第7巻 ALM入門 ― 資産負債総合管理と銀行勘定の金利リスク(IRRBB)

― 「運用」と「調達」を別々に見てはいけない理由

対象読者:信用金庫のリスク管理部門・資金証券部門で、ALM を担当することになった方。ALM委員会の資料を作れと言われたが、そもそも ALM が何を管理しているのかがつかめていない、という段階を想定しています。

ねらい:金利が動いたとき、自金庫の何が、どれだけ、いつ傷むのかを、経済価値(ΔEVE)と収益(ΔNII)という2つの物差しで測れるようになること。そして、その数字を委員会でどう提示するかまで持ち帰ること。

このテキストの特徴:数式を最小限にし、「なぜ2つの物差しが必要なのか」「なぜ普通預金の満期を自分たちで決めなければならないのか」という、ALM 固有の難所に紙幅を割きます。債券1本ごとの計算技術は →第8巻に譲ります。

既刊との接続:金利上昇で生じた含み損の会計・規制上の扱いは →第1巻。預金の流出と粘着性は →第2巻(とくに第2章・第4章)。分母が金利リスクを数えないという論点は →第5巻第8〜9章。委員会体制は →第0巻第10章・第2巻第1.1節。


全体マップ(この一枚で流れがつかめます)

flowchart TD
    R["金利が動く(たとえば+1%)"]
    R --> A["【経済価値への影響】ΔEVE<br/>「今ある資産・負債の現在価値がいくら減るか」<br/>長期・固定の資産ほど痛い<br/>満期まで持てば実現しない…が純資産には出る(→第1巻)"]
    R --> B["【収益への影響】ΔNII<br/>「これから1〜3年の資金利益がいくら減るか」<br/>変動金利・短期の調達ほど痛い<br/>来期のP/Lに直接出る(→第3巻の資金利益)"]
    A --> C["両方を測るのは、痛みの「深さ」と「速さ」が別だから"]
    B --> C
    C --> D["測るための3つの道具<br/>①ギャップ分析(第5章) ②デュレーション(第6章)<br/>③コア預金モデル(第8章)←ALM最大の難所"]
    D --> E["重要性テスト(第10章)<br/>ΔEVEがコア資本の一定割合を超えたら当局が着目"]
    E --> F["ALM委員会で何を決めるか(第12章)"]
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目次

第Ⅰ部 基礎編 ― ALMとは何か

  1. なぜ「運用」と「調達」を別々に見てはいけないのか
  2. 銀行勘定と特定取引勘定 ― 信用金庫が扱うのはどちらか
  3. 金利リスクの4つの顔

第Ⅱ部 測り方編 ― 2つの物差しと3つの道具

  1. ΔEVE と ΔNII ― 深さの物差しと速さの物差し
  2. ギャップ分析 ― 最初に手を動かす道具
  3. デュレーションと BPV ― 感応度を1つの数字にする
  4. 金利ショックのシナリオ ― 平行移動だけでは足りない

第Ⅲ部 難所編 ― コア預金

  1. 満期のない預金に満期を与える ― コア預金モデル
  2. コア預金の置き方が結論をひっくり返す

第Ⅳ部 規制編

  1. 重要性テスト ― 国内基準ではコア資本の何割か
  2. 国際統一基準行の IRRBB と、なぜ国内は資本賦課に直結しないのか

第Ⅴ部 実務編

  1. ALM委員会で何を決めるのか ― 資料の作り方
  2. 【設例】金利1%上昇で、この金庫はどうなるか

第Ⅵ部 まとめ

  1. 実務での留意点
  2. つまずきやすいポイント総まとめ/セルフチェック/用語集

第Ⅰ部 基礎編 ― ALMとは何か

1. なぜ「運用」と「調達」を別々に見てはいけないのか

ALM(Asset Liability Management、資産負債総合管理)とは、資産(運用)と負債(調達)を一体として管理する枠組みです。定義としてはこれだけですが、新任担当者にとっての難所は「なぜ一体でなければならないのか」が腹落ちしないことにあります。

理由は、金利リスクが資産と負債の"差"からしか生じないからです。

単純な例で確認します。すべて単純化した仮の数字です。

ケースA:期間が揃っている

  • 5年固定・利回り1.5%の貸出を100
  • 5年固定・利息0.1%の定期預金で100を調達

このとき、市場金利が何%動こうと、この金庫の利ざや1.4%は5年間変わりません。資産と負債が同じ方向に同じだけ動くので、差し引きの影響はゼロです。金利リスクはありません。

ケースB:期間がずれている

  • 10年固定・利回り1.5%の国債を100
  • 普通預金(いつでも引き出せる、金利はほぼ0%)で100を調達

今の利ざやは同じ1.5%です。しかし市場金利が2%上昇したら何が起きるでしょうか。国債の利回りは1.5%のまま動きません(固定だから)。一方、預金は他行に流れないよう金利を引き上げざるを得ません。運用は動かないのに、調達コストだけが上がる。 利ざやは潰れます。同時に、国債の時価は下落し、含み損が発生します(→第1巻)。

