません。金庫が受け取る代位弁済は保証契約で決まっており、その先の協会と公庫の精算は、金庫の外側の話だからです。「協会の背後に公庫がいるから、金庫はもっと安心してよい」という読み方は誤りです。 金庫の負担は責任共有と免責事由で決まります。

てん補率・保険料率・保険の対象となる保証の要件は、保険の種類によって異なり、制度改正でも見直されます。個別の適用は、保証協会および公庫の最新の公表資料で確認してください。

13. 制度融資 ― 自治体・金融機関・保証協会の三者協調

制度融資は、地方自治体が制度を設計し、金融機関が融資を実行し、信用保証協会が保証するという、三者の協調による融資制度です。

自治体が担う役割は、制度により異なりますが、一般に次のようなものがあります。

役割 内容
利子補給 借入金利の一部を自治体が負担し、企業の実質負担を軽減する
信用保証料の補助 保証料の一部または全部を自治体が負担する
預託 自治体が金融機関に資金を預託し、低利での貸出を可能にする

なぜ制度融資があるのか。 中小企業の資金調達を政策的に支援するためです。市場に任せると、信用力が低い、あるいは実績の乏しい企業には資金が回りにくい。そこを制度で補う、という設計です。

信用金庫にとっての意味は2つあります。

第一に、貸しやすくなる。 保証が付き、金利負担も軽減されるため、単独では難しい先にも対応できます。

第二に、地域の政策と接続する。 制度融資は自治体の産業政策の一部です。創業支援、事業承継支援、特定産業の振興など、自治体が力を入れたい分野に、制度が設けられます。第0巻第4章で見たとおり、信用金庫は地区と運命を共にする業態です。制度融資への関与は、地域の政策に金融面から関わることを意味します。

担当者の心得:制度融資は制度ごとに要件が細かく異なります(対象業種、企業規模、資金使途、限度額、期間、金利)。要件を満たさないまま実行すると、保証や利子補給が受けられなくなることがあります。各制度の要綱を必ず確認し、要件該当性を稟議書に明記してください。 そして、制度は年度ごとに改定されます。去年の要綱で判断しないことが実務の基本です。

13-2. 預託金の仕組みと、金庫にとっての損得

前節の表で預託を1行だけ挙げましたが、これは信用金庫にとって制度融資の損得を左右する要素なので、独立して見ておきます。とくに、「制度融資をやると預金が増える」という現場でよく語られる話が、どこまで本当なのかを整理します。

預託金とは何か。 自治体が、制度融資の原資として金融機関に資金を預ける仕組みです。金融機関はこれに自己資金を上乗せして融資枠を作ります。上乗せの比率を協調倍率(預託倍率)といい、自治体と金融機関の間であらかじめ決められています。預託金は無利子または極めて低利で置かれるのが一般的で、年度単位で預託され、年度末に返還されます。

【設例】協調倍率2倍の制度融資

前提(単純化した仮の数字):自治体からの預託金 1億円(無利子)。協調倍率 2倍。金庫の通常の調達コストは 年0.3%。

①融資枠がいくらになるか

\[\text{融資枠} = \underbrace{1\ \text{億円}}_{\text{預託金}} + \underbrace{1\ \text{億円} \times 2}_{\text{金庫の上乗せ}} = 3\ \text{億円}\]

②この3億円を出すための、金庫の調達コスト

内訳 金額 調達コスト 年間の金額
預託金(無利子) 1億円 0% 0円
金庫の自己調達 2億円 0.3% 60万円
合計 3億円 0.2%(加重平均) 60万円
(参考)全額を自己調達した場合 3億円 0.3% 90万円

③一言でまとめると:預託金があることで、3億円を貸すための調達コストが年90万円から60万円に下がりました。差の30万円は、1億円を無利子で置いてもらったことの価値そのものです(\(1\text{億円} \times 0.3\%\))。この余裕があるから、制度融資は通常より低い金利で貸せるわけです。

さて、金庫にとっての損得です。 「預金が増えて嬉しい」は、半分は本当で、半分は注意が要ります。

効いてくる面 内容
プラス:預金量が増える 預託金は金庫の預金として計上されます。しかも制度融資の実行で貸出金も増えるので、バランスシートが両建てで膨らみます
プラス:調達コストが下がる 無利子・低利で置かれるため、上の設例のとおり加重平均の調達コストが下がります(→第13巻)
注意:利ざやは薄い 制度融資の貸出金利は制度で低く決められています。調達が安くなった分は、そのまま企業の金利負担の軽減に回る設計です。「安く調達できたから儲かる」わけではありません
注意:必ず出ていく預金 預託金は年度末に返還されます。期末の預金残高を押し上げますが、出ていく日が決まっている資金です。資金繰り・流動性の管理上は、普通の預金と同じには扱えません(→第2巻)
注意:使途が紐付いている 制度融資の原資として置かれた資金であり、自由に運用できる預金ではありません

💡 ここでつまずきやすい:「預託金で預金量が増えるのだから、いい制度だ」

預金量が増えること自体は、目的ではありません。 第3巻・第4巻で見たとおり、金庫が問われているのは残高の大きさではなく収益性と健全性です。預託金は、①年度末に返るため期中と期末で姿が変わり、②利ざやを生まない(安くなった分は企業に渡す設計)資金です。「預金量が増えた」を成果として語ると、中身のない数字を追うことになります。

さらに重要なのは、預金量や制度の推進目標を理由に、与信判断を緩めてはいけないということです。制度融資にも責任共有により金庫の負担が残ります(→第12章)。貸すかどうかは第1章の3つの問いで決める ― 制度の使いやすさは、その答えを変える理由になりません。

低金利が、この仕組みの意味を変えました。 預託金の価値は、上の設例のとおり「無利子で置いてもらえること」にあります。ところが、金利がほぼゼロの環境では、無利子で預かることの価値もほぼゼロになります。 設例の調達コストが0.3%ではなく0.05%だったとすれば、1億円の預託金が生む価値は年5万円にすぎません。

このため、預託金方式を縮小・廃止し、利子補給方式に切り替える自治体が出てきました。 両者は、自治体の財政の見え方が異なります。

方式 自治体の負担の現れ方
預託金方式 資金を無利子で預ける。負担は運用収益を得られないという機会費用であり、歳出には直接現れにくい
利子補給方式 利子相当額を直接支出する。歳出に計上され、議会や住民の目に見える

財政コストの実質は、どちらでも大きくは変わりません。 違うのは、同じ支援が、どの数字に、どう現れるかです。これは本シリーズが全巻で追いかけているテーマ ― 同じ取引でも、会計・税務・規制・経営管理では別の数字になる(→第0巻第8章)― の、自治体財政における現れ方だと考えてください。

⭐ポイント⭐:「預託金は見えないコスト、利子補給は見えるコスト。支援の中身は変わらない」。

担当者の心得:金利が上がれば、無利子で置かれる資金の価値は再び上がります。預託金の損得も、住宅ローンの採算も、個人の無利息預金の価値も、すべて同じ「金利がある世界かどうか」で反転します(→第13巻、→第24巻、→第28巻)。低金利の時代に「意味がない」とされた仕組みが、金利のある世界では再び効いてくる ― この視点を持って、自金庫の制度融資の条件と預託の枠組みを見直してください。

協調倍率・預託金の利率・預託と返還の時期・利子補給の有無は、自治体ごと、制度ごと、年度ごとに異なります。本節の数字はすべて設例用の仮のものです。必ず各制度の要綱と自金庫の取り決めで確認してください。

14. 政策金融機関との関係

14-1. 政策金融機関の位置づけと協調融資

日本政策金融公庫(以下、公庫)や商工中金(商工組合中央金庫)をはじめとする政策金融機関は、民間金融機関とは異なる役割を担っています。なお、公庫は1つの法人の中に複数の事業を持ち、商工中金は公庫とは別の組織です。この区別は14-3・14-4で整理します。

