第1巻 有価証券の含み損と税効果会計・自己資本・配当

― 信用金庫の有価証券担当のための実務テキスト

対象読者:信用金庫の有価証券運用・経理担当になったばかりで、保有債券・株式に含み損を抱えている方

ねらい:含み損が「決算(純資産)」「配当」「自己資本比率・早期是正措置」にどう効くのかを、税効果会計(繰延税金資産)を軸に一本の筋で理解し、自分の言葉で説明できるようになること

このテキストの特徴:信用金庫が実際に持つその他有価証券と満期保有目的の2区分に絞り(売買目的は通常保有しないため対象外)、全部純資産直入法の仕訳を段階別に示し、配当規制・自己資本比率規制まで含めて構成しました。さらに第Ⅶ部では、「では、損切りすべきか」という意思決定そのものを、税・会計・規制の三面から扱います(かつて別冊の補論として提供していた内容を本編に統合しました)。

他巻との接続:業態の全体像と「会計・税務・規制・経営管理の4つの数字」という枠組みは →第0巻(とくに第8〜9章)。損切り・益出しが損益計算書のどこに出るか(債券5勘定尻)は →第3巻第8章・第12章。コア資本とリスクアセットの全体像は →第5巻。早期是正措置・早期警戒制度の詳細は →第6巻。含み損を生む金利リスクそのものの管理は →第7巻。保有国債を売らずに資金化する方法は →第12巻第11章。


全体マップ(この一枚で流れがつかめます)

含み損が生じたとき、それは3つの場所に、別々の効き方で波及します。本テキストはこの地図を各章で埋めていきます。

flowchart TD
    A["その他有価証券の含み損<br/>(未実現)"]
    A --> B["①決算・純資産<br/>純資産直入で評価差額金に計上"]
    A --> C["②配当(分配可能額)<br/>税効果控除後の純額で配当余力を直接削る"]
    A --> D["③自己資本比率・早期是正<br/>第1・第2区分:中立化(効かない)<br/>第3区分(業務停止):時価で取り込む"]
    B --> E["繰延税金資産が「クッション」として関与<br/>(ただし回収可能性がなければ立たない)"]
    C --> E
    D --> E
    E --> F["【第Ⅶ部】では、損切りすべきか<br/>税(繰越欠損金)・会計(純資産)・規制(比率)の<br/>三面を、時間軸の違いごと並べて判断する"]
    style E fill:#fde,stroke:#c39
    style F fill:#fde,stroke:#c39

目次

第Ⅰ部 基礎編

  1. 大前提:会計と税務は別の世界
  2. 信用金庫が持つ有価証券の区分 ― その他有価証券と満期保有目的
  3. 欠損金(繰越欠損金)の基礎
  4. 信用金庫の特殊性 ― 協同組合等としての100%控除

第Ⅱ部 繰延税金資産編

  1. 繰延税金資産とは何か ― 法人税等の前払い
  2. 欠損金と繰延税金資産の違い
  3. 専門用語をほどく(一時差異・スケジューリング ほか)

第Ⅲ部 含み損の会計処理編(核心)

  1. その他有価証券の含み損 ― 全部純資産直入法の段階別仕訳
  2. 満期保有目的の場合 ― 含み損は表に出ない
  3. 繰延税金資産はどの純資産に入るか ― 2つの経路

第Ⅳ部 回収可能性編

  1. 回収可能性と会社区分(分類1〜5)/上限を数字で体感する
  2. 「持ち切り」有価証券と繰延税金資産の難所

第Ⅴ部 決算インパクト編

  1. 【計算例】含み損から損切りまで、純資産はどう動くか
  2. よくある誤解 ―「税効果会計があるから大丈夫」は何が変か
  3. 繰延税金資産の取り崩し ― 悪化局面の追い打ち

第Ⅵ部 配当・自己資本規制編

  1. 含み損と配当 ― 分配可能額・信用金庫法57条
  2. 含み損と自己資本比率・早期是正措置・業務停止命令
  3. 繰延税金資産は配当と規制資本で正反対 ― 天井が2つある
  4. 含み損の「3つの効き方」総まとめ

第Ⅶ部 損切りの意思決定編

  1. 損切り → 繰越欠損金 → 回復益で税金を圧縮できるか
  2. 「見かけの自己資本比率」と実質はなぜ乖離するか
  3. 損切りの「三面」を並べて見る

第Ⅷ部 まとめ

  1. 信用金庫実務での留意点
  2. つまずきやすいポイント総まとめ
  3. まとめとセルフチェック
  4. 用語集
  5. 参考文献・出典

第Ⅰ部 基礎編

1. 大前提:会計と税務は別の世界

すべての出発点はここです。同じ取引でも、会計(決算書づくり)と税務(税金計算)ではルールが違います。

会計(財務会計) 税務(税務会計)
目的 経営実態を正しく示す 税金を公平に計算する
計算式 \(\text{収益} - \text{費用} = \text{利益}\) \(\text{益金} - \text{損金} = \text{所得}\)
損の認識 発生主義で早めに認識しがち 「実現」するまで認めないことが多い

有価証券の含み損はこの違いが典型的に出ます。会計では時価が下がった時点で評価損を認識しますが、税務では原則売却(損切り)や減損をして初めて損金になります。この「認めるタイミングのズレ」を橋渡しするのが税効果会計であり、その道具が繰延税金資産です。

3段構え:会計と税務のズレ → 税効果会計 → 繰延税金資産。常にこの順序を頭に置いてください。

そして本テキストの主役であるその他有価証券の含み損には、もう一段の特殊事情があります。会計上「損益計算書(P/L)を通さず、純資産に直接計上する」という点です(第8章)。この一点が、税効果・配当・自己資本比率のすべてに独特の効き方をもたらします。


2. 信用金庫が持つ有価証券の区分 ― その他有価証券と満期保有目的

有価証券は保有目的により区分され、区分ごとに評価方法(=含み損の出方)が違います。会計基準上は4区分ありますが、信用金庫の運用有価証券は、実務上その他有価証券と満期保有目的の2つが中心です。

区分 評価方法 含み損の出方 信用金庫での位置づけ
売買目的有価証券 時価評価、損益はP/L P/Lに直接 通常保有しない(特定取引勘定を持たない)
満期保有目的の債券 取得原価(償却原価) 表に出ない(減損時のみ) 利回り確保の国債・地方債等
その他有価証券 時価評価、差額は純資産直入 純資産(評価差額金)に計上 運用の主力。国債・地方債・投信・株式等
子会社・関連会社株式 取得原価 表に出ない(減損時のみ) 系統・関連の政策保有等

本テキストは、このうちその他有価証券(第8章)と満期保有目的(第9章)を主役に据えます。売買目的は信用金庫では通常登場しないため扱いません。

担当者としての第一歩:ある銘柄に含み損が出たとき、その銘柄が「その他有価証券」なのか「満期保有目的」なのかで、決算・配当・自己資本比率への効き方がまったく変わります。まず区分を確認する——これが実務の起点です。


3. 欠損金(繰越欠損金)の基礎

3-1. 欠損金とは

その事業年度で「損金 > 益金」となったときのマイナスの所得が欠損金です。翌期以降の黒字(所得)と相殺できる権利として繰り越せます(繰越欠損金)。

  • 繰越期間:最大10年(2018年4月1日以後開始事業年度に生じた分。それ以前は9年)
  • 管理場所:法人税申告書の別表七。会計帳簿・貸借対照表には資産として載りません
  • 古い年度分から順に使います

3-2. よくある誤解「益金があれば欠損金は生まれない?」

生まれます。 ポイントは益金の有無ではなく、その年に損金が益金を上回ったかです。信用金庫でいえば、貸出金利息や役務収益(益金)があっても、有価証券売却損・貸倒引当金繰入・経費(損金)の合計がそれを上回れば欠損金が発生します。

3-3. 儲かった年に欠損金はゼロになる? ― 控除限度額

黒字の年は古い欠損金から順に所得と相殺して消します。ただし1年で使える金額に上限(控除限度額)があり、法人の規模で変わります。信用金庫の扱いは次章のとおり有利です。


4. 信用金庫の特殊性 ― 協同組合等としての100%控除

信用金庫は株式会社ではなく協同組織金融機関で、税務上は協同組合等に区分され、繰越欠損金の控除限度額が設けられていない「中小法人等」に含まれます。

つまり信用金庫は、資本金基準の大法人(所得の50%まで)ではなく、所得の100%まで繰越欠損金を控除できる側に立ちます。

【混同注意】「税務上の控除できる枠」と「会計上の繰延税金資産を積める枠」は別物です。

  • 税務の控除限度(100%)… 黒字が出れば欠損金を全部ぶつけられる、という税金計算の話
  • 会計の回収可能性(第11章)… そもそも将来その黒字が見込めるか、という決算計上の話

信用金庫は前者が有利(100%)でも、将来の黒字が見込めなければ繰延税金資産は計上できない点は大法人と変わりません。ここを取り違えないことが肝心です。


第Ⅱ部 繰延税金資産編

5. 繰延税金資産とは何か ― 法人税等の前払い

繰延税金資産とは、将来減らせる(払わずに済む)税金の見込額を、いま資産として計上したものです。方向を間違えやすいのですが、「将来払う税金」ではなく「将来取り戻せる税金」の資産化です。

略語について:繰延税金資産は英語の Deferred Tax Asset の頭文字をとって DTA と略されます。実務資料・監査法人の指摘・自己資本比率の告示などでは英語略語で書かれることも多いため、本テキストでも以降は繰延税金資産と DTA を同じ意味で用います。対になる概念の繰延税金負債は DTL(Deferred Tax Liability) と略します(第7章7-3の将来加算一時差異から生じるもの)。

一言でいえば法人税等の前払いに近い性格です。会計では先に損を認識したのに税務ではまだ損金にできていない、そのズレのせいで今は税金を多めに払っている――その「多めに払った分は将来取り戻せる」という見込みを資産に載せたもの、というイメージです。

  • 対象税目は「所得税」ではなく法人税・住民税・事業税(あわせて「法人税等」)
  • 金額は原則 \(\text{将来減算一時差異} \times \text{法定実効税率}\)

普通の資産と決定的に違う点:現金や貸出金と違い、繰延税金資産は自金庫の将来の稼ぐ力に価値が依存します。将来その分の黒字(課税所得)が見込めなければ、取り戻す当てがなく、資産としての価値はゼロになります。この「回収可能性」が本テキストの山場です(第11章)。