ケースA ケースB
今の利ざや 1.4% 1.5%
金利+2%後の利ざや 1.4%(不変) 潰れる
国債の含み損 ― 発生

同じ利ざやなのに、リスクはまったく違う。 そして、この違いは資産だけを見ても、負債だけを見ても分かりません。両方を並べて初めて見える。だから ALM なのです。

⭐ポイント⭐:「利ざやは損益計算書に見えるが、期間のずれは損益計算書に見えない」。P/L だけを見ている限り、ケースAとケースBは区別がつきません。

信用金庫にとって、これは他人事ではありません。第0巻第4章で見たとおり、信用金庫には「集めた預金を地区内の貸出で使い切れず、余資が長期の債券に向かう」という構造があります。

調達は短く(要求払い預金)、運用は長く(長期国債) ― これは、まさにケースBそのものです。

信用金庫の ALM が本部業務の中心に据えられる理由が、ここにあります。

2. 銀行勘定と特定取引勘定 ― 信用金庫が扱うのはどちらか

金利リスクを議論するとき、まず区別すべきなのが銀行勘定と特定取引勘定(トレーディング勘定)です。

特定取引勘定 銀行勘定
目的 短期の売買益を狙う 期間収益・流動性確保のため保有
保有期間 短い 長い
会計 時価評価・損益は P/L 満期保有目的またはその他有価証券(→第1巻第2章)
規制 マーケットリスク規制(FRTB 等) IRRBB の枠組み

信用金庫は通常、特定取引勘定を設けません(→第5巻第10章)。したがって信用金庫の金利リスクは、そのほとんどすべてが銀行勘定の金利リスクです。これを国際的な用語で IRRBB(Interest Rate Risk in the Banking Book) と呼びます。

💡 ここでつまずきやすい:「売買しないなら金利リスクはない」という誤解

トレーディングをしないから金利リスクがない、ということにはなりません。むしろ逆で、長く持つからこそ金利リスクは大きくなります。10年持つ債券は、1日で売る債券よりはるかに金利変動の影響を受けます。トレーディング規制の対象外であることと、金利リスクがないことは別問題です(→第5巻第10章の「規制の対象外であることと、リスクがないことは別」)。

3. 金利リスクの4つの顔

「金利リスク」と一言でいっても、実は複数の異なる現象が含まれています。実務では次の4つに分けて考えます。

顔 内容 信用金庫での典型例
①ギャップ・リスク(期日のずれ) 資産と負債で金利の見直し時期がずれることによるリスク 長期国債を要求払い預金で調達している状態
②ベーシス・リスク 参照する金利の種類が違うことによるリスク 市場金利は上がったが、預金金利は連動して上がらない/遅れて上がる
③オプション性リスク 顧客や取引相手が持つ選択権によるリスク 定期預金の中途解約、住宅ローンの繰上返済、仕組預金の期限延長条項(→第13巻)
④イールドカーブ・リスク 金利の期間構造の形が変わることによるリスク 短期金利だけが上がる(フラット化)など

このうち、信用金庫の実務で見落とされやすいのが②と③です。

②について。「市場金利が1%上がったら、預金金利も1%上げる」という前提でシミュレーションすると、実態と合わないことがあります。実際には、普通預金の金利は市場金利の変動をそのまま反映せず、遅れて、部分的にしか動きません。この反映のされ方(パススルー率)をどう置くかで、ΔNII の結果は大きく変わります。

③について。顧客が持っている選択権は、必ず金庫に不利なタイミングで行使されます。金利が上がれば預金者は中途解約して高い金利に乗り換えたくなり、金利が下がれば借入人は繰上返済して低い金利に借り換えたくなる。どちらに動いても金庫が損をするという非対称が、オプション性リスクの本質です。

⭐ポイント⭐:「顧客のオプションは、いつも金庫の逆を突く」。だからオプション性は、必ず保守的に見積もります。

ここまでの筋(3行)

① 金利リスクは資産と負債の"差"から生じるので、両方を並べないと見えない。

② 信用金庫は特定取引勘定を持たず、金利リスクのほぼすべてが銀行勘定(IRRBB)にある。

③ 金利リスクにはギャップ・ベーシス・オプション性・イールドカーブの4つの顔があり、②③は見落とされやすい。

次の部では、これを測る物差しと道具を扱います。


第Ⅱ部 測り方編 ― 2つの物差しと3つの道具

4. ΔEVE と ΔNII ― 深さの物差しと速さの物差し

IRRBB の管理では、2つの指標を必ずセットで見ます。

指標 正式名称 測るもの 時間軸
ΔEVE 経済価値の変動額(Economic Value of Equity の変化) 今ある資産・負債の現在価値が、金利ショックでいくら変わるか 満期までの全期間を一度に評価
ΔNII 期間収益の変動額(Net Interest Income の変化) これから1〜3年程度の資金利益が、金利ショックでいくら変わるか 短期(通常1〜3年)

なぜ2つ必要なのか。 一言でいえば、痛みの「深さ」と「速さ」は別物だからです。

例で確認します。10年固定・利回り1.5%の国債を保有している金庫に、金利が1%上昇したとします。

  • ΔEVE の見方:この国債の現在価値は大きく下落します。10年分の将来キャッシュフローを、より高い金利で割り引くからです。深い痛みがここで一気に計上されます。
  • ΔNII の見方:この国債は固定利回り1.5%を受け取り続けるので、来期の受取利息は1円も変わりません。一方、調達側の預金金利が上がれば、そちらだけ費用が増える。痛みはじわじわと、しかも調達側から来ます。
ΔEVE ΔNII
10年固定国債の保有 大きくマイナス(現在価値が下落) ほぼ影響なし(受取利息は固定)
要求払い預金での調達 (コア預金の置き方次第。第8章) マイナス(調達コストが上昇)
変動金利貸出 ほぼ影響なし プラス(受取利息が増える)

