第20巻 貸出商品と金利の決め方

― 融資の入口① 何を、どの形式で、いくらで貸すのか

対象読者:信用金庫の営業店または融資部門に配属され、これから融資の実務に携わる方。「証書貸付」「手形貸付」「当座貸越」という言葉は聞いたことがあるが、なぜ使い分けるのかが分からない、という段階を想定しています。

ねらい:貸出の形式(どの契約で貸すか)と価格(いくらで貸すか)を、それぞれの理由から理解すること。とくに、金利は誰かが決めてくれるものではなく、積み上げて作るものだという感覚を持ち帰ること。

このテキストの特徴:商品カタログの暗記ではなく、「なぜこの形式なのか」「その金利は何を積み上げた結果なのか」を問います。プライシングの章では、本シリーズの他巻(調達コスト・信用コスト・資本コスト)がすべて1本の式に合流します。

他巻との接続:調達コストの側は →第13巻第11章。信用コスト(PD・LGD・EAD)は →第15巻第6章6-1。資本コストと RORA は →第4巻。金利リスクとしての固定・変動は →第7巻。稟議と保全の実務は →第21巻。期中の管理は →第22巻。


全体マップ(この一枚で流れがつかめます)

flowchart TD
    Q["「貸してほしい」と言われたら、<br/>担当者が決めることは3つ"]
    Q --> A["①いくら・いつまで貸すか<br/>資金使途と返済原資<br/>(運転資金は短期とは限らない 第Ⅰ部)"]
    Q --> B["②どの形式で貸すか<br/>証書貸付・手形貸付・当座貸越<br/>手形割引/でんさい割引 (第Ⅱ部)"]
    Q --> C["③いくらで貸すか<br/>固定/変動・基準金利・スプレッド (第Ⅲ部)"]
    C --> P["プライシング = 積み上げ (第Ⅳ部)<br/>調達コスト + 経費 + 信用コスト + 資本コスト<br/>(→第13巻・第15巻・第4巻がここで合流)"]
    B --> D["単独で貸せない/貸したくないとき (第Ⅴ部)<br/>シンジケートローン・私募債・協調融資"]
    P --> D
    D --> E["→ 保全と制度の枠組みは第21巻<br/>→ 貸した後の管理は第22巻"]
    style P fill:#fde,stroke:#c39

目次

第Ⅰ部 基礎編 ― 貸す前に決めること

  1. 融資は「貸して終わり」ではない(1-2 融資の5原則)
  2. 資金使途と返済原資 ― すべての出発点
  3. 運転資金と設備資金 ― 期間の考え方(3-2 運転資金は短期とは限らない/3-3 5年の運転資金は何で返すのか)

第Ⅱ部 貸出形式編

  1. 証書貸付 ― 長期・分割返済の基本形(4-1 バルーン返済とアモチ/ブレット)
  2. 手形貸付 ― 短期運転資金の道具
  3. 当座貸越 ― 枠を与えるという融資
  4. 手形割引 ― 貸付ではないが与信である(7-2 電子記録債権と「でんさい割引」)
  5. 4形式を一枚で比べる

第Ⅲ部 金利編

  1. 固定金利と変動金利 ― 誰がリスクを負うのか
  2. 基準金利をほどく ― 短期プライムレートと市場連動(10-1 基準金利が上がったとき、現場は何をするのか)
  3. スプレッド貸出という考え方

第Ⅳ部 プライシング編(核心)

  1. 貸出金利は「積み上げ」で作る
  2. 【設例】1件の融資の採算を計算する
  3. 金利競争にどう向き合うか(14-2 歩積両建預金と優越的地位の濫用/14-3 金利引上げの交渉)

第Ⅴ部 単独で貸さない/貸せないとき

  1. シンジケートローン ― 複数行で分けて貸す(15-1 コミットメントラインとコミットメントフィー)
  2. 私募債 ― 貸出ではない資金供給
  3. 協調融資と系統・公的金融

第Ⅵ部 比較編

  1. 地域銀行ならどうか/国際的にはどう考えられているか

第Ⅶ部 まとめ

  1. 実務での留意点
  2. つまずきやすいポイント総まとめ/セルフチェック/用語集

第Ⅰ部 基礎編 ― 貸す前に決めること

1. 融資は「貸して終わり」ではない

新任担当者が最初に持つべき感覚は、次の一点です。

融資は、実行した瞬間が始まりであって、終わりではない。

預金は集めた時点で完結しますが(→第13巻)、融資は貸した後に何年も続く関係です。実行後、金庫は次のことを続けます。

  • 期日どおりに返済されているかを見る(→第22巻)
  • 決算書を受け取り、業況の変化を追う(→第22巻)
  • 悪化すれば、条件変更するか、回収に入るかを判断する(→第22巻・第23巻)
  • 期末には債務者区分を判定し、引当を積む(→第14巻)

本シリーズが融資に4巻(第20〜23巻)を割いているのは、この時間の長さそのものが融資実務の本体だからです。

そして、その長い時間の質を決めるのが、入口の判断です。入口で見誤れば、その後の何年もが問題対応に費やされます。

担当者の心得:融資の勉強を「商品知識の暗記」から始めないでください。「この会社は、何のためにお金を必要としていて、どうやって返すのか」― この一点が分かっていれば、形式も期間も金利も、そこから導かれます。逆にこれが曖昧なまま形式だけ決めると、返済原資と返済方法が噛み合わない融資が出来上がります。

1-2. 融資の5原則 ― 古い言葉ですが、判断の順序はここで決まります

融資の教科書に古くから載っている融資の5原則があります。研修で聞いて「精神論だ」と感じた方もいるかもしれません。しかし、この5つは判断が対立したときに、どちらを優先するかの順序を示したものだと読むと、実務の道具になります。

原則 問い 本巻・本シリーズのどこで具体化されるか
公共性 その資金は、地域と社会にとって意味のある使われ方をするか 資金使途(第2章)、除外業種と与信方針(→第21巻第1章)
安全性 返ってくるか。返らなかったときに守られているか 返済原資(第2章)、審査と保全(→第21巻)
収益性 その金利で、コストとリスクを賄えるか プライシング(第Ⅳ部)
流動性 資金は、調達の期間と釣り合っているか。いつ戻ってくるか 貸出形式と期間(第Ⅱ部)、ALM(→第7巻)
成長性 その融資は、取引先と地域の成長につながるか 設備資金(第3章)、本業支援(→第22巻第Ⅴ部)

この5つは並列ではありません。 実務では、公共性と安全性が「貸すかどうか」を決め、収益性と流動性が「どう貸すか」を決め、成長性が「その後の関係」を決めるという順序で働きます。

なぜ順序が大事なのか。5つは日常的に衝突するからです。

衝突する場面 どちらを取るか
金利は取れるが、返済原資が読めない 安全性が先。収益性は安全性を覆さない
安全だが、採算に乗らない金利を求められた 貸すか貸さないかではなく、条件の問題として扱う(第14章)
成長性は高いが、実績がなく安全性が読めない 保全・制度融資・協調で貸し方を工夫する(→第21巻第Ⅳ部)
採算は良いが、公序良俗に照らして疑問がある 公共性が先。採算では覆らない(→第21巻第1章の除外業種)

⭐ポイント⭐:「収益性は安全性に勝てない。そして安全性は公共性に勝てない」。

💡 ここでつまずきやすい:「5原則は昔の話で、いまはリスク・リターンの計算だ」

誤解:PD・LGD を使って期待損失を織り込み、資本コストまで積み上げて金利を決めるなら(第Ⅳ部)、5原則のような定性的な話は不要ではないか。

正しい理解:プライシングの計算は、「貸す」と決めた後に、いくらで貸すかを決める道具です。「そもそも貸してよいのか」には答えません。 どんなに高い金利を積んでも引き受けてはならない融資があり、それを切るのが公共性であり安全性です。計算は判断の後にくる ― この順序を取り違えると、「金利さえ高ければ貸せる」という発想になります。これは、信用金庫がもっとも陥ってはならない誤りです。

2. 資金使途と返済原資 ― すべての出発点

融資の実務には、必ず対になる2つの問いがあります。

問い 用語 確認すること
何に使うのか 資金使途 その資金は何に消えるのか。仕入か、設備か、赤字の補填か
何で返すのか 返済原資 どこから返済の現金が出てくるのか

この2つが結びついていない融資は、必ず問題になります。

【対応の例】

資金使途 返済原資 対応する期間
商品の仕入 その商品が売れた代金 短期(数か月)
機械の購入 その機械が生み出す利益(と減価償却費) 長期(数年)
赤字の補填 ??? ―

3行目に注目してください。赤字の補填には、返済原資がありません。 赤字が続いている限り、返す現金は生まれない。だからこの資金は、本業が黒字化して初めて返済されることになります。つまり「赤字補填のための融資」は、実質的に「事業が立ち直る」ことに賭けた融資です。それが悪いという意味ではなく、そう認識したうえで判断しなければならないということです。

💡 ここでつまずきやすい:「担保があるから大丈夫」

融資判断の順序を取り違えた典型です。正しい順序は、①返済原資があるか → ②それが不確かな場合に備えて担保・保証を取る、です。担保は返済されなかったときの二次的な備えであって、返済の原資ではありません。

担保から入る発想には、実務上2つの弊害があります。第一に、返済原資の検討が甘くなる。第二に、担保処分は時間もコストもかかり、想定どおりに回収できないことが多い(→第23巻)。第15巻第6章6-1 の言葉でいえば、担保は LGD を下げる手段であって、PD を下げる手段ではありません。倒れる確率そのものは、担保では1ミリも下がらないのです。

3. 運転資金と設備資金 ― 期間の考え方

資金使途は、大きく2つに分かれます。この区別が、次章以降の「どの形式で貸すか」を決めます。

3-1. 2つの型

運転資金:事業を回すために継続的に必要な資金です。

flowchart LR
    A["仕入"] --> B["在庫"] --> C["販売"] --> D["売掛金"] --> E["入金"]
    A -. "この間、立て替えている<br/>= 運転資金" .-> E
    style A fill:#fde,stroke:#c39
    style E fill:#fde,stroke:#c39

上の実線が事業の流れ、下の点線が資金の空白期間です。読みどころは、塗ってある両端(仕入と入金)の間隔にあります。

商品を仕入れてから代金が入金されるまでの間、事業者はお金を立て替えている状態になります。この立替期間に必要な資金が運転資金です。事業を続ける限り、この必要は消えません(規模が変わらなければ、金額もおおむね一定)。

設備資金:機械・建物・車両など、長く使うものを買うための資金です。買った設備は何年もかけて利益を生み、その利益と減価償却費から返済されます。

運転資金 設備資金
何に使うか 仕入・人件費・立替 機械・建物・車両
返済原資 売上代金の入金(ただし後述) 設備が生む利益+減価償却費
期間 短期・長期の両方がある(3-2で詳述) 長期(設備の耐用年数に対応)
典型的な形式 手形貸付・当座貸越・証書貸付 証書貸付
金額の決まり方 立替期間と取引規模から算出 設備の取得価額から

⭐ポイント⭐:「運転資金は回り続ける資金、設備資金は減っていく資金」。運転資金は事業が続く限り必要であり続けますが、設備資金は返済とともに残高が減っていきます。この性質の違いが、形式の違いに直結します。

3-2. 「運転資金=短期」ではない ― ここが最初の関門です

教科書は、運転資金を「短期」、設備資金を「長期」と対にして説明します。しかし、この対応を鵜呑みにすると、実務の大半が説明できなくなります。

まず事実を押さえてください。信用金庫の運転資金融資には、期間5年、7年といった長期の証書貸付が、ごく普通に存在します。 件数でも残高でも、これは例外ではなく主流の一角です。新任担当者が「運転資金は短期のはずだ」と思ったまま融資部に配属されると、目の前の稟議書の大半が例外に見えてしまいます。

なぜ長期になるのか。 出発点は、運転資金の必要額そのものが消えないという性質です。

\[\begin{aligned} &\text{所要運転資金(経常運転資金)} \\ &\quad = \text{売上債権(受取手形+売掛金)} + \text{棚卸資産} - \text{仕入債務(支払手形+買掛金)} \end{aligned}\]

この式で計算される金額は、事業の規模が変わらない限り、ほぼ一定のまま残り続けます。売掛金が回収されても、その裏で次の売掛金が立つ。在庫がはけても、次の在庫を積む。つまり、個々の取引は3か月で回っていても、全体としての立替額はゼロにならないのです。

ここから、実務には2つの正解が生まれました。

①短期継続融資型 ②長期運転資金型
形式 手形貸付・当座貸越(→第5章・第6章) 証書貸付(→第4章)
期間 3か月〜1年を書替で継続 5年・7年などの約定分割返済
金利更改 書替のつど 約定による(固定または変動)
返済 期日一括(実質は継続) 毎月・毎年の分割
審査のタイミング 書替のつど 実行時と、期中管理(→第22巻)
向いている先 所要運転資金が明確で、業況が安定している先 資金繰りを安定させたい先、返済原資に厚みのある先