民間金融機関(信用金庫等) 政策金融機関
目的 収益を上げつつ地域に資金を供給する 政策目的の実現
判断基準 採算とリスク(→第20巻第12章) 政策的な必要性
得意な領域 継続的な取引関係、地域の情報 創業期、災害時、事業再生局面など民間が対応しにくい分野

両者の関係は、競合ではなく補完として設計されています。公庫が単独で対応するのではなく、民間金融機関との協調融資という形をとることも多くあります。

協調のパターン

  • 創業融資:実績のない創業者に、公庫と信用金庫が分担して融資する
  • 災害時:災害関連の特別な融資制度で、公庫と民間が並行して対応する
  • 事業再生:再生局面で、公庫を含む関係者が協調する(→第23巻)

💡 ここでつまずきやすい:「公庫が貸すなら安心」

第20巻第17章でも述べましたが、公庫の審査と信用金庫の審査は、基準も目的も違います。公庫は政策目的に照らして判断しており、それは民間の採算判断とは別の論理です。「公庫が貸したから」は、自金庫が貸してよい理由になりません。

また、自金庫の引受分の信用リスクは、当然に自金庫が負います。協調融資は、リスクを分担する仕組みであって、リスクを消す仕組みではありません。

なお、公庫を「貸す機関」とだけ捉えると、実務の半分を見落とします。 12-2で見たとおり、公庫(中小企業事業)は信用保証協会の保証に保険を提供する信用保険業務も担っています。このほか、民間金融機関の中小企業向け債権の証券化を支援する業務や、危機時に指定金融機関へ資金を供給する危機対応等円滑化業務(→14-4)も公庫の仕事です。融資・保険・証券化支援・危機対応 ― 公庫は、民間金融を補完する機能の束として設計されています。保証付き融資を1件実行するたびに、自金庫は公庫の融資業務ではなく保険業務のほうに接している、という関係を押さえておいてください。

14-2. 代理貸付と制度融資は何が違うのか ― 「誰の資金で、誰のリスクか」

第13章の制度融資と、ここまで見てきた協調融資に加えて、公庫との関係でもう一つ整理しておくべき仕組みが、代理貸付です。「自治体や政策金融機関が絡む融資」という点で3つとも似て見えますが、資金の出どころと信用リスクの所在という、実務上いちばん重要な軸で見ると、性格がまったく異なります。

代理貸付とは何か。 日本政策金融公庫は、主に中小企業事業において、地域の金融機関を代理店として指定し、公庫の資金を使って貸付を行わせる仕組みを持っています。信用金庫が公庫の代理店になっている例も少なくありません。窓口となった信用金庫は、申込みの受付、審査資料の取次ぎ、契約事務、回収の一部などを担いますが、貸付を実行するのはあくまで公庫であり、信用金庫は公庫の事務を代行する立場です。(公庫のどの事業が代理貸付を行っているかは14-3、商工中金との違いは14-4で整理します)

💡 ここでつまずきやすい:「代理貸付といえば公庫のことだ」

代理貸付は公庫だけの仕組みではありません。民間金融機関が代理店となる先には、公庫のほかに福祉医療機構(社会福祉施設・医療施設向け)、住宅金融支援機構、中小企業基盤整備機構などがあり、多くの信用金庫・地域銀行がこれらを併せて取り扱ってきました。「代理貸付」は特定の機関の名前ではなく、公的機関の資金を民間の窓口が取り次ぐ仕組みの総称だと理解してください。取引先が福祉施設や医療法人であれば、公庫ではなく福祉医療機構が入口になることもあります。

制度融資と代理貸付を並べると、次のように整理できます。

観点 制度融資(第13章) 代理貸付
制度の設計主体 地方公共団体 公的機関(公庫のほか福祉医療機構・住宅金融支援機構等)
資金の出どころ 金融機関の自己資金(自治体は預託・利子補給等で下支えするにとどまる) 公的機関の資金
契約の当事者 金融機関と借主 公的機関と借主(金融機関は取次ぎ・代理事務を担う)
審査の主体 金融機関(信用保証協会の保証審査と並行) 公的機関
信用リスクの所在 金融機関(保証協会の保証が付く部分を除く。責任共有制度により一部は金融機関に残る→第12章) 公的機関
金融機関の収益源 貸出金利(自己資金の運用収益) 取扱手数料(委託手数料)
金融機関の貸借対照表 貸出金として自己勘定に計上される 原則として計上されない(公的機関の債権であり、金庫は窓口事務を代行しているにすぎない)

⭐ポイント⭐:「制度融資は自治体の制度に自金庫の資金を出し、代理貸付は公庫の制度に自金庫が窓口を貸す。」 資金の主従関係が逆転していると理解してください。協調融資(14-1)は、公庫と自金庫がそれぞれ別個に自己資金で貸す点で、この2つのどちらとも異なります。

💡 ここでつまずきやすい:「代理貸付も、結局は自金庫の貸出だろう」

誤解です。代理貸付は信用リスクを公庫が負うという点で、信用金庫自身の貸出とは性格が異なります。窓口となった信用金庫が得るのは貸出金利ではなく取扱手数料です。受付・審査資料の取次ぎ・契約事務など、稟議・決裁に近い実務手順を踏みますが、「誰の資金を、誰の名前で貸しているか」を取り違えると、収益構造とリスク管理の両面で理解を誤ります。

この違いを知っておく必要がある理由は、実務上3つの場面で効いてくるからです。

第一に、稟議書の位置づけが変わります。 代理貸付の取扱いは公庫の基準に基づく事務であり、信用金庫自身の与信判断(第Ⅰ部)とは別の手続きです。自金庫の稟議様式をそのまま流用してよいかは、公庫が定める代理店規程に従う必要があります。

第二に、自己査定・引当の対象外になります。 代理貸付は公庫の債権であるため、原則として信用金庫の自己査定・償却引当の対象にはなりません(→第14巻)。プロパー融資はもちろん、制度融資(保証協会の保証が付いていても、貸出金自体は金庫の自己勘定にあることに変わりはない)とも、ここが決定的に違います。

第三に、自己資本比率のリスクアセットにも計上されません。 貸借対照表に載らない以上、当然の帰結ですが、「窓口で取り扱っている実感」と「規制・会計上の扱い」がずれる典型例として押さえておいてください。

担当者の心得:窓口で「公庫さんの融資を取り扱っています」と言うとき、それが代理貸付(公庫の資金・公庫のリスク)なのか、協調融資(14-1。公庫と自金庫がそれぞれ自己資金で並行して貸す)なのかを、まず自分の中で区別してください。前者は自金庫の資金もリスクも動きません。後者は自金庫の資金とリスクが動きます。同じ「公庫と一緒にやる融資」でも、金庫にとっての意味はまったく違います。

最後に、実務の現状を1つ付け加えます。代理貸付は、長期的に縮小してきた仕組みです。 代理貸付は、公的機関が全国に窓口を持たない時代に、民間の店舗網を借りて資金を届けるために設計されました。しかし、①民間金融機関自身の商品ラインアップが充実したこと、②長期にわたる低金利で、公的資金の金利面の優位が薄れたこと、③公的機関自身の窓口やインターネット経由の申込みが整ったことから、取扱件数は大きく減っています。新規の取扱いを終了する金庫・銀行も出ています(既存の債権はそのまま継続されるのが通常です)。

担当者の心得:したがって、「自金庫がいま、どの機関の、どの制度について代理店契約を持っているか」は、必ず確認してください。 教科書に載っている仕組みが、自金庫では既に新規取扱いを終えていることがあります。制度として存在することと、自分の窓口で扱えることは別です。

具体的な取扱対象・手数料率・代理店の要件は、各機関が定める代理店規程・取扱要領によって決まります。制度は改定されることがあるため、最新の公表資料と自金庫の代理店契約で必ず確認してください。

14-3. 「公庫」は一つではない ― 国民生活事業と中小企業事業

ここまで「公庫」とまとめて述べてきましたが、実務で戸惑いやすいのは、公庫が1つの法人の中に、性格の異なる複数の事業を抱えていることです。ある案件では「公庫さんの融資は代理貸付で扱える」と言われたのに、別の案件では扱えなかった ― といったことが起きるのは、この整理を知らないためです。