⭐ポイント⭐:「ΔEVE は深さ、ΔNII は速さ」。片方だけを見ると、必ず判断を誤ります。

💡 ここでつまずきやすい:「満期まで持てば損しないから ΔEVE は無視してよい」

実務でよく聞く主張ですが、2つの点で不正確です。第一に、満期まで持つつもりでも、純資産は今すぐ減ります。その他有価証券なら評価差額金が動き、配当余力を削ります(→第1巻第16章)。第二に、満期まで持てるかどうかは、資金繰りが許すかどうかで決まります。預金が流出すれば、持つつもりだった債券を売らざるを得ません(→第2巻)。「持ち切るつもり」は意図であって、能力の保証ではありません(→第1巻第9章のタインティング、第12章の持ち切りと繰延税金資産の緊張関係)。

5. ギャップ分析 ― 最初に手を動かす道具

最も基本的で、最初に作るべき資料が金利感応度ギャップ分析です。資産と負債を金利の見直し時期(リプライシング期日)ごとの期間帯(バケット)に並べ、その差を見ます。

【設例】ある信用金庫のギャップ表(単純化した仮の数字、単位:億円)

期間帯 資産 負債 ギャップ(資産−負債) 累積ギャップ
3ヶ月以内 300 1,800 ▲1,500 ▲1,500
3ヶ月〜1年 400 300 +100 ▲1,400
1〜3年 700 400 +300 ▲1,100
3〜5年 900 300 +600 ▲500
5年超 1,200 200 +1,000 +500
(金利感応なし) 500 1,000 ▲500 0
合計 4,000 4,000 0 ―

読み方。この金庫は、短期(3ヶ月以内)で大幅なマイナスギャップ(負債のほうが多い)、長期でプラスギャップ(資産のほうが多い)を抱えています。これは典型的な地域金融機関の姿で、意味は明快です。

短期で調達し、長期で運用している。金利が上がると、調達コストが先に上がり、運用利回りは後からしか上がらない。

つまりこの金庫は、金利上昇に弱い構造です。

💡 ここでつまずきやすい:「金利感応なし」に何を入れるか

上の表で目を引くのが、負債側の「金利感応なし」1,000です。ここに普通預金をどれだけ入れるか ― つまり「普通預金は金利が動いても出ていかない安定調達だ」とどれだけ言い切るかが、ギャップ表の結論を左右します。これがコア預金の問題(第8章)です。ギャップ分析は道具として単純ですが、単純だからこそ、前提の置き方が結果のすべてを決めます。

ギャップ分析の限界も押さえておきます。バケットの中では期日の分布を無視しますし(3〜5年のバケットに、3年1ヶ月のものと4年11ヶ月のものが同居する)、金利の平行移動しか扱えず、オプション性も表現できません。だから次の道具が必要になります。

6. デュレーションと BPV ― 感応度を1つの数字にする

ギャップ表は全体像を示しますが、「で、金利が1%上がったらいくら損するのか」という問いには直接答えません。それに答えるのがデュレーションと BPV です。

デュレーションは、大づかみには「その資産の実質的な平均回収期間」であり、同時に「金利が1%動いたときに、価格が何%動くか」を表す感応度です。

\[\text{価格の変化率} \approx -\,\text{デュレーション} \times \text{金利の変化幅}\]

たとえばデュレーション7年の債券は、金利が1%上昇すると価格が約7%下落します。残存期間が長いほど、クーポンが低いほど、デュレーションは長くなります。

BPV(ベーシス・ポイント・バリュー)は、これを金額で表したものです。金利が0.01%(1ベーシス・ポイント)動いたときの価格変化額を指します。

\[\text{BPV} \approx \text{保有額} \times \text{デュレーション} \times 0.0001\]

【設例】(単純化した仮の数字)

保有額1,000億円、デュレーション7年の債券ポートフォリオ。

金利変動 価格変化率 価格変化額
+0.01%(1bp) ▲0.07% ▲0.7億円(= BPV)
+1.00%(100bp) ▲7.0% ▲70億円

一言まとめ:この金庫は、金利が1%上がると70億円の含み損を抱える。 BPV 0.7億円という1つの数字を握っておけば、金利がいくら動いたときにいくら傷むかを即座に暗算できます。だから ALM 担当者は BPV を日常の管理数値として使います。

計算の詳細(利回りと単価の関係、コンベキシティによる誤差、ラダー/バーベル/ブレットといったポートフォリオ構築の考え方)は →第8巻で扱います。本巻では「デュレーションは感応度、BPV はその金額表示」という位置づけだけ持ち帰ってください。

7. 金利ショックのシナリオ ― 平行移動だけでは足りない

「金利が1%上がったら」と考えるとき、暗黙に置いているのはイールドカーブ全体が平行に上へ動くというシナリオです。しかし現実の金利は、期間ごとにばらばらに動きます。

そこで IRRBB の枠組みでは、複数の金利ショック・シナリオを当てることが一般的です。典型的には次のような組み合わせです。

シナリオ 動き方 どんなときに効くか
平行上昇 全期間が上へ 長期資産を持つ金庫に最も痛い
平行低下 全期間が下へ 貸出利回りが下がり、預金金利は下げ余地がない(→利ざや圧縮)
スティープ化 短期は下がり、長期は上がる 長期資産の含み損
フラット化 短期は上がり、長期は下がる 短期調達コストの上昇
短期金利上昇 短期だけ上へ 要求払い預金で調達している金庫に直撃
短期金利低下 短期だけ下へ ―