②が広がった背景を、理由から理解しておいてください。第一に、借り手にとって資金繰りが読みやすいこと。期日ごとに「今回も書替えてもらえるか」を心配せずに済みます。第二に、期日ごとに繰り返される書替の事務(手形の徴求・保管・差替え)がなくなること。第三に、書替の実務が形骸化しやすく(→第5章)、「毎回審査している」という建前が実態を伴わないケースが問題視されてきたこと。第四に、信用保証協会の保証や制度融資には、そもそも期間5年・7年・10年といった長期の設定を前提とするメニューが多いこと(→第21巻第12章・第13章)。コロナ禍の一連の融資も、据置期間を置いた長期の運転資金として実行されました(→第21巻第15章)。

ただし、①が悪くて②が良い、という話ではありません。 当局は、正常な運転資金の範囲内で行われる短期継続融資それ自体を否定していません。むしろ、事業の実態に即した資金供給の一形態として位置づけられています(監督指針・事業性評価に関する当局公表資料で最新の記述を確認してください)。問題は形式ではなく、「実態を把握しないまま惰性で続けているかどうか」です。

もう1つ、期中管理の側から見た決定的な違いがあります。 ①では、書替のたびに「継続するかどうか」を判断する機会が、いやおうなく回ってきます。②には、それがありません。約定返済は口座から自動的に引き落とされ、延滞が発生するまで、金庫の側からは何も起きていないように見えます。

①は判断の機会が定期的に来るが形骸化しやすく、②は形骸化しないが、そもそも判断の機会が来ない。

だから②を選ぶときは、書替に代わる「見る機会」を、期中管理の側で意図的に設計しておく必要があります(決算書の徴求時期、四半期の訪問、試算表のモニタリング。→第22巻)。長期にした分の安心は、期中管理で買い戻さなければならない ― ここを飛ばすと、5年間まったく見ていない融資ができあがります。

⭐ポイント⭐:「運転資金の期間は、資金の性質ではなく、返し方の設計で決まる」。

3-3. 5年の運転資金は、何で返すのか ― 返済原資が入れ替わる

ここが、長期運転資金の最大の勘どころです。落ち着いて読んでください。

短期の運転資金なら、返済原資は売上代金の入金です。立て替えた分が回収されれば返せます。ところが、分割返済の約定を付けた瞬間、返済原資は入れ替わります。

恒常的に必要な資金を分割で返させるなら、その返済原資は「売上代金の入金」ではなく、「利益+減価償却費」= キャッシュフローです。

なぜか。所要運転資金は事業を続ける限り必要なので、返済してもすぐ同じだけ必要になるからです。返済に充てられる現金は、事業が生み出した余剰、すなわち利益と減価償却費からしか出てきません。ここを取り違えると、「運転資金だから売上代金で返せます」という、返済原資として成立していない稟議書ができあがります(→第21巻第6章)。

【設例】5年の長期運転資金は返しきれるか

前提(単純化した仮の数字です)

これまで手形貸付10,000万円を書替で継続してきた先から、「期日ごとの書替が不安なので、5年の証書貸付に切り替えたい」という申出があった、という設定にします。実務で最も多く起きている場面です。

項目 金額
所要運転資金(売上債権+棚卸資産−仕入債務) 10,000万円
現在の対応 手形貸付 10,000万円(3か月・書替により継続)
今回の申込 同額を証書貸付・期間5年・元金均等・年2回返済に切り替え
税引後利益 800万円
減価償却費 700万円
他の借入の年間約定返済額 0

①年間の約定返済額を出す

\[\frac{10{,}000\,\text{万円}}{5\,\text{年}} = \text{年間 } 2{,}000\,\text{万円}\]

②返済に充てられるキャッシュフローを出す

\[\underbrace{800}_{\text{税引後利益}} + \underbrace{700}_{\text{減価償却費}} = \text{年間 } 1{,}500\,\text{万円}\]

③突き合わせる

金額
年間の約定返済額 2,000万円
年間のキャッシュフロー 1,500万円
差引 ▲500万円

毎年500万円足りません。 ここで、この設例のいちばん大事なところに気づいてください。

切り替える前は、返済負担はゼロでした。 手形貸付を書き替えていた間、この会社は元金を返していません。証書貸付に切り替えた瞬間に、年2,000万円という新しい返済負担が発生したのです。

会社の実態(所要運転資金10,000万円が必要である)は、切替えの前後で1ミリも変わっていません。変わったのは、返し方の約束だけです。にもかかわらず、資金繰りは明確に苦しくなります。

この構図は、実は監督上も問題とされてきた論点です。 正常な運転資金に対応する短期の融資を、一律に長期の分割返済へ切り替えると、本来は返済を予定しなくてよい資金にまで返済負担を負わせることになります。「長期にしたほうが借り手のためになる」とは限らない ― ここを理解しないまま②を勧めるのは、親切ではなく、資金繰りの圧迫です。

では、この融資は不可でしょうか。そう単純ではないところが、運転資金の難しさです。

そもそも所要運転資金の10,000万円は、事業が続く限り必要な資金です。5年で完済すれば、その分だけ取引先の手元資金が枯れます。したがって実務では、返済の途中で再度の実行(いわゆる折り返し)を行い、残高を一定の水準に保つことが前提になっている場合が少なくありません。

ここで担当者が問われるのは、次の一点です。

「5年で返しきる融資」なのか、「折り返しを前提に残高を維持する融資」なのか ― どちらのつもりで貸すのかを、実行時に決めて、稟議書に書いたか。

書いていなければ、3年後に折り返しの申込を受けた後任者は、それが当初からの設計なのか、返済に窮した結果なのかを判別できません。前者なら正常な取引の継続、後者なら業況悪化の兆候です。同じ「折り返し」という行為が、記録の有無で正反対の意味になる ― これが、第21巻で稟議書を「何年も後に読まれる文書」と位置づける理由です。

なお、③の差引が示す指標が債務償還年数です。

\[\text{債務償還年数} = \frac{\text{有利子負債} - \text{正常運転資金}}{\text{税引後利益} + \text{減価償却費}}\]

ここでいう正常運転資金は、3-2 の所要運転資金(経常運転資金)と同じものを指します(呼び方が実務・資料により揺れます。本シリーズでは →第21巻第2章で「正常運転資金」に統一しています)。正常運転資金を差し引くのは、まさに「その部分は返済を予定していない、回り続ける資金だ」と考えるからです。控除の有無や算式は金庫の内部基準によって異なります(→第14巻・第21巻第2章)。自金庫の算式で、控除しているのかどうかを必ず確認してください。

💡 ここでつまずきやすい:「運転資金は短期だから安全」

期間が短いことは、リスクが小さいことを意味しません。運転資金は反復して必要になるため、短期で貸せば、実務では期日に一括返済せず、同額を借り換える(書替える)ことが繰り返されます。すると、契約上は3か月でも、実質的には何年も残高が残り続けることになります。第7巻・第13巻で「契約の期間と実質の期間は別物」と繰り返しましたが、同じことが貸出側でも起きているわけです。「短期融資だから機動的に引き上げられる」という前提は、取引先の資金繰りを止めることを意味するため、実際には簡単に行使できません。

そして逆方向の誤解もあります。「長期にすれば安全」でもありません。5年の運転資金は、5年間その先の信用リスクを抱え続けることであり、固定金利なら5年間の金利リスクを負うこと(→第7巻)でもあります。短期は実態が長期になりやすく、長期は期間そのものがリスクになる。 どちらを選んでも、期間の問題からは逃げられません。

担当者の心得:運転資金の期間を決めるときは、「何年で返せるか」ではなく「何年見るつもりか」と自問してください。5年の証書貸付を組むということは、この先5年、この会社と付き合うと決めたということです。金利も保全も、その5年に見合っているか。第Ⅳ部のプライシングは、まさにこの「期間の長さ」を価格に織り込む作業です。

ここまでの筋(3行)

① 融資は実行が始まり。入口の判断が、その後の何年もの質を決める。

② 資金使途と返済原資は必ず対で確認する。担保は返済原資ではない。

③ 運転資金は短期とは限らない。5年・7年の証書貸付は主流の一角であり、その返済原資は売上代金ではなくキャッシュフローである。


第Ⅱ部 貸出形式編

4. 証書貸付 ― 長期・分割返済の基本形

証書貸付は、金銭消費貸借契約証書という契約書を取り交わして行う貸付です。融資残高の大半を占める、最も基本的な形式です。

項目 内容
徴求する書面 金銭消費貸借契約証書
期間 長期(数年〜十数年、住宅ローンならさらに長期)
返済方法 分割返済(毎月・毎年の元金均等、元利均等など)が中心
典型的な使途 設備資金、長期運転資金、住宅ローン

なぜ証書なのか。 期間が長く、返済が分割で、条件が細かいためです。返済日・返済額・金利の改定方法・期限の利益喪失事由(→第23巻)・担保や保証の内容といった約定を、書面で詳細に定めておく必要があります。

💡 ここでつまずきやすい:「元金均等」と「元利均等」の違い

分割返済には2つの方式があり、返済額の見え方がまったく違います。

  • 元金均等返済:毎回の元金が一定。利息は残高に応じて減るので、返済額は最初が多く、だんだん減る。
  • 元利均等返済:毎回の元金+利息の合計が一定。返済額はずっと同じだが、初期は利息の割合が高く、元金がなかなか減らない。

借り手にとっては元利均等のほうが資金繰りを立てやすい一方、総支払利息は元利均等のほうが多くなります(元金の減りが遅いため)。住宅ローンで元利均等が多いのは、家計の資金繰りの安定を優先しているからです。どちらが有利かではなく、何を優先するかの選択です。

4-1. もう一つの型 ― バルーン返済とアモチ/ブレットという言い方

元金均等・元利均等は、いずれも期間内に元金を完済しきる返済方式です。これを実務では英語由来の言葉でアモチ(amortization、元本償却)と呼びます。証書貸付の大半はこのアモチ型です。

しかし、実務にはもう一つ、期間中は元金をほとんど(または一部しか)減らさず、満期に残額をまとめて返済する方式があります。バルーン返済と呼ばれます。

返済方式 期間中の元金の減り方 満期時の残高
元利均等・元金均等(フルアモチ) 期間をかけて着実に減り、満期にはゼロになる ゼロ
バルーン返済 ゆるやかにしか減らない(または一切減らない) 大きな残高が残る。満期に一括返済(または借換え)
期日一括(ブレット) まったく減らない 満期に全額

なぜバルーンという名前か。 毎回の返済額を時系列でグラフにすると、通常のアモチ型は右肩下がりの線になりますが、バルーン型は期間中ほとんど平らで、満期の1点だけが風船のように大きく膨らんで見えるためです。

期日一括(→第5章、手形貸付の原則)は、このバルーンの極端な形 ― 期間中の元金償却がゼロのケースだと考えると整理しやすくなります。この形を、実務ではブレット(bullet、弾丸型)と呼びます。

💡 ここでつまずきやすい:「ブレット」は第8巻の「ブレット」と同じ意味か

違います。同じ単語でも、対象がまったく違います。 第8巻(債券数学)の「ブレット型」は、複数の債券をあえて1つの年限に集中させるポートフォリオの組み方を指します(→第8巻第8章)。ここでの「ブレット」は、1本の融資(または債券)の元本を、期間中は償却せず満期に一括で払う返済方式を指します。「一点に集中する」という発想は共通していますが、集中させる対象が「複数資産の年限構成」か「1本の返済スケジュール」かで違います。 用語の使われ方が文脈でずれる典型例なので、会話の中でどちらを指しているかを都度確認してください。

なぜバルーン型を使うのか。 借り手にとっては、期間中の返済負担を抑えられるという利点があります。設備投資で収益が立ち上がるまで時間がかかる事業や、アパートローン等の収益不動産向け融資(→第26巻第8-2節)でよく使われます。

💡 ここでつまずきやすい:「返済額が軽い=安全」ではない

バルーン返済は、期間中の返済負担やDSCR(→第26巻第8-2節)を良く見せます。しかし、それは元金が減っていないからにすぎません。 満期には、フルアモチ型なら残らないはずの残高が丸ごと残ります。この残高をどう処理するかで、リスクの姿はまったく変わります。

  • 借換え(リファイナンス)できる:何も問題は起きません。
  • 借換えできない:借り手は残額を一括で用意しなければなりません。期中は順調に見えた案件が、満期の1点で一気に問題化する ― これがバルーン返済最大のリスク(借換えリスク)です。金利環境の悪化、担保価値の下落、借り手の信用力低下のいずれかが満期に重なれば、借換えは難しくなります。
    審査の時点で、「満期にどう返すつもりか(借換え前提か、自己資金か)」を必ず確認してください。 これを確認しないバルーン型融資の承認は、返済計画のない融資を承認しているのと同じです。

担当者の心得:自金庫の商品・稟議で「元金据置」「据置期間」という言葉が出てきたら、それは期間限定のバルーン型返済です。 据置期間中は利息のみの支払い(元金の償却がゼロ)であり、据置終了後にアモチが始まる設計が一般的ですが、据置=優遇ではなく、負担を後ろへ寄せているだけという理解を持ってください。第26巻第5-1節で見た「5年ルールは負担の先送り」という論点と、根っこは同じです。