公庫の融資業務は、3つの事業に分かれています。 農林漁業者と食品産業を対象とする農林水産事業(旧・農林漁業金融公庫)と、以下の2つです。信用金庫の融資担当が日常的に出会うのは、主に後の2つですが、取引先が食品製造・食品卸である場合には農林水産事業が関わることもあるので、3つあることは押さえておいてください。

国民生活事業(旧・国民生活金融公庫) 中小企業事業(旧・中小企業金融公庫)
主な対象 小規模事業者・個人事業主(融資先の大半は従業者9人以下)、創業前後の事業者、生活衛生関係の営業者。加えて個人向けに教育資金(いわゆる国の教育ローン)も扱う 比較的規模の大きい中小企業
資金の性格 小口が中心(1先あたりの平均融資残高は1,000万円に満たない水準) 長期・固定金利が中心で、無担保での対応も相当な割合を占める
典型的な場面 創業、小規模な設備更新、生活衛生関係の営業、子の進学資金 設備投資、長期運転資金など、金額の大きい資金需要
申込みの経路 公庫の支店・インターネット・郵送による直接申込みが基本 公庫の支店に加え、代理貸付という経路も持つ
民間金融機関の関与 一部の制度で受託金融機関として取次ぎを担う 代理店として代理貸付を取り扱う

したがって、14-2で見た代理貸付(代理店制度)は、正確には主に中小企業事業の仕組みです。 ここで注意したいのは、民間金融機関が関与する枠組みの呼び名が、事業によって違うことです。中小企業事業では「代理店」ですが、国民生活事業では普通貸付・生活衛生資金貸付・教育資金貸付などについて「受託金融機関」という枠組みが置かれています。どちらも「公的機関の資金を、民間の窓口が扱う」点では共通しますが、担う事務の範囲と負う責任は制度ごとに異なります。 「公庫の融資だから、自金庫の代理貸付で取り扱える」と一括りにはできません。自金庫がどの事業の、どの制度について、代理店契約または受託契約を結んでいるのかを、必ず自金庫の契約と公庫の取扱要領で確認してください。

担当者の心得:窓口で「公庫を紹介してほしい」と言われたとき、取引先の規模と資金の性格で送り先が変わります。創業前後・小規模な先は国民生活事業、金額の大きい設備投資は中小企業事業です。ここを取り違えると、取引先が窓口をたらい回しにされることになります。なお、国の教育ローンは個人ローンの領域で自金庫の教育ローンと並ぶ選択肢になります(→第26巻第10章)。

14-4. 商工中金とは何か ― 「借り手が出資者」というもう一つの会員制金融機関

政策金融機関としてもう一つ、商工中金(株式会社商工組合中央金庫)があります。新任担当者にとってここが難所になるのは、「政府系」「中小企業向け」という共通点だけで公庫と同じものとして扱ってしまうためです。しかし商工中金は公庫とは別の組織であり、成り立ちも、資金の集め方も、信用金庫との関係もまったく違います。結論から言えば、商工中金は、政策金融機関のなかで信用金庫にいちばん構造が似ている相手です。

①成り立ち ― 「借り手が出資者」という設計。 商工中金は1936年(昭和11年)、中小企業金融の円滑化を目的として、政府と中小企業組合の共同出資により設立されました。最大の特徴は、株主資格が中小企業等協同組合とその構成員(および中小企業関係団体)に限られていることです。つまり、お金を借りる側が、その金融機関に出資している。融資は、出資者である組合に貸す組合貸と、その組合に属する企業に貸す構成員貸に分かれます。

この構造は、信用金庫の会員制度そのものです。 第0巻第2章・第4章で見たとおり、信用金庫も会員が出資し、原則としてその会員に貸すという協同組織の発想で作られています。商工中金は、その組織原理を「地区」ではなく「業種ごとの組合」を単位として全国に展開したもの、と理解すると位置づけやすくなります。

⭐ポイント⭐:「信用金庫は地区で会員を束ね、商工中金は組合で会員を束ねる」。

②公庫との決定的な違い ― 預金を受け入れる。 ここが最も重要な差です。公庫は貸すだけの機関で、預金を受け入れません。 これに対し商工中金は、預金・為替・手形といった銀行と同様の業務を行います。全国47都道府県に店舗網を持ち、海外にも拠点があります。

この違いが、信用金庫にとって何を意味するか。 公庫は自金庫の預金を奪いませんが、商工中金は取引先の決済口座を持ちうる相手だということです。融資だけを見ていると「政策金融機関=補完してくれる存在」に見えますが、預金・決済の面では競合しています。第24巻で見た「生活口座」の法人版 ― 主要決済口座をどちらが握るかという競争が、そこにはあります(→第6章6-3の稟議サンプルの「他行取引」欄、→第24巻第Ⅲ部)。

⭐ポイント⭐:「公庫は貸すだけ、商工中金は預かりもする」。だから公庫は競合にならず、商工中金は競合になりうる。

③調達構造 ― 預金だけに頼らない。 商工中金のもう一つの特徴は、資金の相当部分を債券発行(商工債)で市場から調達していることです。かつては個人向けの割引商工債券(ワリショー等)も発行していましたが、その新規発行は2012年に終了し、現在は機関投資家向けの発行が中心です。商工債への依存度は民営化の過程で低下が進められており、2009年3月末には調達の3分の2程度を占めていたものが、近年は3割程度の水準まで下がっています(比率は年度により動くため、最新の公表資料で確認してください)。

信用金庫と比べると、ここは正反対です。 信用金庫の調達はほぼ全額が預金であり、地区で集めた預金の範囲でしか貸せません(→第13巻)。商工中金は市場から調達した資金を全国の組合員に配分できます。

⭐ポイント⭐:「信用金庫は集めた地域に貸し、商工中金は市場から取ってきて全国に貸す」。

④危機対応業務 ― 政策金融機関としての、いまも残る役割。 大規模な災害や金融秩序の混乱といった危機時に、政府が指定した金融機関(指定金融機関)が、公庫から資金供給や信用の供与(ツーステップ・ローン、損害担保など)を受けて中小企業に融資する仕組みを、危機対応業務といいます。商工中金は、その中心的な担い手です。

ここで14-2の代理貸付と混同しないでください。 危機対応業務では、公庫は商工中金に資金を融通する側に回り、貸付を行うのは商工中金自身です。契約の相手も、貸出金を計上するのも商工中金であり、信用リスクも(損害担保等による補完を受けつつ)商工中金が負います。代理貸付が「公庫の名前で、公庫の勘定として貸す」仕組みであるのに対し、危機対応業務は「商工中金の名前で、商工中金の勘定として貸す」仕組みです。資金の流れる向きが逆だと理解してください。

💡 ここでつまずきやすい:「政策金融機関は不正とは無縁だろう」

商工中金では、危機対応業務において融資実績を積み上げるため、要件を満たすように書類を改ざんする不正が広範に行われていたことが2016年に発覚し、2017年に第三者委員会の調査報告書が公表され、行政処分を受けました。関与はほぼ全店舗に及び、多数の職員が処分され、社長が辞任する事態となりました。

この事案が新任担当者にとって持つ意味は、「政策金融機関にも不正はある」という一般論ではありません。 危機対応業務は制度上の要件を満たせば低利で貸せる仕組みであり、「要件に当てはめたい」という動機が現場に構造的に働く。制度融資の要件該当性(第13章)や、保証協会の免責事由(第12章)についても、まったく同じ力学が働きます。制度の要件は、満たすものであって、満たすように書くものではない ― これは自金庫の稟議でも同じです(→第5〜6章)。

⑤完全民営化の現在地 ― 「政府の出資はなくなったが、特別法は残っている」。 商工中金は2008年に株式会社化されました。その後、上記の不正事案も一つの契機となって民営化の議論が加速し、2023年6月に改正商工中金法が成立、政府保有株式の売却と業務範囲の見直しが決まりました。2025年6月に政府保有株式の売却が完了し、同月に改正法が施行されています。