後で効いてくる伏線:繰延税金資産は、会計・配当の世界では純資産をフルに下支えしますが、自己資本比率規制の世界ではほとんど算入を認められません(第18章)。「味方になる場面」と「ならない場面」がある、という二面性を覚えておいてください。


6. 欠損金と繰延税金資産の違い

同じ赤字を「税務のレンズ」で見たものが欠損金、「会計のレンズ」で見たものが繰延税金資産です。

観点 欠損金(繰越欠損金) 繰延税金資産
属する世界 税務会計 財務会計
金額の性質 所得ベース(税率をかける前) 税額ベース(税率をかけた後)
どこに載るか 申告書・別表七(B/Sに載らない) 貸借対照表(資産の部)
金額の決まり方 実際に出た赤字の額そのもの \(\text{欠損金等} \times \text{実効税率} \times \text{回収可能性}\)
計上の制約 黒字が出れば自動で使える 将来の黒字見込み(回収可能性)が必要

関係式

\[\text{繰延税金資産} = (\text{将来減算一時差異} + \text{繰越欠損金}) \times \text{実効税率}\]

ただし計上できるのは、回収可能な範囲のみです。

例:繰越欠損金100・実効税率30% → 繰延税金資産は最大30。ただし将来その分の黒字が見込める範囲だけ計上できる。


7. 専門用語をほどく

7-1. 一時差異と永久差異

会計と税務のズレには2種類あり、税効果会計が扱うのは一時差異だけです。

  • 一時差異:いつかは解消する一時的なズレ(例:有価証券評価損、貸倒引当金、退職給付、賞与引当金)。認めるタイミングが違うだけで、最終的な合計は会計も税務も一致する。
  • 永久差異:永久に埋まらないズレ(例:交際費の損金不算入部分)。税効果会計の対象外。

7-2. 将来減算一時差異 ― ただし「今、税金を多く払う」かは中身次第

将来その差異が解消する年に課税所得を減らせるズレです(「減算」の意)。これに実効税率を掛けたものが繰延税金資産になります。ただし発生時に今の税金が増えるかどうかは、その差異がP/Lを通るか否かで変わります。ここは信用金庫の含み損を理解する要なので、丁寧に分けます。

タイプA:P/Lを通る差異(例:貸倒引当金)→ 今、税金を多く払う

  • 今年:会計で貸倒引当金100を繰入(費用)→ 税引前利益が100減る。税務は繰入限度超過額を損金不算入 → 申告加算され課税所得は会計利益より100多い → いま税金を多く払う
  • 将来(貸倒れ確定・洗替え時):税務でようやく100が損金算入 → 課税所得が100減る → 税金が減る(過去に多く払った分を取り返す)

退職給付引当金・賞与引当金・減損損失なども同じ型です。「先に払って将来取り返す」構図がそのまま成り立ちます。

タイプB:純資産直入の差異(その他有価証券の含み損)→ 今の税金は増えない

その他有価証券の含み損は、会計上P/Lを通らず純資産(その他有価証券評価差額金)に直入されます。すると――

  • 会計:含み損は当期純利益に入っていない(税引前利益は減っていない)
  • 税務:含み損は損金になっていない(売却・減損まで損金不算入)

会計利益にも税務所得にも影響していないため、この含み損で「今、税金を多く払っている」事実はありません。したがって対応する繰延税金資産は「払いすぎの取り返し」ではなく、「将来この含み損を実現したら税金が減るはずだ」という将来の節税見込みを先取り計上したものです。相手勘定がP/L(法人税等調整額)ではなく純資産になるのは、元の含み損がP/Lを通っていないから。

区別のまとめ:同じ将来減算一時差異でも、タイプA(貸倒引当金など)=今の税金を多く払っている/タイプB(その他有価証券の含み損)=今の税金は増えていない。信用金庫の含み損はタイプBです。この違いが、繰延税金資産の入る純資産の場所(第10章)にも直結します。

7-3. 将来加算一時差異(対になる概念)

逆に将来解消する年に課税所得を増やすズレ。将来の課税所得を増やすので、こちらは繰延税金負債を生みます。その他有価証券の含み益(評価差益)がこれにあたります。

7-4. スケジューリング

その一時差異が「いつ解消するか」を年度ごとに見積もる作業です。繰延税金資産は「解消する年に相殺できる黒字があるか」で価値が決まるため、解消時期を特定できないと回収可能性を判断できません。

  • スケジューリング可能:解消時期を合理的に見込める(例:3年後に売却予定の株式の評価損)
  • スケジューリング不能:いつ解消するか見込めない(例:売却時期を定めず持ち続ける方針の銘柄)→ 原則計上しにくい(第12章で詳述)

7-5. 一時差異等加減算前課税所得

その一時差異を相殺に使う前の、素の課税所得。回収可能性判定で使う「相殺相手の黒字体力」です。分類3で「5年分の課税所得」、分類4で「1年分」というときの課税所得はこれを指します(第11章)。


第Ⅲ部 含み損の会計処理編(核心)

8. その他有価証券の含み損 ― 全部純資産直入法の段階別仕訳

有価証券担当として最も実務に直結する章です。前回版で「仕訳イメージ」を1枚だけ示しましたが、含み損が生まれてから損切りするまでを段階別の仕訳で追うことで、純資産のどこに何が積まれ、どう動くのかを正確につかみます。

8-1. モデル(以降この例で通します)

  • 当金庫はA国債を取得原価300で保有
  • 期末時価200(=含み損100)
  • 実効税率30%
  • その他有価証券に区分、全部純資産直入法・洗替法を採用

8-2. なぜ税効果の相手勘定が純資産になるのか

その他有価証券の評価差額はP/Lを通さず純資産に直入します(全部純資産直入法)。P/Lを通らない以上、対応する税効果もP/Lを通してはいけません。だから繰延税金資産の相手勘定は、いつもの法人税等調整額(P/L)ではなく、その他有価証券評価差額金(純資産)になります。これが最大のポイントです。

8-3. 段階別の仕訳

① 取得時

(借)その他有価証券  300  /(貸)現金預け金  300

② 期末 ― 含み損100を計上(時価200へ評価替え+税効果)

含み損100は税務上まだ損金にならない → 将来減算一時差異100。繰延税金資産=100×30%=30。

(借)その他有価証券評価差額金  70  /(貸)その他有価証券  100
(借)繰延税金資産             30
  • その他有価証券:300 → 200
  • 繰延税金資産:+30(資産)
  • その他有価証券評価差額金:▲70(純資産のマイナス。=含み損100 − 税効果30)
  • P/Lは一切動かない(当期純利益に影響しない)
  • 純資産への影響:▲70(含み損100が税効果30で圧縮された姿)

③ 翌期首 ― 洗替法による振戻し

その他有価証券は洗替法なので、翌期首に②を丸ごと振り戻し、簿価をいったん取得原価300に戻します(そのうえで翌期末に改めて時価評価)。

(借)その他有価証券  100  /(貸)その他有価証券評価差額金  70
                          /(貸)繰延税金資産             30

④ 損切り(売却)時 ― 時価200で売却=実現損100

売却により、簿価300のものを200で売るので、実現損100がP/Lに出ます。

(借)現金預け金         200  /(貸)その他有価証券  300
(借)投資有価証券売却損  100
  • P/Lに売却損100を計上 → 税引前利益が100減る
  • 税務:売却で損金算入 → 課税所得が100減る → 回収可能性があれば税金30が減る(繰延税金資産が実現/黒字が足りなければ繰越欠損金へ)
  • 純資産への影響:当期純利益が税引後で▲70(=100 − 節税30)→ 繰越利益剰余金へ
  • 損益計算書上の位置:この売却損100は「国債等債券売却損」として債券5勘定尻に入り、その他業務利益 → 業務粗利益 → 業務純益を押し下げます。ただしコア業務純益からは除かれるため、「本業の実力」の指標は動きません(→第3巻第8〜9章)。純資産では引っ越しにすぎないものが、損益計算書では新規の損失として現れる――この落差は第3巻で正面から扱います。

8-4. いちばん大事な洞察 ― 純資産は「含み損の時点」で既に減っている

②〜④を純資産の総額で追うと、実は含み損を計上した時点で純資産は既に▲70減っており、損切りしても(時価が同じなら)純資産の総額はほとんど動きません。動くのは「純資産のどの引き出しに入っているか」です。

局面 純資産の内訳の変化 純資産トータル
②含み損計上(保有中) その他有価証券評価差額金 ▲70 ▲70
④損切り(実現) 評価差額金の▲70が消え、繰越利益剰余金へ税引後▲70 ▲70(水準は不変)

つまり「損切りすると純資産がさらに減る」わけではありません。 含み損の痛みは未実現の段階で純資産に織り込み済みで、損切りは「評価・換算差額等 → 利益剰余金」への引っ越しにすぎない。ただし引っ越した結果、後述のとおり配当計算・自己資本比率・税務での扱いが変わるのが重要です(第Ⅵ部)。

8-5. 減損の例外(P/Lに出るケース)

その他有価証券でも、時価が著しく下落(概ね50%以上など)し回復見込みが不明な場合は、純資産直入ではなく減損処理(P/Lに評価損)が必要です。この場合はタイプA(P/Lを通る差異)に近い扱いとなり、税務上の損金算入時期次第で税効果の相手勘定もP/L側になります。金利上昇による通常の時価下落と、信用悪化による回復見込みのない下落は、扱いが分かれる点に注意してください。


9. 満期保有目的の場合 ― 含み損は表に出ない

同じ国債でも、区分が満期保有目的なら含み損の扱いはまったく違います。

9-1. 評価方法

満期保有目的の債券は時価評価せず、取得原価(額面との差を期間配分した償却原価)で計上します。したがって――

  • 金利上昇による時価下落(含み損)は、B/SにもP/Lにも出てきません。
  • 評価差額金も生じないので、繰延税金資産・評価差額金の論点も原則発生しません。

9-2. ただし減損はある

満期保有目的でも、発行体の信用悪化などで時価が著しく下落し回復見込みがない場合は減損処理が必要で、そのときはP/Lに損失が出ます。「満期保有だから絶対に表に出ない」わけではない点に注意します。

9-3. 区分変更のペナルティ(タインティング)

満期保有目的は「満期まで保有する意図と能力」が要件です。正当な理由なく途中売却したり他区分へ振り替えたりすると、保有する他の満期保有目的債券まで強制的にその他有価証券へ振り替えさせられるなど、以後の分類に制約が及びます。「含み損を表に出したくないから満期保有目的にしておく」という安易な運用はできず、区分は当初の意図と能力に基づいて厳格に決める必要があります。

