第8巻 債券数学の基礎とポートフォリオ管理

― 利回り・単価・デュレーションを、手を動かして理解する

対象読者:信用金庫の資金証券部門で有価証券運用を担当することになった方。「利回りが上がると単価が下がる」ことは知っているが、なぜそうなるのか、いくら下がるのかを説明できない段階を想定しています。

ねらい:債券1本の値段がどう決まり、金利が動いたらいくら動くのかを、電卓で追える形で理解すること。そのうえで、ポートフォリオ全体をどう組み立て、入替えの損得をどう評価するかまで持ち帰ること。

前提とする数学:四則演算と、\(1.02^3\) のような累乗だけです。それ以外の記号は、出てくるたびに日本語で言い換えます。「債券数学」という名前に身構える必要はありません。電卓(累乗が計算できるもの)を1つ手元に置いて読み進めてください。

このテキストの特徴:数式は出しますが、すべて単純な整数の設例で検算できる形にしました。理論の厳密さより、「自分で計算して腹に落とす」ことを優先します。ポートフォリオ全体の金利リスク管理(ΔEVE等)は →第7巻に譲り、本巻は債券1本〜ポートフォリオ構築に絞ります。

他巻との接続:含み損の会計・税務・規制上の扱いは →第1巻。売買損益が損益計算書のどこに出るか(債券5勘定尻)は →第3巻第8章。金利リスクの計測枠組みは →第7巻。国債を担保に資金化する技術は →第12巻。投資信託・ファンドは →第9巻。


全体マップ(この一枚で流れがつかめます)

flowchart TD
    Z["出発点: お金は複利で増える<br/>(第2章2-1)"]
    Z --> A["債券の値段は「将来もらえるお金」の<br/>現在価値の合計 (第2章2-2)"]
    A --> B["金利が上がると単価は下がる<br/>(第3章)"]
    A --> Y["利回りの言い方は4つある<br/>表面利率/直利/単利最終/複利最終 (第4章)"]
    A --> C["どれだけ動くか = デュレーション<br/>(第5章)"]
    A --> D["直線では測りきれない = コンベキシティ<br/>(第6章)"]
    B --> E["BPV: 1bp動いたら何円動くか (第7章)"]
    Y --> E
    C --> E
    D --> E
    E --> F["ポートフォリオをどう組むか(第Ⅲ部)<br/>ラダー/バーベル/ブレット ― 同じ平均年限でも別物"]
    F --> G["入替え・益出し・損切りの損得をどう評価するか(第Ⅳ部)<br/>→ 会計は第1巻、P/Lへの出方は第3巻、規制は第5巻へ"]
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目次

第Ⅰ部 基礎編 ― 債券1本の値段

  1. なぜ担当者が債券数学を知らなければならないのか
  2. 債券の値段は現在価値の合計
    • 2-1 出発点:単利と複利 ― 「利息にも利息が付く」
    • 2-2 割引は複利の逆算
    • 2-3 債券の値段を実際に計算する
  3. 利回りと単価が逆に動く理由
  4. 利回りの4つの言い方 ― 表面利率・直利・単利最終・複利最終
    • 4-1 表面利率(クーポンレート)― 契約で決まる、動かない数字
    • 4-2 直接利回り(直利)― 「今年いくら現金が入るか」だけの利回り
    • 4-3 単利最終利回り ― 日本の債券実務でいちばん見る数字
    • 4-4 複利最終利回り ― 理論的に正しい利回り
    • 4-5 4つを1枚に並べる/どれを使うか

第Ⅱ部 感応度編 ― どれだけ動くか

  1. デュレーション ― 平均回収期間であり、感応度でもある
  2. コンベキシティ ― 直線では測りきれないずれ
    • 6-1 デュレーションの予測は、なぜいつも「損な側」に外れるのか
    • 6-2 コンベキシティとは何か ― 曲がり具合を数字にする
    • 6-3 設例で実際に計算する
    • 6-4 いつ効いて、いつ効かないか
    • 6-5 マイナスのコンベキシティ ― 保有者にとって最悪の形
    • 6-6 実務でどう使うか
  3. BPV ― 現場で毎日使う1つの数字

第Ⅲ部 ポートフォリオ編

  1. ラダー・バーベル・ブレット ― 同じ平均年限でも中身は別物
  2. 信用金庫のポートフォリオ構築で効く制約

第Ⅳ部 実務編

  1. 入替えの損得をどう評価するか
  2. 【設例】益出し・損切り・入替えを三面で並べる

第Ⅴ部 規制編

  1. 特定取引勘定を持たない金庫と、市場リスク規制

第Ⅵ部 まとめ

  1. 実務での留意点
  2. つまずきやすいポイント総まとめ/セルフチェック/用語集

第Ⅰ部 基礎編 ― 債券1本の値段

1. なぜ担当者が債券数学を知らなければならないのか

新任担当者にとって、債券数学は「証券会社の営業が計算してくれるもの」に見えがちです。しかし、自分で計算できないと必ず困る場面が3つあります。

第一に、リスク量を自分で説明できない。ALM委員会で「金利が1%上がったらいくら損しますか」と聞かれて、システムの出力を読み上げるだけでは、数字の妥当性を判断できません(→第7巻)。

第二に、入替えの提案を評価できない。証券会社は「利回りが0.3%上がります」と提案してきます。しかし、その裏で残存期間が5年伸びていれば、金利リスクは倍増しているかもしれません。利回りの向上とリスクの増加を同じ土俵に乗せる道具が、デュレーションです。

第三に、含み損の意味が分からない。第1巻で扱った含み損は、この巻の計算の結果として生じます。「なぜ金利が1%上がっただけで、これほど含み損が出るのか」に答えるには、デュレーションを知っている必要があります。

担当者の心得:債券数学は、証券会社と対等に会話するための共通言語です。計算を丸投げしている限り、提案の良し悪しを自分で判断することはできません。

2. 債券の値段は現在価値の合計

すべての出発点はこの一行です。

債券の値段(単価)= その債券から将来もらえるお金を、現在価値に割り引いて合計したもの

将来もらえるお金は2種類です。利息(クーポン)と、満期に返ってくる額面(元本)。

ただし、「現在価値に割り引く」という言葉の意味は、お金がどう増えるかを先に押さえないと腹に落ちません。遠回りに見えますが、ここを飛ばすと第5章以降が全部あやふやになります。まず単利と複利から始めます。

2-1 出発点:単利と複利 ― 「利息にも利息が付く」

100万円を年2%で運用したとき、5年後にいくらになっているか。実は答えが2つあります。

単利は、最初に預けた元本にだけ利息が付く考え方です。毎年きっちり2万円ずつ増えます。

\[\text{単利の } n \text{ 年後} = \text{元本} \times (1 + r \times n)\]

複利は、受け取った利息にも、次の年から利息が付く考え方です。2年目は「元本100 + 1年目の利息2」の102に対して2%が付くので、増える額は2.04になります。

\[\text{複利の } n \text{ 年後} = \text{元本} \times (1 + r)^n\]