ただし、ここを「完全民営化が終わった」と理解すると不正確です。 政府の出資はなくなりましたが、商工中金法という特別法自体は存続しており、株主資格が中小企業組合等に限られること、特別準備金・危機対応準備金といった制度が維持されることは変わっていません。法律の廃止を含む最終的な完全民営化は、自己資本の状況、ビジネスモデルの確立状況、危機対応業務の在り方などを勘案して、今後判断されるという段階にあります。

担当者の心得:「商工中金は民営化されたから、これからは普通の銀行と同じ競争相手になる」という言い方を耳にすることがあります。方向としては正しいが、現時点では正確ではありません。 業務範囲は銀行と同様になるよう見直された一方で、株主資格の限定と危機対応の枠組みは残っています。制度が動いている最中の論点なので、「いま、どこまで進んでいるか」を最新の公表資料で確認する習慣を持ってください。

⑥信用金庫から見た商工中金 ― 3つの顔。 まとめると、自金庫にとって商工中金は、次の3つの顔を同時に持つ相手です。

顔 内容 どこで出会うか
競合 同じ中小企業に、融資でも預金・決済でも接近する 取引先のシェア争い、他行取引欄(→第8章のラインシート)
協調の相手 1金庫では大きすぎる案件に、協調融資で対応する 大型設備投資、事業再生局面(→第20巻第17章)
危機時の担い手 指定金融機関として、危機対応の資金を供給する 災害・金融危機時の資金繰り支援

💡 ここでつまずきやすい:「信金中金と商工中金は似たようなものだろう」

名前は似ていますが、役割はほぼ正反対です。信金中金の会員は信用金庫という「金融機関」であり、信金中金は個々の金庫の余資を預かり、資金と資本を支える系統中央機関です(→第17巻第9章)。これに対し商工中金の株主は中小企業組合とその構成員という「事業者」であり、商工中金はその事業者に直接貸し出します。

つまり、信金中金は「金融機関のための中央機関」、商工中金は「事業者のための中央機関」。だから信金中金は自金庫の味方(系統)であり、商工中金は取引先を取り合う相手にもなる。同じ「中央金庫」でも、会員が誰かが違えば、自金庫との関係は逆になります。

最後に、本章で扱った3者を一枚に整理します。

観点 国民生活事業 中小企業事業 商工中金
組織 日本政策金融公庫の一事業 日本政策金融公庫の一事業 公庫とは別の株式会社(特別法に基づく)
主な相手 小規模事業者・創業者・個人(教育資金) 比較的規模の大きい中小企業 出資する組合とその構成員企業
貸付対象を絞る仕組み 事業規模・創業段階等で判断 事業規模等で判断 出資者(組合員)であることが前提
資金の性格 小口 長期・固定・無担保が多い 長期・短期とも扱う(手形割引まで)
預金・為替 なし(貸すだけ) なし(貸すだけ) あり(銀行と同様の業務)
調達 財政投融資等 財政投融資等 預金+商工債(市場調達)
代理貸付(代理店制度) 基本的にない(一部制度で受託金融機関の枠組み) ある(信用金庫が代理店になりうる) なし(商工中金自身が貸す)
融資以外の業務 ― 信用保険(保証協会を支える→12-2)・証券化支援・危機対応等円滑化業務 危機対応業務の指定金融機関(担い手の側)
自金庫との関係 補完(競合しにくい) 補完+代理店として関与しうる 競合・協調・危機対応の3つの顔

本節で挙げた制度の枠組み・時期は、いずれも見直しが続いている領域です。融資対象・限度額・代理店の要件・商工中金の株主資格と民営化の進捗は、日本政策金融公庫・商工中金・中小企業庁の最新の公表資料で必ず確認してください。

15. コロナ禍の実質無利子・無担保融資が残したもの

2020年以降の感染症の拡大に際し、中小企業の資金繰りを支えるため、実質無利子・無担保の融資制度(いわゆるゼロゼロ融資)が大規模に実施されました。民間金融機関を通じるものと、政策金融機関によるものがあり、いずれも信用保証協会の保証や利子補給を組み合わせた制度でした。

この制度が果たした役割は大きい一方、その後の実務に、いくつかの重い論点を残しました。本テキストは制度の是非を論じるものではありませんが、新任担当者が現在直面している実務の背景として、押さえておく必要があります。

論点 内容 どの巻につながるか
返済開始の集中 据置期間の終了により、返済が本格化する時期が集中した 第22巻(期中管理)
債務の増加 借入水準が高まり、債務償還年数が長期化した先が増えた 第2章(返済能力の分析)
条件変更の増加 返済が困難な先について、条件変更(リスケジュール)の必要が生じた 第22巻(条件変更)
本業支援の必要性 資金繰りを支えるだけでは、事業の再構築には至らない 第22巻(本業支援)
保証協会の代位弁済 返済できない先について、代位弁済が生じる 第23巻(出口)

この制度が実務に突きつけた本質的な問いは、次の一点です。

資金を供給することと、事業を立て直すことは、別のことである。

資金繰りを支えることは、時間を買うことです。買った時間で事業が立て直されれば、融資は正しい判断だったことになります。しかし、事業の構造が変わらないまま時間だけが過ぎれば、債務が積み上がっただけになります。

信用金庫にとって、これは業態の存在意義に直結する論点です。 第0巻第4章で見たとおり、信用金庫は地区と運命を共にします。取引先の事業が立ち直ることが、地域が保たれることであり、金庫の将来でもある。だからこそ、資金供給にとどまらない本業支援が、第22巻の主要なテーマになります。

担当者の心得:この時期に実行された融資の多くは、通常の審査プロセスとは異なる、迅速性を優先した運用で実行されました。したがって、稟議書の記載が通常より簡略になっていることがあります。期中管理・自己査定の場面で、当時の判断根拠が十分に残っていないケースに直面したら、「今の時点で改めて評価し、その評価を記録する」ことが必要です。過去の記録が薄いことを理由に、現在の評価まで曖昧にしてはいけません(→第22巻・→第14巻)。

ここまでの筋(6行)

① 保証協会の保証は代位弁済で終わらず、求償権として企業への請求が続く。責任共有制度により金庫にも一部リスクが残る。

② 保証協会はリスクの終着点ではない。背後には公庫の信用保険があり、両者を合わせて信用補完制度をなす。制度改正は、この層のどこに負担を置き直すかの議論として読む。

③ 制度融資は自治体・金融機関・保証協会の三者協調。要件は制度ごと・年度ごとに異なる。預託金は預金量と調達コストに効くが、年度末に返る資金であり利ざやも生まない。預金量を理由に与信判断を緩めない。

④ 代理貸付は公的機関の資金・公的機関のリスクによる貸付であり、自金庫が資金とリスクを引き受ける制度融資・協調融資とは主従が逆である。相手は公庫だけではなく、長期的には縮小している仕組みでもある。

⑤ 「公庫」は一つではない。代理貸付は主に中小企業事業の仕組みで、国民生活事業は直接貸付が基本。商工中金は公庫とは別の、組合員が出資する会員制の金融機関であり、預金も扱うため自金庫の競合にもなる。

⑥ コロナ禍の融資は、資金供給と事業再建は別であるという論点を実務に残した。


第Ⅴ部 比較編

16. 地域銀行ならどうか/国際的にはどう考えられているか

審査・稟議・保全は、どの業態でも骨格は同じです。しかし「同じ」で済ませてしまうと、なぜ自金庫の稟議書がこの形なのかが分からないままになります。ここで一度、外に出て見比べます。

16-1. 地域銀行ならどうか

与信判断の3つの問い(第1章)も、稟議書の骨格(第6章)も、担保・保証の法的な仕組み(第9〜11章)も、信用保証協会・制度融資の枠組み(第12〜13章)も、地域銀行と共通です。 信用保証協会は業態を問わず同じ制度であり、経営者保証ガイドラインも同様です。