💡 ここでつまずきやすい:「金利低下シナリオは good news だ」という思い込み

金利が下がれば債券の含み益が増えるので、ΔEVE では有利に出ます。しかし ΔNII では逆で、貸出の利回りは下がるのに、預金金利はすでにほぼ0%で下げ余地がないため、利ざやが圧縮されます。これが長く続いたのが、日本の地域金融機関が経験してきた低金利環境です。ΔEVE と ΔNII で結論が逆になるシナリオがある ― これが、2つの物差しを必ず併記すべき最大の理由です。

具体的なショック幅(何%動かすか)は、通貨や規制の枠組みによって定められています。適用すべき数値は最新の告示・監督指針で必ず確認してください。 ここに数値を暗記して持ち込むのは危険です。

ここまでの筋(3行)

① ΔEVE は痛みの深さ、ΔNII は痛みの速さ。片方だけでは判断を誤る。

② ギャップ分析で全体像を、デュレーション・BPV で感応度を金額にする。

③ ショックは平行移動だけでなく複数のシナリオで当てる。金利低下も good news とは限らない。

次の部では、ALM 最大の難所であるコア預金に入ります。


第Ⅲ部 難所編 ― コア預金

8. 満期のない預金に満期を与える ― コア預金モデル

ここが ALM の最大の難所であり、担当者の腕が最も問われるところです。

問題設定は単純です。普通預金には満期がありません。 契約上、預金者はいつでも全額を引き出せます。では、ギャップ表のどの期間帯に入れればよいのでしょうか。

選択肢①:全額を「3ヶ月以内」に入れる。 契約に忠実な扱いです。しかしこれは実態と大きく乖離します。普通預金の残高は、実際には何年も安定して滞留しています。給与振込口座の残高が明日全額引き出される、ということは現実には起きません。この扱いをすると、金庫は実際より遥かにリスキーに見えます。

選択肢②:実態に即して、長期の期間帯に配分する。 より現実的です。しかし、「何年の満期とみなすか」を自分たちで決めなければなりません。ここに恣意性が入り込みます。長い満期を置けば置くほど、金利リスクは小さく見えるからです。

この、「契約上は満期がないが、実際には長期間滞留している預金」を、一定のルールで長期の固定金利負債とみなしたものがコア預金です。

⭐ポイント⭐:「契約の満期と、実質の満期は別物」。第2巻第3.5節の「実効残存期間」と同じ発想が、ここでも効いています。

コア預金の置き方の考え方。恣意性を防ぐため、実務では上限を設ける形でルール化されます。標準的なアプローチの発想は、次のような複数の基準のうち最も小さい額をコア預金とする、というものです。

  1. 過去の一定期間における最低残高
  2. 現在の残高から、過去の一定期間における最大の年間流出額を差し引いた額
  3. 現在の残高の一定割合(半分程度など)

そのうえで、みなす満期にも上限(平均残存年数・最長年数)が設けられます。

具体的な期間・割合・年数の基準値は、適用される枠組み(標準的な手法によるか、内部モデルによるか)と最新の告示・監督指針で必ず確認してください。 本テキストの目的は、「なぜ上限を設けるのか」を理解してもらうことにあります。理由は明快で、コア預金を長く置けば置くほど金利リスクは小さく計測されるため、放っておくと際限なく長く置きたくなるからです。上限は、その誘惑への歯止めです。

担当者の心得:コア預金の前提を変更するときは、変更の理由と、変更前後で ΔEVE がどう変わったかを必ずセットで委員会に示してください。前提変更だけでリスク量が半減する、ということが実際に起こり得ます。数字が良くなった理由が「実態が改善したから」なのか「前提を変えたから」なのかを区別できない資料は、経営を誤らせます。ここは監査・検査でも必ず問われるところです。

9. コア預金の置き方が結論をひっくり返す

第8章の議論を、数字で体感します。すべて単純化した仮の数字です。

前提:ある信用金庫。要求払い預金の残高2,000。資産側は、平均デュレーション5年の債券・貸出を3,000保有。金利ショックは+1%の平行上昇。

ケースX:要求払い預金をすべて「金利感応あり・短期」として扱う

  • 資産側の経済価値の減少:3,000 × 5年 × 1% = ▲150
  • 負債側の経済価値の減少:短期扱いなのでほぼ 0
  • ΔEVE ≒ ▲150

ケースY:要求払い預金のうち1,200をコア預金(平均残存2.5年の固定金利負債)とみなす

  • 資産側の経済価値の減少:▲150(同じ)
  • 負債側:コア預金1,200の経済価値も、金利上昇で減少する。1,200 × 2.5年 × 1% = ▲30
    (負債の価値が減ることは、金庫にとっては有利に働きます。返すべきものの現在価値が減るからです)
  • ΔEVE ≒ ▲150 + 30 = ▲120
ケースX(コア預金なし) ケースY(コア預金1,200)
資産側 ▲150 ▲150
負債側の相殺効果 0 +30
ΔEVE ▲150 ▲120
コア資本を150と仮定した場合の比率 100% 80%