9-4. その他有価証券との対比(一覧)

その他有価証券 満期保有目的の債券
期末評価 時価 償却原価(時価評価しない)
含み損の表示 純資産(評価差額金)に計上 表に出ない
P/Lへの影響 原則なし(減損時のみ) 原則なし(減損時のみ)
繰延税金資産 評価差額金に対応して計上 原則生じない
配当・自己資本比率への影響 あり(第Ⅵ部) 未実現では原則なし(減損時に顕在化)

担当者の判断ポイント:含み損のある国債を満期保有目的に区分していれば、その含み損は決算に出ず、配当・自己資本比率にも未実現では響きません。しかしそれは「意図と能力」があってこその区分であり、かつ売れば実現損が一気に表面化します。区分の選択は、金利見通し・流動性ニーズ・タインティングのリスクを踏まえた経営判断です。


10. 繰延税金資産はどの純資産に入るか ― 2つの経路

「繰延税金資産は法人税等調整額を通じて利益剰余金に含まれる」と説明しましたが、これはタイプAの差異(P/Lを通るもの)に限った話です。繰延税金資産が純資産のどこに入るかは、元の差異がP/Lを通ったかで2経路に分かれます。ここを押さえると全体が一気にクリアになります。

10-1. 経路① P/Lを通る差異 → 法人税等調整額 → 利益剰余金

貸倒引当金などタイプAの差異では、繰延税金資産の相手勘定は法人税等調整額(P/Lの科目)です。

(借)繰延税金資産  30  /(貸)法人税等調整額  30

法人税等調整額が貸方に立つと税金費用が減り、当期純利益が増える→ 期末にその利益が繰越利益剰余金へ積み上がる。だからDTAは利益剰余金に含まれます。

【数字で確認:税引前利益100・貸倒引当金100・税率30%】

  • 課税所得=100+100(申告加算)=200 → 当期の法人税等=60
  • 法人税等調整額=△30(DTA計上)→ 差引税負担30
  • 当期純利益=100−30=70(税効果なしなら100−60=40。DTA30の分だけ利益が増えている)
  • B/S:繰延税金資産+30/利益剰余金+30(資産と純資産が同額増えて釣り合う)

10-2. 経路② その他有価証券の含み損 → 評価差額金 → 評価・換算差額等

その他有価証券の含み損(タイプB)では、相手勘定は法人税等調整額ではなくその他有価証券評価差額金。だからDTAは利益剰余金ではなく「評価・換算差額等」の中に入ります(第8章②の仕訳)。当期純利益は動きません。

10-3. まとめ ― 入る場所は違うが、純資産と配当を下支えする点は共通

経路①(貸倒引当金など) 経路②(その他有価証券の含み損)
相手勘定 法人税等調整額(P/L) その他有価証券評価差額金(純資産)
当期純利益 増える 動かない
入る純資産 繰越利益剰余金 評価・換算差額等
純資産・配当への効果 利益剰余金を増やして下支え 控除される評価差損の純額を小さくして下支え

信用金庫の含み損DTAは経路②です。「利益剰余金に含まれる」のは経路①、という区別を押さえておけば正確です。そして取り崩すときは、①なら法人税等調整額(費用)が立って当期純利益と利益剰余金を削り、②なら評価差額金側で調整される――ここも対になっています(第15章)。


第Ⅳ部 回収可能性編

11. 回収可能性と会社区分(分類1〜5)/上限を数字で体感する

繰延税金資産を「いくらまで積めるか」に固定の金額上限はありません。上限は回収可能性、すなわち将来その差異・欠損金を取り戻せるだけの課税所得が見込めるかで決まります。判断枠組みが企業会計基準適用指針第26号の分類1〜5です。下にいくほど天井が下がります。

11-1. 5つの分類

分類 会社の状態 積める上限の目安
分類1 安定的に高収益(将来減算一時差異を十分上回る課税所得が継続) 原則全額(縛りなし)
分類2 安定的に黒字だが分類1ほどではない スケジューリング可能な差異は全額。不能なものは原則不可
分類3 黒字だが業績変動が大きい おおむね5年分の課税所得見積額まで
分類4 直近に重要な欠損金あり(ただし翌期は黒字見込み) 原則翌期1年分の課税所得見積額まで
分類5 過去3年+当期が継続赤字、翌期も赤字見込み 原則ゼロ

実務上の要点:どの分類にも当てはまらない中間的な会社は要件からの乖離が最も小さい分類に寄せる/分類は毎期見直され、区分が下がると取り崩しが生じて決算を直撃する/最終的な分類と計上額は監査人との協議で確定する。

11-2. 分類ごとの上限を数字で体感する

同じ会社を想定し、分類が変わると積める額がどう動くかを見ます。

前提(単位:億円、実効税率30%)

  • 将来減算一時差異の残高(貸倒引当金・有価証券評価損など):300 → 満額なら繰延税金資産は最大 300×30%=90(=「元手の天井」)
  • 例年の課税所得(一時差異等加減算前)の見積り:1年あたり20
  • 差異の大半は数年内に解消見込みと仮定
分類 積める額の考え方 積める繰延税金資産の目安
分類1 元手90をそのまま計上できる 約90(ほぼ満額)
分類2 スケジューリング可能分は全額。不能分(例50)は落ちる 約75(=(300−50)×30%)
分類3 おおむね5年分=20×5=100が枠。一時差異300より小さいので枠で頭打ち。100×30% 約30
分類4 翌期1年分=20が枠。20×30% 約6
分類5 将来の黒字が見込めない 約0

単位を取り違えないでください(最頻出のミス):枠(100や20)は課税所得ベースの金額、元手(90)は税効果を乗じた後の繰延税金資産の金額です。この2つを直接比べてはいけません。 比べるときは、必ずどちらかに単位を揃えます。

・課税所得ベースで揃える:一時差異 300 と枠 100 を比べ、小さい方の100に税率を乗じて 30

・繰延税金資産ベースで揃える:元手 90 と「枠×税率」30 を比べ、小さい方が 30

どちらの揃え方でも答えは30です。「枠100 > 元手90 だから90積める」と読むのが、この論点で最も多い誤りです。

読み方の肝:積める額は常に「元手(差異×税率)」と「分類が許す課税所得の枠×税率」の小さい方で決まります。分類1〜2では元手90が制約になるのに対し、分類3以下では枠のほうが先に効いてきます。この設例では、

   分類1  90 → 分類2  75 → 分類3  30 → 分類4  6 → 分類5  0

落ち方が一様でないことに注目してください。 分類2までは元手(差異の総量)との勝負なので、下がってもなだらかです。ところが分類3に入った瞬間、制約が「5年間で稼げる課税所得100」に切り替わり、75→30へ一気に落ちます。分類4ではその期間が1年に縮むので、さらに30→6。分類5では枠がゼロなので、元手が90あろうと計上はほぼゼロです。

数字の勘どころ:分類2までは「差異の総量」との勝負、分類3以下は「何年分の課税所得を当てにしてよいか」との勝負に土俵が変わります。そして分類3→4の落差は、見積可能期間が5年から1年に縮むことそのものです。天井を決めているのは、差異の大きさではなく、稼ぐ力とそれを見積もってよい年数 ― 含み損の拡大で本業が課税所得ベースの赤字に入るかどうかが、繰延税金資産の運命の分かれ目です。

なお、この設例のように一時差異(300)が例年の課税所得(年20)に比べて大きい会社では、分類3に落ちた時点ですでに大幅な取崩しが生じます。「分類4になるまでは大丈夫」ではありません。逆に、一時差異が課税所得に比べて小さい会社では、分類3でも枠に当たらず元手のまま計上できます。どちらが効くかは会社ごとに違う ― だから毎期、両方を計算して小さい方を採るのです。

これまでの流れ(例年利益が乏しく欠損金が累積する不振金庫)だと、重要な欠損金が継続する状態なので分類4、実態は分類5寄りとなり、繰延税金資産はほとんど立たない――だから「12のクッションはほぼ効かない」という結論につながります(第13章)。

11-3. 回収可能性はどうやって判定するのか ― 実務の3つのものさしと年度末の回し方

11-1・11-2では「会社区分に応じた枠」を先に示しましたが、その枠の中身、つまり見積り課税所得(→7-5の一時差異等加減算前課税所得)そのものは、何から作るのかという、実務でいちばん手を動かす部分をここで補います。

適用指針第26号は、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る手がかりとして、3つのものさしを挙げています。

ものさし 何を見積るか 実務での中身
①収益力に基づく見積り 通常の事業活動から生まれる黒字が、どれだけ続くか 過去(おおむね3期程度)の課税所得の実績から、臨時的な要因(有価証券の売却益、災害損失など)を除いた「経常的な稼ぐ力」を出し、中期経営計画等と整合させて将来に延ばす
②タックス・プランニングに基づく見積り 意思決定さえすれば実行できる、具体的な税務上の対策 含み益のある不動産・有価証券を売却して課税所得を作る計画など。「いずれ売れば」ではなく、売却を実行するという意思決定の事実(取締役会決議等)があることが前提
③将来加算一時差異の解消見込み 将来加算一時差異(→7-3)が解消する年に、課税所得をどれだけ押し上げるか その他有価証券の含み益など、繰延税金負債の裏にある差異が、解消年度に課税所得を増やす効果

会社区分(11-1の分類1〜5)は、主に①の実績パターンから決まります。 そのうえで、②・③を積み増すことで見積り課税所得を厚くできる場合がある、という関係です。つまり、分類は出発点であって、そこで終わりではありません。

💡 ここでつまずきやすい:「含み益のある資産があるから、売れば繰延税金資産は積める」

誤解:不動産や株式に含み益があれば、それをタックス・プランニングとして繰延税金資産の見積りに使ってよい。

正しい理解:「売れる」ことと「売る」ことは別です。 タックス・プランニングとして認められるのは、実行するという意思決定の事実(取締役会での決議、具体的な売却スケジュール等)が伴う場合に限られます。「持っている資産に含み益があるから、いざとなれば売れる」という可能性の指摘だけでは、監査上は認められません。第12章で見る「持ち切り」の考え方と根っこは同じです。"売る前提"を置くなら、"本当に売る"だけの裏付けが要る。