違いが出るのは、審査体制の作り方です。

論点 信用金庫 地域銀行
営業と審査の距離 組織が小さく、距離が近い 審査部門が独立し、階層も深い
決裁権限 段数が少なく、理事長・常勤理事に早く上がる(第7章) 支店長 → 審査部 → 本部役員と段数が多い
情報の性質 定性情報(顔の見える情報)の比重が高い 財務データ・スコアリングの比重が相対的に高い
貸せる相手 原則として会員。員外貸出に制限(→第0巻第4章) 制限なし

ここに、信用金庫の強みと弱みが同居しています。 営業と審査の距離が近いことは、現場の生の情報が判断に届きやすいという強みです。第3章で扱った「数字に出ないもの」を見る力は、この距離の近さから生まれます。

しかし同じ距離の近さが、牽制の弱さにもなります。稟議を上げる人と決める人が日常的に顔を合わせる組織では、「あの人が持ってきた案件だから」が判断に混じり込みやすい。地域銀行が組織の階層で確保している独立性を、信用金庫は規程と記録で確保するしかありません。

担当者の心得:だからこそ、第5〜6章で「稟議書は説得の文書ではなく、判断の記録である」と繰り返したのです。組織の距離が近い業態ほど、書いたものだけが牽制になります。反対材料を書かない稟議書は、その組織から牽制機能を奪っていることになります。

⭐ポイント⭐:「地銀は階層で牽制し、信金は記録で牽制する」。

16-2. 国際的にはどう考えられているか(第3層)

融資の審査プロセスそのものを一律に定める国際規制はありません。 誰にいくら貸すかは、各行の経営判断だからです。しかし、本巻の内容に効いてくる国際的な枠組みが2つあります。

①保全の効果は「法的有効性」で決まる ― 信用リスク削減手法(CRM)。 バーゼルの枠組みでは、担保や保証によって所要自己資本を軽減できますが、その適用要件はきわめて厳格です(→第5巻第9章)。要件の中心にあるのは、次の考え方です。

担保・保証が規制上の効果を持つのは、「危機時に、法的に確実に実行できる」場合だけである。

書面が整っていない、対抗要件を備えていない、保証人に資力がない、保証の範囲が担保する債権と一致していない ― こうした場合、軽減は認められません。第9〜10章で「担保は登記まで、保証は書面と範囲まで確認する」と述べたことは、国際的な規制の要件そのものと同じ発想に立っています。

②与信基準を文書化し、逸脱を記録するという発想。 欧州などでは、融資の審査・実行・その後のモニタリングについて、与信基準を明文化し、そこからの逸脱を記録・報告することを監督上の枠組みで求める方向の整備が進みました。ねらいは、個別案件の是非を当局が判断することではなく、「どういう基準で貸すと決めているのか」を組織として説明できる状態にすることです。

なぜ信用金庫にこれらが直接適用されないのか。 バーゼル規制の直接の名宛人は海外営業拠点を持つ国際統一基準行であり、目的は国境を越える波及の防止と競争条件の平準化にあります。国内・地域に業務が限定された信用金庫には、簡素で保守的な代替が用意されています(→第0巻第13章、→第5巻第2章)。加えて、中小企業向け融資は、相手先の情報が定型化されておらず、一律の基準に乗せにくいという実務上の事情もあります。日本では、金融検査マニュアル廃止後、「各金融機関が自らの融資方針と顧客特性に即して判断し、それを説明する」という方向が採られました(→第14巻第7章)。基準を外から与えるのではなく、自ら定めて説明させる ― 向かっている先は、実は同じです。

必ず押さえる位置づけ:国際的な規制は信用金庫に直接適用されません。しかし、「保全は法的有効性で決まる」「与信基準を明文化し、逸脱を記録する」という考え方は、業界標準の"ものさし"として、国内の実務にも検査・考査の着眼にも入り込んでいます。本巻で扱った稟議書・ラインシート・担保評価の実務は、その"ものさし"を、信用金庫の規模と顧客特性に合わせて具体化したものだと理解してください。

ここまでの筋(3行)

① 与信判断・稟議・保全・保証協会の骨格は地銀と共通。差は審査体制の作り方に出る。

② 営業と審査の距離が近い信金は、階層ではなく記録で牽制を確保するしかない。

③ 国際的には「保全は法的有効性で決まる」「与信基準を文書化し逸脱を記録する」が標準。直接適用はされないが"ものさし"として実務に入り込んでいる。


第Ⅵ部 まとめ

17. 実務での留意点

  • 与信判断は3つの問いに分解する。①②で貸すかを決め、③(保全)で貸し方を決める。
  • 保全から入らない。保全は金庫を守る仕組みであって、取引先を守る仕組みではない。
  • 決算書は過去の記録。将来の返済能力を、現場の事実で裏づける。
  • 正常運転資金を差し引く根拠を説明できるときだけ差し引く。数字合わせにしない。
  • 返済意思は観察可能な事実として書く。印象ではなく事実を稟議書に残す。
  • 稟議書は「3年後、自分がいない場所で読まれる」と想定して書く。
  • 懸念点と、その評価と、モニタリング方針を必ず書く。これが第22巻の期中管理の起点になる。
  • 長期運転資金の稟議書には、返済能力の検証表を必ず付ける。他行分を含めた年間約定返済額と、キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)の突き合わせ。不足があるなら、不足を書いたうえで吸収の手当てまで書く(→第6章6-3)。
  • 「5年で完済させるのか、折り返しを前提とするのか」を実行時に決め、稟議書に書く。書いていなければ、数年後の折り返しが正常な継続なのか悪化の兆候なのか、誰にも判別できません。
  • 決裁権限は迷ったら上げる。分割して権限内に収めるのは規程の潜脱。
  • ラインシートは形式の違う与信を合算し、変化を読むための道具。未実行枠・支払承諾・手形割引/でんさい割引も載せ、割引は支払企業別の残高も持つ(→第20巻第7章7-2)。
  • 担保は処分可能見込額で見る。掛目と先順位・極度額を登記簿で確認する。
  • 保証はほぼ連帯保証で、保証人に抗弁権がない。説明を尽くす。
  • 経営者保証は、求める/求めない理由を稟議書に書く。ガイドラインの運用は見直されている。
  • 「保証付きだから安全」ではない。責任共有・免責事由・プロパー部分の3点に注意。
  • 責任共有の方式(部分保証か負担金か)を自金庫について知っておく。貸倒れの見え方が変わる(→第12章)。
  • 保証協会の背後には公庫の信用保険がある(信用補完制度)。ただしそれは金庫の負担を軽くしない。金庫の負担は責任共有と免責事由で決まる(→12-2)。
  • 保証協会は地域ごとの認可法人。自治体は出捐者であり、損失補償の担い手でもある。県をまたぐ先はどの協会になるかを確認する(→第12章)。
  • 制度融資は制度ごと・年度ごとに要件が違う。去年の要綱で判断しない。
  • 預託金は「増えて嬉しい預金」ではない。年度末に返り、利ざやも生まない。預金量や制度の推進目標を理由に与信判断を緩めない(→13-2)。
  • 公庫が貸すことは、自金庫が貸してよい理由にならない。
  • 「公庫」は一つではない。融資業務は国民生活・農林水産・中小企業の3事業。代理貸付は主に中小企業事業の仕組みで、国民生活事業は直接貸付が基本(→第14章14-3)。取引先を紹介するときは、規模と資金の性格で送り先を選ぶ。
  • 公庫は「貸す機関」だけではない。信用保険・証券化支援・危機対応等円滑化業務も担う(→14-1、12-2)。
  • 代理貸付の相手は公庫だけではない(福祉医療機構・住宅金融支援機構等)。かつ長期的に縮小しており、自金庫が新規取扱いを終えている場合がある。「制度として存在すること」と「自分の窓口で扱えること」は別(→14-2)。
  • 商工中金は公庫とは別の組織。組合員が出資する会員制で、預金・為替も扱うため、融資でも決済でも自金庫の競合になりうる(→第14章14-4)。信金中金とは会員が違い、役割はほぼ正反対。
  • 具体的な要件・掛目・割合は必ず原文と自金庫の規程で確認する。本テキストの数値はすべて設例用の仮の数字です。