100を年2%で置いたときの、5年間の姿を並べます。

経過年数 単利 複利 差
1年後 102.00 102.00 ―
2年後 104.00 104.04 +0.04
3年後 106.00 106.12 +0.12
4年後 108.00 108.24 +0.24
5年後 110.00 110.41 +0.41

5年で0.41、率にして0.4%の差。「たいした差ではない」と感じたかもしれません。そのとおりです。金利が低く、期間が短いうちは、単利と複利はほとんど変わりません。 差が効いてくるのは、金利が高いときと期間が長いときです。年5%・30年なら、単利は250に対して複利は432。もはや別物です。

💡 ここでつまずきやすい:「複利は難しい計算」

複利の計算は、掛け算を繰り返しているだけです。\(1.02 \times 1.02 \times 1.02\) を3回やるのが \(1.02^3\)。累乗の記号は「同じ数を何回か掛けた」という以上の意味を持ちません。 電卓の \(x^y\) ボタンを1回押せば出ます。難しいのは計算ではなく、「なぜ複利で考えるのか」のほうです。

なぜ債券では複利で考えるのか。 債券は満期までの間に、利息を何回も受け取ります。受け取った利息は手元に眠らせるのではなく、また運用に回せるはずです。「受け取った利息を、同じ利回りで再び運用できる」と仮定して計算するのが複利です。つまり複利とは、再投資まで織り込んだ考え方なのです。

担当者の心得:複利の計算には「受け取った利息を同じ利回りで再投資できる」という仮定が隠れています。実際には、利息を受け取ったときの市場の利回りが下がっていれば、その利回りでは再投資できません。これを再投資リスクと呼びます。複利で計算した利回りは、この仮定が成り立つ場合の利回りである、と心にとめておいてください。

2-2 割引は複利の逆算

ここまで来れば、「割り引く」の意味は自動的に決まります。複利で増やす計算を、逆向きに回すだけです。

  • 今の100を年2%で3年増やすと → \(100 \times 1.02^3 = 106.12\)
  • 3年後の106.12は、今の値打ちに直すと → \(106.12 \div 1.02^3 = 100\)

一般形にすると、こうなります。

\[\text{現在価値} = \frac{n \text{ 年後にもらえる額}}{(1 + r)^n}\]

割り算の分母 \((1+r)^n\) が、複利で増える計算そのものです。増やすときに掛けたものを、戻すときには割る。 それだけのことです。

💡 ここでつまずきやすい:「割引」という言葉

小売業の「割引」(値引き)とは別の言葉です。ここでの割引は、将来のお金を今の値打ちに換算するという意味です。「1年後の100円は、今の100円より価値が低い」― 今100円あれば運用して1年後には102円になるのだから(利回り2%なら)、1年後の102円が今の100円と等価。逆算すると、1年後の100円は今の \(100 \div 1.02 = 98.04\) 円の値打ちしかない、ということです。

なお、割り引くときに使う利回り \(r\) を割引率と呼びます。本巻では「市場の利回り」と同じものだと考えて構いません。

2-3 債券の値段を実際に計算する

道具がそろいました。債券の値段は、将来もらえるお金を1つずつ割り引いて、全部足すだけです。式で書くと次のようになりますが、意味は「割り引いて足す」以上のものではありません。

\[P = \frac{C}{(1+r)^1} + \frac{C}{(1+r)^2} + \cdots + \frac{C + F}{(1+r)^n}\]

記号の意味は、\(P\) が単価、\(C\) が毎年の利息(クーポン)、\(F\) が額面、\(r\) が市場の利回り、\(n\) が残存年数です。最後の年だけ「利息 + 額面」になるのは、満期に元本が返ってくるからです。

【設例】(以下、本章から第6章まで同じ債券で通します)

  • 額面 100
  • 表面利率(クーポン) 年2% → 毎年2をもらう
  • 残存期間 3年
  • 市場の利回り 2%

将来のキャッシュフローは、1年後に2、2年後に2、3年後に102(利息2+元本100)です。これを利回り2%で割り引きます。

時点 もらえる額 割引計算 現在価値
1年後 2 2 ÷ 1.02 1.9608
2年後 2 2 ÷ 1.02² 1.9223
3年後 102 102 ÷ 1.02³ 96.1169
合計 100.00

単価はちょうど100になりました。これは偶然ではありません。表面利率と市場利回りが一致しているとき、単価は額面と等しくなります(パー、額面価格)。

担当者の心得:この表は、電卓で必ず一度は自分で叩いてください。\(2 \div 1.02 = 1.9608\)、\(2 \div 1.02^2 = 1.9223\)、\(102 \div 1.02^3 = 96.1169\)。合計してちょうど100。本巻でこのあと出てくる話は、すべてこの表の上に積み上がっています。この1枚を手で再現できるかどうかが、最初の分かれ目です。

3. 利回りと単価が逆に動く理由

同じ債券で、市場の利回りが3%に上がったとします。

時点 もらえる額 割引計算 現在価値
1年後 2 2 ÷ 1.03 1.9417
2年後 2 2 ÷ 1.03² 1.8852
3年後 102 102 ÷ 1.03³ 93.3451
合計 97.17

単価は100から97.17へ下落しました(▲2.83%)。

なぜか。この債券がくれるお金は2%のまま変わらないのに、世の中では3%もらえるようになったからです。3%の商品が買える世界で、2%しかくれない債券を額面100で買う人はいません。値引きしてもらって初めて、実質的に3%の利回りになる。 その値引き幅が、単価の下落です。

⭐ポイント⭐:「クーポンは変わらない。変わるのは、それをいくらで買うか」。金利上昇による含み損の正体は、この値引きです。

逆に、利回りが1%に下がったらどうなるでしょうか。同じ計算をすると単価は102.94になります。

\[\frac{2}{1.01} + \frac{2}{1.01^2} + \frac{102}{1.01^3} = 102.94\]

世の中が1%しかくれない世界では、2%くれる債券は割高でも欲しい。だからプレミアムが付くわけです。これも電卓で検算してみてください。

市場利回り 単価 額面100からの変化
1% 102.94 +2.94%
2% 100.00 ―
3% 97.17 ▲2.83%

ここに、後で効いてくる伏線があります。 利回りが同じ1%動いたのに、上がったときの下落(▲2.83%)より、下がったときの上昇(+2.94%)のほうが大きい。この非対称が、コンベキシティです(第6章)。

4. 利回りの4つの言い方 ― 表面利率・直利・単利最終・複利最終

実務では「利回り」という言葉が、4つの異なる意味で使われます。しかも会話の中では、どれも「利回り」としか呼ばれません。新任担当者が最初に混乱するのは、ほぼここです。 順番に、1つずつ潰していきます。

4-1 表面利率(クーポンレート)― 契約で決まる、動かない数字

\[\text{表面利率} = \frac{\text{年間利息}}{\text{額面}}\]

額面100・年2の利息なら2%。発行時に決まり、満期まで一度も変わりません(変動利付債を除く)。券面に印刷されている数字なので「表面」利率と呼びます。

これは利回りではありません。 表面利率は「その債券がいくら現金をくれるか」を表すだけで、「その債券を買ったらどれだけ儲かるか」は表しません。儲けは、いくらで買ったかによって変わるからです。ここを分けられるかどうかが、第一関門です。