年度末の実務は、次の順序で回ります。

flowchart TD
    A["①過去の実績を確認<br/>(臨時要因を除いた経常的な課税所得)"] --> B["②会社区分(分類1〜5)を判定"]
    B --> C["③将来減算一時差異をスケジューリング<br/>(解消年度ごとに集計)"]
    C --> D["④タックス・プランニングの<br/>実行可能性を検証(意思決定の事実の有無)"]
    D --> E["⑤将来加算一時差異の解消見込みを確認"]
    E --> F["⑥見積り課税所得を算出し、<br/>会社区分の枠(11-1・11-2)と比較"]
    F --> G["⑦計上額を算定し、<br/>監査法人と協議して確定"]
    style B fill:#fde,stroke:#c39
    style G fill:#fde,stroke:#c39

この図で押さえてほしいのは、①②が先に決まり、③〜⑤はその枠の中身を埋める作業だという順序です。 会社区分を決めないままタックス・プランニングだけを積み上げても、分類3以下では「5年分」「1年分」という期間の壁(11-2)にすぐ当たります。

担当者の心得:この判定は、信用金庫自身の決算でも、取引先企業の実態評価でも同じ発想が使われます。 取引先の実態バランスシート(→第14巻2-4節)を作るとき、その企業が決算書に計上している繰延税金資産も、同じ回収可能性のテストをくぐらせて評価します。 業績が悪化している先ほど、決算書に載っている繰延税金資産は「資産性のない資産」として実態バランスシートから除外される可能性が高い ― これは、まさに本節①の「経常的な稼ぐ力」を失っている状態そのものだからです。

具体的な要件文言(分類ごとの判定基準の細部、タックス・プランニングとして認められる要件、スケジューリングの方法等)は、企業会計基準適用指針第26号の原文および自金庫の会計処理基準・監査法人の指導で必ず確認してください。 ここで示したのは判断の骨格です。


12. 「持ち切り」有価証券と繰延税金資産の難所

「含み損のある国債を満期まで持ち切る」と決めたとき、その評価損に繰延税金資産を立てられるのか。適用指針第26号(第38〜40項)が個別に定める難所で、直感と逆になりやすい論点です。

12-1. 結論

  • 繰延税金資産を立てること自体は禁止でも不適切でもない。基準が正規の手順を定めています。
  • ただし「絶対に持ち切る」と強く決めるほど、計上できる額は小さくなる。含み損の全額計上は原則できません。
  • 理由:持ち切る=損を実現させない=税務上の損金算入が起きない=減らせる税金がない。「損が実現しないから安心」と「だから繰延税金資産は立たない」は同じことの裏表です。

12-2. 基準の建て付け

  • 原則(第38項):その他有価証券の評価差額は個々の銘柄ごとにスケジューリング。売却時期を見込めれば(スケジューリング可能なら)評価差損銘柄について普通に計上を判断できる。
  • 持ち切り=スケジューリング不能(第39項):売却時期が定まらないため純額で見る。純額の評価差損に係る繰延税金資産は原則、回収可能性なし。
  • ただし書きの例外(第39項):その他有価証券は随時売却でき長期的には売却が想定される資産なので、他のスケジューリング可能な一時差異の解消額を加減した額に基づいて見積もる場合には回収可能性を認める。つまり他の将来減算一時差異や将来課税所得で吸収できる範囲では、持ち切りでも一定額は計上できる。
  • その代わりの制約(第40項):この純額処理では、その有価証券自身の売却損益を将来課税所得の見積りに含めてはならない。持ち切ると言う以上、その国債自身の売却は当てにできない、という筋の通った制約です。

12-3. 本当に「ダメ」なのは論理矛盾

禁止されているのは計上そのものではなく、矛盾した計上です。監査でも、評価に用いた仮定(持ち切る)と損金算入予定時期(売却して損金化)の間に矛盾があるのにスケジューリングの実行可能性を十分検討していない事例が指摘されています。「絶対に持ち切る」と言いながら「売却前提で含み損の全額を繰延税金資産化する」のは通りません。宣言が強いほど計上根拠は弱くなる、という関係です。

12-4. 信用金庫のケースへの当てはめ

  • 繰延税金資産化は禁止ではなく、基準の枠内で一定額は計上しうる。
  • ただし持ち切り宣言はスケジューリング不能化を招き、その国債自身の売却損益を回収原資にできない(第40項)ため、含み損の全額計上は原則できない。
  • 計上できるのは他のスケジューリング可能な差異や将来課税所得で吸収できる範囲まで。分類3で5年・分類4で1年・分類5でゼロの頭打ちも重なる。
  • 残存年数の長さや高額な含み損は、吸収余地をさらに狭める方向に働く。

第Ⅴ部 決算インパクト編

13. 【計算例】含み損から損切りまで、純資産はどう動くか

第8章のA国債(取得原価300・含み損100)を損切りする場面で、回収可能性の有無により結末がどう変わるかを見ます。実効税率30%。

13-1. ケースA:健全な金庫(回収可能性あり・分類1〜2相当)

将来十分な黒字が見込めるので、損の節税効果を織り込めます。

  • 損切りによる実現損:100
  • 節税効果(=繰延税金資産の実現):30(=100×30%)
  • 税引後の実質的な損:70

保有中(未実現)の段階で、純資産は既にその他有価証券評価差額金で▲70になっています。損切りしても、その▲70が評価差額金から繰越利益剰余金へ引っ越すだけで、純資産トータルは▲70のまま(第8章8-4)。クッション30が効いて、100の含み損が純資産ベースでは70の痛みに収まっている、という姿です。

13-2. ケースB:不振の金庫(回収可能性なし・分類4〜5相当)

例年の利益が乏しく欠損金が累積し、将来の黒字が見込めない金庫。

  • 損切りによる実現損:100
  • 節税効果:0(回収可能性なしで繰延税金資産が立たない)
  • 税引後の実質的な損:100(=純資産の減少も約100)

さらに含み損の段階でも、本来なら評価差額金を圧縮していたはずの繰延税金資産30が立たないため、保有中から純資産は▲100(▲70ではなく)まで沈んでいます。健全ケースより約30だけ余計に純資産が削られる――これが「回収可能性がないとクッションが外れる」ということです。

13-3. その他有価証券ならではの注意(純資産直入の効き方)

  • 未実現の含み損でも、純資産は既に減っている(評価差額金経由)。「まだ売っていないから純資産は無傷」ではありません。
  • 損切りそのものは純資産総額をさらに減らすわけではない(回収可能性ありなら引っ越しのみ)。ただし損がP/Lに出るため、当期純利益・剰余金・自己資本比率(コア資本)・配当計算上の扱いが変わります(第Ⅵ部)。
  • 回収可能性が崩れた瞬間が本当の痛手。評価差額金に対応して立てていた繰延税金資産を取り崩すと、純資産がさらに削られます(第15章)。

教訓:繰延税金資産のクッションは「将来の黒字が見込める金庫」にしか働かない。含み損を抱える不振局面ほど、そのクッションが外れやすい。


14. よくある誤解 ―「税効果会計があるから大丈夫」は何が変か

現場でつい出がちなこの発言、5点で誤りを整理します。

  1. 税効果会計は損を「埋める」制度ではない。 タイミングのズレを調整して税引後利益・純資産を実態に合わせるだけで、損そのものは1円も減らない。
  2. クッションを生むのは税効果会計ではなく「実際の節税」。 損切りで課税所得が減り納税が減るから和らぐ。税効果会計はそれを前倒しで会計に映すだけ。因果が逆。
  3. 和らぐのは一部だけ。 税引後に残る損は「実現損×(1−実効税率)」。100なら約70は残る。3割和らぐだけ。
  4. 回収可能性がなければ効果はゼロ。 将来の黒字が見込めない金庫(分類4〜5)では繰延税金資産が立たず、クッションも効かない。「税効果会計があるから」という一般化がこの条件を見落としている。
  5. むしろ追い打ちのリスクすらある。 業績悪化で回収可能性が崩れると、過去に積んだ繰延税金資産を取り崩し、純資産は損失分に上乗せしてさらに減る(→ 第15章)。

結論:この発言は「税効果会計=損のセーフティネット」という誤解に立っている。正しくは、和らげるのは実際の節税効果であり、それも将来黒字が見込める範囲でしか働かず、和らぐのはせいぜい税率分、回収可能性が崩れれば逆に傷口を広げる。


15. 繰延税金資産の取り崩し ― 悪化局面の追い打ち

「これまで積んだ繰延税金資産を取り崩せば、純資産の減少を抑えられるのでは?」――これは逆です。取り崩しは純資産の減少を上乗せします。

繰延税金資産は計上時に純資産を押し上げています。取り崩す=「将来もう回収できない」と判断して消す作業なので、消した分だけ純資産が減ります。

  • 経路①(利益剰余金型)の取り崩し:法人税等調整額(費用)が借方に立ち、当期純利益と繰越利益剰余金を同額削る。
  • 経路②(評価差額金型)の取り崩し:その他有価証券評価差額金側で調整され、評価・換算差額等が減る。

【数値イメージ】不振金庫で当期純損失に加え、過去に積んだ繰延税金資産15を「もう回収できない」と取り崩すと、当期純利益はさらに▲15、純資産も同額減少。業績悪化時にこの取り崩しが追い打ちになるのが、実務で頻発する二段階の痛手です。


第Ⅵ部 配当・自己資本規制編

含み損は決算(純資産)だけでなく、配当と自己資本比率・早期是正措置にも波及します。しかも、その効き方は場所ごとに違います。ここが本改訂版で最も充実させた部分です。

16. 含み損と配当 ― 分配可能額・信用金庫法57条

16-1. 株式会社の場合(考え方の土台)

会社法では、株主への配当等は分配可能額を超えられません。分配可能額は剰余金(その他資本剰余金+その他利益剰余金)を基礎に算定します。その他有価証券評価差額金の扱いは非対称です。

  • プラス(評価差益):分配可能額に算入しない(未実現の利益を配当原資にしない)
  • マイナス(評価差損):分配可能額から控除する(会社計算規則158条)

理由は保守主義です。評価差額金は損益に計上されておらず剰余金そのものではありませんが、マイナス残高は会社財産の減少を示すため、社外流出(配当)を防ぐ観点から控除すべきとされています。評価益は配当に回せないが、評価損は配当余力を削る――含み損に厳しい非対称です。

16-2. 信用金庫の場合(信用金庫法57条)