18. つまずきやすいポイント総まとめ

用語・概念 章 一言で言うと
①②で決め、③で備える 第1章 保全から入ると、返済原資の検討が甘くなる
「保全が十分だから審査は簡略」 第1章 免責リスクもあり、何より取引先を助けない
減価償却費を足す理由 第2章 現金が出ていかない費用だから
正常運転資金を差し引く理由 第2章 事業に張り付いている資金。ただし根拠の説明が条件
決算書は過去、判断は将来 第2章 現場の事実で裏づける
「返す気」は精神論ではない 第3章 悪い情報を早く出すか隠すか、という観察可能な事実
保全は保険であって返済ではない 第4章 時間がかかり、評価どおりには回収できない
稟議書は後から読まれる文書 第5章 通った後のほうが長く読まれる
「運転資金」では書いたことにならない 第6章 具体的に書けば返済原資が自動的に決まる
懸念点を書かないことが最大のリスク 第6章 検討しなかったか隠したかに見える
長期運転資金の返済原資 第6章 売上代金ではなくキャッシュフロー。返済額との突合を表で示す
「完済させるのか、折り返すのか」 第6章 書いてあれば設計、書いていなければ悪化の兆候に見える
不足を隠さない 第6章 不足を書いたうえで、どの枠で吸収するかまで示すのが稟議書
決裁権限の分割は潜脱 第7章 検査で最も厳しく問われる類型
ラインシートは変化を読む道具 第8章 「前回と何が変わったか」が最重要
稟議書とラインシートの違い 第8章 過去を保存するのが稟議書、現在を映すのがラインシート
割引は支払企業への与信でもある 第8章 でんさいの支払企業別残高を持たないと集中が見えない
抵当権と根抵当権 第9章 特定の債権か、極度額の範囲の継続的債権か
先順位・後順位 第9章 担保を取ったことと、保全されていることは別
保証と連帯保証 第10章 連帯保証人には催告・検索の抗弁がない
経営者保証の副作用 第11章 悪い情報を出しにくくする方向に働く
代位弁済で債務は消えない 第12章 協会が求償権を取得し、請求は続く
責任共有制度の狙い 第12章 全額保証だと審査・管理の動機が失われる
「保証付きだから100%安全」 第12章 責任共有・免責事由・プロパー部分
責任共有には2つの方式がある 第12章 部分保証方式(8割保証)と負担金方式。どちらでも金庫の負担は2割相当
「保証協会が自前で全部かぶっている」 第12章12-2 背後に公庫の信用保険(てん補率70〜90%)。協会はリスクの中継地点
信用保険があるから金庫も安心、ではない 第12章12-2 協会と公庫の精算は金庫の外側の話。金庫の負担は責任共有と免責事由で決まる
「保証協会は国の出先機関」 第12章 信用保証協会法に基づく地域ごとの認可法人。自治体・金融機関の出捐で支えられる
制度融資は年度ごとに変わる 第13章 去年の要綱で判断しない
「預託金で預金量が増えるからいい制度」 第13章13-2 年度末に返る資金。利ざやも生まない(安くなった分は企業に渡す設計)
預託金の価値は金利次第 第13章13-2 無利子で置く価値は、金利がゼロなら消える。金利が上がれば戻る
預託金方式と利子補給方式 第13章13-2 財政負担の実質は同じ。違うのは歳出に見えるかどうか
「公庫が貸すなら安心」 第14章 審査の基準も目的も違う
「代理貸付も結局は自金庫の貸出」 第14章14-2 資金もリスクも公的機関。金庫が得るのは取扱手数料
「代理貸付といえば公庫」 第14章14-2 福祉医療機構・住宅金融支援機構等もある。仕組みの総称であって機関名ではない
教科書にあるのに窓口で扱えない 第14章14-2 代理貸付は縮小傾向。自金庫の代理店契約を確認する
制度融資と代理貸付を混同する 第14章14-2 資金の出どころとリスクの所在が逆(制度融資は自金庫の資金、代理貸付は公庫の資金)
「公庫」を一つの組織だと思い込む 第14章14-3 国民生活事業(小口・直接貸付が基本)と中小企業事業(代理貸付あり)は同じ公庫の別事業
「商工中金も公庫の代理店」 第14章14-4 別組織。出資者(組合員)向けに自己の資金・リスクで直接貸す。危機対応業務は資金の流れが代理貸付と逆
「政策金融機関だから競合しない」 第14章14-4 公庫は貸すだけだが、商工中金は預金・為替も扱う。決済口座を取り合う相手でもある
「信金中金と商工中金は似たようなもの」 第14章14-4 会員が違う。信金中金の会員は金融機関、商工中金の株主は事業者。だから味方と競合に分かれる
「商工中金は完全民営化された」 第14章14-4 政府保有株式の売却は完了したが、商工中金法は存続。株主資格の限定も残る
資金供給と事業再建は別 第15章 時間を買っただけで構造が変わらなければ債務が積み上がる
距離の近さは強みでも弱みでもある 第16章 地銀は階層で牽制し、信金は記録で牽制する

まとめとセルフチェック

一枚でわかる全体像

  1. 与信判断は3つの問いに分解する。①返せるか ②返す気があるか ③返せなかったらどうするか。①②が PD、③が LGD に対応する。
  2. ①②で貸すかを決め、③で貸し方を決める。保全から入ってはいけない。
  3. 返済能力は「税引後利益+減価償却費」を返済原資とし、債務償還年数で捉える。正常運転資金の控除には根拠の説明が要る。
  4. 返済意思は観察可能な事実として現れる。とくに「悪い情報を早く出すか」が決定的。
  5. 稟議書は、何年も後に読まれる判断の記録。期中管理・自己査定・検査・出口のすべてで読み返される。
  6. 稟議書には、具体的な資金使途、理由まで書いた業況分析、懸念点とその評価とモニタリング方針を書く。
  7. 期間5年の長期運転資金では、さらに ①他行分を含めた年間約定返済額とキャッシュフローの突き合わせ表 ②完済させるのか折り返しを前提とするのかの明示 の2つが不可欠(→第6章6-3のサンプル)。
  8. 決裁権限は迷ったら上げる。分割は潜脱。
  9. ラインシートは形式の違う与信を合算し、保全率と時系列の変化を見る道具。
  10. 担保は処分可能見込額で見る。掛目・先順位・極度額を確認する。根抵当権の極度額超過に注意。
  11. 実務の保証はほぼ連帯保証。経営者保証には副作用があり、ガイドラインに基づく運用が広がっている。
  12. 信用保証協会の保証は、代位弁済で終わらず求償権として続く。責任共有制度(部分保証方式・負担金方式のいずれでも金庫の負担は2割相当)により金庫にも一部リスクが残り、免責事由もある。
  13. 保証協会はリスクの終着点ではなく中継地点。背後に公庫の信用保険(てん補率70〜90%、回収納付)があり、両者を合わせて信用補完制度をなす。ただしこの二層構造は金庫の負担を軽くしない。
  14. 制度融資は自治体・金融機関・保証協会の三者協調。要件は制度ごと・年度ごとに異なる。預託金は預金量を増やし調達コストを下げるが、年度末に返り、利ざやも生まない。その価値は金利がある世界かどうかで反転する。預託金方式と利子補給方式の違いは、財政負担が歳出に見えるかどうか。
  15. 政策金融機関は政策目的で動く。公庫が貸すことは自金庫が貸す理由にならない。
  16. 代理貸付は公的機関の資金をその機関のリスクで貸す仕組みで、金庫は窓口事務を代行し取扱手数料を得る。自己資金・自己リスクの制度融資・協調融資とは主従が逆であり、貸借対照表にも自己査定・リスクアセットにも乗らない。
  17. 「公庫」は一つの組織ではない。融資業務は国民生活・農林水産・中小企業の3事業。代理貸付は主に中小企業事業の仕組みで、国民生活事業(小規模事業者・創業者・個人向け教育資金など)は直接貸付が基本。また公庫は貸すだけの機関でもない ― 信用保険・証券化支援・危機対応等円滑化業務も担う。代理貸付の相手も公庫だけではなく(福祉医療機構・住宅金融支援機構等)、仕組み自体が長期的に縮小している。
  18. 商工中金は公庫とは別の組織で、借り手である組合とその構成員が出資する会員制の金融機関(信用金庫の会員制度と同じ発想を、地区ではなく組合で束ねたもの)。預金・為替も扱い、調達の一部を商工債で市場から得る点が公庫とも信用金庫とも違う。自金庫にとっては競合・協調・危機対応の3つの顔を持つ。政府保有株式は2025年に売却されたが商工中金法は存続している。
  19. コロナ禍の融資は、資金供給と事業再建は別であるという論点を実務に残した。
  20. 与信判断・稟議・保全の骨格は地銀と共通。差は審査体制に出る。営業と審査の距離が近い信金は、階層ではなく記録で牽制する。
  21. 国際的には「保全は法的有効性で決まる」「与信基準を文書化し、逸脱を記録する」が標準。直接適用されないが"ものさし"として実務に入り込んでいる。