5. 手形貸付 ― 短期運転資金の道具

手形貸付は、借用証書の代わりに、借り手が振り出した約束手形を金庫が受け取る形式の貸付です。

項目 内容
徴求する書面 約束手形(借入金額・満期日を記載)
期間 短期(数か月〜1年以内が中心)
返済方法 期日に一括返済が原則
典型的な使途 短期の運転資金、賞与資金、納税資金、季節資金

なぜ手形なのか。 理由は2つあります。

第一に、手続きが簡便であること。証書貸付のような詳細な契約書を作らず、手形1枚で実行できます。反復して使う短期資金に向いています。

第二に、手形という強い法的性格を持つこと。手形は、原因となった取引と切り離して権利を主張できる性質を持ち、不渡りになれば銀行取引停止処分につながるなど、支払いを促す圧力が強いとされます(法的な性質の詳細は専門書・法務部門で確認してください)。

書替(かきかえ)という実務。期日に一括返済が原則ですが、実際には同額または一部返済のうえ、新しい手形に差し替えて継続することが広く行われます。これを書替と呼びます。

💡 ここでつまずきやすい:「書替」は形式であって、実態は長期融資

3か月の手形貸付を、期日ごとに何年も書き替え続けているなら、実態は長期の融資です。ところが形式上は「短期貸付」に分類されます。ここに、実務上の重要な論点が2つ生じます。

①ALM上の期間:第7巻で扱った金利リスクの計測で、この貸出を「3か月」として扱えば、実態(何年も残る)と乖離します。契約の期間と実質の期間は別物という論点が、資産側でも成立します。

②審査の形骸化:書替のたびに本来は審査すべきですが、「いつもの書替」として実質的な検討が省かれることがあります。業況が悪化しているのに、書替が惰性で続いている ― これは検査・監査で必ず問われる論点であり、第22巻の期中管理の中心テーマでもあります。

6. 当座貸越 ― 枠を与えるという融資

当座貸越は、あらかじめ定めた極度額(上限)の範囲内で、借り手が必要なときに借り、いつでも返せる形式です。

項目 内容
徴求する書面 当座貸越契約書
特徴 極度額の範囲で自由に出し入れできる
利息 実際に借りている残高・日数に対して発生
典型的な使途 日々変動する運転資金、資金繰りの安全弁

他の形式と決定的に違う点は、貸出の実行が借り手の裁量に委ねられていることです。証書貸付や手形貸付は、金庫が「実行する」と決めて初めて資金が出ますが、当座貸越は枠を設定した時点で、借り手がいつでも引き出せる状態になります。

この性質から、2つの帰結が生まれます。

第一に、借り手にとって極めて便利です。 資金繰りが読みにくい事業者にとって、当座貸越の枠があることは大きな安心材料になります。

第二に、金庫にとってはリスクの読みにくい商品です。 なぜなら、

借り手が枠を使うのは、資金繰りが苦しくなったときだからです。

業況が悪化した先ほど、枠を目一杯まで使う傾向があります。つまり、最も貸したくないタイミングで、最も残高が増えるという性質を持っています。

💡 ここでつまずきやすい:「未使用の枠はリスクではない」

誤りです。未使用の枠(未実行枠)は、いつでも実行される可能性がある以上、信用リスクを負っています。だからこそ、

  • 自己資本比率の計算でも、未実行枠は一定の掛目を掛けて与信額に算入されます(→第5巻第9章。掛目は告示で確認してください)
  • 与信集中の計測でも、未実行枠を含めて合算すべきです(→第15巻第3章)
  • 流動性リスクの観点でも、枠が一斉に引き出されれば資金が必要になります(→第2巻)

「実行していないから残高ゼロ」という管理は、3つの側面すべてでリスクを過小評価します。

担当者の心得:当座貸越の枠は、設定するときより、減らすときのほうが何倍も難しいと心得てください。枠の減額や中止は、取引先にとって「見限られた」という強いメッセージになり、資金繰りを直撃します。だからこそ設定時に、極度額の水準と期限、見直しの条件を明確にしておくことが決定的に重要です。

7. 手形割引 ― 貸付ではないが与信である

7-1. 手形割引の仕組み

手形割引は、取引先が保有する商業手形(売上代金として受け取った手形)を、満期日前に金庫が買い取る取引です。

   A社がB社に商品を販売 → B社がA社に約束手形を振り出す(満期3か月後)
                                    ↓
   A社は3か月待てない → 金庫に手形を持ち込む
                                    ↓
   金庫が満期までの利息相当額(割引料)を差し引いて買い取る
                                    ↓
   満期日に、金庫がB社(振出人)から代金を受け取る

法的には貸付ではなく、手形の売買です。 しかし実務上は与信取引として扱います。理由は明快で、振出人(B社)が支払わなければ、金庫が損をするからです。

ここに、手形割引の最大の特徴があります。

手形割引では、金庫は「持ち込んだ取引先(A社)」と「手形を振り出した第三者(B社)」の両方の信用力を見なければならない。

しかも、主として支払うのはB社です。A社の財務内容がどれほど良くても、B社が不渡りを出せば回収できません(その場合、A社に買い戻しを求めることになりますが、A社に資力がなければ結局回収できません)。

💡 ここでつまずきやすい:「融通手形」に注意

商業手形は、実際の商取引の裏づけがある手形です。これに対し、実際の取引がないのに、資金調達のためだけに振り出された手形を融通手形(ゆうずうてがた)と呼びます。互いに手形を振り出し合って、双方が割り引いて資金を得る、という形が典型です。

融通手形の割引は、実質的に無担保の信用貸しであり、しかも当事者双方が資金繰りに窮していることを示唆します。振出人と持込人の関係、取引の実在性(納品書・請求書との突合)を確認することが実務の要点です。第22巻で扱う「悪化の兆候」の中でも、融通手形の兆候は最も重い部類に入ります。

7-2. 電子記録債権と「でんさい割引」― 紙の手形が消えていく

ここまで手形を前提に説明してきましたが、実務の重心は、すでに紙の手形から離れつつあります。

電子記録債権は、電子債権記録機関の記録原簿への電子記録によって発生し、譲渡される金銭債権です(電子記録債権法。2008年施行)。手形でも指名債権(売掛金)でもない、第三の類型として制度上あらたに作られたものだと理解してください。全国銀行協会系のでんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク。2013年業務開始)が代表的な記録機関で、信用金庫も参加しています。

なぜ生まれたのか。 手形と売掛金の、それぞれの弱点を埋めるためです。

紙の約束手形 売掛金(指名債権) 電子記録債権
存在の証明 紙の現物 契約・請求書 記録原簿の電子記録
紛失・盗難 ある ― ない
二重譲渡のリスク 現物管理に依存 ある 構造的にない(記録が唯一)
分割 できない 実務上煩雑 分割して譲渡・割引できる
印紙税 かかる ― かからない
事務 搬送・取立・保管 個別の対抗要件具備 電子的に完結
期日の決済 取立に回す 個別に請求 期日に自動的に口座間送金決済

この表の「分割できる」と「二重譲渡のリスクが構造的にない」の2点が、実務上とくに大きい違いです。手形は額面のままでしか譲渡・割引できませんが、電子記録債権は必要な額だけを分割して資金化できます。

ここで、実務上きわめて重要な事実を1つ押さえてください。 でんさいネットでは、発生記録を請求するのは、原則として債務者(支払う側)です。手形を振り出すのが支払企業であるのと同じ発想ですが、帰結が違います。

支払企業がでんさいネットに参加していなければ、そもそも「でんさい」は発生しません。

つまり、電子化を主導するのは、受け取る中小企業ではなく、支払う側の企業です。大企業や有力な地元企業が支払手段をでんさいに切り替えれば、その取引先である中小企業は、対応せざるを得ません。自金庫の取引先が「まだ手形なのか、でんさいに移行済みか」は、多くの場合、その先の販売先が決めている ― この構図を知っておくと、取引先との会話が変わります。

「でんさい割引」(電子記録債権割引) とは、取引先が保有する電子記録債権を、満期(支払期日)前に金庫が買い取る取引です。手形割引の電子版だと考えて、まず差し支えありません。なお、割引のほかに、電子記録債権を譲渡担保に取って貸し付ける形(電子記録債権担保融資)もあります。どちらの形を採るかで、法的性格も約定書も変わりますので、自金庫の商品要綱で確認してください。

flowchart TD
    A["①A社がB社に納品<br/>B社が「でんさい」を発生記録"] --> B["②A社が期日前に資金化したい"]
    B --> C["③金庫へ持込<br/>金庫あてに譲渡記録(+保証記録)"]
    C --> D["④金庫が割引料を差し引いて入金"]
    D --> E["⑤支払期日に、B社の口座から<br/>金庫の口座へ自動的に決済"]
    style E fill:#efe,stroke:#6a6

与信管理上の扱いは、手形割引と同じです。 すなわち、

でんさい割引でも、金庫は「持ち込んだ取引先(A社)」と「支払を行う債務者(B社)」の両方の信用力を見る。

譲渡にあたっては、譲渡人の電子記録保証が付されるのが原則的な取扱いであり、これが手形の遡求(そきゅう)に相当する機能を果たします。加えて、金庫と持込人との間の割引約定により、支払期日に決済されなかった場合の買戻しを請求できる構成が採られるのが通例です(手形割引における買戻請求と同じ発想です)。また、支払期日に決済されなかった場合には、手形の不渡処分に相当する仕組み(一定期間内に2回で取引停止処分となる扱い)が設けられています。具体的な要件・回数・期間、および自金庫が用いる約定書の条項は、でんさいネット等の業務規程と自金庫の商品要綱・約定書で必ず確認してください。

なぜ、いま新任担当者がこれを知っておくべきなのか。 紙の約束手形は、官民の取組みとして利用の廃止に向けた期限が掲げられ、金融界でも手形交換所が2022年に電子交換所へ移行して現物の搬送が廃止されました。つまり、「手形割引」という科目の実務は縮小し、その受け皿が電子記録債権割引とファクタリング等へ移っていく局面にあります。手形の知識は制度の理解として必要ですが、実際に稟議を書く対象は、でんさいになっていくと考えてください。

💡 ここでつまずきやすい:「電子化されたから審査は簡単になった」

誤解:記録機関が管理しているのだから、債権の実在性は保証されている。

正しい理解:電子記録債権が保証するのは「そういう記録が存在すること」であって、その裏に実際の商取引があったかどうかではありません。当事者が合意すれば、実取引の裏づけなしに発生記録を行うことは可能です。つまり、7-1で述べた融通手形と同じ構図は、でんさいでも成立します。むしろ、紙のような手触りがなく事務が軽い分、異常に気づきにくいともいえます。取引の実在性(注文書・納品書・請求書との突合)を確認する必要性は、電子化によって1ミリも減っていません。

💡 ここでつまずきやすい:「ファクタリングも同じようなもの」

売掛債権を期日前に資金化する手段としては、ファクタリング(債権の買取)もあります。事業者向けの正規のファクタリングは、資金調達手段の一つとして成立するものです。ただし実務では、手数料が実質的に極めて高い水準に達する取引や、形式は債権売買でも実態は貸付とみられる取引が問題になった経緯があります。取引先が高コストのファクタリングを利用し始めていたら、それ自体が資金繰り逼迫の兆候として読むべき事実です(→第22巻)。決算書だけでは見えないため、入金経路の変化や、売掛金の異常な減少から気づくことになります。

担当者の心得:でんさい割引は、事務が軽く、取引先にも喜ばれるため、残高が静かに積み上がりやすい取引です。ここで効いてくるのが第Ⅰ部の原則です。割引の残高は、持込人への与信であると同時に、支払企業(債務者)への与信でもあります。 同じ支払企業のでんさいを複数の取引先から割り引いていれば、その1社に対する与信が、気づかないうちに集中していることになります。ラインシート(→第21巻第8章)にでんさい割引の残高を必ず載せ、支払企業別の集計も持つこと ― これが第15巻第3章の与信集中の議論と、営業店の日常業務が接続する地点です。

8. 4形式を一枚で比べる

証書貸付 手形貸付 当座貸越 手形割引 でんさい割引
徴求書面 金銭消費貸借契約証書 約束手形 当座貸越契約書 商業手形 電子記録(譲渡記録)
期間 長期(5年・7年など) 短期 極度の期限内で随時 手形の満期まで 支払期日まで
返済 分割 期日一括(書替あり) 随時 満期に振出人から 期日に自動決済
実行の主導権 金庫 金庫 借り手 借り手(持込) 借り手(持込)
主な使途 設備・長期運転 短期運転 変動する運転資金 売掛債権の早期資金化 同左(分割可)
誰の信用を見るか 借り手 借り手 借り手 借り手+振出人 借り手+支払企業
法的性格 貸付 貸付 貸付 手形の売買(実質は与信) 債権の売買(実質は与信)

選び方の原則は、第Ⅰ部に戻ります。 資金使途と返済原資が決まれば、形式はおのずと決まります。

flowchart TD
    A["資金使途と返済原資を確認"] --> B{"何のための資金か"}
    B -->|"設備・恒常的な運転資金<br/>(5年・7年の分割)"| C["証書貸付<br/>期間に合わせた分割返済"]
    B -->|"短期・スポットの運転資金"| D["手形貸付<br/>期日一括"]
    B -->|"日々変動する運転資金"| E["当座貸越<br/>極度額を設定"]
    B -->|"売掛債権を早く現金化したい"| F["手形割引/でんさい割引<br/>支払企業の信用も見る"]
    style A fill:#efe,stroke:#6a6