4-2 直接利回り(直利)― 「今年いくら現金が入るか」だけの利回り

\[\text{直接利回り} = \frac{\text{年間利息}}{\text{購入単価}}\]

単価97.17で買ったなら \(2 \div 97.17 = 2.06\%\)。分母が額面ではなく自分が払った値段になっているのがポイントです。

直利が答えているのは、「投じた資金に対して、毎年どれだけ現金が入ってくるか」という問いだけです。逆にいえば、満期に元本がいくら返ってくるかを完全に無視しています。97.17で買ったものが3年後に100で返ってくるという、2.83の儲けが計算に入っていません。

担当者の心得:直利は「毎年の現金の入り」を見る指標なので、当期の資金利益を見積もる場面では意味があります(→第3巻第4章)。しかし投資判断には使えません。用途が違う道具だと割り切ってください。

4-3 単利最終利回り ― 日本の債券実務でいちばん見る数字

償還までの値上がり益・値下がり損まで含めた利回りを最終利回りと呼びます。そして最終利回りには、単利で計算するものと複利で計算するものの2つがあります。まず単利です。

\[\text{単利最終利回り} = \frac{\displaystyle C + \frac{F - P}{n}}{P}\]

記号は \(C\) が年間利息、\(F\) が額面(償還価格)、\(P\) が購入単価、\(n\) が残存年数です。式の姿はいかついですが、やっていることは単純です。

  1. 償還差益 \(F - P\) を、残存年数 \(n\) で均等に割り振る(1年あたりいくらの儲けか)
  2. それを毎年の利息 \(C\) に足す(1年あたりの儲けの合計)
  3. 購入単価 \(P\) で割る(投じた資金に対する率)

単価97.17・利息2・残存3年で当てはめます。

\[\frac{2 + \dfrac{100 - 97.17}{3}}{97.17} = \frac{2 + 0.943}{97.17} = \frac{2.943}{97.17} = 3.03\%\]

直利の2.06%に対し、3.03%。差の約1%が、償還差益を1年あたりに均した分です。

なぜ日本の実務でこれが使われるのか。 電卓で一度に計算できるからです。次に見る複利最終利回りは、原理的に電卓で一発では出せません。だから日本の債券市場では、単利最終利回りが気配値の表示や店頭取引の慣行として長く使われてきました。「利回り3.03%の債券です」と言われたら、たいていはこの単利最終利回りです。

4-4 複利最終利回り ― 理論的に正しい利回り

複利最終利回りは、考え方がまったく違います。第2章の現在価値の式を、逆向きに使うのです。

その利回りで割り引いたときに、現在価値の合計がちょうど購入単価と一致するような利回り ― それが複利最終利回り。

\[P = \frac{C}{(1+y)^1} + \frac{C}{(1+y)^2} + \cdots + \frac{C+F}{(1+y)^n}\]

この式の \(y\) が複利最終利回りです。\(P\) が分かっていて \(y\) を求めるので、電卓では一発で解けません(コンピュータが \(y\) を少しずつ動かして、左右が一致する値を探しています)。財務計算機や表計算ソフトの IRR 関数、運用システムが出しているのはこの数字です。

第3章で「利回り3%で割り引いたら単価97.17になった」と計算しました。逆にいえば、単価97.17の複利最終利回りは、ちょうど3.00%です。計算するまでもなく分かるのは、そもそも3%で割り引いて作った単価だからです。

単利の3.03%と、複利の3.00%。なぜずれるのか。 単利は、償還差益2.83を「毎年0.943ずつ受け取る」と扱いますが、実際にはこの2.83は3年後にまとめて受け取るお金です。単利計算は、遅れて受け取るお金を、早く受け取ったかのように扱っているわけです。その分だけ、単利のほうが利回りを高めに表示します。

⭐ポイント⭐:「単利は儲けを均す、複利は時期まで数える」。

この差は、いつ大きくなるのか。 残存が長いほど、また単価が額面から離れているほど大きくなります。次の設例で確かめます。

【設例】3つの利回りが大きく食い違うケース

単価90、表面利率1%、残存5年の債券。単価が額面を10も下回っている(アンダーパー)債券です。

利回りの種類 計算 結果
表面利率 \(1 \div 100\) 1.00%
直接利回り \(1 \div 90\) 1.11%
単利最終利回り \(\left(1 + \dfrac{100-90}{5}\right) \div 90 = 3 \div 90\) 3.33%
複利最終利回り (システムで計算) 3.20%

一言まとめ:直利だけを見ると、この債券の実力を3分の1に見誤る。 償還差益10を無視しているからです。そして単利最終利回りは、複利より0.13%高く出ています。残存5年でこの差ですから、10年債・20年債ではさらに開きます。

逆に、単価が額面を大きく上回る債券(オーバーパー)では、償還時に差損が出ます。このとき直利は実力を過大評価します。表面利率3%の債券を単価110で買えば、直利は \(3 \div 110 = 2.73\%\) ですが、償還時に10の損が確定しているので、最終利回りはもっと低くなります。「クーポンが高い債券」に飛びつくと、ここで足をすくわれます。

4-5 4つを1枚に並べる/どれを使うか

名称 何を分母にするか 償還差損益を数えるか 再投資を考えるか 主な用途
表面利率 額面 いいえ いいえ 契約条件の確認
直接利回り(直利) 購入単価 いいえ いいえ 当期の資金利益の見積り
単利最終利回り 購入単価 はい(年数で均す) いいえ 市場の気配値・店頭の会話
複利最終利回り 購入単価 はい(時期まで数える) はい 投資判断・他商品との比較

担当者としての使い分けは、次の一行に尽きます。

会話は単利で聞こえてくる。判断は複利でやる。

証券会社の提案書に並ぶ利回りは、多くの場合単利最終利回りです。それを否定する必要はありません。ただし、残存期間が大きく違う債券どうしを比べるときや、投資信託・外債など他の商品と比べるときは、複利ベースに揃えないと比較が歪みます(→第9巻・第10巻)。

💡 ここでつまずきやすい:「利回りが高い債券は良い債券」

利回りが高いのには必ず理由があります。①残存期間が長い(金利リスクが大きい)、②信用力が低い(信用リスクが大きい)、③流動性が低い(売りたいときに売れない)、④オプションが埋め込まれている(相手に有利な選択権がある)。利回りは、引き受けたリスクの対価です(→第3巻第4章)。「利回りが0.3%高い」という提案を受けたら、「その0.3%は、何を引き受けた対価ですか」と必ず問い返してください。

よくある誤解:「単利と複利は、どちらが正しいという話ではないので、どちらでもよい」― これは半分だけ正しい。同じ債券を同じ物差しで測るなら、どちらでも順位は変わりません。 しかし残存年数の違う債券を並べると、単利は長期債を有利に見せます。10年債と3年債を単利利回りだけで並べた提案書は、長期債に有利なバイアスがかかっていると考えてください。

ここまでの筋(3行)