一言まとめ:資産のポジションは1円も変えていないのに、コア預金の置き方だけで ΔEVE が2割も変わりました。 これがコア預金モデルの怖さです。

💡 ここでつまずきやすい:「負債の価値が減るのは有利」が直感に反する

金利が上がると、金庫が抱える固定金利の負債(コア預金とみなした部分)の経済価値も下がります。「借金の価値が下がる」というのは日常感覚に反しますが、将来ほぼ無利息で返せばよいお金を抱えているのは、金利が高い世界ではむしろ有利だと考えれば納得できます。ΔEVE は資産と負債の両方の現在価値変動を差し引きするので、負債側の減少はプラスに働くのです。ただし、これが本当に成立するのは、その預金が実際に長期間滞留する場合だけです。金利が上がった瞬間に預金者が高金利の他行商品へ移してしまえば(→第2巻)、この相殺効果は幻に終わります。コア預金の妥当性は、流動性リスクの想定と一貫していなければなりません。

担当者の心得(この巻で最も重要):ALM の前提は、流動性リスクの前提と矛盾していないかを必ず確認してください。 ALM の資料で「普通預金は長期安定調達だからコア預金として長く置ける」と主張しながら、流動性リスクの資料では「ストレス時に普通預金は30%流出する」と置いている ― この2つが同じ委員会に別々の資料として出てくることは、実務で本当に起こります。同じ預金について、2つの部署が正反対の前提を置いているわけです。担当者はこの整合性を点検する立場にあります(→第2巻第4.2節)。

ここまでの筋(3行)

① 満期のない預金にみなし満期を与えるのがコア預金モデルで、ALM 最大の難所。

② 長く置くほどリスクは小さく計測されるため、上限のルールが設けられている。

③ コア預金の置き方だけで ΔEVE は大きく変わる。流動性リスクの前提との整合性が生命線。

次の部では、この ΔEVE を当局がどう見ているかを扱います。


第Ⅳ部 規制編

10. 重要性テスト ― 国内基準ではコア資本の何割か

計測した金利リスク量は、自己資本との対比で評価されます。金額の絶対値だけでは大きいのか小さいのか判断できないからです(→第5巻第1章の「なぜ比率か」と同じ発想です)。

この枠組みが重要性テスト(アウトライヤー基準)です。金利ショックによる経済価値の低下額(ΔEVE)が、自己資本の一定割合を超える場合に、当局が重点的にモニタリングするという建て付けになっています。

国際統一基準行 国内基準行(信用金庫を含む)
分母となる自己資本 Tier1 コア資本
閾値 15% 20%

上記は広く知られた枠組みですが、適用される具体的な基準・計測方法(ショック幅、コア預金の扱い、対象範囲)は最新の告示・監督指針で必ず確認してください。

閾値を超えたらどうなるのか。 ここが極めて重要です。超えたからといって、直ちに自己資本の積み増しが義務づけられるわけではありません。 超過は「当局が詳しく見る対象になる」ことを意味し、対話・モニタリングを通じて改善が求められます。

⭐ポイント⭐:「自己資本比率は落ちたら措置、金利リスクは超えたら対話」。ルールの厳しさの性格がまったく違います。

なぜこうなっているのか。理由は、金利リスクの計測が前提に大きく依存するからです。第9章で見たとおり、コア預金の置き方1つで ΔEVE は2割も動きます。そのような数字を機械的に自己資本賦課に結びつけると、前提の置き方で所要自己資本が決まってしまうという不合理が生じます。だから金利リスクは、自己資本比率の分母(第1の柱)ではなく、監督上の検証プロセス(第2の柱)で扱うというのが国際的にも共通の整理です。

これが、第5巻第8章で述べた「分母は信用リスクを数え、金利リスクを数えない」ことの裏返しです。数えていないのではなく、別の枠組みで見ているのです。

11. 国際統一基準行の IRRBB と、なぜ国内は資本賦課に直結しないのか

本家では何をしているか。バーゼル委員会の IRRBB の枠組みでは、6種類の金利ショック・シナリオによる ΔEVE と ΔNII の計測、コア預金(行動特性)モデリングの制約、そして詳細な開示が求められます。とくに開示要求は厳格で、国際統一基準行は計測結果や前提を外部に公表します。

なぜ資本賦課(第1の柱)にしなかったのか。国際的な議論でも、当初は金利リスクを自己資本比率の分母に直接組み込む案が検討されましたが、最終的には第2の柱(監督上の検証)の枠組みで扱うことになりました。理由は第10章で述べたとおり、銀行ごとに預金の行動特性が大きく異なり、一律の計算式では実態を捉えられないからです。

なぜ国内基準行・信用金庫では、さらに開示・モニタリング中心なのか。

  1. 業務が国内・地域に限定されており、金利リスクの計測手法を国際的に比較可能な形で統一する必要性が相対的に低い。
  2. 計測に必要な体制・データの負担が、規模に比して重くなりすぎる。国際統一基準行と同じ精緻さを求めるのは現実的でない。
  3. 分母となる自己資本の概念そのものが違う(Tier1 とコア資本)ため、閾値の数字だけを並べて厳しさを比べることはできない。

💡 ここでつまずきやすい:「20%のほうが15%より保守的」と読んでしまう

逆です。閾値は、超えたら当局が着目するラインですから、数字が大きいほど引っかかりにくい ― つまり緩いということです。国内基準行の20%は、国際統一基準行の15%より余裕のある(緩い)線に置かれています。