担当者の心得:形式が「決まっている」のではなく、取引先の資金の動き方に合わせて選ぶものです。毎月一定額が必要な先に手形貸付を繰り返すのは事務が煩雑ですし、季節的に数か月だけ必要な先に長期の証書貸付を組むのは、返済原資と返済スケジュールが噛み合いません。「返済原資が生まれるタイミングと、返済を求めるタイミングを一致させる」― これが形式選択の唯一の原則です。

ここまでの筋(3行)

① 4形式は、期間・返済方法・実行の主導権・誰の信用を見るかで違う。

② 手形貸付の書替と当座貸越の枠は、いずれも「実態は形式と違う」という論点を抱える。

③ 形式は、返済原資が生まれるタイミングに合わせて選ぶ。


第Ⅲ部 金利編

9. 固定金利と変動金利 ― 誰がリスクを負うのか

貸出金利の決め方は、大きく2つに分かれます。この選択の本質は、「金利変動のリスクを、金庫と借り手のどちらが負うか」という一点です。

固定金利 変動金利
契約期間中の金利 変わらない 定期的に見直される
金利が上昇したら 金庫が損(調達コストだけ上がる) 借り手が損(返済額が増える)
金利が低下したら 借り手が損(高い金利を払い続ける) 金庫が損(受取利息が減る)
金利リスクを負うのは 金庫 借り手

この表の最後の行が本質です。 固定金利で貸すということは、金庫が金利上昇リスクを引き受けることを意味します。

第7巻とのつながり。第7巻第1章で見たとおり、信用金庫は「短く調達し、長く運用する」構造にあり、金利上昇に弱い。固定金利の長期貸出を増やすことは、この構造をさらに強めます。

   10年固定・利回り1.5%の貸出を実行
        ↓
   金利が2%上昇しても、受取利息は1.5%のまま
        ↓
   一方、預金金利は引き上げざるを得ない
        ↓
   利ざやが潰れる(→第7巻第1章のケースB)

担当者の心得:「固定金利で10年」という提案をするとき、それは自金庫が10年分の金利リスクを引き受けるという意思決定です。1件では小さくても、積み上がればALMのギャップそのものになります(→第7巻第5章)。営業店の判断の集積が、金庫全体の金利リスクを作っている ― この自覚を持つことが、融資担当者と本部をつなぐ視点です。

💡 ここでつまずきやすい:「変動金利なら金庫にリスクはない」

直接の金利リスクは減りますが、信用リスクに姿を変えます。金利が上昇すれば、変動金利で借りている先の返済負担が増え、業況が悪化し、返済できなくなる可能性が高まるからです。

つまり、変動金利は金利リスクを借り手に移すが、借り手が耐えられなければ、それは信用リスクとして金庫に返ってくるのです。「リスクを移した」つもりが「回り道をして戻ってきた」― これはヘッジの議論(→第11巻)でも繰り返される構図です。金利上昇局面では、変動金利の借り手の返済耐性を確認することが、期中管理の重要な論点になります(→第22巻)。

10. 基準金利をほどく ― 短期プライムレートと市場連動

変動金利で貸す場合、何を基準に動かすのかを決めなければなりません。ここで登場するのが基準金利です。実務では大きく2系統あります。

①プライムレート方式

プライムレートとは、最も信用力の高い企業向けに適用する最優遇貸出金利として、各金融機関が定めるものです。

種類 通称 対象
短期プライムレート 短プラ 期間1年以内
長期プライムレート 長プラ 期間1年超

実務では「短プラ+○%」という形で貸出金利を決めます。短プラが動けば、貸出金利も連動して動きます。

②市場金利連動方式

市場で形成される金利を基準にする方式です。代表的なものに、銀行間取引の金利指標である TIBOR(東京銀行間取引金利) や、リスク・フリー・レートをベースとした TORF(東京ターム物リスク・フリー・レート) などがあります。「TIBOR+○%」という形で決めます。

金利指標をめぐる大きな変化:かつて国際的に広く使われた LIBOR は公表が停止され、各通貨でリスク・フリー・レートを基礎とする指標への移行が進みました。日本円についても、指標の選択と契約上の取扱いが実務論点となりました。現在どの指標が使えるか、契約でどう定めるべきかは、必ず最新の実務動向と自金庫の規程で確認してください。

2つの方式の違いを、性格で押さえます。

プライムレート方式 市場金利連動方式
誰が決めるか 各金融機関が決定・公表 市場で形成される
動き方 政策金利等を参考に、やや粘着的に改定される 市場の動きを直接反映する
借り手から見た予測可能性 比較的読みやすい 市場次第で変動が大きい
主な適用先 中小企業向け貸出の中心 大企業向け、大型案件

💡 ここでつまずきやすい:「基準金利は必ず調達コストと連動する」

しません。ここが重要です。プライムレートは金融機関が決めるものであり、市場金利や政策金利を参考にはしますが、自金庫の実際の調達コスト(→第13巻第11章)と機械的に一致するわけではありません。

したがって、「短プラ連動で貸しているから、金利が上がっても利ざやは守られる」とは限りません。短プラの改定が調達コストの上昇に遅れれば、その間、利ざやは縮みます。第7巻第3章で扱ったベーシス・リスク(参照する金利の種類が違うことによるリスク)が、まさにこれです。「変動金利で貸している」ことは、「金利リスクがない」ことを意味しない ― 基準金利と調達コストのズレが残るのです。

10-1. 基準金利が上がったとき、現場は何をするのか

金利が動かない時代には、この節の実務はほとんど発生しませんでした。基準金利が上がる局面では、営業店の担当者が取引先を回ることになります。なぜ回るのか、どこへ回るのかを、順に押さえます。

まず、事実の確認から。日本銀行の政策金利の引き上げを受けて、2024年9月に主要行が短期プライムレートを引き上げ、2024年10月には地域銀行・信用金庫の多くが新規融資の金利を見直しました(中小企業白書の記述)。その後も改定は続き、中小企業の推定調達金利は2025年度に平均1.29%(前年度1.09%)と、9年ぶりの高い水準になったと報じられています(東京商工リサーチの調査)。水準そのものは調査時点で変わるので、必ず最新の統計で確認してください。押さえるべきは水準ではなく、「基準金利の改定が、数年に一度の事件ではなく、期ごとの実務になった」という点です。

回る先は、契約の型で決まる

すべての取引先を回るのではありません。契約がどう書かれているかで、やることが三つに分かれます。

契約の型 基準金利が上がると 現場がやること
①短プラ連動(自動改定) 契約に従って自動的に上がる 説明に行く。上がること自体は交渉の対象ではない
②固定金利 上がらない(期日まで) 期日が来るまで何もできない。書替・継続のときが見直しの機会
③スプレッドも含めて固定的に運用してきた先 自動では上がらない 交渉に行く。協議して初めて上がる

この三分類が、この節のすべてです。「基準金利が上がったので、貸出金利も上がります」で済むのは①だけです。②と③では、上げたいなら交渉しなければならず、交渉には相手の同意が要ります。

💡 ここでつまずきやすい:「基準金利が上がれば、貸出金利は自動的に上がる」

誤解:短プラが上がったのだから、貸出金利は全部上がる。

正しい理解:上がるのは、契約にそう書いてある先だけです。固定金利の先は期日まで上がりません。そして、書いてある先でも「いつから上がるか」は契約次第です(改定日の定め方は第9章・第11章、期日の考え方は第3章)。自金庫の貸出のうち、どれが①でどれが②かを残高で把握していなければ、金利上昇局面の収益予想は立ちません。これは本部の仕事ですが、営業店に「あなたの担当先のうち何件が①か」を聞いて即答できる状態が望ましい姿です。

なぜ、自動で上がる先にも説明に行くのか

①の先は、契約上は説明しなくても上がります。それでも回るのは、二つの理由があります。

第一に、制度上の要請です。金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」は、顧客への説明態勢の着眼点として、「契約締結後の金利の見直し、返済条件の変更、保証契約の見直し、担保追加設定・解除等の場合」に、契約時点等における説明と基本的に同様に、顧客の理解と納得を得ることを目的とした説明態勢が整備されているかを挙げています。「契約に書いてあるから説明は要らない」という整理を、当局は採っていません。

第二に、実務上の理由です。引落し額が変わってから気づかれると、「聞いていない」という話になり、取引そのものが揺らぎます。金利上昇局面では他の金融機関も提案に来ているので、説明の不在が肩代わりの入口になります(→第14章)。

訪問の段取り ― 本部と営業店の分担

改定の一連の流れは、次のようになります。

   ①本部が基準金利の改定を決定(→第7巻のALM)
        ↓
   ②本部が対象先を抽出(契約の型別・改定日別)
        ↓
   ③自動改定先 → 通知を出す + 訪問の優先順位を付ける
     要協議先   → 交渉先リストを作る(採算の薄い先から)
        ↓
   ④営業店が訪問・説明(自動改定先)/協議(要協議先)
        ↓
   ⑤結果を記録する(合意・据置き・見送り、その理由)
        ↓
   ⑥次の改定期に、⑤を出発点にする

③の優先順位の付け方が、腕の見せどころです。全件を同じ熱量で回ることはできません。残高が大きい先、採算が薄い先(→第13章)、期日が近い先、他の金融機関の動きが見えている先から回ります。

担当者の心得:説明に行くとき、持っていくものは二つです。①基準金利の推移(いつ、何%から何%に、なぜ動いたか)と、②あなたの会社のスプレッドは変えていないという事実です。第11章のとおり、基準金利は市場が決め、スプレッドは金庫が決める。自動改定は前者の話であり、「金庫があなたの評価を下げたわけではない」と言えることが、この面談をこじらせない鍵になります。逆に、同じ機会にスプレッドも上げたいのであれば、それは別の話として、別の根拠で説明する必要があります(→第14-3節)。

💡 ここでつまずきやすい:「金利が上がったのは金庫の判断ではないから、説明は簡単だ」

簡単ではありません。取引先から必ず出る質問は、「うちの金利は、他社と比べて高いのか」です。これはスプレッドの質問であり、金庫の評価の話です。基準金利の説明だけを用意して行くと、この質問で止まります。訪問前に、その先のスプレッドの根拠(信用力・保全・取引全体の採算)を自分で言えるようにしておくこと(→第11章、第13章)。

11. スプレッド貸出という考え方

スプレッド貸出とは、基準金利 + スプレッド(上乗せ幅)という形で貸出金利を構成する方式です。

\[\text{貸出金利} = \underbrace{\text{基準金利(短プラ・TIBOR等)}}_{\text{市場・政策で動く部分}} + \underbrace{\text{スプレッド}}_{\text{その取引先固有の部分}}\]

この分解には、実務上きわめて重要な意味があります。

基準金利の部分は、市場環境で動きます。金庫にも借り手にもコントロールできません。

スプレッドの部分は、その取引先の信用力・保全状況・取引全体の採算を反映して、金庫が決めます。ここが、金庫の判断が現れる場所です。

したがって、金利交渉の本質は、スプレッドの交渉です。「基準金利が上がったので貸出金利も上がります」は市場環境の説明ですが、「あなたの会社のスプレッドは○%です」には、金庫の評価が入っています。

⭐ポイント⭐:「基準金利は市場が決め、スプレッドは金庫が決める」。だから、説明責任があるのはスプレッドの部分です。

担当者の心得:取引先から「なぜこの金利なのか」と問われたとき、基準金利とスプレッドを分けて説明できることが、担当者としての基本です。そして、スプレッドの根拠を説明するには、次章のプライシングの考え方が必要になります。「他行がこの金利だったので」はスプレッドの説明になっていません。

ここまでの筋(3行)

① 固定か変動かは、金利リスクを金庫と借り手のどちらが負うかの選択。

② 変動金利は金利リスクを借り手に移すが、借り手が耐えられなければ信用リスクとして戻ってくる。

③ 貸出金利は「基準金利+スプレッド」。市場が決める部分と、金庫が決める部分を分けて説明する。


第Ⅳ部 プライシング編(核心)

12. 貸出金利は「積み上げ」で作る

本巻の核心です。貸出金利は、どこかから降ってくるものでも、他行を見て決めるものでもありません。積み上げて作るものです。

flowchart TD
    A["①調達コスト<br/>その資金を集めるのにいくらかかったか<br/>(→第13巻第11章)"]
    B["②経費<br/>店舗・人件費・システム<br/>(→第3巻第6章 OHR)"]
    C["③信用コスト<br/>平均的に見込まれる貸倒れ<br/>= PD × LGD (→第15巻第6章6-1)"]
    D["④資本コスト<br/>リスクアセットを消費する対価<br/>(→第4巻・第5巻)"]
    A --> E["貸出金利の下限<br/>= ①+②+③+④"]
    B --> E
    C --> E
    D --> E
    E --> F["これを下回る金利は、<br/>貸せば貸すほど価値を減らす"]
    style E fill:#fde,stroke:#c39