① 債券の値段は将来キャッシュフローの現在価値の合計で、割引とは複利計算の逆算。

② 金利が上がると単価が下がるのは、変わらないクーポンを値引きして売るしかないから。

③ 利回りには4つの言い方がある。会話は単利で聞こえてくるが、判断は複利で行う。

次の部では、「いくら動くか」を1つの数字で表す道具を扱います。


第Ⅱ部 感応度編 ― どれだけ動くか

5. デュレーション ― 平均回収期間であり、感応度でもある

デュレーションには2つの顔があり、この2つが同じものだと理解できると視界が開けます。

顔①:実質的な平均回収期間

第2章の債券(額面100、クーポン2%、残存3年、利回り2%)で計算します。やることは3手だけです。

  1. 各時点の現在価値を出す(第2章の表そのまま)
  2. それが全体(=単価100)の何%を占めるかを出す ― これが「重み」
  3. 時点 × 重みを全部足す
時点 現在価値 全体に占める重み 時点 × 重み
1年後 1.9608 \(1.9608 \div 100 = 1.96\%\) \(1 \times 1.96\% = 0.0196\)
2年後 1.9223 \(1.9223 \div 100 = 1.92\%\) \(2 \times 1.92\% = 0.0384\)
3年後 96.1169 \(96.1169 \div 100 = 96.12\%\) \(3 \times 96.12\% = 2.8835\)
合計 100.00 100% 2.942年

要するに「お金の96%が3年後に返ってくるのだから、平均すればほぼ3年」という計算です。この2.942年がマコーレー・デュレーションです。残存3年の債券なのに2.942年になるのは、満期前に利息を少しずつ受け取っているから。お金の回収がわずかに前倒しされている分、実質的な期間は3年より短いのです。

だからクーポンが高いほどデュレーションは短くなり、ゼロクーポン債(利息なし)ではマコーレー・デュレーション=残存期間となります。 途中で1円も受け取らないので、お金の重心が満期そのものに置かれるからです。(このとき等しくなるのはマコーレーのほうです。修正デュレーションは、次に見るとおり \((1+r)\) で割るぶんだけ残存期間より短くなります。)

顔②:金利感応度

マコーレー・デュレーションを \((1 + \text{利回り})\) で割ったものを修正デュレーションと呼び、これが金利感応度そのものになります。

\[D_{\text{mod}} = \frac{D_{\text{mac}}}{1 + r} = \frac{2.942}{1.02} = 2.884\]

なぜ \((1+r)\) で割るのか。 ここは「そういう決まり」と暗記されがちですが、理由があります。

割引の分母は \(r\) ではなく \((1+r)^n\) でした(第2章)。つまり価格を動かしているのは、\((1+r)\) という数字のほうです。ところが実務で私たちが口にするのは「金利が1%上がった」、つまり \(r\) が 0.02 から 0.03 へ 0.01 動いた、という言い方です。

このとき \((1+r)\) は 1.02 から 1.03 になります。変化率でいえば \(0.01 \div 1.02 = 0.98\%\) しか動いていません。

\[\text{金利の変化幅 } 1\% \;\longrightarrow\; (1+r) \text{ の変化率は } \frac{1\%}{1.02} = 0.98\%\]

マコーレー・デュレーションは「\((1+r)\) が1%変わったら価格は何%変わるか」を測っています。それを「\(r\) が1%ポイント動いたら」という実務の言い方に翻訳するために、\((1+r)\) で割っているわけです。単位を揃える作業だと考えてください。

\[\frac{\Delta P}{P} \approx -\,D_{\text{mod}} \times \Delta r\]

2つめの式は、「価格の変化率は、修正デュレーションに金利の変化幅を掛けて、符号を逆にしたもの」と読みます。\(\Delta\)(デルタ)は「変化幅」を表す記号で、それ以上の意味はありません。金利が上がると価格が下がるので、マイナスが付いています。

金利が1%(0.01)上昇したときの予測:\(-2.884 \times 1\% = -2.88\%\)。

第3章で実際に計算した下落率は ▲2.83% でした。ほぼ一致しています。 つまりデュレーションは、いちいち全キャッシュフローを割り引き直さなくても、掛け算1回で価格変動を見積もれる道具なのです。

なぜ「平均回収期間」と「感応度」が同じ数字になるのか。 割引の効きは \((1+r)^n\) の \(n\) 乗で決まります。3年後のお金は、金利の影響を3回ぶん受けるわけです。だから「お金の重心が何年後にあるか」を測れば、それがそのまま「金利の影響を何回ぶん受けるか」になります。回収時期の平均と、金利感応度は、同じことを別の角度から言っているのです。

⭐ポイント⭐:「デュレーションは、期間の指標であると同時に、感応度の指標である」。同じ数字が2つの意味を持つのは偶然ではありません。

デュレーションを決める3つの要素

要素 デュレーションへの影響
残存期間が長い 長くなる(影響が最も大きい)
クーポンが低い 長くなる(回収が後ろ倒しになるため)
利回りが低い 長くなる(遠い将来のキャッシュフローの重みが増すため)

低金利・低クーポンの長期債は、デュレーションが極端に長くなります。 日本の金融機関が低金利期に積み上げた超長期国債が、金利上昇局面で巨額の含み損を生んだ構造的な理由が、ここにあります。

6. コンベキシティ ― 直線では測りきれないずれ

この章は、本巻でいちばん「難しそう」に見えるところです。しかしやっていることは、第5章の予測の誤差を、もう1段だけ細かく直すという、それだけの話です。順番に降りていきます。

6-1 デュレーションの予測は、なぜいつも「損な側」に外れるのか

第3章と第5章の数字を並べます。修正デュレーション2.884で予測した単価と、実際に割り引いて計算した単価の比較です。

市場利回り 実際の単価 デュレーションによる予測 ずれ
1%(▲1%) 102.94 102.88 +0.05(実際のほうが有利)
2% 100.00 100.00 ―
3%(+1%) 97.17 97.12 +0.05(実際のほうが有利)

ここで注目してほしいのは、ずれの向きが、上下どちらでも同じだということです。

  • 金利が下がったとき:実際の値上がりは、予測より大きい(得をする)
  • 金利が上がったとき:実際の値下がりは、予測より小さい(損が軽い)

上がっても下がっても、実際の価格はデュレーション予測より保有者に有利に出る。 これは偶然ではなく、必ずそうなります(オプションが埋め込まれていない普通の債券なら)。

なぜ必ずそうなるのか。 第2章の式を思い出してください。分母は \((1+r)^n\) でした。割り算の分母が動くとき、増え方と減り方は対称になりません。

\(r\) \(1 \div (1+r)\) 2%からの変化
1% 0.9901 +0.0097
2% 0.9804 ―
3% 0.9709 ▲0.0095

下がったときの +0.0097 のほうが、上がったときの ▲0.0095 より大きい。 3年分の割引 \(1 \div (1+r)^3\) にすると、この差はさらに開きます(0.9706 / 0.9423 / 0.9151、つまり +0.0283 と ▲0.0272)。分母にある数字を動かすと、下げたときの効きのほうが大きくなる。 債券価格が直線ではなく下に凸の曲線を描くのは、この一点に尽きます。

flowchart LR
    A["割引の分母 (1+r)ⁿ が動く"] --> B["金利↓のとき<br/>分母が小さくなる効きは大きい"]
    A --> C["金利↑のとき<br/>分母が大きくなる効きは小さい"]
    B --> D["価格・利回りの関係は<br/>直線ではなく下に凸の曲線"]
    C --> D
    D --> E["直線(デュレーション)の予測は<br/>上下とも保有者に不利な側に外れる<br/>= その差がコンベキシティ"]
    style E fill:#fde,stroke:#c39