信用金庫は株式会社ではないので会社法ではなく信金法が根拠ですが、結論は同じ方向です。信金法57条により、剰余金の配当は――

事業年度末日の純資産額から、出資の額・利益準備金・当該事業年度に積み立てるべき準備金・内閣府令で定める額を控除した金額を限度として行える

とされています。純資産額がベースなので、その他有価証券評価差額金のマイナス(含み損)は純資産額を直接押し下げ、配当限度額を圧迫します。実務でも各信用金庫が「剰余金がない場合などには配当がない」と明示しているとおりで、そもそも配当は剰余金がある場合に限られます。加えて信用金庫は非営利の協同組織で、出資配当率には定款上の上限もあります。

16-3. 繰延税金資産はここでクッションになる

純資産に載る評価差損は税効果控除後の純額です。A国債の例なら、含み損100に対し評価差額金は▲70(=100−DTA30)。信金法57条・会社計算規則いずれでも、配当限度から差し引かれるのはこの純額▲70です。

  • 繰延税金資産が立つ → 控除額は70に圧縮され、配当余力が30だけ守られる
  • 回収可能性がなくDTAが立たない → 評価差額金は▲100 → 配当余力が100まるごと削られる

つまり未実現の含み損でも配当余力は直接減り、その削られ方は繰延税金資産が立つかどうかで変わる、というのがこの章の核心です。


17. 含み損と自己資本比率・早期是正措置・業務停止命令

17-1. 早期是正措置とは

信用金庫法89条で準用する銀行法26条2項に基づき、自己資本比率が一定水準を下回ると監督上の措置が発動されます。国内基準金庫(多くの信用金庫)の区分は次のとおりです。

区分 国内基準の自己資本比率 主な措置
第1区分 2%以上4%未満 経営改善計画(資本増強を含む)の提出・実行
第2区分 1%以上2%未満 資本増強計画、配当・役員賞与の禁止又は抑制、総資産の圧縮・抑制等
第2区分の2 0%以上1%未満 自己資本の充実、大幅な業務縮小、合併、事業廃止等のいずれかを選択・実施
第3区分 0%未満 業務の全部又は一部の停止

自己資本比率0%未満(=コア資本がマイナス=債務超過相当)で第3区分に該当し、業務の全部又は一部の停止命令――これが「実質純資産がマイナスになると業務停止」に対応します。注目すべきは、配当・役員賞与の抑制がもっと手前の第2区分(1〜2%)で既に登場する点。業務停止よりずっと早い段階で配当は止まります。

17-2. 含み損は自己資本比率にどう効くか ― going concern では中立化

ここが重要かつ直感に反する点です。国内基準の通常の自己資本比率(コア資本)は、その他有価証券評価差額金をコア資本に算入しません(含み損益を中立化)。 国際統一基準行では含み損益がCET1に反映されて比率が振れますが、国内基準行は地域金融機関が多いことなどからこの振れを避け、含み損益を反映しない建て付けになっています。

→ したがって未実現のその他有価証券の含み損は、第1・第2区分の自己資本比率を直接は下げません。効いてくるのは、損切り・減損で損失が実現し、P/Lを通って利益剰余金=コア資本を削ったときです。

17-3. ただし第3区分(業務停止判定)では含み損を取り込む

一方、業務停止に関わる最も重い局面では話が変わります。早期是正措置の枠組みでは、国内基準でも損益ネット後が評価損の場合は国際統一基準と同様の取扱いとなり、税効果調整後の全額を自己資本(Tier1/コア資本)から控除します。その受け皿として、中小・地域金融機関向け監督指針のⅡ-2-1-6が「区分等を定める命令」第2条第2項に掲げる資産の評価基準を、Ⅱ-2-1-4が命令区分の根拠となる自己資本比率を定めています。

要するに、going concern(第1・第2区分)では中立化されている含み損が、業務停止に関わる区分判定(第3区分)では時価評価で取り込まれ、自己資本を押し下げる、という構造です。ご担当としての理解は「含み損は普段の自己資本比率には効きにくいが、いよいよ債務超過が問われる局面では容赦なく効いてくる」で正確です。

17-4. なぜ国内基準では中立化するのか ― 本家との対比

ここで一度、視点を上げておきます。同じ含み損を、国際統一基準行はなぜ資本に反映させ、国内基準行はなぜ中立化するのか。

国際統一基準行 国内基準行(信用金庫を含む)
対象 海外営業拠点を持つ銀行 海外営業拠点を持たない銀行・信用金庫等
その他有価証券の含み損益 CET1 に反映(市場の動きで比率が振れる) 通常の比率では中立化
最低比率 8% 4%

国際統一基準が含み損益を資本に反映させるのは、「市場が今どう評価しているかを、そのまま資本に映すべきだ」という考え方に立つからです。国際的な市場で資金を調達し、国境をまたいで営業する銀行にとって、市場の評価と規制上の資本が乖離していることは、それ自体がリスクとみなされます。

では、なぜ信用金庫には適用されないのか。 理由は2つあります。

  1. 規制の目的が違う。国際統一基準は、国境を越える波及の防止と、国際的な競争条件の平準化を目的としています。国内・地域に業務が限定された金融機関の破綻は、国際金融システムへの直接の波及が小さい。だから簡素で保守的な代替(コア資本・4%)が用意されています(→第0巻第13章、→第5巻第2章)。
  2. 有価証券の保有比率が高い業態で、比率が乱高下してしまう。国内基準行の多くは地域金融機関であり、余資を有価証券で運用しています(→第0巻第4章)。含み損益をそのまま反映させると、本業の実態と関係なく規制上の健全性が金利で振れる。それでは規制指標として使いにくいのです。

必ず押さえる位置づけ:国際統一基準は、信用金庫に適用されるものではありません。しかし、「未実現の含み損も自己資本の実力を左右する」という国際基準の考え方は、業界標準の"ものさし"として、国内の実務にも当局のモニタリングにも入り込んでいます。その最も鮮明な現れが、直前の 17-3 です ― いよいよ債務超過が問われる第3区分の判定では、国内基準もまた、国際統一基準と同じように含み損を時価で取り込みます。 中立化は「含み損は資本に効かない」という宣言ではなく、平常時の比率が金利で振れることを避けるための便法にすぎません。

だからこそ、第21章で扱う「見かけと実質の乖離」が生まれます。中立化された比率だけを見て健全だと判断することは、国際基準の"ものさし"を当てれば健全でないかもしれない、という可能性から目を背けることと同じです。

地域銀行ならどうか:海外拠点を持たない多くの地域銀行は、信用金庫と同じ国内基準・4%であり、中立化の扱いも同じです。ただし株式会社であるため、配当規制は会社法(分配可能額)によります。含み損が配当余力を削る経路(第16章)は、信用金庫法によるか会社法によるかという根拠の違いこそあれ、結論として「含み損は未実現でも配当を圧迫する」という点は共通です。

17-5. 用語の整理と注意

  • 第1〜第3区分は早期是正措置の区分です。これとは別に、区分によらないソフトなモニタリングとして早期警戒制度があり、収益性・安定性・資金繰り等の観点から早め早めの改善を促します。両者は別物です(両制度の全体像と発動の順序は →第6巻)。
  • 自己資本比率そのものの組み立て(コア資本に何が入り何が控除されるか、リスクアセットはどう計算するか、比率を上げる4つの方法)は →第5巻で扱います。本章は「含み損が自己資本比率にどう効くか」に絞っています。
  • 各区分での含み損の精緻な取り込み方(「第2区分までは入れず第3区分で時価評価する」という線引きの正確な条文適用)は、監督指針Ⅱ-2-1-6および「区分等を定める命令」第2条第2項の原文と、自金庫の自己資本比率計算実務で最終確認してください。バーゼルⅢ最終化に伴う技術的な調整・経過措置もあり得ます。

18. 繰延税金資産は配当と規制資本で正反対 ― 天井が2つある

繰延税金資産は、会計・配当の世界ではフルに味方するのに、自己資本比率規制の世界ではほとんど味方になりません。同じ資産なのに天井が2つある、という点を押さえます。

18-1. 配当(分配可能額)では ― フルに算入

分配可能額は剰余金ベース。繰延税金資産は利益剰余金(経路①)または評価差額金の圧縮(経路②)を通じて純資産を構成し、分配可能額の特別な控除項目にはなっていません(控除されるのはのれん等調整額・評価差損などで、DTAは対象外)。だからDTAは配当余力を丸ごと下支えします。

18-2. 自己資本比率(コア資本)では ― 厳しく制限

規制資本では逆です。

  • 繰越欠損金に係る繰延税金資産(将来の収益性に依存する部分):原則、コア資本から全額控除
  • 一時差異に係る繰延税金資産:モーゲージ・サービシング・ライツ等と合算してコア資本の15%までしか算入できず、超過分は控除

→ DTAは自己資本比率をほとんど下支えしません。

18-3. だから「会計の天井」と「規制の天井」は別物

会計・配当の世界 自己資本比率規制の世界
繰延税金資産の扱い フル算入(純資産・配当を下支え) 厳しく制限(欠損金由来は全額控除、一時差異由来も15%まで)
含み損(未実現)の扱い 純額で純資産・配当を直接削る going concern(第1・第2区分)では中立化。第3区分で時価取り込み

繰延税金資産を積んで会計上の純資産・配当余力を保っていても、規制資本ではその大半がカウントされない。業績不振で回収可能性が崩れれば、配当余力(会計)と自己資本比率(規制)を別々の経路で同時に削る――これが「天井が2つある」ことの実務的な怖さです。


19. 含み損の「3つの効き方」総まとめ

含み損(未実現)と、それに対応する繰延税金資産が、3つの場所にどう効くかを一枚に集約します。

効く場所 含み損(未実現)の効き方 繰延税金資産の効き方
①配当(分配可能額・信金法57条) 税効果控除後の純額で直接削る(未実現でも効く) フルに算入され、控除される純額を圧縮=配当余力を下支え
②自己資本比率(第1・第2区分) 中立化され直接は効かない(実現・減損で顕在化) 欠損金由来は全額控除・一時差異由来も15%上限=ほぼ下支えにならない
③自己資本比率(第3区分・業務停止判定) 時価評価で取り込まれ、税効果調整後の全額が自己資本から控除 ②と同様に規制上は限定的

流れとして押さえる:含み損が膨らむと、まず配当が止まり(未実現でも、しかも第2区分でも配当抑制)、業務停止まで至るのは実現損でコア資本が枯渇し、あるいは第3区分判定で含み損が取り込まれて自己資本比率が0%未満になったとき。効く順番は「配当 → 自己資本比率」で、含み損は配当にいちばん早く・直接効きます。