4つの要素を、一つずつ確認します。

①調達コスト。その融資に充てる資金を集めるのにかかった費用です。預金金利がほぼゼロでも、調達コストはゼロではありません(→第13巻第11章)。

②経費。店舗・人員・システムの費用を、貸出残高に割り振ったものです。第3巻第6章の OHR(経費率)が、ここで効いてきます。1件あたりの金額が小さい融資ほど、この比率は重くなります。

③信用コスト。平均的に見込まれる貸倒れです。第15巻第6章6-1 の言葉でいえば、\(\text{PD} \times \text{LGD}\) に相当します。「この先は返してくれるはずだから信用コストはゼロ」ではありません。 100件貸せば統計的に何件かは返ってこない、その平均を、貸出金利という「値段」に織り込むのです。第18巻第3章3-2 で述べた「期待損失は値段に織り込む」とは、まさにこのことです。

④資本コスト。貸出はリスクアセットを消費し(→第5巻第9章)、リスクアセットを持つには自己資本が必要です。その自己資本にも、維持・成長のために必要な収益水準があります(→第4巻第11章)。

💡 ここでつまずきやすい:「信用コストは実際に貸し倒れたときの費用」

違います。信用コストは、貸し倒れていなくても、毎年発生していると考えるべき費用です。

たとえば PD 1%・LGD 50% の先に100貸すなら、期待損失は 100 × 1% × 50% = 0.5。この0.5は「100年に1度、50失う」のではなく、毎年0.5ずつ費用が発生していると捉えます。だから貸出金利に0.5%分を織り込むのです。

この発想がないと、「今年は貸倒れが出なかったから儲かった」「出たから損した」という、その年限りの見方になります。信用コストは平均で見るものであり、織り込んでいない金利で貸した融資は、貸倒れが出ていない年でも、既に採算割れしています。

13. 【設例】1件の融資の採算を計算する

すべて単純化した仮の数字です。実効税率30%。

前提:ある中小企業向けに、証書貸付で100を実行する。期間5年、変動金利。

要素 率 根拠
①調達コスト 0.20% 預金等の調達利回り(→第13巻)
②経費 0.80% 貸出残高あたりの経費率(→第3巻第6章)
③信用コスト 0.50% PD 1% × LGD 50%(→第15巻第6章6-1)
④資本コスト 0.30% リスクアセット75(RW75%)× 必要収益率から換算
必要な貸出金利(下限) 1.80% ①+②+③+④

ケースA:金利2.2%で実行できた場合

\[\text{スプレッド(採算)} = 2.20\% - 1.80\% = \mathbf{+0.40\%}\]

100の貸出に対して、年0.4の価値を生んでいます。

ケースB:他行との競合で1.5%まで下げた場合

\[\text{採算} = 1.50\% - 1.80\% = \mathbf{-0.30\%}\]

貸せば貸すほど、年0.3ずつ価値を失っていきます。

ケースBで何が起きているかを、丁寧に見ます。

1.5%でも、調達コスト0.2%は上回っているので、表面的には利ざやが出ています。損益計算書上も、資金利益はプラスに見えます(→第3巻第3章)。問題は、それが経費・信用コスト・資本コストを賄えていないことです。

何を賄えているか 1.5%の場合
①調達コスト 0.20% ✓ 賄える
②経費 0.80% ✓ 賄える(合計1.00%)
③信用コスト 0.50% ✗ 賄えない(合計1.50%でちょうど)
④資本コスト 0.30% ✗ 賄えない

つまり、1.5%という金利は「貸倒れが1件も起きず、自己資本の対価も要らない」という前提でだけ成立するのです。

一言まとめ:採算割れの融資は、赤字として損益計算書に現れません。 資金利益はプラスに見え、貸倒れが出た年に初めて「なぜ赤字なのか」という話になります。プライシングは、その乖離を事前に可視化する道具です。

保証協会の保証が付いたら(→第21巻で詳述)

同じ先に、信用保証協会の保証が付いた場合を考えます。保全されることで LGD が大きく下がり、リスクウェイトも軽減されます。

要素 保証なし 保証付き(設例上の想定)
③信用コスト 0.50% 0.10%(LGDが下がる)
④資本コスト 0.30% 0.10%(RWが下がる)
必要な貸出金利 1.80% 1.20%

保証が付けば、1.5%でも採算が合うことになります。ここに、保証付き融資が実務で多用される経済的な理由があります(ただし借り手は信用保証料を別途負担するため、借り手全体の負担は単純に軽くなるとは限りません。→第21巻)。

担当者の心得:金利を提示する前に、「この金利は、4つの要素のどこまでを賄っているか」を確認してください。とくに③信用コストと④資本コストは、目に見えないため落とされがちです。この2つを織り込まない金利設定が組織的に続くと、貸出を増やすほど金庫の体力が削られるという状態になります。第4巻で「利益の目標額だけを掲げない」と述べたのは、こういう事態を防ぐためです。

14. 金利競争にどう向き合うか

現実の融資は、他行との競合の中で行われます。「他行が1.2%を提示してきた」という状況で、どう考えるべきか。

避けるべき2つの極端

極端 何が問題か
常に追随する 採算割れの融資が積み上がる。第13章のケースBの状態
一切追随しない 取引が減り、地域での役割も果たせなくなる

現実的な考え方は、次の3段階です。

第一に、「この1件だけ」で見ない。 その取引先との取引全体(預金、為替、給与振込、他の融資、後継者との関係)で採算を見ます。融資単体では薄くても、取引全体で見合っていれば合理的な判断になりえます。ただしこれは「取引全体で見れば大丈夫」という便利な言い訳にもなるため、実際に何がどれだけあるのかを数字で示せることが条件です。

第二に、下限は明確に持つ。 「取引全体で見る」といっても、どこまでなら許容するのかの線は必要です。この線を組織として持たないと、個々の判断がなし崩しになります。

第三に、金利以外で競う道を探す。 対応の速さ、事業への理解、経営課題への提案、地域のネットワーク ― 信用金庫が価格以外で提供できる価値は何か。これは精神論ではなく、価格でしか差別化できない商品は、必ず最も体力のある先に取られるという構造の問題です。

担当者の心得:金利競争の場面で最も危険なのは、「取れないよりはマシ」という判断です。第13章のケースBで見たとおり、採算割れの融資は貸すほど価値を減らします。「取れないよりマシ」が正しいのは、限界的に見て採算がプラスのときだけです。それを判断するために、プライシングの積み上げがあります。

14-2. やってはいけない採算改善 ― 歩積両建預金と優越的地位の濫用

採算が合わないとき、やってはいけない方向の「改善」があります。融資の実務に入る以上、これは金利の話より先に知っておかなければなりません。

歩積両建預金(ぶづみりょうだてよきん)とは、融資に伴って、その一部を実質的に拘束された預金として受け入れることをいいます。歴史的には、手形割引に際して割引代り金の一部を預金として留保する「歩積」と、貸付に際して見合いの預金を作らせる「両建」を指す言葉です。

なぜこれが問題なのか。 数字で見るのが最も早い方法です。

【設例】実質金利を計算する(単純化した仮の数字)

項目 金額・率
融資額 1,000万円
表面金利 年2.0%(利息 20万円)
拘束された預金 200万円(金利 年0.1%=2,000円)
\[\begin{aligned} \text{実際に使える資金} &= 1{,}000\,\text{万円} - 200\,\text{万円} = 800\,\text{万円} \\ \text{実質的な負担} &= \underbrace{20\,\text{万円}}_{\text{利息}} - \underbrace{0.2\,\text{万円}}_{\text{預金利息}} = 19.8\,\text{万円} \\[4pt] \text{実質金利} &= \frac{19.8\,\text{万円}}{800\,\text{万円}} \approx 2.48\% \end{aligned}\]

表面2.0%の融資が、実質では約2.48%になっています。 顧客は2.0%で借りたつもりでいる。採算は改善しますが、それは価格を偽った改善です。

そして、これは単なる不適切な営業ではなく、法令上の問題になりえます。

融資という立場を背景に、顧客の意思に反して預金や他の商品の取引を求めることは、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に当たりうる行為です。

同じ構図は、預金だけでなく、投資信託・保険・カードの購入を融資と結びつける行為(抱き合わせ販売)でも成立します(→第27巻第8-2節)。

💡 ここでつまずきやすい:「顧客が自分から預金してくれたのだから問題ない」

誤解:強制はしていない。顧客が「それくらいなら」と言ってくれたのだから、拘束ではない。

正しい理解:問題になるのは、その「それくらいなら」が、融資を受ける立場から出た言葉ではないかという点です。明示的な強要がなくても成立しうるところに、この論点の難しさがあります。「断ったら融資に響くかもしれない」と顧客が考える状況を作った時点で、実質は変わりません。

実務では、融資の話と、預金・投信・保険の話を、面談の場面として分けるという運用が採られます。同じ会話の流れで両方を持ち出さない ― 面倒に見えますが、これが自分と金庫を守る最も確実な方法です。

担当者の心得:採算が合わない案件で担当者が取りうる正しい選択肢は、①条件を交渉して金利を上げる ②取引全体で見合うことを数字で示す ③見送るの3つだけです。拘束性預金で実質金利を上げる、という4つ目は存在しません。 第13章のプライシングは、顧客に説明できる形で採算を作るための道具であって、説明できない形で採算を作るための道具ではありません。「顧客に、いま自分がやっていることをそのまま説明できるか」 ― 迷ったときの判断基準は、これ1つで足ります。

14-3. 金利引上げの交渉 ― 説明できる理由と、越えてはいけない一線

第10-1節の②③、つまり自動では上がらない先の金利を上げたいとき、現場は交渉に行きます。この節は、その交渉の作法です。金利競争の裏返しであり、同じ危うさを持っています。

交渉に持っていける理由は、限られている

「日銀が利上げしたので」は、交渉の理由になりません。それは基準金利連動の先の話です(→第10-1節①)。固定で貸している先に対しては、金利を上げる理由を、自金庫の側で組み立てる必要があります。

組み立て方は、第12章の積み上げの、どの部品が動いたかで言います。

動いた部品 交渉の言い方 裏付けに要るもの
①調達コスト 「資金を集める費用が上がった」 調達コストの推移(→第13巻第11章)
③信用コスト 「格付・保全の状況が変わった」 格付の変更、担保の評価の下落(→第21巻第9章)
④資本コスト 「リスクアセットの重みが変わった」 区分・保全の変化(→第5巻)
取引全体の採算 「前提にしていた預金・為替の取引が減った」 実際に減ったことを示す数字(→第14章の第一)

四行目が、実務ではいちばん多い形です。融資単体では薄いが取引全体で見合っている、という理屈で出した金利は、その前提が消えたときに見直す約束を含んでいます(→第14章)。したがって、この交渉を成り立たせるには、実行のときに「何を前提にこの金利にしたか」を記録しておく必要があります。記録が無ければ、数年後の交渉は「値上げのお願い」にしかなりません。

なお、金利の見直しの合理性について、当局が何を見るかを示した記述もあります。中小・地域金融機関向けの監督指針は、地域銀行の合併等に際して利用者に不当な不利益が及ばないようにするという文脈で、貸出金利や手数料の上昇について、市場動向・サービス・債務者・地域の実情等を総合的に勘案して慎重に判断するとし、勘案する要素として、貸出金利の基礎となる市場金利(OIS 等)、サービスの向上(それに見合った貸出金利引上げに対する顧客の理解)、債務者の信用力の変化、債務者支援の観点から一時的に貸出金利を引き下げていた等の特段の事情を挙げています。合併等の場面の記述であり、通常の金利交渉に直接適用される基準ではありませんが、金利の引上げを何で説明するのかという発想は、上の表と同じです。

越えてはいけない一線

交渉には、法令上の一線があります。第14-2節で扱った優越的地位の濫用は、拘束性預金だけの話ではありません。金利の引上げそのものが、やり方によって問題になります。

監督指針は、問題となる行為の例として、「借り手企業に対し、その責めに帰すべき正当な事由がないのに、要請に応じなければ今後の融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆すること等によって、契約に定めた金利の引上げを受け入れさせ」ることを挙げ、そのうえで、金利の見直し等の客観的合理的理由について、顧客の理解と納得を得ることを目的とした説明態勢が整備されているかを着眼点としています。

この二つを並べると、一線の位置がはっきりします。

越えていない 越えている
理由 客観的・合理的な理由を示す(上の表) 理由を示さず「方針です」で通す
相手の選択 断る選択が残っている 断れば次の融資に響くと示唆する
記録 説明した内容と相手の反応を残す 残さない

担当者の心得:交渉の場で口にしてはいけない言い方があります。「今後のお取引も考えますと…」は、その一言だけで示唆になりえます。伝えるべきことは「この水準でなければ、当金庫としては継続が難しい」という自金庫側の事情であり、相手の将来の取扱いを条件にすることではありません。この二つは似て聞こえますが、前者は採算の説明、後者は圧力です。迷ったら、自分の言葉をそのまま記録に書けるかどうかで判断してください(→第14-2節の最後と同じ基準です)。