この図の読みどころは、コンベキシティが「別の新しいリスク」ではないという点です。第2章で書いた現在価値の式から、自動的に出てくる性質にすぎません。

6-2 コンベキシティとは何か ― 曲がり具合を数字にする

曲線の「曲がり具合」を1つの数字にしたものがコンベキシティ(凸性)です。デュレーションが傾きを表すのに対し、コンベキシティは傾きの変わり方を表します。

坂道にたとえると分かりやすくなります。デュレーションは「今いる地点の坂の傾き」、コンベキシティは「進むにつれて坂がどれだけ緩くなるか」です。傾きだけを見て「このペースで100m進めば10m下がる」と見積もると、実際には途中で坂が緩んでいるので、下がる量は10mより少なくて済む。この「少なくて済む分」がコンベキシティの効果です。

価格の変化率は、デュレーションとコンベキシティの2つで、次のように書けます。

\[\frac{\Delta P}{P} \approx \underbrace{-\,D_{\text{mod}} \times \Delta r}_{\text{① デュレーション項(直線)}} + \underbrace{\frac{1}{2} \times C \times (\Delta r)^2}_{\text{② コンベキシティ項(曲がりの補正)}}\]

②の項の性質を、3つだけ押さえてください。

  1. \((\Delta r)^2\) が入っている ― 2乗なので、金利が上がっても下がっても必ずプラスになります。これが「上下どちらでも保有者に有利」の正体です。
  2. 2乗なので、小さな変動ではほとんど効かない ― \(\Delta r\) が0.01(1%)なら2乗は0.0001。1000分の1以下に縮みます。
  3. 大きな変動では急に効いてくる ― \(\Delta r\) が3倍になると、②の項は9倍になります。

コンベキシティ \(C\) 自体は、次の式で計算されます。実務で手計算することはまずありませんが、何を足し合わせているのかは見ておく価値があります。

\[C = \frac{1}{P} \sum_{t=1}^{n} \frac{t(t+1) \times CF_t}{(1+r)^{t+2}}\]

\(CF_t\) は \(t\) 年後にもらえるお金です。デュレーションが \(t\)(時点)で重み付けしていたのに対し、コンベキシティは \(t(t+1)\) で重み付けしています。遠い将来のキャッシュフローほど、いっそう強く効くという形になっているわけです。だからデュレーションが長い債券ほど、コンベキシティも大きくなります。

6-3 設例で実際に計算する

本巻で通してきた債券(額面100、クーポン2%、残存3年、利回り2%、単価100)で計算します。電卓で追えます。

時点 \(t\) \(CF_t\) \(t(t+1)\) \(t(t+1) \times CF_t\) \((1+r)^{t+2}\) 割引後
1年後 2 2 4 \(1.02^3 = 1.0612\) 3.77
2年後 2 6 12 \(1.02^4 = 1.0824\) 11.09
3年後 102 12 1,224 \(1.02^5 = 1.1041\) 1,108.6
合計 1,123.4
\[C = \frac{1{,}123.4}{100} = 11.23\]

この11.23を使って、第5章の予測を直します。 金利が1%上昇した場合です。

\[\begin{aligned} \text{① デュレーション項} &= -2.884 \times 0.01 = -2.884\% \\ \text{② コンベキシティ項} &= \tfrac{1}{2} \times 11.23 \times (0.01)^2 = +0.056\% \\ \text{合計(予測)} &= \mathbf{-2.828\%} \end{aligned}\]

第3章で実際に割り引いて計算した下落率は ▲2.829% でした。小数第2位まで一致します。

金利が1%低下した場合も確かめます。①は \(+2.884\%\)、②は \(\Delta r\) が2乗されるので符号が変わらず \(+0.056\%\)。合計 +2.940% に対し、実際は +2.941%。こちらも一致します。

この2行が、この章のすべてです。 6-1の表で見た「+0.05のずれ」は、正体不明の誤差ではなく、コンベキシティ項 \(\frac{1}{2} \times 11.23 \times 0.0001 = 0.056\%\) そのものだったのです。

担当者の心得:この設例をノートに一度書き写して、電卓で再現してみてください。「コンベキシティとは何か」を言葉で100回聞くより、この表を1回作るほうが早い。上司や検査官に説明を求められたとき、口で言えるかどうかは、手で計算したことがあるかどうかで決まります。

6-4 いつ効いて、いつ効かないか

同じ債券で、金利の上昇幅だけを変えて並べます。

金利上昇幅 ①デュレーション項 ②コンベキシティ項 予測合計 実際
+0.1%(10bp) ▲0.288% +0.001% ▲0.288% ▲0.288%
+1% ▲2.884% +0.056% ▲2.828% ▲2.829%
+3% ▲8.652% +0.505% ▲8.146% ▲8.170%

読みどころは、②の列の伸び方です。 上昇幅が10倍(0.1%→1%)になると、①は10倍ですが②は100倍。上昇幅が3%になると、②は0.5%を超え、デュレーションだけの予測は0.5ポイント以上も損失を過大に見積もるようになります。

効き方 場面
ほとんど効かない 日々の値洗い、数bp〜数十bpの変動
無視できなくなる ストレステストの±1%・±2%(→第19巻)、IRRBB の標準金利ショック(→第7巻第10章)
必ず考える 残存20年超の超長期債、ゼロクーポン債など、デュレーションが極端に長いもの

💡 ここでつまずきやすい:「コンベキシティがあるから金利上昇は怖くない」

誤りです。+1%のときの効果は +0.056%。デュレーションによる ▲2.884% という主たる損失の50分の1にすぎません。主役はデュレーション、コンベキシティは脇役の補正項です。「コンベキシティが大きいので大丈夫です」という説明を聞いたら、桁を確かめてください。

⭐ポイント⭐:「デュレーションは損失の大きさを決め、コンベキシティは損失の外れ方を決める」。

6-5 マイナスのコンベキシティ ― 保有者にとって最悪の形

ここまでは「コンベキシティは保有者にとっての、ささやかなおまけ」という話でした。ところが、これが逆向きになる商品があります。 実務ではこちらのほうがはるかに重要です。

マイナスのコンベキシティとは、金利が下がっても値上がりしにくく、金利が上がると素直に値下がりする性質のことです。曲線が上に凸になっている、と言い換えてもかまいません。

普通の債券(プラス) マイナスのコンベキシティ
金利が下がったとき 予測以上に値上がり 予測ほど値上がりしない
金利が上がったとき 予測ほど値下がりしない 予測どおり(以上)に値下がり
保有者にとって わずかに有利 どちらに転んでも不利