第Ⅶ部 損切りの意思決定編

ここまでの第Ⅰ〜Ⅵ部は、「含み損がどこに、どう効くか」という構造の理解でした。本部では、そこから一歩進んで、「では、損切りすべきなのか」という意思決定そのものを扱います。

実務で最も質問が多いのが、次の2つです。

  1. 巨額の実現損(損切り)を出しても、利回りの良い債券に入れ替えて収益が回復すれば、繰越欠損金で将来の税金を圧縮できるのか(第20章)
  2. 含み損を考慮する前は自己資本比率が高いのに、含み損を考慮すると悪化する、という現象はなぜ起きるのか(第21章)

そして最後に、この2つを含めた損切りの「三面」を一枚に並べます(第22章)。数値・税率・区分の前提は本編に合わせています(実効税率30%、信用金庫=国内基準・協同組合等)。


20. 損切り → 繰越欠損金 → 回復益で税金を圧縮できるか

20-1. 結論:成立する。それが繰越欠損金の本来の使い方

巨額の損切りでその年が税務上の赤字(欠損金)になれば、その欠損金を最大10年繰り越せます。翌年度以降、入れ替えた高利回り債券などで課税所得(黒字)が回復すれば、その黒字と繰越欠損金を相殺して、回復年度の税金を圧縮できます。信用金庫は協同組合等なので所得の100%まで相殺でき、大法人の50%制限がかからない点も有利です(第4章)。

20-2. 数値例(損切り → 入替え → 回復)

  • 当年:含み損のあるA国債を損切りし、実現損100を計上。本業の課税所得は+20。
    • → 当年の課税所得=20 − 100=▲80(繰越欠損金80が発生)。当年はもともと赤字なので納税ゼロ。
    • 損切りで回収した資金で、利回りの良い新しい債券に入れ替える。
  • 翌年度:入替え効果で課税所得が+50に回復。
    • → 繰越欠損金80のうち50を相殺 → 課税所得0、税金ゼロ。残る欠損金30。
  • 翌々年度:課税所得+50。
    • → 残欠損金30を相殺 → 課税所得20にだけ課税。欠損金は使い切り。
年度 本業+入替えの課税所得 繰越欠損金の使用 課税される所得 効果
当年 ▲80(損切り含む) ―(80を新規発生) 0 納税ゼロ(赤字)
翌年度 +50 50を相殺 0 税金ゼロ
翌々年度 +50 30を相殺 20 20分のみ課税

回復益80(=50+30)に本来かかるはずだった税金 80×30%=24が圧縮されました。これが「損切り→繰越欠損金→回復益で税圧縮」の姿です。

20-3. ただし押さえるべき前提が3つ

  1. 税金が減るのは「回復して黒字が出てから」。損切りした当年は赤字なのでもともと納税ゼロ。繰越欠損金は「将来の黒字が出て初めて価値を持つ」もので、収益回復が大前提です。これは第Ⅳ部で繰り返した回収可能性の話とそのまま重なります。
  2. 繰延税金資産が立つかは回復の確実性次第。将来の黒字回復が合理的に見込めれば、損切り年に対応する繰延税金資産(この例なら80×30%=24)を計上でき、税引後の純資産の目減りを和らげられます。逆に回復が不透明なら(分類4〜5)繰延税金資産は立たず、実現損がほぼ丸ごと純資産を削ります(第11章・第13章)。「利回りが上がるから回復する」という入替え計画は回収可能性を裏づける材料になり得ますが、その蓋然性を客観的に説明できることが条件です。
  3. 10年の期限と回復ペースの兼ね合い。欠損金は10年で期限切れです。年あたりの回復益が小さいと、大きな欠損金は使い切る前に一部が期限切れで消えます。上の例では2年で使い切りましたが、回復が遅れるほど「使い残し」のリスクが高まります。

💡 ここでつまずきやすい:「欠損金があるから将来は安心」

繰越欠損金は資産ではありません。貸借対照表には載らず、申告書の別表七で管理されるだけです(第3章・第6章)。しかも、使えるのは黒字が出た年だけ。つまり繰越欠損金の価値は、将来の稼ぐ力に100%依存しています。稼げなければ価値はゼロのまま10年で消えます。「欠損金が80あります」は「将来80の黒字を出せれば24の節税になります」という条件付きの見込みであって、手元にある財産ではない――この読み替えができるかどうかが、第Ⅳ部の回収可能性を本当に理解しているかの試金石です。

20-4. 入替えそのものの損得は「税」と別勘定で判断する

税務メリット(繰越欠損金による将来の税圧縮)は魅力ですが、それとは別に、含み損のある低利回り債を売って高利回り債に乗り換える判断は、新旧の利回り差・残存期間・信用リスク・金利見通しで経済合理性を評価すべきものです(債券の入替えの評価手順は →第8巻第10章)。

担当者の心得:「税金が圧縮できるから」だけで損切りを正当化しないこと。税メリットは入替えの採算を良くする一要素にすぎず、本筋は入替え後の総合的な採算です。順序としては「①入替えの経済合理性を評価 → ②そのうえで税・会計・規制への影響を確認」です。この順序は、益出しの場面(→第3巻第9章)でも、投信の解約(→第9巻第8章)でも、まったく同じように適用されます。順序を逆にした瞬間、それは数字合わせになります。

20-5. タイミングのズレに注意 ― 損は当年一括、税メリットは将来分散

同じ損切りでも、効き方の時間軸が違います。

  • 損失・純資産・自己資本比率への影響:損切りした当年に一括で出る(当期純利益・純資産を直接押し下げ、実現ベースで自己資本比率にも効く。第Ⅴ部、第17章)。
  • 税務メリット(繰越欠損金による税圧縮):回復年度以降に分散して、しかも黒字が出て初めて実現する。

つまり「痛みは先、メリットは後」。この非対称を理解しておくと、損切りの意思決定で「当年の自己資本比率・配当への打撃」と「将来の税メリット」を同じ土俵で混同せずに評価できます。


21. 「見かけの自己資本比率」と実質はなぜ乖離するか

21-1. なぜ「見かけ」と「実質」がズレるのか

第17章で見たとおり、国内基準の通常の自己資本比率(コア資本)は、その他有価証券の含み損益を算入しません(中立化)。含み損があっても、日々報告される自己資本比率にはそれが反映されず、比率は高いまま見えます。

ところが、業務停止に関わる最も重い局面(第3区分=自己資本比率0%未満)の判定では、時価評価で含み損を取り込み、税効果調整後の全額を自己資本から控除します。つまり――

  • going concern(第1・第2区分)の見かけの比率:含み損を中立化 → 高く見える
  • 第3区分(業務停止判定)の実質の比率:含み損を取り込む → 低い

この二本立てのために、「普段の比率は健全なのに、含み損を織り込むと一気に悪化する」という現象が起きます。会計上の純資産(含み損込み)と、規制上のコア資本(含み損を中立化)が別物であること――第18章で述べた「会計の天井と規制の天井は別物」の、自己資本比率版です。

💡 ここでつまずきやすい:「going concern」とは何か

直訳すれば「継続企業」、つまり事業を続けていく前提という意味です。会計・監督の世界では、「これからも営業を続ける前提で見るのか」「もう清算する前提で見るのか」で、資産の評価の仕方が変わります。第1・第2区分は「経営改善を促して立て直させる」局面なので継続前提(going concern)、第3区分は「もう債務超過ではないか」を問う局面なので、より清算に近い厳しい目線で時価を取り込む――そう理解すると、なぜ区分によって含み損の扱いが変わるのかが腹に落ちます。同じ資産でも、「続ける前提か、やめる前提か」で値段が変わる、というのは会計全体を貫く考え方です。

21-2. 数値例

ある信用金庫(国内基準、最低ライン4%)の状況を想定します。すべて単純化した仮の数字です。

前提

  • リスクアセット(分母):1,000
  • 表面のコア資本(含み損を中立化した通常の自己資本):60
  • その他有価証券の含み損(税効果控除後の純額):40
    (=含み損の額面がおよそ57、繰延税金資産約17を控除した純額。第8章の要領)

① 見かけの自己資本比率(通常の報告値)

含み損は中立化されるので、コア資本は60のまま。

自己資本比率 = 60 ÷ 1,000 = 6.0%(4%基準を上回り、健全に見える)

② 含み損を取り込んだ実質の自己資本比率(第3区分の判定イメージ)

税効果調整後の純額含み損40をコア資本から控除。

実質コア資本 = 60 − 40 = 20

実質自己資本比率 = 20 ÷ 1,000 = 2.0%

③ 含み損がさらに拡大したら

金利上昇などで含み損が純額60まで膨らむと――

実質コア資本 = 60 − 60 = 0 → 実質自己資本比率 = 0%(第3区分=業務停止のライン)

局面 コア資本 自己資本比率 早期是正措置の目線
見かけ(含み損中立化) 60 6.0% 健全(非対象)
実質(含み損40を取り込み) 20 2.0% 第1区分相当(経営改善計画)
含み損拡大(純額60) 0 0% 第3区分=業務の全部又は一部の停止

同じ金庫が、見かけ6.0%(優良に見える)でありながら、含み損を織り込むと2.0%、さらに含み損が膨らめば0%(業務停止ライン)まで滑り落ちうる、という姿です。

この設例は、シリーズ全体で最も繰り返し参照される計算です。第5巻(自己資本比率規制)、第6巻(早期是正措置)、第19巻(ストレステスト)は、いずれもこの「見かけと実質の乖離」を出発点にしています。

21-3. 損切りすると「中立化」が外れて比率に効いてくる

ここで第20章とつながります。含み損は未実現のうちは通常比率で中立化されていますが、損切り(実現)すれば損失がP/Lを通って利益剰余金=コア資本を削るため、中立化が外れて自己資本比率に反映されます。

  • 未実現のまま保有:見かけの比率は6.0%(高いまま)。ただし第3区分判定では2.0%相当の実力。
  • 損切りで実現:実現損がコア資本を直接削り、見かけの比率そのものが低下する。

つまり損切りは、第20章の「将来の税メリット」を得る行為であると同時に、それまで中立化で隠れていた含み損を、自己資本比率の表面に顕在化させる行為でもあります。ここでも「痛みは当年、メリットは将来」の非対称(第20章20-5)が効いてきます。