セルフチェック(説明できますか?)

  • 与信判断の3つの問いを挙げ、それぞれが PD・LGD のどちらに対応するか言える
  • 「保全が十分だから審査は簡略でよい」がなぜ誤りか、3つの理由で説明できる
  • 返済原資に減価償却費を加える理由を説明できる
  • 債務償還年数を計算でき、正常運転資金を差し引く根拠を説明できる
  • 「返す気があるか」を、観察可能な事実として3つ以上挙げられる
  • 稟議書が誰に、いつ読まれるかを6つ挙げられる
  • 「運転資金3,000万円」という記載の何が不足か説明できる
  • 懸念点の記載に必要な3要素(特定・評価・モニタリング方針)を挙げられる
  • 期間5年の運転資金について、返済原資が売上代金ではない理由を説明できる
  • 他行分を含めた年間約定返済額とキャッシュフローを突き合わせ、不足額の手当てまで書ける
  • 「5年で完済させる融資」と「折り返しを前提とする融資」を書き分けられる
  • 決裁権限の階層が存在する2つの理由を説明できる
  • ラインシートが果たす3つの機能を説明できる
  • ラインシートの与信合計に、割引・支払承諾・未実行枠まで含める理由を説明できる
  • 稟議書とラインシートの役割の違いを、時間軸の言葉で説明できる
  • 抵当権と根抵当権の違いを説明できる
  • 担保評価に掛目を適用する3つの理由を挙げられる
  • 先順位の担保がある場合の自金庫の保全額を計算できる
  • 保証と連帯保証の違い(抗弁権)を説明できる
  • 経営者保証の3つの副作用を挙げられる
  • 信用保証協会の仕組みを、代位弁済と求償権まで含めて説明できる
  • 責任共有制度が導入された理由を説明できる
  • 責任共有の2つの方式(部分保証方式・負担金方式)の違いを説明できる
  • 信用補完制度の二層構造を、保証協会・公庫・国の関係として説明できる
  • 1件の貸倒れが企業・金庫・保証協会・公庫にどう配分されるかを順に追える
  • 「保証協会の背後に公庫がいるから金庫も安心」がなぜ誤りか説明できる
  • 「保証付きだから100%安全」がなぜ誤りか、3つの理由で説明できる
  • 信用保証協会がどういう法人で、誰の出捐で支えられているかを説明できる
  • 保証協会が全国一律の組織ではないことが実務で何を意味するか説明できる
  • 制度融資における自治体の3つの役割を挙げられる
  • 協調倍率2倍・預託金1億円のとき、融資枠と金庫の調達コストを計算できる
  • 「預託金で預金が増えるからいい制度だ」がなぜ一面的か、4点で説明できる
  • 預託金方式と利子補給方式の違いを、自治体の財政の見え方から説明できる
  • 政策金融機関と民間金融機関の判断基準の違いを説明できる
  • 代理貸付と制度融資の違いを、資金の出どころ・契約当事者・信用リスクの所在の3点で説明できる
  • 代理貸付が自金庫の自己査定・リスクアセットの対象にならない理由を説明できる
  • 公庫の3事業を挙げ、融資以外の業務(信用保険・証券化支援・危機対応)も説明できる
  • 代理貸付の相手が公庫だけではないこと、仕組みが縮小してきた理由を説明できる
  • 日本政策金融公庫の国民生活事業と中小企業事業、商工中金の違いを、対象・資金の性格・代理貸付の有無の3点で説明できる
  • 商工中金の「借り手が出資者」という構造を、信用金庫の会員制度と対比して説明できる
  • 商工中金が公庫と違って自金庫の競合になりうる理由を、預金・決済の面から説明できる
  • 危機対応業務と代理貸付を、「誰の名前で、誰の勘定で貸すか」で区別できる
  • 信金中金と商工中金の役割が正反対になる理由を、会員が誰かという点から説明できる
  • コロナ禍の融資が実務に残した論点を、どの巻につながるかとともに説明できる
  • 信用金庫と地域銀行で、審査体制の作り方がどう違うかを4点挙げられる
  • 「地銀は階層で牽制し、信金は記録で牽制する」の意味を、稟議書の書き方に結びつけて説明できる
  • 担保・保証が規制上の効果を持つための条件を、信用リスク削減手法の発想から説明できる
  • 国際的な与信規制が信用金庫に直接適用されない理由と、それでも"ものさし"になる理由を説明できる