ここは、第5巻第2章の「国内基準4%は国際統一基準8%より保守的な面もある」という話と混同しやすいところなので、切り分けてください。自己資本比率のほうは分子(コア資本)の定義を絞り込むことで保守性を確保しているのに対し、重要性テストのほうは閾値そのものが緩く置かれているのです。「簡素で保守的」という国内基準の設計思想は、あらゆる数字に一律には貫かれていません。 個々の基準ごとに、どこで保守性を取り、どこで負担を軽くしているのかを確かめる癖をつけてください。

そして実務的な含意はこうです。ΔEVE がコア資本の20%以内に収まっていることは、金利リスクが小さいことの証明にはなりません。 15%の線で見れば引っかかる水準かもしれず、そもそも第9章で見たとおり、コア預金の前提を動かせば数字自体が2割動きます。閾値は「当局の関心が向く目安」であって、安全の保証書ではないのです。

必ず押さえる位置づけ:IRRBB の枠組みそのものは国際的に開発されたものであり、信用金庫に国際統一基準がそのまま適用されるわけではありません。しかし ΔEVE・ΔNII という物差しも、金利ショック・シナリオの考え方も、コア預金モデリングの制約の発想も、すべて国際的な議論から降りてきたものです。国際規制は直接の義務ではなく、業界標準の"ものさし"として、国内の実務と当局モニタリングの双方に入り込んでいます。

地域銀行ならどうか:海外拠点を持たない地域銀行は、信用金庫と同じ国内基準行として、同じ枠組みで扱われます。ただし規模の大きい地銀ほど、開示の充実度や計測の精緻さで先を行く傾向があり、実務の参考になります。

ここまでの筋(3行)

① 金利リスク量は自己資本との対比で評価する。国内基準行の閾値はコア資本の20%。

② 超えても直ちに資本賦課ではなく、当局との対話・モニタリングの対象になる。

③ 資本賦課にしないのは、計測が前提に強く依存するため。だから第2の柱で扱う。


第Ⅴ部 実務編

12. ALM委員会で何を決めるのか ― 資料の作り方

新任担当者の実務は、多くの場合 ALM委員会の資料作成から始まります。委員会が決めるべきことは、大づかみには次の3つです。

決めること 具体例
①どれだけリスクを取るか 金利リスクのリミット(BPV の上限、ΔEVE のコア資本対比の上限)、有価証券の残高・デュレーションの方針
②今どうなっているか ギャップ表、ΔEVE/ΔNII、含み損益の状況、リミットの遵守状況
③何をするか ポートフォリオの入替え、デュレーションの調整、ヘッジの実施(→第11巻)

資料を作るときの原則は3つです。

第一に、ΔEVE と ΔNII を必ず併記する。 片方だけの資料は、経営に片目で判断させることになります。

第二に、前提を明示する。 コア預金の置き方、預金金利のパススルー率、繰上返済率 ― これらの前提は結論を左右します。前提を書いていない資料は、数字が正しくても資料として不合格です。前提を変更した回は、必ず変更前後の比較を添えます(第8章の心得)。

第三に、リスクを自己資本と並べる。 「ΔEVE は120億円です」だけでは経営は判断できません。「コア資本150億円に対して80%です」と並べて初めて、意思決定の材料になります(→第5巻第1章)。

担当者の心得:委員会資料の目的は、「今どうなっているか」を報告することではなく、「経営に何を決めてもらうか」を明確にすることです。リミットに接近しているなら、選択肢(このまま/デュレーションを短くする/ヘッジする)とそれぞれの収益への影響を並べて提示してください。報告書ではなく、意思決定の材料を作るのが仕事です。

13. 【設例】金利1%上昇で、この金庫はどうなるか

本巻の道具を一度に使い、4つの数字(→第0巻第8章)で結果を並べます。すべて単純化した仮の数字、実効税率30%。

前提

  • 有価証券(その他有価証券区分)1,500、平均デュレーション6年
  • 貸出金2,000(うち変動金利1,200、固定金利800・平均デュレーション3年)
  • 要求払い預金2,500(うち1,000をコア預金・平均残存2.5年とみなす)
  • 定期預金1,000、平均残存2年
  • コア資本 150
  • 金利ショック:+1%の平行上昇

ステップ①:資産側の経済価値の変動

資産 金額 デュレーション 変動額
有価証券 1,500 6年 ▲90
固定金利貸出 800 3年 ▲24
変動金利貸出 1,200 ≒0 0
小計 ▲114

ステップ②:負債側の経済価値の変動(金庫にはプラス)

負債 金額 みなし残存 変動額
コア預金 1,000 2.5年 +25
定期預金 1,000 2年 +20
コア預金以外の要求払い 1,500 ≒0 0
小計 +45

ステップ③:ΔEVE と自己資本対比

\[\Delta \text{EVE} = -114 + 45 = -69 \qquad \text{コア資本対比} = \frac{69}{150} = 46\%\]

閾値(コア資本の20%)を大きく超えています。この金庫は当局が重点的に見る水準にある、というのが第一の結論です。

ステップ④:ΔNII(1年)への影響

項目 影響
変動金利貸出1,200の受取利息 +12(1%上昇分)
固定金利貸出・有価証券 0(固定のため)
要求払い預金2,500の支払利息 ▲12.5(パススルー率50%と仮定:2,500 × 1% × 50%)
定期預金(1年内の更改分500と仮定) ▲5
ΔNII(1年) ▲5.5