💡 ここでつまずきやすい:「損切りしたせいで比率が下がった」という因果の取り違え

表面の比率は確かに損切りによって下がります。しかし、経済的な毀損は含み損が生じた時点で既に起きていました(実質2.0%)。損切りは傷を作ったのではなく、すでにあった傷を、表面の比率に映しただけです。「損切りしなければ比率は高いままだった」のは事実ですが、それは実態が良かったからではなく、指標が実態を映していなかったからにすぎません。この因果を取り違えると、「損切りは避けるべきだ」という誤った結論に向かいます。

21-4. 売らずに資金化するという第三の道

第21-3で「損切りすれば中立化が外れる」と述べましたが、資金が必要だからといって、必ずしも売る必要はありません。

含み損のある国債は、売らずに担保として差し入れることで資金化できます。債券レポ(現金担保付債券貸借・現先)や、日本銀行への適格担保の差入れがそれにあたります。担保に入れるだけなら所有し続けているので、損失は実現しません。

道 損失の実現 自己資本比率への影響
①市場で売却する する 中立化が外れ、低下する
②債券レポで担保に入れる しない 影響なし
③日本銀行に適格担保として差し入れる しない 影響なし

ただし②③には前提があります。 平時からの契約関係と担保差入れの手続き、そして「あとどれだけ差し入れられるか」という担保余力の把握です。危機が起きてから始めることはできません。詳細は →第12巻第11章で扱います。

本章で持ち帰るべきこと:「含み損があって資金も必要」という局面で、選択肢は「売る」だけではない。売れば損が出る、担保にすれば損は出ない――この違いは、有事の意思決定を決定的に変えます。

21-5. 「見かけの健全性」の罠と担当者の心得

担当者・経営としての含意

  • 報告上の自己資本比率が4%を大きく上回っていても、多額の含み損を抱えていれば実力ベースの自己資本は大きく劣後しうる。見かけの比率だけで健全性を判断しない。
  • 含み損の規模は、「税効果控除後の純額でコア資本の何割に相当するか」という目線で常に把握しておく(この例なら40がコア資本60の3分の2に相当し、極めて重い)。
  • 金利が上昇局面にあるほど含み損は拡大し、「見かけ」と「実質」の差は開く。ストレス時に第3区分ラインまでの距離がどれだけ縮むかを平時から試算しておくことが、早期是正措置を回避する備えになる(→第19巻)。
  • 損切りによる実現・入替えは、税メリット(第20章)と引き換えに、隠れていた含み損を自己資本比率の表面に出す。実行のタイミングは、税・会計・自己資本比率の三面を並べて経営判断すべきもの。

22. 損切りの「三面」を並べて見る

損切りは、税・会計・規制の3つの面で、それぞれ違う時間軸で効きます。この三面を一枚で並べると、意思決定の全体像がつかめます。

面 損切りの効き方 時間軸
税務 実現損が欠損金となり、回復益と相殺して将来の税金を圧縮(信金は100%控除・10年) 将来に分散(黒字回復が前提)
会計(純資産) 実現損がP/Lを通り当期純利益・純資産を押し下げ。ただし含み損は未実現段階で純資産に織り込み済み(=損切りは引っ越し) 当年に一括(水準は含み損時点で反映済み)
自己資本比率(規制) 未実現では通常比率で中立化。損切り(実現)で中立化が外れ表面比率が低下。第3区分判定では時価で取り込み 当年に一括(実現・第3区分で顕在化)
flowchart TD
    A["損切り(実現)を実行する"]
    A --> B["【税務】実現損が繰越欠損金に<br/>→ 回復年度の黒字と相殺<br/>→ 将来に分散してメリット"]
    A --> C["【会計】実現損がP/Lを通る<br/>→ 当期純利益を押し下げ<br/>→ ただし純資産の水準は含み損時点で反映済み"]
    A --> D["【規制】中立化が外れる<br/>→ コア資本が削られ表面比率が低下<br/>→ 当年に一括で顕在化"]
    B --> E["メリットは将来・分散<br/>痛みは当年・一括"]
    C --> E
    D --> E
    style E fill:#fde,stroke:#c39

一言でいえば:損切り+高利回り債への入替えは、将来の税メリット(第20章)を取りにいく合理的な一手になり得るが、その代償として、それまで見かけの自己資本比率に隠れていた含み損(第21章)を当年に表面化させる。メリットは将来・分散、痛みは当年・一括という非対称を踏まえ、入替えの経済合理性を土台に、税・会計・規制の三面を並べて判断する――これが実務の勘どころです。

ここまでの筋(3行)

① 損切り→繰越欠損金→回復益による税圧縮は成立するが、将来の黒字が出て初めて価値を持つ。

② 通常の自己資本比率は含み損を中立化するため、見かけは高く、実質は低い。損切りはその差を表面化させる。

③ だから判断は「税だけ」「比率だけ」では下せない。三面を、時間軸の違いごと並べるしかない。


第Ⅷ部 まとめ

23. 信用金庫実務での留意点

  • まず区分を確認する:その銘柄が「その他有価証券」か「満期保有目的」か。含み損が純資産(評価差額金)に出るか、表に出ないかが分かれ、配当・自己資本比率への効き方も変わります。
  • 満期保有目的への区分は慎重に:含み損を表に出さずに済む一方、「満期まで保有する意図と能力」が要件で、正当な理由のない売却はタインティング(他の満期保有目的債券の強制振替)を招きます。金利見通し・流動性ニーズを踏まえた経営判断が必要です。
  • 「持ち切る」方針と繰延税金資産は緊張関係:含み損を繰延税金資産化する際、持ち切り方針を強く固めるほどスケジューリング不能となり、その銘柄自身の売却損益を回収原資にできず(第40項)、計上余地が狭まります。方針と税効果の前提が矛盾しないよう財務部門・監査法人と早めにすり合わせを(第12章)。
  • 回収可能性の分類は毎期の勝負どころ:含み損の拡大や本業不振で区分が下がると、繰延税金資産の取り崩しが決算を直撃します(第11章・第15章)。
  • 配当は業務停止よりずっと手前で止まる:早期是正措置の第2区分(自己資本比率1〜2%)で既に配当・役員賞与の抑制が入ります。含み損は配当余力を未実現でも直接削るため(第16章)、配当への影響がいちばん早く現れます。
  • 会計の天井と規制の天井は別物:繰延税金資産は会計・配当ではフル算入でも、コア資本では欠損金由来が全額控除・一時差異由来も15%上限(第18章)。会計上健全に見えても規制資本では脆い、という乖離に注意。
  • 含み損が自己資本比率に効くのは主に「実現」時と「第3区分」:国内基準の通常の自己資本比率は含み損を中立化しますが、損切り・減損で実現すれば、また業務停止に関わる第3区分判定では時価で取り込まれます(第17章)。
  • 損切りの判断は順序を守る:①入替えの経済合理性 → ②税・会計・規制への影響、の順。「税金が圧縮できるから」「目標に届くから」は理由になりません(第20章20-4)。
  • 売る前に、売らずに済む道を確認する:資金が必要なだけなら、債券レポや日本銀行への担保差入れで、損失を実現させずに資金化できます(第21章21-4、→第12巻第11章)。
  • 見かけの比率だけで健全性を判断しない:含み損の純額がコア資本の何割かを常に把握し、第3区分ラインまでの距離を平時から試算しておく(第21章、→第19巻)。
  • 最終判断は個別確認を:分類判定、自己資本比率上の取扱い、早期是正措置の区分適用は、個別事情・最新の法令・会計基準・監督指針で変わります。監査法人・税理士・自金庫の財務/自己資本管理部門に確認してください。

24. つまずきやすいポイント総まとめ

本テキスト全体で出てきた、初学者がつまずきやすい概念を一覧にしました。読み返す際のインデックスとして使ってください。

用語・概念 章 一言で言うと
会計と税務は別の世界 第1章 同じ取引でも、損を認めるタイミングが違う
まず区分を確認する 第2章 その他有価証券か満期保有目的かで、すべてが変わる
益金があっても欠損金は生まれる 第3章 ポイントは益金の有無ではなく、損金が益金を上回ったか
税務の100%控除と会計の回収可能性 第4章 「相殺してよい枠」と「そもそも黒字が見込めるか」は別物
繰延税金資産は「取り戻せる税金」 第5章 将来払う税金ではなく、将来払わずに済む税金
欠損金と繰延税金資産の違い 第6章 所得ベース(申告書)か、税額ベース(B/S)か
タイプAとタイプB 第7章 今の税金が増えているか、増えていないか
純資産直入なら税効果も純資産へ 第8章 元がP/Lを通らないなら、税効果もP/Lを通さない
未実現でも純資産は既に減っている 第8章 「まだ売っていないから無傷」ではない
損切りは「引っ越し」 第8章 評価差額金→利益剰余金。純資産の総額は動かない
タインティング 第9章 満期保有目的の安易な売却は、他の銘柄まで巻き添えにする
繰延税金資産の2つの経路 第10章 利益剰余金に入るか、評価・換算差額等に入るか
分類3以下で天井が落ちる 第11章 「差異の総量」の勝負から「何年分の課税所得か」の勝負へ
枠と元手は単位が違う 第11章 枠は課税所得ベース、元手は税効果後。直接比べない
見積り課税所得は3つのものさしで作る 第11章11-3 収益力・タックスプランニング・将来加算一時差異の解消見込み
「売れば積める」は誤り 第11章11-3 タックスプランニングは実行の意思決定の事実が要る。可能性だけでは不可
持ち切り宣言と繰延税金資産の緊張 第12章 強く宣言するほど、計上できる額は小さくなる
「税効果会計があるから大丈夫」 第14章 損は1円も減らない。和らぐのは税率分だけ
取り崩しは追い打ち 第15章 減らすどころか、純資産の減少を上乗せする
評価益は配当に回せず、評価損は配当余力を削る 第16章 保守主義による非対称
going concern と第3区分 第17章・第21章 「続ける前提」か「やめる前提」かで評価が変わる
中立化は「効かない」宣言ではない 第17章17-4 平常時の比率が金利で振れるのを避ける便法。第3区分では時価で取り込む
国際基準は"ものさし"として効く 第17章17-4 適用されない=無関係、ではない
天井が2つある 第18章 会計・配当ではフル算入、規制資本ではほぼ算入不可
繰越欠損金は資産ではない 第20章 B/Sに載らない。価値は将来の稼ぐ力に100%依存する
「損切りしたせいで比率が下がった」 第21章 傷は既にあった。損切りは表面に映しただけ
売らずに資金化する道 第21章 担保に入れれば損失は実現しない
痛みは当年・一括、メリットは将来・分散 第20章・第22章 損切りの意思決定を貫く非対称