なぜそんなことが起きるのか。相手に「やめる権利」があるからです。

代表例が、期限前償還(コール)条項の付いた債券です。発行体は「金利が下がったら、この債券を繰上償還してよい」という権利を持っています。金利が下がると、発行体はもっと低い金利で借り換えたいので、この権利を行使します。保有者から見れば、値上がりしていく債券を、ちょうど値上がりし始めたところで取り上げられるわけです。だから金利が下がっても、価格は償還価格の近くで頭打ちになります。

同じ構造は、他にも顔を出します。

  • 住宅ローン(および住宅ローンを裏付けとする商品) ― 金利が下がると、借り手が借換えや繰上返済をします。金融機関から見れば、高い金利の貸出だけが早く消えていく(→第26巻第7章)。
  • 仕組債・仕組預金 ― 早期償還条項やオプションが埋め込まれています。「利回りが高い」のは、このオプションを相手に売っている対価です(→第11巻第9〜10章、→第13巻第6〜9章)。
  • 定期預金の中途解約 ― 金利が上がると預金者は解約して預け替えます。負債側にも同じ非対称があります(→第13巻)。

担当者の心得:「利回りが高い」+「早期償還条項がある」の組合せを見たら、まずマイナスのコンベキシティを疑ってください。 その上乗せ利回りは、相手に選択権を渡した対価です。対価をもらうこと自体が悪いのではありません。悪いのは、選択権を渡していることに気づかずに、利回りだけで買うことです。商品性を理解せずに利回りだけで判断してはいけない理由が、ここにあります。

よくある誤解:「デュレーションが同じなら、金利リスクは同じ」― マイナスのコンベキシティを持つ商品では、そもそもデュレーション自体が金利水準によって動きます(金利が下がると期限前償還が増え、実質的な残存期間が縮む)。この現象を負の凸性あるいは実務では「デュレーションが逃げる」と表現します。1つの数字で管理しきれない商品がある、という認識自体が、担当者の防具になります。

6-6 実務でどう使うか

第一歩としては、次の使い分けで十分です。

  1. 日常の管理はデュレーション(と次章の BPV)だけでよい。 数bp〜数十bpの世界では、コンベキシティは効きません。
  2. ストレスシナリオ(±1%以上)を作るときは、コンベキシティを織り込んだ数字か確認する。 運用システムの出力が「デュレーション近似」なのか「実際に割り引き直した full valuation」なのかを、一度は計算仕様書で確かめてください(→第19巻)。
  3. オプション性のある商品は、そもそも別枠で管理する。 期限前償還条項・早期償還条項・中途解約のある商品は、デュレーション1つでは管理できません。

⭐ポイント⭐:「普通の債券のコンベキシティは、もらえるおまけ。仕組商品のコンベキシティは、支払う代償」。同じ言葉が、正反対の意味で使われます。

7. BPV ― 現場で毎日使う1つの数字

デュレーションは「率」ですが、経営会議で必要なのは「円でいくら」です。それを表すのが BPV(ベーシス・ポイント・バリュー)、金利が 1bp(0.01%) 動いたときの価格変化額です。

\[\text{BPV} \approx \text{保有額} \times D_{\text{mod}} \times 0.0001\]

末尾の \(0.0001\) は 1bp、つまり 0.01% を小数にしたものです。「率で効く感応度に、動く幅を掛けて、金額に直している」だけの式です。

【設例】(単純化した仮の数字)

ポートフォリオ 保有額 修正デュレーション BPV
短期国債 500億円 2年 0.10億円
中期国債 800億円 5年 0.40億円
超長期国債 300億円 15年 0.45億円
合計 1,600億円 (加重平均 約5.9年) 0.95億円

加重平均デュレーションは、保有額を重みとした平均です。検算してみてください。

\[\frac{500 \times 2 + 800 \times 5 + 300 \times 15}{1{,}600} = \frac{1{,}000 + 4{,}000 + 4{,}500}{1{,}600} = \frac{9{,}500}{1{,}600} = 5.94\,\text{年}\]

合計 BPV から逆算しても同じです(\(0.95 \div (1{,}600 \times 0.0001) = 5.94\))。ポートフォリオ全体の BPV は、各明細の BPV の単純合計になる ― この加法性が、BPV が現場で重宝される理由です。デュレーションは率なので単純には足せませんが、金額である BPV は足せます。

この表の読みどころは、超長期国債です。 保有額は300億円と全体の2割弱にすぎないのに、BPV では0.45億円と、全体の半分近くを占めています。デュレーション15年が効いているためです。

⭐ポイント⭐:「残高は保有額で測るが、リスクは BPV で測る」。残高構成比とリスク構成比は、まったく違う姿になります。

BPV を握っておけば、暗算ができます。

  • 金利が +0.5%(50bp) 動いたら → \(0.95\,\text{億円} \times 50 = \mathbf{-47.5\,\text{億円}}\)
  • コア資本が150億円なら、これは自己資本の約3分の1に相当する

この「自己資本と並べる」一手間が、リスク量を経営の言葉に翻訳する作業です(→第7巻第12章)。

ここまでの筋(3行)

① デュレーションは平均回収期間であり、同時に金利感応度でもある。

② 実際の価格は曲線を描き、その曲がりがコンベキシティ。保有者には有利だが脇役。

③ BPV は感応度を金額にした数字。残高構成比とリスク構成比は別物。

次の部では、これらを使ってポートフォリオを組み立てます。


第Ⅲ部 ポートフォリオ編

8. ラダー・バーベル・ブレット ― 同じ平均年限でも中身は別物

ポートフォリオの残存期間の並べ方には、代表的な3つの型があります。平均年限が同じでも、性質はまったく異なります。

保有額の合計はどれも同じ100として、残存年数ごとの配分だけを変えた姿を並べます。

---
config:
  xyChart:
    width: 560
    height: 240
  themeVariables:
    xyChart:
      plotColorPalette: "#c39"
---
xychart-beta
    title "ラダー型: 各年限に均等配分(信金の基本形)"
    x-axis "残存年数" ["1", "2", "3", "4", "5", "6", "7", "8", "9", "10"]
    y-axis "残高" 0 --> 100
    bar [10, 10, 10, 10, 10, 10, 10, 10, 10, 10]
---
config:
  xyChart:
    width: 560
    height: 240
  themeVariables:
    xyChart:
      plotColorPalette: "#8a94a6"
---
xychart-beta
    title "バーベル型: 両端に集中(1年と10年)"
    x-axis "残存年数" ["1", "2", "3", "4", "5", "6", "7", "8", "9", "10"]
    y-axis "残高" 0 --> 100
    bar [50, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 50]
---
config:
  xyChart:
    width: 560
    height: 240
  themeVariables:
    xyChart:
      plotColorPalette: "#8a94a6"
---
xychart-beta
    title "ブレット型: 一点に集中(5年)"
    x-axis "残存年数" ["1", "2", "3", "4", "5", "6", "7", "8", "9", "10"]
    y-axis "残高" 0 --> 100
    bar [0, 0, 0, 0, 100, 0, 0, 0, 0, 0]