💡 ここでつまずきやすい:ΔEVE と ΔNII で、同じ預金に別の前提を置いている

よく見てください。ステップ②では、要求払い預金2,500のうち1,000を「2.5年の固定金利負債」として扱いました。ところがステップ④では、2,500の全額にパススルー率50%を当てて調達コストの上昇を見込んでいます。同じ預金について、片方では「金利が動かない」、もう片方では「半分は動く」と置いているわけです。

これは計算間違いではなく、2つの物差しが別の目的を持っているために生じる、実務でありふれた不整合です。ΔEVE のコア預金は「残高がどれだけ滞留するか」の話、ΔNII のパススルーは「金利をどれだけ引き上げざるを得ないか」の話であって、次元が違います。滞留する預金でも、金利は引き上げることになるからです。

ただし、放置してよいという意味ではありません。コア預金の前提とパススルー率の前提は、「金利を上げなければ出ていく/上げれば残る」という同じ現実の裏表です。両者を独立に置けば、都合よく ΔEVE も ΔNII も小さく見せることができてしまいます。委員会資料には、2つの前提を並べて書き、その組合せが一つの物語として筋が通っているかを説明してください。 第9章の心得(流動性リスクの前提との整合性)と、まったく同じ規律です。

ステップ⑤:4つの数字で並べる

レンズ 金利+1%の影響
①会計 その他有価証券の含み損90 → 税効果控除後▲63 が純資産(評価差額金)に。当期純利益は無傷
②税務 未実現なので影響なし(→第1巻第7章)
③規制(通常の自己資本比率) 含み損は中立化され影響なし。ただし ΔEVE はコア資本の46%で重要性テストの閾値超過
④経営管理 経済価値▲69、来期の資金利益▲5.5

一言まとめ:当期純利益は無傷、自己資本比率も無傷、しかし経済価値は自己資本の半分近くが吹き飛び、来期の資金利益も減る。 損益計算書と自己資本比率だけを見ている限り、この金庫に何が起きたかは分かりません。

担当者の心得:この設例が示しているのは、ALM 担当者の存在意義そのものです。会計と規制の数字が「異常なし」を示している局面で、経済価値が大きく毀損していることを検知して経営に伝えられるのは、ALM 担当者だけです。だから前提の妥当性にこだわり、ΔEVE と ΔNII を併記し、自己資本と並べて示す。この3つを守ってください。

ここまでの筋(3行)

① 委員会が決めるのは、リスクをどれだけ取るか・今どうか・何をするか、の3つ。

② 資料の原則は、ΔEVE と ΔNII の併記、前提の明示、自己資本との対比。

③ 会計と規制が無風でも経済価値は大きく傷みうる。それを検知するのが ALM の存在意義。


第Ⅵ部 まとめ

14. 実務での留意点

  • ALM の前提と、流動性リスクの前提の整合性を必ず点検する。同じ預金について、ALM は「長期安定」、流動性は「ストレス時に大量流出」と置いていないか(→第2巻第4.2節)。
  • コア預金の前提変更は、必ず変更前後の比較とセットで示す。数字の改善が実態によるものか前提によるものかを、経営が区別できるようにする。
  • ΔEVE と ΔNII を必ず併記する。金利低下シナリオのように、2つで結論が逆になる場面がある。
  • リスク量は必ず自己資本と並べる。金額の絶対値だけでは経営は判断できない。
  • オプション性は保守的に見積もる。顧客の選択権は、いつも金庫の逆を突く(→第13巻の仕組預金)。
  • 「満期まで持てば損しない」を許さない。純資産は今すぐ減り、持ち切れるかは資金繰り次第(→第1巻・第2巻)。
  • 具体的なショック幅・閾値・コア預金の上限基準は、最新の告示・監督指針で確認する。本テキストの数値は設例用の仮の数字です。

つまずきやすいポイント総まとめ

用語・概念 章 一言で言うと
なぜ資産と負債を一体で見るか 第1章 金利リスクは"差"からしか生じない
利ざやが同じでもリスクは違う 第1章 期間のずれは P/L に見えない
売買しないから金利リスクがない? 第2章 長く持つからこそ大きい
ベーシス・リスク 第3章 預金金利は市場金利どおりには動かない
オプション性リスク 第3章 顧客の選択権はいつも金庫の逆を突く
ΔEVE と ΔNII 第4章 深さの物差しと速さの物差し
「満期まで持てば損しない」 第4章 純資産は今すぐ減り、持ち切れるかは資金繰り次第
ギャップ表の「金利感応なし」 第5章 前提の置き方が結論のすべてを決める
デュレーションと BPV 第6章 感応度と、その金額表示
金利低下は good news か 第7章 ΔEVE では有利、ΔNII では不利
コア預金 第8章 契約の満期と実質の満期は別物。長く置くほどリスクは小さく見える
負債の価値が減るのは有利 第9章 ただし実際に滞留する場合だけ
重要性テストの意味 第10章 超えたら措置ではなく、対話・モニタリング
なぜ資本賦課でないのか 第10・11章 計測が前提に強く依存するから第2の柱で扱う