用語集

用語 意味
与信判断 貸してよいかどうかの判断。返済能力・返済意思・保全の3つに分解される
与信方針(クレジットポリシー) 金庫としてどの先に、どの範囲で与信を行うかを定めた方針
取扱除外業種 与信方針上、原則として取り扱わないと定めた先・業種。反社会的勢力の排除など法令上のものと、金庫の経営判断によるものがある
信用格付(内部格付) 取引先の信用力を金庫共通のものさしで段階に置き換えたもの。価格・決裁権限・債務者区分・ポートフォリオ管理に接続する
定量評価(スコアリング) 決算データから財務指標を計算し、重みを付けて合計し点数化する評価。重みは過去のデフォルト実績から推定するのが本来の姿
定性評価 業界動向・市場地位・経営者の資質など、決算数値に表れない要素の評価
実態修正 役員借入金・代表者個人の資産・粉飾の疑いなどを踏まえ、決算書の数値を実態に引き直すこと
返済原資 返済に充てる現金の源。事業からは「税引後利益+減価償却費」で捉えられる
債務償還年数 \(\text{実質的な借入金} \div \text{年間の返済原資}\)。何年で返せるかを表す
正常運転資金 事業を回すために恒常的に必要な運転資金。売上債権+棚卸資産−仕入債務で捉える
資金繰り表 将来の現金の出入りの予定を示す表。決算書では分からない資金繰りを見る
融資稟議書 融資の実行について決裁を求める文書。判断とその根拠を残す記録でもある
決裁権限 金額・条件に応じて、誰が決裁するかを定めた権限の階層
ラインシート 取引先ごとの与信・保全・財務・取引の全体像を一覧にした管理帳票
長期運転資金 恒常的に必要な運転資金を、5年・7年等の期間で分割返済する証書貸付(→第20巻第3章)
折り返し 分割返済で減った運転資金の残高を、再度の実行により元の水準に戻すこと
増加運転資金 売上や受注の増加に伴って追加的に必要となる立替資金
でんさい割引 電子記録債権を支払期日前に買い取る取引(→第20巻第7章7-2)
保全 返済されなかった場合に回収を確保する手段。担保・保証等
保全率 \(\text{保全額} \div \text{与信残高}\)。LGD に直結する
担保 特定の財産から優先的に弁済を受ける権利
抵当権 特定の債権を担保する権利。債権が消滅すれば消滅する
根抵当権 一定範囲の継続的な債権を、極度額の範囲でまとめて担保する権利
極度額 根抵当権・根保証で担保される上限額
掛目 担保の評価額のうち、処分可能見込額として認める割合
処分可能見込額 担保を処分した場合に回収が見込まれる額
先順位/後順位 同一の担保物件に複数の担保がある場合の優先順位
連帯保証 保証人が主債務者と連帯して責任を負う保証。催告・検索の抗弁がない
根保証 一定範囲の継続的な債務を極度額の範囲で保証すること
経営者保証 中小企業の代表者が個人として行う連帯保証
経営者保証に関するガイドライン 一定の要件下で経営者保証を求めない/解除する実務の指針
信用保証協会 中小企業の借入について公的に保証を行う機関。信用保証協会法に基づく認可法人で、全国に51協会(47都道府県+4市)。地方公共団体・金融機関等の出捐で支えられる
出捐金 信用保証協会の基本財産として、地方公共団体・金融機関等が拠出する資金。自金庫が出捐者であることもある
損失補償(自治体による) 地方公共団体が、保証協会の代位弁済による損失の一部を補償すること。公庫の信用保険とは別の支え
信用保証料 保証を受けるために企業が信用保証協会に支払う料金
代位弁済 主債務者が返済できない場合に、保証人(協会等)が代わって弁済すること
求償権 代位弁済した者が、主債務者に対して取得する請求権
責任共有制度 保証協会と金融機関が保証のリスクを分担する制度。部分保証方式(協会が8割を保証)と負担金方式(全額保証だが金融機関が負担金を支払う)があり、いずれも金融機関の負担は2割相当
信用補完制度 信用保証協会の信用保証制度と、日本政策金融公庫(中小企業事業)の信用保険制度を合わせた二層の仕組み
信用保険 保証協会が公庫に保険料を払い、代位弁済時に保険金を受け取る仕組み。要件を満たす保証には保険関係が自動的に成立する
てん補率 信用保険で公庫が保証協会に支払う保険金の割合。代位弁済額の70%・80%・90%のいずれか
回収納付 保証協会が求償権を回収したとき、てん補率に応じた金額を公庫に納付すること
免責事由 保証人が保証の履行を免れる事由。金庫側の違反・重過失等
プロパー融資 信用保証協会の保証によらない、金融機関固有の融資
制度融資 自治体が制度を設計し、金融機関が実行し、保証協会が保証する融資
利子補給 借入金利の一部を自治体等が負担すること
預託(預託金) 自治体が金融機関に資金を預け、低利での貸出を可能にする仕組み。無利子または低利で、年度単位で預けられ年度末に返還されるのが一般的
協調倍率(預託倍率) 預託金に対して金融機関がどれだけ自己資金を上乗せするかの比率。自治体と金融機関の間で定められる
利子補給方式 預託に代えて、自治体が利子相当額を直接支出する方式。財政負担が歳出として見える点が預託金方式と異なる
日本政策金融公庫 民間だけでは対応が難しい分野を補完する政策金融機関。融資は国民生活事業・農林水産事業・中小企業事業の3事業からなり、融資以外に信用保険・証券化支援・危機対応等円滑化業務も担う
国民生活事業 公庫の一事業(旧・国民生活金融公庫)。小規模事業者・創業者・個人(教育資金等)向けの小口の直接貸付が中心。代理店制度は基本的になく、一部制度で受託金融機関の枠組みがある
農林水産事業 公庫の一事業(旧・農林漁業金融公庫)。農林漁業者と食品産業を対象とする
中小企業事業 公庫の一事業(旧・中小企業金融公庫)。比較的規模の大きい中小企業向けに長期・固定金利の資金を扱い、代理貸付制度を持つ。信用保険業務もこの事業が担う
受託金融機関 公的機関から業務の委託を受け、その融資の受付等を行う民間金融機関。国民生活事業では普通貸付・生活衛生資金貸付・教育資金貸付などで置かれている
商工中金(株式会社商工組合中央金庫) 1936年設立の、公庫とは別の政策金融機関。株主資格が中小企業等協同組合とその構成員等に限られる会員制で、その組合員に自己の資金・リスクで直接貸し付ける。預金・為替も扱う
組合貸/構成員貸 商工中金の融資の2形態。出資者である組合に貸すのが組合貸、その組合に属する企業に貸すのが構成員貸
商工債 商工中金が発行する債券。預金と並ぶ調達手段で、預金一本の信用金庫との構造上の違いを生む。個人向けの割引商工債券(ワリショー等)は2012年に新規発行を終了
特別法に基づく株式会社 個別の法律(商工中金法等)を根拠に設立され、株主資格や業務範囲に法律上の制約を受ける株式会社。政府出資の有無とは別の論点
協調融資(政策金融機関との) 公庫と民間金融機関が、それぞれ自己資金で並行して同一の資金需要に対応する形
代理貸付 公的機関が民間金融機関を代理店に指定し、その機関の資金で貸付を行わせる仕組みの総称。信用リスクは当該機関が負い、金融機関は取扱手数料を得る。公庫では主に中小企業事業。公庫のほか福祉医療機構・住宅金融支援機構・中小企業基盤整備機構等も相手方となる
危機対応業務(危機対応円滑化業務) 大規模災害・金融危機等の際、公庫が指定金融機関(商工中金等)に資金供給・信用の供与を行い、指定金融機関が自己の名前・勘定で中小企業へ融資する仕組み。代理貸付とは資金の流れが逆
指定金融機関 危機対応業務の担い手として政府が指定した金融機関。商工中金はその中心的な担い手
実質無利子・無担保融資 感染症拡大期に実施された、利子補給と保証を組み合わせた融資制度

参考文献・出典

  • 民法(保証、連帯保証、抵当権・根抵当権の規定。条番号は原文で確認)
  • 中小企業庁・全国信用保証協会連合会の公表資料(信用保証制度の仕組み、責任共有制度の2方式、信用補完制度と信用保険制度)
  • 日本政策金融公庫(中小企業事業)の公表資料(信用保険業務の概要、てん補率・回収納付の仕組み)
  • 各信用保証協会の保証制度要綱および保証契約・約定書(免責事由は必ず原文で確認すること)
  • 「経営者保証に関するガイドライン」および関係する当局・関係団体の公表資料(運用は継続的に見直されている)
  • 各都道府県・市区町村の制度融資要綱(年度ごとに改定されるため最新版を確認すること。預託金の有無・協調倍率・利子補給の条件を含む)
  • 信用保証協会法および金融庁・中小企業庁「信用保証協会向けの総合的な監督指針」(→第17巻)
  • 日本政策金融公庫の公表資料(国民生活事業・中小企業事業の業務概要、融資制度、代理貸付の代理店規程・取扱要領、協調融資・危機対応業務の枠組み)
  • 商工中金(株式会社商工組合中央金庫)の公表資料(株主資格、組合貸・構成員貸の仕組み、商工債による調達、商工中金法の改正と政府保有株式の売却、危機対応業務における指定金融機関としての位置づけ)
  • 中小企業庁の公表資料(商工中金改革に関する検討会の資料・報告書。民営化の進捗は継続的に見直されているため最新版を確認すること)
  • 中小企業庁・金融庁の公表資料(感染症対応の資金繰り支援策とその後の対応)
  • 金融庁「融資に関する検査・監督実務についての考え方と進め方」(→第14巻・第17巻)
  • 自金庫の融資規程・決裁権限規程・担保評価基準・稟議書様式(実際の適用は必ずこちらで確認する)

本テキストは制度理解のための教育用資料です。本文中の金額・掛目・年数はすべて設例用に単純化した仮の数字であり、実際の基準を示すものではありません。信用保証制度の保証割合・免責事由、制度融資の要件、経営者保証に関する運用、政策金融機関の融資制度は、制度ごと・年度ごとに異なり、また継続的に見直されています。実際の判断・手続にあたっては、自金庫の融資/審査部門および各制度の要綱・顧問弁護士に必ずご確認ください。

PDFを作成

フォントは初回だけ読み込むため、1回目は時間がかかります。

用紙
組み方向
表紙
本文