25. まとめとセルフチェック

一枚でわかる全体像

  1. 会計と税務で損を認める年がズレる → 一時差異が生まれる
  2. 将来税金を減らせるものが将来減算一時差異。ただしP/Lを通る差異(貸倒引当金など)は今の税金を多く払い、その他有価証券の含み損は今の税金を増やさないという中身の違いがある
  3. それに実効税率を掛けたものが繰延税金資産。入る純資産は、P/L型なら利益剰余金、含み損型なら評価・換算差額等
  4. その他有価証券の含み損は全部純資産直入法で純資産(評価差額金)に直入。未実現でも純資産は既に減っている。損切りは「評価差額金→利益剰余金」への引っ越しで、純資産総額は(時価一定なら)変わらない
  5. 繰延税金資産の価値は回収可能性(分類1〜5)次第。分類3以下では「何年分の課税所得を当てにしてよいか」が天井になり、一時差異が課税所得に比べて大きい会社ほど早く落ちる。その枠の中身となる見積り課税所得は、①収益力 ②タックス・プランニング ③将来加算一時差異の解消見込みという3つのものさしで作る(第11章11-3)
  6. 満期保有目的なら含み損は表に出ない(減損時を除く)。ただしタインティングに注意
  7. 含み損は3つの場所に効く:①配当(純額で直接・未実現でも)②自己資本比率・第1/2区分(中立化)③自己資本比率・第3区分=業務停止判定(時価で取り込み)
  8. 繰延税金資産は会計・配当ではフル算入、規制資本ではほぼ算入不可。天井が2つある
  9. 損切りは繰越欠損金を通じて将来の税金を圧縮しうるが、それは将来の黒字が出て初めて価値を持つ(第20章)
  10. 通常の自己資本比率は含み損を中立化するため、見かけ6.0%の金庫が実質2.0%ということが起こる。損切りはその差を表面化させる(第21章)
  11. 資金が必要なだけなら、売らずに担保に入れて資金化する道がある。売れば損が出るが、担保にすれば出ない(第21章21-4)
  12. だから損切りの判断は、税・会計・規制の三面を、時間軸の違いごと並べるしかない。メリットは将来・分散、痛みは当年・一括(第22章)

セルフチェック(説明できますか?)

  • その他有価証券と満期保有目的で、含み損の出方がどう違うか説明できる
  • 益金があっても欠損金が生まれる理由、信用金庫が100%控除できる理由(協同組合等)を言える
  • 「税務の控除限度100%」と「会計の回収可能性」が別物だと説明できる
  • 将来減算一時差異のうち、P/Lを通る差異と含み損型の違い(今の税金が増えるか)を説明できる
  • その他有価証券の含み損の段階別仕訳(取得→期末→洗替→損切り)を書ける
  • 「未実現でも純資産は既に減っている」「損切りは引っ越し」の意味を説明できる
  • 繰延税金資産が入る純資産の2経路(法人税等調整額→利益剰余金/評価差額金)を区別できる
  • 分類4〜5で繰延税金資産がほぼ立たない理由、分類3→4で天井が落ちる理由(見積可能期間が5年→1年)を言える
  • 「課税所得ベースの枠」と「税効果後の元手」の単位の違いを説明し、小さい方を正しく選べる
  • 見積り課税所得を作る3つのものさし(収益力・タックス・プランニング・将来加算一時差異の解消見込み)を挙げられる
  • タックス・プランニングとして認められるために何が必要か(意思決定の事実)を説明できる
  • 持ち切り宣言が繰延税金資産の計上を難しくする理由(スケジューリング不能・第40項)を説明できる
  • 含み損が配当(分配可能額・信金法57条)を未実現でも削る仕組みを説明できる
  • 早期是正措置の区分(2%/1%/0%)と、業務停止が第3区分(0%未満)であることを言える
  • 含み損が国内基準の通常の自己資本比率では中立化され、第3区分判定では時価で取り込まれることを説明できる
  • 繰延税金資産が会計・配当と規制資本で正反対に扱われる(天井が2つ)ことを説明できる
  • 繰延税金資産の取り崩しが純資産の減少を増やす仕組みを説明できる
  • 損切り→繰越欠損金→回復益で税金が圧縮される流れを、3年分の表で書ける(第20章)
  • 「繰越欠損金は資産ではない」の意味を説明できる
  • 損切りの判断で守るべき順序(①経済合理性→②税・会計・規制)を言える
  • 「痛みは当年・一括、メリットは将来・分散」の非対称を説明できる
  • 見かけ6.0%の金庫が実質2.0%になる計算を、自分で再現できる(第21章)
  • going concern と第3区分で、含み損の扱いがなぜ変わるのか説明できる
  • 「損切りしたせいで比率が下がった」がなぜ因果の取り違えか説明できる
  • 含み損のある国債を、売らずに資金化する2つの道を挙げられる
  • 損切りの「三面」(税務・会計・規制)を、それぞれの時間軸とともに並べられる
  • 国際統一基準行が含み損益を資本に反映し、国内基準行が中立化する理由を、2つずつ挙げられる
  • 「国際基準は適用されないが"ものさし"として効く」ことを、第3区分の判定を例に説明できる

26. 用語集

用語 意味
会計(財務会計) 経営実態を正しく示すための計算体系。\(\text{収益} - \text{費用} = \text{利益}\)
税務(税務会計) 税金を公平に計算するための計算体系。\(\text{益金} - \text{損金} = \text{所得}\)
税効果会計 会計と税務のズレ(一時差異)を調整し、税引後利益を実態に合わせる会計処理
繰延税金資産(DTA) 将来減らせる(払わずに済む)税金の見込額を、いま資産として計上したもの
繰延税金負債(DTL) 将来加算一時差異から生じる、将来の税負担の見込額
一時差異 いつかは解消する、会計と税務の一時的なズレ。税効果会計の対象
永久差異 永久に埋まらないズレ(交際費の損金不算入部分など)。税効果会計の対象外
将来減算一時差異 解消する年に課税所得を減らすズレ。繰延税金資産を生む
将来加算一時差異 解消する年に課税所得を増やすズレ。繰延税金負債を生む
スケジューリング その一時差異がいつ解消するかを年度ごとに見積もる作業
一時差異等加減算前課税所得 一時差異を相殺に使う前の、素の課税所得。回収可能性判定で使う「黒字体力」
回収可能性 将来の課税所得により、繰延税金資産を実際に取り戻せる見込みがあるか
分類1〜5 回収可能性の判断枠組み。下にいくほど計上できる上限が下がる
収益力に基づく見積り 過去の実績(臨時要因を除く)から、経常的に見込める将来の課税所得を見積る方法
タックス・プランニング 含み益資産の売却など、意思決定さえすれば実行できる具体的な税務上の対策。実行の意思決定の事実が必要
欠損金(繰越欠損金) その事業年度で損金が益金を上回ったときのマイナスの所得。最大10年繰り越せる
協同組合等 税務上の法人区分。信用金庫はここに属し、繰越欠損金を所得の100%まで控除できる
その他有価証券 時価評価し、評価差額を純資産に直入する区分。信用金庫の運用の主力
満期保有目的の債券 償却原価で計上し、時価評価しない区分。含み損は表に出ない
全部純資産直入法 その他有価証券の評価差額を、損益を通さず全額純資産に計上する方法
その他有価証券評価差額金 上記により純資産に計上される評価差額。純資産の「評価・換算差額等」に入る
洗替法 期末の評価替えを翌期首に振り戻し、簿価を取得原価に戻す方法
減損 時価が著しく下落し回復見込みが不明な場合に、P/Lに評価損を計上する処理
タインティング 満期保有目的債券を正当な理由なく売却した場合に、他の同区分債券まで振替を強いられること
分配可能額 会社法上、配当等の上限となる額。評価差損は控除される
信用金庫法57条 剰余金の配当の限度額を、純資産額から所定の額を控除した範囲に定める規定
コア資本 国内基準の自己資本比率における自己資本の概念(→第5巻)
中立化 その他有価証券の含み損益をコア資本に算入しない取扱い
早期是正措置 自己資本比率が一定の区分に該当した場合に発動される法令に基づく監督上の措置
早期警戒制度 区分によらず、収益性・安定性等の観点から早期の改善を促す監督の枠組み(→第6巻)
going concern 継続企業。事業を続けていく前提で評価するという考え方
実質自己資本比率 含み損を織り込んだベースで試算した自己資本比率(本シリーズでの呼称)
実効税率 法人税・住民税・事業税を合わせた実質的な税率。本シリーズでは設例上30%に統一
債券5勘定尻 国債等債券の売却損益・償還損益・償却の合計(→第3巻)
債券レポ 債券を担保として資金を貸借する取引。売らずに資金化する手段(→第12巻)

27. 参考文献・出典

  • 企業会計基準委員会「金融商品に関する会計基準」および同適用指針(有価証券の区分・評価・減損)
  • 企業会計基準委員会「税効果会計に係る会計基準」および企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(分類1〜5、第38〜40項の持ち切りの取扱い。条項は原文で確認すること)
  • 法人税法および同施行令(繰越欠損金の繰越期間・控除限度額、協同組合等の取扱い。条番号は原文で確認)
  • 信用金庫法および同施行令・施行規則(剰余金の配当の限度額。57条ほか、条番号は原文で確認)
  • 会社計算規則(分配可能額の算定。評価差損の控除。条番号は原文で確認)
  • 自己資本比率規制に関する告示(コア資本の算入・控除項目、繰延税金資産の取扱い)
  • 「銀行法第26条第2項に規定する区分等を定める命令」第2条第2項(早期是正措置の区分と資産の評価基準)
  • 金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」Ⅱ-2-1-4、Ⅱ-2-1-6(自己資本比率と資産の評価基準。原文で確認すること)
  • 自金庫のディスクロージャー誌、有価証券運用規程、自己資本比率計算実務

本テキストは制度理解のための教育用資料です。本文中の金額・比率はすべて設例用に単純化した仮の数字です。実際の会計処理・分類判定・配当可能額の算定・自己資本比率上の取扱い・早期是正措置の適用は、個別事情や最新の法令・会計基準・監督指針により異なります。とくに自己資本比率の区分ごとの含み損の取り込み方(監督指針Ⅱ-2-1-6、「区分等を定める命令」第2条第2項)は原文と自金庫の計算実務で確認し、具体的な処理・判断は、自金庫の経理/財務/自己資本管理部門および監査法人・税理士に必ずご確認ください。

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