断られたとき、どうするか

交渉は、断られることがあります。そのときに取りうる道は三つで、四つ目はありません。

道 内容 注意
①現状のまま継続する 今回は上げない 決定を記録する。「交渉したが合意に至らず据置き」と残す
②期日で見直す 書替・継続のときに条件を出す(→第5章、第10-1節②) 期日の管理が前提。期日を過ぎてから気づいても遅い
③取引を縮小・終了する 期日に継続しない 貸し渋りと受け取られない説明が要る。本部と協議する

②が現実的な着地点になることが多い。手形貸付なら書替、証書貸付なら期日、当座貸越なら更新 ― 貸出形式ごとに「次の機会」がいつ来るかは第8章の表で決まっています。金利上昇局面では、その機会の一覧が、そのまま交渉の年間計画になります。

💡 ここでつまずきやすい:「断られた交渉は、失敗だから記録しない」

逆です。記録すべきなのは、断られた交渉です。次の改定期に別の担当者が同じ話を持っていくと、取引先には「金庫の方針が定まっていない」と映ります。また、採算の薄い先を放置した理由が説明できないと、本部から見れば「営業店が上げなかった」ことと区別が付きません。「交渉した・断られた・だから据置き」という一行が、担当者を守る記録になります。

ここまでの筋(3行)

① 基準金利が上がると、自動改定の先には説明に行き、固定・要協議の先には交渉に行く。

② 交渉の理由は積み上げのどの部品が動いたかで言う。「日銀が上げたから」は固定の先には通らない。

③ 断れない状況を作れば優越的地位の濫用になりうる。断られたら据置き・期日で見直し・縮小の三択で、記録を残す。

ここまでの筋(3行)

① 貸出金利は調達コスト+経費+信用コスト+資本コストの積み上げで作る。

② 採算割れは損益計算書に現れない。資金利益はプラスに見える。

③ 金利競争では取引全体で見てよいが、下限の線を組織として持つ。拘束性預金で実質金利を上げる道は、そもそも選択肢にない。


第Ⅴ部 単独で貸さない/貸せないとき

15. シンジケートローン ― 複数行で分けて貸す

シンジケートローン(協調融資、通称シローン)は、複数の金融機関が、1つの契約書のもとで、共同して同一条件で融資する方式です。

なぜこの形式があるのか。 理由は2つあります。

①1行では金額が大きすぎる。 大型の設備投資などで必要額が大きい場合、1行で全額を負担すると与信集中(→第15巻)になります。大口信用供与等規制の枠(→第15巻第8章)にも触れかねません。

②借り手側にとっても効率的。 複数行と個別に交渉するより、1つの契約書で条件を統一したほうが、事務も交渉も簡素になります。

登場する役割

役割 通称 何をするか
アレンジャー 主幹事 案件を組成し、参加金融機関を募る。条件を設計する
エージェント 代理人 実行後の資金の受渡し、情報の伝達を一元的に担う
参加金融機関 パーティシパント 定められた条件で、自らの引受額を融資する

信用金庫の立ち位置は、通常参加金融機関です。アレンジャーは大手行や地域銀行が務めることが多く、信用金庫は提示された条件で参加するかどうかを判断する側に立ちます。

💡 ここでつまずきやすい:「他行が組成した案件だから審査は簡略でよい」

最も危険な誤解です。参加した以上、信用リスクは自金庫が負います。アレンジャーが審査したことは、自金庫の審査を免除しません。

しかも、シンジケートローンの案件は取引の主体がアレンジャー行にあるため、借り手との日常的な接点が薄くなりがちです。第22巻で扱う「期中の変化の把握」が、通常の融資より難しくなります。情報が入りにくい分、入口の審査と、契約上の情報提供条項(コベナンツ等)の確認がより重要になります。

第9巻で投資信託について「運用は外部化できるが、リスク管理は外部化できない」と述べました。シンジケートローンでも、審査は外部化できません。

関連して押さえる用語

  • タームローン:一定額を実行し、約定に従って返済していく通常の形式。第4章で見た証書貸付そのものと考えて構いません。

15-1. コミットメントライン ― 「借りられる権利」を買うという発想

コミットメントライン(融資枠契約)は、一定期間・一定額まで融資することを金融機関が約束する契約です。当座貸越(→第6章)と似ていますが、決定的な違いがあります。

当座貸越の枠は、法的な融資義務ではありません。 基本契約に基づいて個々の貸付を積み重ねる仕組みであり、金庫には必ず貸す義務までは課されていないのが実務上の一般的な整理です(だからこそ第6章で見たとおり、金庫は枠の減額・中止という手段を持っています。ただし取引先への影響が大きいため、簡単には行使できません)。

これに対し、コミットメントラインは、契約書上、金融機関に法的な融資義務(融資予約)を負わせます。 一定の前提条件(財務制限条項=コベナンツへの抵触がないこと等)を満たす限り、金融機関は貸出を拒めません。

この違いの対価が、コミットメントフィー(融資枠手数料)です。 借り手は、実際に借りているかどうかにかかわらず、未使用の枠に対して手数料を払います。

当座貸越 コミットメントライン
法的性格 基本契約+個々の貸付の集合 法的な融資義務(融資予約)
金融機関の裁量 枠の減額・中止が(実務上は難しいが)可能 前提条件を満たす限り拒めない
手数料 原則なし(利息のみ) コミットメントフィー(未使用枠に対して発生)
主な利用者 中小企業中心 大企業・大型案件中心

💡 ここでつまずきやすい:「手数料を払うのは損だ」

誤解:コミットメントフィーは、使っていない枠にまで払う無駄なコストだ。

正しい理解:コミットメントフィーは、「必要なときに必ず借りられる」という権利の対価です。 借り手にとっては、有事の資金繰りの確実性を買う保険料に近いものです。金融機関にとっては、いつでも実行を求められる義務を負う対価であり、この義務がある以上、流動性や自己資本をあらかじめ手当てしておく必要があります(未実行枠がオフバランスでも自己資本比率に効くのはこのためです。→第6章、第5巻第9章)。「使われていないから価値がない」のではなく、「使われていなくても、いつでも使える状態を金融機関が保証している」ことに対価が発生しているのです。

アップフロントフィーという、もう一種類の手数料。 シンジケートローンやコミットメントラインでは、実行時に一括して支払われる手数料(アップフロントフィー、組成手数料)が発生することも一般的です。アレンジャーが案件を組成する労力・引受リスクの対価であり、期中の金利スプレッドとは別建てで、実行時に確定して受け取る収益です。これは、第26巻第4-4節・第6-1節で見た住宅ローンの融資事務手数料と、経済的な性格がよく似ています(実行時に確定し、期中の金利スプレッドとは別の収益源になる点)。個人向け・法人向けを問わず、「金利以外に、実行時または未使用枠に対して手数料を取る」という発想は共通している、と理解してください。

⭐ポイント⭐:「当座貸越とカードローン(→第26巻第11章)は"貸してくれるかもしれない枠"、コミットメントラインは"必ず貸してもらえる権利"」。

担当者の心得:取引先や研修先で「うちはコミットメントラインを結んでいる」と聞いたら、それは当座貸越よりも強い約束をしていることを意味します。信用金庫がコミットメントラインの主体になる場面は多くありませんが、大企業の取引先が他行とコミットメントラインを結んでいる場合、その企業の資金繰りの安全弁の強さを評価するうえで重要な情報です。逆に、個人のカードローン(→第26巻第11-2節)の極度枠は、手数料を取らない代わりに、金融機関が任意に見直せる非コミット型の枠です。同じ「枠」という言葉でも、法的拘束力の有無で性格がまったく違うことを、常に意識してください。

16. 私募債 ― 貸出ではない資金供給

私募債は、企業が発行する社債のうち、少数の投資家に限定して募集されるものです。広く一般から募集する公募債と対比されます。

信用金庫が関わる形は、主に2つあります。

形 金庫の立場 収益の形
私募債の引受 投資家(社債を保有する) 利息収入
私募債への保証 保証人(発行を保証する) 保証料・手数料収入

なぜ融資ではなく私募債なのか。 借り手側から見ると、次の意味があります。

  • 社債を発行できたという事実が、企業の信用力を示す実績になる
  • 資金使途の制約が融資より緩やかな場合がある
  • 発行から償還まで一括であることが多く(期中の分割返済がない)、資金繰りが立てやすい

金庫側から見ると、保証を付ける形では手数料収益(役務取引等収益。→第3巻第5章)になる点が重要です。低金利で資金利益が細るなか、手数料収益を得られる商品として位置づけられてきました。

💡 ここでつまずきやすい:「保証だから貸出より軽い」

軽くありません。保証をした以上、発行体が償還できなければ金庫が支払います。信用リスクの実質は融資と同じです。したがって、

  • 自己資本比率の計算では、支払承諾(債務保証)として与信額に算入されます(→第5巻第9章)
  • 与信集中の計測でも、合算すべき対象です(→第15巻第3章)
  • 自己査定でも、信用リスクを負う資産として査定の対象になります(→第14巻)

第15巻第3章で「貸出金だけを見て集中度を測る」誤りを挙げましたが、私募債の保証はその典型的な漏れです。「融資残高」の表には出てこないのに、リスクは負っている。手数料収益という見え方が、リスクの認識を鈍らせやすい点に注意してください。

17. 協調融資と系統・公的金融

信用金庫が単独で貸さない形は、シンジケートローンだけではありません。

①一般的な協調融資。複数行が、それぞれ別の契約で、同一の資金需要に対応する形です。シンジケートローンのような統一契約はなく、各行が個別に判断・実行します。中小企業向けでは、こちらのほうが一般的です。

②政策金融機関との協調。日本政策金融公庫をはじめとする政策金融機関と、民間金融機関が組んで対応する形です。政策金融機関は、民間だけでは対応が難しい分野(創業期、災害時、事業再生局面など)を補完する役割を担っています。ここでいう協調融資は、公庫と自金庫がそれぞれ自己資金で並行して貸す形です。これに対し、公庫の資金を自金庫が窓口として取り扱う代理貸付という別の仕組みもあり、地方公共団体の制度融資とあわせて資金の出どころ・リスクの所在が整理しにくい領域です(→第21巻第14章14-2)。

③系統(信金中央金庫)との協調。信用金庫の場合、信金中央金庫との協調融資という選択肢があります。1金庫では金額が大きすぎる案件を、系統の資金力で補完する仕組みです(→第17巻第9章)。

⭐ポイント⭐:「地銀は他行と組み、信金は他行にも系統にも組める」。系統中央機関を持つことは、余資運用や有事の資金繰りだけでなく、大型の与信案件への対応力という形でも効いてきます(→第17巻第12章)。

この3つに共通する担当者の心得は、第15章と同じです。

担当者の心得:誰と組んでも、自金庫の引受分の信用リスクは自金庫が負います。「公庫が付いているから安心」「信金中金が入っているから大丈夫」ではありません。とくに政策金融機関との協調では、両者の審査基準も目的も違うことを理解しておく必要があります。政策金融には政策目的があり、それは民間金融機関の採算判断とは別の論理です。

ここまでの筋(4行)

① シンジケートローンは複数行が統一契約で貸す形式。信金は通常、参加する側。

② コミットメントラインは、当座貸越と違い、金融機関に法的な融資義務を負わせる契約。コミットメントフィーは「必ず借りられる権利」の対価であり、アップフロントフィーは実行時に確定する組成手数料。

③ 私募債の保証は手数料収益になるが、信用リスクの実質は融資と同じ。集中度の計測から漏れやすい。

④ 誰と組んでも、自金庫の引受分のリスクは自金庫が負う。審査は外部化できない。


第Ⅵ部 比較編

18. 地域銀行ならどうか/国際的にはどう考えられているか

ここまで、信用金庫の融資担当者の視点で貸出商品と金利を見てきました。最後に、自分たちのやり方を、より大きな文脈に置き直します。「隣の業態はどうか」「本家はどう考えているか」を知って初めて、自金庫のやり方が理由のある設計として見えてくるからです。

18-1. 地域銀行ならどうか

貸出の4形式(証書貸付・手形貸付・当座貸越・手形割引)も、短期プライムレート連動と市場金利連動という基準金利の二本立ても、地域銀行と信用金庫でほぼ共通です。銀行法と信用金庫法という根拠法の違いは、貸出商品の形そのものには、ほとんど表れません。

差が出るのは、その周辺です。

論点 信用金庫 地域銀行
貸せる相手 原則として会員。員外貸出には割合の制限(→第0巻第4章) 制限なし
大口案件の受け皿 単独では引受額に限りがあり、系統(信金中金)や他行と組む(第17章) 単独で引き受けられる規模の行がある。アレンジャー側に回れる
調達手段の幅 預金と系統が中心 社債発行・市場性調達の選択肢があり、基準金利の作り方の幅が広い(→第12巻)
資本コストの見え方 自ら定義するしかない(→第4巻第11章) 株主・アナリストから外形的に問われる

最後の行が、実は最も効いてきます。第12章のプライシングでは、貸出金利に④資本コストを積み上げました。上場地銀では、その資本コストを市場が突きつけてきます。「PBR1倍割れ」という指標が、そのまま「貸出のプライシングが資本コストを賄えていない」という指摘として返ってくるわけです(→第4巻第11章)。