まとめとセルフチェック

一枚でわかる全体像

  1. ALM は資産と負債を一体で見る枠組み。金利リスクは両者の"差"からしか生じないため、片側だけ見ても検知できない。
  2. 信用金庫は特定取引勘定を持たず、金利リスクのほぼすべてが銀行勘定(IRRBB)にある。
  3. 金利リスクにはギャップ・ベーシス・オプション性・イールドカーブの4つの顔がある。
  4. 測る物差しは2つ。ΔEVE(深さ)と ΔNII(速さ)。金利低下シナリオでは結論が逆になる。
  5. 道具は3つ。ギャップ分析(全体像)、デュレーション/BPV(感応度)、コア預金モデル(最大の難所)。
  6. コア預金の置き方だけで ΔEVE は大きく変わる。上限のルールがあるのは、長く置く誘惑への歯止め。
  7. ALM の前提と流動性リスクの前提は整合していなければならない。
  8. 重要性テストは、ΔEVE がコア資本の一定割合(国内基準行は20%、国際統一基準行は Tier1 の15%)を超えるかで見る。超えても直ちに資本賦課ではなく、対話・モニタリングの対象。
  9. 資本賦課にしないのは、計測が前提に依存するため。だから第5巻の分母は金利リスクを数えない ― 数えていないのではなく、別の枠組みで見ている。

セルフチェック(説明できますか?)

  • 利ざやが同じでも金利リスクが違う2つのケースを、自分で作って説明できる
  • 信用金庫の金利リスクがほぼすべて銀行勘定にある理由を説明できる
  • 金利リスクの4つの顔を挙げ、ベーシス・リスクとオプション性リスクの具体例を言える
  • ΔEVE と ΔNII の違いを、10年固定国債を例に説明できる
  • 「満期まで持てば損しない」という主張の何が不正確か、2つの理由で説明できる
  • ギャップ表を見て、その金庫が金利上昇に強いか弱いか判断できる
  • デュレーション7年・保有1,000億円のポートフォリオの BPV を計算できる
  • 金利低下シナリオで ΔEVE と ΔNII の結論が逆になる理由を説明できる
  • コア預金とは何か、なぜ上限のルールがあるのかを説明できる
  • コア預金の前提変更が ΔEVE をどう動かすか、設例で示せる
  • ALM の前提と流動性リスクの前提が矛盾しうる具体例を挙げられる
  • 重要性テストの閾値(国内基準/国際統一基準)と、超えた場合に何が起きるかを言える
  • 金利リスクが自己資本比率の分母に組み込まれていない理由を説明できる
  • 会計・規制の数字が無風でも経済価値が毀損しうることを、設例で説明できる

用語集

用語 意味
ALM(資産負債総合管理) 資産(運用)と負債(調達)を一体として管理する枠組み
銀行勘定 期間収益・流動性確保等の目的で保有する資産・負債を経理する勘定
特定取引勘定(トレーディング勘定) 短期の売買益を目的とする取引を経理する勘定。信用金庫は通常設けない
IRRBB 銀行勘定の金利リスク(Interest Rate Risk in the Banking Book)
ΔEVE 金利ショックによる経済価値(資産・負債の現在価値の差)の変動額
ΔNII 金利ショックによる期間収益(資金利益)の変動額
ギャップ分析 資産・負債を金利の見直し時期ごとの期間帯に並べ、その差を見る手法
リプライシング期日 金利が見直される時期。固定金利なら満期、変動金利なら次回改定日
デュレーション 実質的な平均回収期間。金利1%変動に対する価格変化率の目安
BPV(ベーシス・ポイント・バリュー) 金利が1bp(0.01%)動いたときの価格変化額
コンベキシティ デュレーションでは捉えきれない、価格と金利の関係の曲がり(→第8巻)
ベーシス・リスク 参照する金利の種類が異なることによるリスク
パススルー率 市場金利の変動が、預金金利等にどれだけ反映されるかの割合
オプション性リスク 顧客等が持つ選択権(中途解約・繰上返済等)の行使によるリスク
イールドカーブ 期間ごとの金利の水準を結んだ曲線
スティープ化/フラット化 イールドカーブの傾きが急になる/緩やかになる動き
コア預金 契約上は満期がないが実際には長期間滞留する預金を、一定のルールで長期の固定金利負債とみなしたもの
重要性テスト(アウトライヤー基準) ΔEVE が自己資本の一定割合を超えるかを見る枠組み
第1の柱/第2の柱 自己資本比率規制による最低所要自己資本/監督上の検証プロセス
ALM委員会 資産負債の構成、金利・流動性リスクの方針を審議する会議体
リミット リスク量の上限として設定する管理枠

参考文献・出典

  • バーゼル銀行監督委員会「銀行勘定の金利リスク(IRRBB)」に関する公表文書(ΔEVE/ΔNII、金利ショック・シナリオ、行動特性モデリングの制約、開示要求の考え方)
  • 金融庁・日本銀行公表の銀行勘定の金利リスクに関する国内実施の枠組み(適用されるショック幅・閾値・コア預金の取扱いは原文で確認すること)
  • 金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(市場リスク管理態勢の着眼)
  • 日本銀行金融機構局金融高度化センターの ALM・金利リスク管理に関する各種資料
  • 自金庫の ALM 規程・リスク管理規程および ALM システムの計測仕様(実際の前提はこちらで確認する)

本テキストは制度理解のための教育用資料です。本文中の金額・デュレーション・パススルー率等はすべて設例用に単純化した仮の数字です。金利ショックのシナリオ・ショック幅、重要性テストの閾値、コア預金の算定方法は、適用される枠組みと最新の告示・監督指針により異なります。実際の計測・報告・判断にあたっては、自金庫のリスク管理/資金証券部門および当局公表資料で必ずご確認ください。

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