3枚とも、棒の高さを全部足せば同じ100です。 違うのは配分の形だけ。それでも、次に見るとおり性質はまったく別物になります。「同じ100を、どこに置くか」だけで、運営のしやすさも抱えるリスクも変わる ― これがこの章の主題です。

型 構成 長所 短所
ラダー(はしご型) 各年限に均等配分 毎年一定額が償還され、再投資の機会が自動的に訪れる。金利水準の予測に依存しない。運営が単純 相場観を反映しにくい
バーベル(鉄アレイ型) 超短期と超長期に集中 コンベキシティが大きい(下記)。短期部分が流動性を提供 イールドカーブの形の変化(スティープ化・フラット化)に弱い
ブレット(弾丸型) 特定の年限に集中 狙った年限の金利観を反映しやすい その年限に集中するため、償還と再投資が一時期に固まる

「バーベルはコンベキシティが大きい」を確かめる。 第6章で見たとおり、コンベキシティは \(t(t+1)\) という重みで効きました。遠い将来ほど、不釣り合いに強く効くという形です。だから、同じ平均年限でも、キャッシュフローを両端に散らしたほうがコンベキシティは大きくなります。

利息のない債券(ゼロクーポン債)で、平均年限をどちらも5年に揃えて比べます。

構成 平均年限 コンベキシティ
バーベル 1年と9年に半分ずつ 5年 44.2
ブレット 5年に集中 5年 28.8

平均年限は同じ5年なのに、コンベキシティは1.5倍以上の差です。9年側の \(9 \times 10 = 90\) という重みが効いているためで、これが「バーベルは金利が大きく動いたときに有利」と言われる理由です。ただし第6章で見たとおり、その有利さが効くのは変動幅が大きいときだけです。小さな金利変動では、この差はほとんど収益に現れません。

💡 ここでつまずきやすい:スティープ化・フラット化

イールドカーブ(期間ごとの金利を結んだ線 →第7巻)は、全体が平行に上下するとは限りません。スティープ化は長短の金利差が開くこと、フラット化は差が縮むことです。バーベルが弱いのはここで、たとえば短期金利だけが上がってフラット化すると、短期に置いた半分だけが直撃されます。デュレーションは平行移動しか想定していないので、この動きを捉えられません(→第7巻第7章の複数シナリオ)。

信用金庫の実務では、ラダー型が基本形とされることが多いのは、次の理由によります。

  1. 相場観に依存しない。金利の先行きを当て続けることは誰にもできません。ラダーは「どの水準でも一定額を再投資する」という平均化の効果を持ちます。
  2. 資金繰りが安定する。毎年一定額が償還されるので、流動性の観点でも読みやすい(→第2巻)。
  3. 説明しやすい。委員会・監事・当局に対して、方針が一貫していることを示しやすい。

💡 ここでつまずきやすい:「平均年限が同じならリスクも同じ」

平均年限5年のブレット型と、1年と9年に半分ずつのバーベル型は、平均年限こそ同じ5年ですが、イールドカーブの形が変わったときの挙動がまったく違います。平行移動なら似た動きをしますが、短期だけが上がるフラット化では、バーベルの短期部分だけが直撃されます。平均年限は要約された1つの数字にすぎず、分布の形の情報を失っています(→第7巻第7章の複数シナリオ)。

9. 信用金庫のポートフォリオ構築で効く制約

教科書的なポートフォリオ理論をそのまま適用できない、信用金庫固有の制約があります。

制約①:負債の性格に縛られる。 第7巻第1章で見たとおり、金利リスクは資産と負債の"差"から生じます。したがって資産だけを最適化することに意味はありません。要求払い預金で調達している以上、資産側のデュレーションを伸ばすほどギャップは開きます。

制約②:含み損が純資産・配当を直接削る。 その他有価証券に区分すれば、含み損は未実現でも純資産に載り、配当余力を削ります(→第1巻第16章)。デュレーションを伸ばすことは、この振れ幅を大きくすることを意味します。

制約③:売る自由が制限される場合がある。 満期保有目的に区分した債券は、正当な理由なく売却するとタインティング(他の満期保有目的債券の強制振替)を招きます(→第1巻第9章)。区分の選択は、ポートフォリオ運営の自由度を決める意思決定でもあります。

制約④:規制上のリスクウェイトは判断材料にならない場面が多い。 国債のリスクウェイトは0%であり、超長期国債を買っても自己資本比率の分母は増えません(→第5巻第9章)。規制上は「無料」に見えるが、経済的には巨大な金利リスクを抱えているという乖離が生じます。

担当者の心得:ポートフォリオの提案を経営に上げるときは、①最終利回り(リターン)②修正デュレーション・BPV(金利リスク)③含み損が純資産・配当に与える影響 ④区分(その他有価証券か満期保有目的か)と売却の自由度、この4点を必ずセットで示してください。利回りだけを示す資料は、リスクを隠した資料です。

ここまでの筋(3行)

① ラダー・バーベル・ブレットは、平均年限が同じでも性質がまったく違う。

② 信金の基本形がラダーなのは、相場観に依存せず資金繰りも読みやすいから。

③ 資産だけの最適化に意味はなく、負債・会計区分・配当・規制の制約とセットで考える。


第Ⅳ部 実務編

10. 入替えの損得をどう評価するか

証券会社からの入替え提案を評価する手順を、型として持っておきます。

手順①:リターンの向上を確認する ― 新旧の最終利回りを比較する。直利ではありません(第4章)。

手順②:リスクの増加を確認する ― 新旧の修正デュレーション・BPVを比較する。利回りが上がった分、デュレーションが伸びていないか。

手順③:1年あたりのリターン増と、リスク増を並べる

【設例】(単純化した仮の数字)

現保有債券 提案された債券
保有額 100億円 100億円
最終利回り 0.8% 1.1%
残存期間 5年 10年
修正デュレーション 4.8年 9.5年
BPV 0.048億円 0.095億円
  • リターンの向上:年 0.3% × 100億円 = 年0.3億円
  • リスクの増加:BPV が0.048 → 0.095 と約2倍。金利1%上昇時の含み損は 4.8億円 → 9.5億円へ

一言まとめ:年0.3億円の収益増と引き換えに、金利1%上昇時の含み損が4.7億円増える。 金利が1%上がれば、収益増の15年分以上が一瞬で吹き飛びます。

これで「やるべきでない」と結論するのは早計です。金利が上がらなければ、この入替えは正しい判断になります。 重要なのは、この非対称を経営が認識したうえで意思決定することです。

担当者の心得:入替えの提案書には、「金利が1%上昇した場合、この入替えによって含み損が○億円増える」という一行を必ず書いてください。利回り向上だけを書いた提案書は、意思決定の材料として不完全です。

手順④:会計・税務・規制への影響を確認する(→次章)。ただし順序を守ること。①経済合理性 → ②税・会計・規制、の順です(→第1巻第20章20-4、→第3巻第9章)。