信用金庫にはこの外圧がありません。 だからこそ、④資本コストは最も落とされやすい項目になります。第13章のケースBで見た「採算割れの融資が損益計算書に現れない」という問題は、外部から問われない業態でこそ深く進行しうるということです。

⭐ポイント⭐:「地銀は市場に採算を問われ、信金は自分で問うしかない」。

18-2. 国際的にはどう考えられているか(第3層)

貸出のプライシングと商品性については、「これに従え」という国際的な統一ルールはありません。 貸出は本来、個別交渉の産物だからです。しかし、本章の内容に効いてくる国際的な枠組みが、少なくとも3つあります。

①リスクに見合う価格を取るという規律(RAROC の発想)。 第12章で積み上げた「調達+経費+信用コスト+資本コスト」という構造は、国際的な銀行実務が育ててきた RAROC(リスク調整後資本利益率)の考え方そのものです(→第4巻第6章)。「リスクを引き受けたら、その対価を価格に織り込む」というのは、規制である以前に、銀行業の職業規律として国際的に共有されています。

②自己資本比率規制のリスクウェイト。 第12章の④資本コストは、その与信がリスクアセットをどれだけ消費するかに比例します(→第5巻第9章)。中小企業向け・住宅ローン・保証付きといった区分ごとのリスクウェイトは、バーゼルの標準的手法の考え方を土台にしています。第13章で「保証が付けば必要な貸出金利が下がる」という結果になったのは、規制上のリスクウェイトが下がるからです。

③金利指標の改革。 第10章で触れたとおり、LIBOR の公表停止と各通貨のリスク・フリー・レートへの移行は、国際的な合意に基づいて進められました。これは信用金庫にも、契約実務として直接降りてきた数少ない例です。

なぜ信用金庫に、これらが規制としてそのまま適用されないのか。 理由はこれまでの巻と同じです。バーゼル規制の直接の名宛人は海外営業拠点を持つ国際統一基準行であり、国境を越える波及の防止と国際的な競争条件の平準化がその目的です。国内・地域に業務が限定された信用金庫には、簡素で保守的な代替(国内基準・コア資本・4%)が用意されています(→第0巻第13章、→第5巻第2章)。貸出そのものについては、そもそも越境しないため、統一の必要性が乏しいという事情も加わります。

必ず押さえる位置づけ:国際的な規制やその計測手法は、信用金庫に直接適用されるものではありません。しかし、「リスクを価格に織り込む」「規制資本の消費を採算に織り込む」という発想は、業界標準の"ものさし"として、国内の実務にも当局のモニタリングにも入り込んでいます。第12章のプライシングの式は、信用金庫のために誰かが作ったローカルルールではなく、国際的な銀行実務の共通言語を、信用金庫の規模に合わせて簡素化したものだと理解してください。だからこそ、この式で採算を語れば、他行の担当者とも検査官とも会話が成立します。

💡 ここでつまずきやすい:「適用されないなら、覚えなくてよい」

逆です。適用されないものほど、内部の規律として自ら課さなければなりません。地銀には市場が、国際統一基準行にはバーゼルが、外から規律を与えます。信用金庫にはそのどちらもない。外圧がない組織で採算の規律を保つには、担当者一人ひとりが「この金利は何を賄っているか」を問い続けるしかない ― これが、本巻を締めくくる一番大事な話です。

ここまでの筋(3行)

① 貸出商品と基準金利の形は地銀とほぼ共通。差は員外規制、大口の受け皿、調達手段の幅、そして資本コストの見え方に出る。

② プライシングの積み上げ式は国際的な RAROC の発想そのもので、資本コストの部分は規制のリスクウェイトと直結している。

③ 国際規制は直接適用されないが"ものさし"として実務に入り込む。外圧がない業態ほど、規律は自ら課すしかない。


第Ⅶ部 まとめ

19. 実務での留意点

  • 資金使途と返済原資を必ず対で確認する。担保は返済原資ではありません。
  • 「担保があるから」で判断の順序を逆にしない。担保は LGD を下げるが、PD は下げない(→第15巻第6章6-1)。
  • 運転資金を「短期」と決めつけない。5年・7年の長期運転資金は主流の一角であり、その返済原資は売上代金ではなく利益+減価償却費です(→第3章3-3)。
  • 短期継続融資を長期の分割返済に切り替えることを、無条件に「改善」と考えない。実態が同じでも返済負担は新たに生じます。長期にした分の安心は、期中管理で買い戻す(→第22巻)。
  • 長期運転資金では「完済させるのか、折り返しを前提にするのか」を実行時に決めて、稟議書に書く。書いていなければ、後任者は正常な継続と悪化の兆候を区別できません(→第21巻第6章)。
  • バルーン返済(据置・期日一括)は、期中の負担を軽く見せるが、元金は減っていない。満期にどう返すか(借換え前提か自己資金か)を審査時点で必ず確認する(→第4-1節)。
  • 書替と当座貸越の枠は、実態と形式が乖離する。契約の期間と実質の期間を区別する(→第7巻)。
  • 未実行枠はリスクである。自己資本比率・与信集中・流動性の3面で認識する。
  • 当座貸越とコミットメントラインは法的性格が違う。コミットメントラインは金融機関に融資義務を負わせる契約であり、コミットメントフィーはその対価である(→第15-1節)。
  • 手形割引では、持込人と振出人の両方の信用を見る。融通手形の兆候に注意。
  • でんさい割引でも、見るべき2者は変わらない。電子化は事務を軽くしただけで、取引の実在性の確認義務を軽くしていません。支払企業別の残高集計を必ず持つこと(→第15巻第3章)。
  • 固定金利で貸すことは、金庫が金利リスクを引き受けること。営業店の判断の集積が金庫のALMを作る(→第7巻)。
  • 変動金利は金利リスクを借り手に移すが、信用リスクとして戻ってくる。
  • 基準金利は調達コストと機械的には連動しない。ベーシス・リスクが残る(→第7巻第3章)。
  • 基準金利が上がったら、自分の担当先のどれが自動改定でどれが固定かを先に分ける。説明に行く先と交渉に行く先は別です(→第10-1節)。
  • 自動改定の先にも説明に行く。監督指針は契約締結後の金利の見直しについても、顧客の理解と納得を得る説明態勢を求めています(→第10-1節)。
  • 説明には基準金利の推移とスプレッドを変えていない事実を持っていく。スプレッドも上げるなら、別の根拠で別に説明する(→第14-3節)。
  • 固定金利の先に「日銀が上げたから」は通らない。積み上げのどの部品が動いたかで言う(→第14-3節)。
  • 「今後のお取引も考えますと」は言わない。断れない状況を作れば優越的地位の濫用になりうる(→第14-2節、第14-3節)。
  • 断られた交渉こそ記録する。据置きの理由が残っていないと、次の改定期に同じ話を繰り返すことになる(→第14-3節)。
  • 金利は積み上げて作る。調達+経費+信用コスト+資本コスト。採算割れは損益計算書に現れない。
  • 信用コストは、貸し倒れていなくても毎年発生している費用として織り込む。
  • 誰と組んでも審査は外部化できない。シンジケートローンでも私募債でも協調融資でも。
  • 私募債の保証を、集中度の計測から漏らさない。
  • 金利指標・掛目・規制上の取扱いは最新の情報で確認する。本テキストの数値はすべて設例用の仮の数字です。
  • 外圧がない業態ほど、採算の規律は自ら課す。地銀には市場が、国際統一基準行にはバーゼルが規律を与えますが、信用金庫にはそのどちらもありません(→第18章)。

20. つまずきやすいポイント総まとめ

用語・概念 章 一言で言うと
融資は実行が始まり 第1章 入口の判断が、その後の何年もの質を決める
「担保があるから大丈夫」 第2章 担保は返済原資ではない。PD は下がらない
赤字補填には返済原資がない 第2章 事業の立て直しに賭けた融資だと認識する
「運転資金は短期だから安全」 第3章 書替で実質は長期。簡単には引き上げられない
「運転資金=短期」ではない 第3章 5年・7年の証書貸付は主流の一角。短期継続融資と両立する
長期運転資金の返済原資 第3章 売上代金ではなく「利益+減価償却費」に入れ替わる
切替えは返済負担を新たに生む 第3章 実態は同じでも、返し方の約束を変えれば資金繰りは苦しくなる
②は判断の機会が来ない 第3章 書替に代わる「見る機会」を期中管理で設計する
折り返しは設計か、悪化か 第3章 稟議書に書いてあるかどうかで意味が正反対になる
元金均等と元利均等 第4章 返済額が減るか一定か。総利息は元利均等が多い
バルーン返済 4-1 期中は元金が減らず満期に大きな残高。最大のリスクは借換えリスク
アモチとブレット 4-1 アモチ=分割償却、ブレット=期日一括。第8巻の「ブレット」(債券ポートフォリオ)とは対象が違う
書替は形式、実態は長期融資 第5章 ALM上の期間と、審査の形骸化の2つの論点
「未使用の枠はリスクではない」 第6章 自己資本比率・集中度・流動性の3面で認識する
当座貸越は悪化時に使われる 第6章 最も貸したくないときに残高が増える
手形割引は2者の信用を見る 第7章 主として支払うのは振出人
融通手形 第7章 商取引の裏づけがない。最も重い兆候の一つ
電子記録債権・でんさい割引 第7章 分割できる/二重譲渡がない。与信の見方は手形割引と同じ
「電子化されたから審査は簡単」 第7章 記録は取引の実在性を保証しない。融通手形と同じ構図は起こる
でんさいは債務者が発生記録する 第7章 電子化を主導するのは支払う側。取引先の対応は販売先が決める
高コストのファクタリング 第7章 利用の開始それ自体が資金繰り逼迫の兆候
「変動金利なら金庫にリスクなし」 第9章 信用リスクに姿を変えて戻ってくる
基準金利は調達コストと連動しない 第10章 ベーシス・リスクが残る
説明に行く先と交渉に行く先 10-1 自動改定は説明、固定・要協議は交渉。契約の型で分かれる
自動改定でも説明は要る 10-1 監督指針は契約締結後の金利の見直しにも説明態勢を求めている
「日銀が上げたから」が通る範囲 10-1、14-3 自動改定の先だけ。固定の先には積み上げのどの部品が動いたかで言う
金利引上げと優越的地位の濫用 14-3 断れない状況を作れば濫用になりうる。示唆はそれ自体が問題
断られた交渉を記録する 14-3 据置きの理由が残らないと、担当者も金庫も守れない
基準金利とスプレッドを分けて説明 第11章 市場が決める部分と、金庫が決める部分
信用コストは毎年発生している 第12章 貸し倒れていなくても織り込む費用
採算割れは損益計算書に現れない 第13章 資金利益はプラスに見える
「取れないよりマシ」の危うさ 第14章 採算割れは貸すほど価値を減らす
歩積両建預金と実質金利 第14章 表面2.0%が実質2.48%に。価格を偽った採算改善
優越的地位の濫用 第14章 明示的な強要がなくても成立しうる。融資と販売は場面を分ける
「他行が審査したから」 第15章 審査は外部化できない
コミットメントラインと当座貸越の違い 15-1 法的な融資義務があるかどうか。コミットメントフィーは「必ず借りられる権利」の対価
アップフロントフィー 15-1 実行時に確定する組成手数料。第26巻の住宅ローン事務手数料と経済的な性格が近い
「保証だから貸出より軽い」 第16章 信用リスクの実質は融資と同じ。集中度から漏れやすい
「適用されないなら覚えなくてよい」 第18章 適用されないものほど、内部の規律として自ら課す

まとめとセルフチェック

一枚でわかる全体像

  1. 融資は実行が始まり。資金使途と返済原資を対で確認することが、すべての出発点。
  2. 担保は返済原資ではない。LGD は下げるが、PD は下げない。
  3. 運転資金は短期とは限らない。 恒常的に必要な部分を5年・7年で分割返済する長期運転資金は主流の一角であり、その返済原資は売上代金ではなく利益+減価償却費である。
  4. 貸出形式は4つ+1。証書貸付(長期・分割)、手形貸付(短期・一括)、当座貸越(枠)、手形割引(手形の買取)、そしてでんさい割引(電子記録債権の買取)。
  5. 形式は、返済原資が生まれるタイミングに合わせて選ぶ。
  6. 書替と当座貸越の枠は、実態と形式が乖離する。未実行枠もリスクである。
  7. 固定か変動かは、金利リスクを誰が負うかの選択。変動は信用リスクに姿を変えて戻ってくる。
  8. 貸出金利は「基準金利+スプレッド」。市場が決める部分と、金庫が決める部分。
    8-2. 基準金利が上がったら、自動改定の先には説明に行き、固定・要協議の先には交渉に行く。
  9. プライシングは積み上げ。①調達コスト ②経費 ③信用コスト ④資本コスト。
  10. 信用コストは、貸し倒れていなくても毎年発生している費用。
  11. 採算割れの融資は、損益計算書に赤字として現れない。資金利益はプラスに見える。
  12. シンジケートローン・私募債・協調融資でも、自金庫の引受分のリスクは自金庫が負う。私募債の保証は集中度の計測から漏れやすい。
  13. 貸出商品の形は地銀とほぼ共通。差は員外規制・大口の受け皿・調達手段の幅・資本コストの見え方に出る。
  14. プライシングの積み上げ式は国際的な RAROC の発想そのもの。国際規制は直接適用されないが"ものさし"として実務に入り込む。外圧がない業態ほど、採算の規律は自ら課すしかない。
  15. 返済方式には、期間内に完済するアモチ型(元金均等・元利均等)と、期間中はほとんど減らさず満期に一括するバルーン返済(ブレット)がある。バルーンの最大のリスクは借換えリスク。
  16. 当座貸越は法的な融資義務を伴わないが、コミットメントラインは金融機関に融資義務を負わせる契約であり、その対価としてコミットメントフィーが発生する。

セルフチェック(説明できますか?)

  • 資金使途と返済原資を対で確認すべき理由を説明できる
  • 「担保があるから大丈夫」がなぜ判断の順序として誤りか、PD・LGD の言葉で説明できる
  • 運転資金と設備資金の違いを、返済原資と期間の観点で説明できる
  • 所要運転資金の算式を書き、それが「消えない資金」である理由を説明できる
  • 短期継続融資型と長期運転資金型の違いを、期間・返済・審査のタイミングで比較できる
  • 5年の運転資金について、年間の約定返済額と年間キャッシュフローを突き合わせられる
  • 「折り返し」が正常な設計である場合と、悪化の兆候である場合の見分け方を説明できる
  • 短期継続融資を長期の分割返済に切り替えると何が起きるかを、返済負担の観点で説明できる
  • 長期運転資金を選んだとき、期中管理で何を補う必要があるか説明できる
  • 4つの貸出形式を、期間・返済方法・実行の主導権で比較できる
  • 元金均等返済と元利均等返済の違いを説明できる
  • バルーン返済(据置・期日一括)が、アモチ型と比べてどのようなリスクを抱えるか説明できる
  • 「ブレット」という言葉が、第8巻(債券ポートフォリオ)と本巻(返済方式)でどう意味が違うか説明できる
  • 手形貸付の「書替」が抱える2つの論点を説明できる
  • 当座貸越の未実行枠が、3つの側面でリスクである理由を説明できる
  • 当座貸越が「最も貸したくないときに残高が増える」理由を説明できる
  • 手形割引で誰の信用を見るべきか、融通手形の何が問題かを説明できる
  • 電子記録債権が、手形とも売掛金とも違う点を3つ挙げられる
  • でんさい割引で、持込人と支払企業の両方の信用を見るべき理由を説明できる
  • でんさい割引の残高が、支払企業への与信集中につながる経路を説明できる
  • でんさいの発生記録を誰が請求するかと、それが普及の順序に与える影響を説明できる
  • 固定金利で貸すことが、自金庫のALMに何をするか説明できる
  • 「変動金利なら金庫にリスクはない」がなぜ不正確か説明できる
  • 短期プライムレート方式と市場金利連動方式の違いを説明できる
  • 基準金利と調達コストのズレ(ベーシス・リスク)を説明できる
  • 基準金利が上がったとき、担当先を「説明に行く先」と「交渉に行く先」に分けられる
  • 契約に自動改定と書いてある先にも説明に行く理由を、制度と実務の両面で説明できる
  • 固定金利の先に金利引上げを申し入れるとき、理由を積み上げのどの部品で語るか言える
  • 金利引上げの交渉で越えてはいけない一線を、監督指針の例に即して説明できる
  • 交渉を断られたときに取りうる三つの道と、記録に残すべきことを言える
  • 貸出金利を4つの要素に分解し、必要な下限金利を計算できる
  • 「信用コストは貸し倒れていなくても発生している」の意味を説明できる
  • 採算割れの融資が、なぜ損益計算書に現れないのか説明できる
  • 歩積両建預金がある場合の実質金利を計算できる
  • 「顧客が自分から預金してくれた」がなぜ抗弁にならないか説明できる
  • 保証協会の保証が付くと必要金利が下がる理由を、LGD とリスクウェイトで説明できる
  • シンジケートローンの3つの役割を挙げられる
  • コミットメントラインが当座貸越と法的にどう違うか、コミットメントフィーが何の対価かを説明できる
  • アップフロントフィーと、期中の金利スプレッドの違いを説明できる
  • 私募債の保証が、なぜ与信集中の計測から漏れやすいか説明できる
  • 貸出商品と金利について、信用金庫と地域銀行で何が同じで何が違うかを4点挙げられる
  • プライシングの積み上げ式と、国際的な RAROC の発想との関係を説明できる
  • 国際的な規制が信用金庫に直接適用されない理由と、それでも"ものさし"になる理由の両方を説明できる
  • 「外圧がない業態ほど採算の規律を自ら課す必要がある」の意味を、資本コストを例に説明できる

用語集

用語 意味
資金使途 借り入れた資金を何に使うのか
融資の5原則 公共性・安全性・収益性・流動性・成長性。判断が衝突したときの優先順序を示す(第1-2節)
返済原資 返済に充てる現金がどこから生まれるのか
運転資金 事業を回すために継続的に必要な資金。仕入から入金までの立替に対応
所要運転資金(経常運転資金) 売上債権+棚卸資産−仕入債務。事業規模が変わらない限り残り続ける立替額
長期運転資金 恒常的に必要な運転資金を、5年・7年等の期間で分割返済する証書貸付
短期継続融資 正常な運転資金の範囲で、短期の手形貸付等を書替により継続する形態
折り返し 分割返済で減った運転資金の残高を、再度の実行により元の水準に戻すこと
自動改定(基準金利連動) 基準金利が変わると契約に従って貸出金利が変わること。説明の対象であって交渉の対象ではない(第10-1節)
要協議先 基準金利が動いても自動では金利が変わらず、協議して初めて変わる先(第10-1節)
債務償還年数 \((\text{有利子負債} - \text{正常運転資金}) \div (\text{税引後利益} + \text{減価償却費})\)。何年で返せるかの目安
設備資金 機械・建物等、長く使うものを購入するための資金
証書貸付 金銭消費貸借契約証書により行う貸付。長期・分割返済が中心
手形貸付 借り手が振り出した約束手形を徴求して行う貸付。短期・期日一括が原則
書替 手形貸付の期日に、新しい手形に差し替えて融資を継続すること
当座貸越 極度額の範囲内で、借り手が随時借入・返済できる形式
極度額 当座貸越等で設定される借入の上限額
未実行枠 設定された枠のうち、まだ実行されていない部分。信用リスクを伴う
手形割引 取引先が保有する商業手形を、満期前に買い取る取引。法的には手形の売買
商業手形 実際の商取引の裏づけがある手形
融通手形 商取引の裏づけがなく、資金調達のために振り出された手形
歩積両建預金 融資に伴い、その一部を実質的に拘束された預金として受け入れること
実質金利 拘束性預金等を考慮し、実際に使える資金に対する負担率として計算した金利
優越的地位の濫用 取引上の優越的地位を背景に相手方に不利益を課すこと(独占禁止法)
電子記録債権 電子債権記録機関の記録原簿への電子記録により発生・譲渡する金銭債権
でんさいネット 全国銀行協会系の電子債権記録機関(株式会社全銀電子債権ネットワーク)
でんさい割引(電子記録債権割引) 電子記録債権を支払期日前に買い取る取引。手形割引の電子版にあたる
電子記録保証 電子記録債権の譲渡人等が保証記録により負う保証。手形の遡求に相当する機能
発生記録 電子記録債権を発生させる記録。でんさいネットでは原則として債務者が請求する
電子記録債権担保融資 電子記録債権を譲渡担保に取って行う貸付。割引とは法的性格が異なる
ファクタリング 売掛債権の買取による資金化。実質が貸付とみられる高コストの取引が問題化した経緯がある
電子交換所 手形・小切手の交換を、現物の搬送によらずイメージデータで行う仕組み
元金均等返済 毎回の元金が一定の返済方法。返済額は逓減する
元利均等返済 毎回の元金と利息の合計が一定の返済方法。初期は元金が減りにくい
アモチ(amortization) 期間内に元本を分割して償却していく返済の総称。元金均等・元利均等はいずれもアモチ型
バルーン返済 期間中は元金をほとんど(または一部しか)減らさず、満期に残額をまとめて返済する方式。借換えリスクを伴う
ブレット(bullet、融資の文脈) 期間中の元金償却がゼロで、満期に全額を一括返済する方式。期日一括はこの一種。第8巻の「ブレット型」(債券ポートフォリオの年限集中)とは対象が異なる
据置期間 期間限定で利息のみを支払い、元金の償却を行わない期間。実質は期間限定のバルーン型返済
固定金利 契約期間中、金利が変わらない方式。金利リスクは金庫が負う
変動金利 定期的に金利が見直される方式。金利リスクは借り手が負う
基準金利 変動金利の基礎となる金利。プライムレート方式と市場金利連動方式がある
短期プライムレート(短プラ) 期間1年以内の最優遇貸出金利として各金融機関が定めるもの
長期プライムレート(長プラ) 期間1年超の最優遇貸出金利
TIBOR 東京銀行間取引金利。市場金利連動の基準として用いられる指標の一つ
TORF 東京ターム物リスク・フリー・レート。リスク・フリー・レートを基礎とする指標
LIBOR かつて国際的に用いられた銀行間指標金利。公表停止に伴い各通貨で移行が進んだ
スプレッド 基準金利への上乗せ幅。取引先の信用力・保全・採算を反映し、金庫が決める部分
プライシング 貸出金利を、調達コスト・経費・信用コスト・資本コストから積み上げて決めること
信用コスト 平均的に見込まれる貸倒れ費用。\(\text{PD} \times \text{LGD}\) に相当し、貸し倒れていなくても発生する
資本コスト リスクアセットを消費し自己資本を使う対価(→第4巻)
シンジケートローン 複数の金融機関が1つの契約書のもとで共同して行う融資
アレンジャー シンジケートローンを組成し、参加金融機関を募る主幹事
エージェント 実行後の資金授受・情報伝達を一元的に担う代理人
タームローン 一定額を実行し約定に従って返済する通常の形式
コミットメントライン 一定期間・一定額まで融資することを金融機関に法的に義務づける契約。当座貸越と異なり金融機関の裁量で拒めない
コミットメントフィー コミットメントラインの未使用枠に対して発生する手数料。「必ず借りられる権利」の対価
アップフロントフィー シンジケートローン・コミットメントライン等で実行時に一括して支払われる組成手数料。期中の金利スプレッドとは別建て
私募債 少数の投資家に限定して募集される社債。金庫は引受または保証で関わる
支払承諾 債務保証。信用リスクを負う与信であり、自己資本比率・集中度の計測対象
協調融資 複数の金融機関が同一の資金需要に対応する形。各行個別契約の場合を指すことが多い
日本政策金融公庫 民間だけでは対応が難しい分野を補完する政策金融機関

参考文献・出典

  • 民法(金銭消費貸借、期限の利益等の規定。条番号は原文で確認)
  • 手形法・小切手法(約束手形の性質。条番号は原文で確認)
  • 電子記録債権法(発生記録・譲渡記録・電子記録保証の規定。条番号は原文で確認)
  • 株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)の業務規程・公表資料(支払不能に関する取扱い等は必ず最新の規程で確認する)
  • 全国銀行協会・電子交換所および関係省庁による手形・小切手機能の電子化に関する公表資料(約束手形の利用廃止に向けた取組みの現状)
  • 全国銀行協会「銀行取引約定書」に関する参考資料、および自金庫の各種約定書
  • 日本銀行「貸出・預金動向」「貸出約定平均金利」等の統計(金利水準の実勢)
  • 日本銀行・全国銀行協会等による金利指標改革(LIBOR 移行)に関する公表資料(現在利用可能な指標は最新資料で確認すること)
  • 自己資本比率規制に関する告示(未実行枠の掛目、支払承諾の取扱い、リスクウェイト)
  • 一般社団法人日本ローン債権市場協会(JSLA)の公表資料(シンジケートローンの実務)
  • 日本証券業協会・各金融機関の公表資料(私募債の仕組み)
  • 日本政策金融公庫、信金中央金庫の公表資料(協調融資の枠組み)
  • 金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(契約締結後の金利の見直し等における顧客への説明態勢、優越的地位の濫用として問題となる行為の例。区分番号・記述は改正があるため最新版で確認する)
  • 各金融機関が公表する短期プライムレートの改定に関するお知らせ、日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」(実施日は金融機関ごとに異なる)
  • 中小企業庁「中小企業白書」(金利上昇と中小企業への影響)、民間調査機関による中小企業の調達金利・金利上昇の影響に関する調査(水準は調査時点で変わるため最新の公表値で確認する)
  • 自金庫の融資規程・商品要綱・プライシング基準(実際の適用は必ずこちらで確認する)

本テキストは制度理解のための教育用資料です。本文中の金利・掛目・コスト率・金額はすべて設例用に単純化した仮の数字であり、実在する商品の条件や市場の実勢を示すものではありません。特定の商品・取引の推奨を意図するものでもありません。貸出形式ごとの法的性質、金利指標の利用可否、未実行枠・支払承諾の規制上の取扱いは、最新の法令・告示・実務動向により異なります。実際の取引・判断にあたっては、自金庫の融資/審査/法務部門および顧問弁護士・当局公表資料で必ずご確認ください。

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