11. 【設例】益出し・損切り・入替えを三面で並べる

同じ入替え取引を、4つの数字(→第0巻第8章)で並べます。すべて単純化した仮の数字、実効税率30%。

前提:取得原価100、時価80(含み損20)の債券(その他有価証券)を売却し、同額で利回りの高い債券に入れ替える。

レンズ 何が起きるか
①会計 売却損20が P/L に計上され、当期純利益は税引後で▲14。ただし純資産は含み損の段階で既に▲14になっていたため、純資産の総額はほぼ不変(評価差額金 → 繰越利益剰余金への引っ越し)(→第1巻第8章8-4)
②税務 売却により損金算入。課税所得が20減り、回収可能性があれば税金6が減る。黒字が足りなければ繰越欠損金へ(→第1巻第20章)
③規制 国内基準の自己資本比率では、その他有価証券の含み損はコア資本から差し引かれません(これを「中立化」と呼びます →第1巻第21章21-3)。ところが売却すると損失が P/L を通って利益剰余金 = コア資本を削るため、中立化が外れて自己資本比率が低下します。リスクアセットは(国債同士なら)不変
④経営管理 経済価値は不変(同額の時価で入れ替えたため)。ただし将来の利回りは向上し、デュレーションは変化する。ここが本来の判断軸

損益計算書上の位置:この売却損20は「国債等債券売却損」として債券5勘定尻に入り、業務純益を押し下げます。しかしコア業務純益からは除かれます(→第3巻第8〜9章)。

一言まとめ:入替えは、純資産をほとんど動かさず、自己資本比率を下げ、税金を減らし、コア業務純益には現れず、将来の収益力を変える。 1つの取引に対して、4つのレンズが4つの違う答えを返しているわけです。だからこそ、どれか1つの数字を目標にして意思決定してはいけないのです。

⭐ポイント⭐:「痛みは当年・一括、メリットは将来・分散」(→第1巻第20章20-5)。損切りを伴う入替えの本質は、この時間軸の非対称にあります。


第Ⅴ部 規制編

12. 特定取引勘定を持たない金庫と、市場リスク規制

信用金庫は通常、特定取引勘定(トレーディング勘定)を設けません(→第5巻第10章、→第7巻第2章)。したがって、保有する債券はすべて銀行勘定に属し、金利リスクは IRRBB の枠組みで管理されます(→第7巻)。

国際統一基準行の世界では何が起きているか(第3層)。国際的には、トレーディング勘定の市場リスク規制が FRTB(トレーディング勘定の抜本的見直し) として大幅に精緻化されました。リーマンショックでトレーディング勘定の損失が過小評価されていたという反省から、①銀行勘定とトレーディング勘定の境界を厳格化し、②内部モデルの承認要件を厳しくし、③リスク計測の手法を精緻化する、という方向の改革です。

なぜ信用金庫はこれを気にしなくてよいのか。 答えは単純で、規制の対象となる業務そのものを行っていないからです。トレーディング勘定を持たない以上、その勘定の市場リスクを精緻に計測するルールも必要ありません。

ただし、ここで必ず押さえるべき限界があります。

トレーディング規制の対象外であることと、金利リスクがないことは、まったく別問題です。

むしろ逆です。トレーディングをしない金庫は、債券を長く持ちます。長く持つほど、デュレーションは長く、金利リスクは大きくなります(第5章)。信用金庫が抱える金利リスクの絶対量は、資産規模に対して決して小さくありません。

だからこそ、そのリスクは市場リスク規制ではなく、IRRBB の重要性テスト(コア資本の20%)という別の枠組みで見られているのです(→第7巻第10章)。

必ず押さえる位置づけ:デュレーション、コンベキシティ、BPV といった本巻の道具は、いずれも国際的な市場で標準的に用いられているものです。規制としては直接適用されなくても、計測の道具と考え方は業界標準の"ものさし"として、信用金庫の実務にもそのまま使われています。

地域銀行ならどうか:大手の地域銀行の中には特定取引勘定を設けているところもありますが、多くの地域銀行は信用金庫と同様、銀行勘定での有価証券運用が中心です。ポートフォリオ構築の考え方も基本的に共通しており、実務の参考になります。


第Ⅵ部 まとめ

13. 実務での留意点

  • 利回りは最終利回りで見る。直利は元本の償還差損益を無視するため、実力を見誤ります。
  • 会話は単利、判断は複利。提案書の利回りは多くが単利最終利回りで、残存の長い債券を有利に見せます。残存年数の違うものを比べるときは複利に揃える。
  • 「利回りが高い」の裏側を必ず問う。期間・信用・流動性・オプション性のいずれを引き受けた対価か。
  • 入替えの提案は、必ずデュレーション・BPV の変化とセットで評価する。「金利1%上昇時の含み損が○億円増える」の一行を書く。
  • 残高構成比とリスク構成比は別物。超長期債は残高では小さくても BPV では主役になります。
  • 平均年限は分布の情報を失う。同じ平均年限でも、ラダーとバーベルは別のリスクを持ちます。
  • 資産だけを最適化しない。負債の性格、会計区分、配当への影響、規制上の扱いとセットで考える(→第7巻・第1巻)。
  • 判断の順序を守る。①経済合理性 → ②税・会計・規制の確認。逆にした瞬間、それは数字合わせです。
  • リスクウェイト0%を「無料」と読まない。国債は自己資本比率の分母を増やしませんが、金利リスクは正面から抱えます。

つまずきやすいポイント総まとめ

用語・概念 章 一言で言うと
単利と複利の違い 第2章2-1 単利は元本にだけ、複利は利息にも利息が付く。債券は複利で考える
複利に隠れた仮定 第2章2-1 「受け取った利息を同じ利回りで再投資できる」= 再投資リスク
割り引くとは何か 第2章2-2 複利で増やす計算の逆算。将来のお金を今の価値に換算すること
金利上昇で単価が下がる理由 第3章 クーポンは変わらないので、値引きして売るしかない
直利と最終利回り 第4章4-2 直利は償還差損益を無視する。判断に使うのは最終利回り
単利最終と複利最終 第4章4-3〜4-4 単利は儲けを年数で均す、複利は受取時期まで数える。単利のほうが高く出る
単利は長期債を有利に見せる 第4章4-5 残存が長いほど単利と複利の差は開く
利回りが高い理由 第4章 期間・信用・流動性・オプション性の対価
デュレーションの2つの顔 第5章 平均回収期間であり、金利感応度でもある。3年後のお金は金利の影響を3回ぶん受けるから
なぜ \((1+r)\) で割るのか 第5章 「\((1+r)\) が1%」を「\(r\) が1%ポイント」に翻訳する単位合わせ
バーベルのコンベキシティ 第8章 遠い将来ほど強く効くので、両端に散らすほど大きくなる
低クーポン長期債の危険 第5章 デュレーションが極端に長くなる
なぜ曲線になるのか 第6章6-1 割引の分母 \((1+r)^n\) が動くから。下げたときの効きのほうが大きい
コンベキシティ 第6章6-2 曲がり具合の指標。デュレーションが傾き、コンベキシティは傾きの変わり方
\((\Delta r)^2\) が入る意味 第6章6-2 2乗なので上下どちらでもプラス。小さな変動では効かず、大きな変動で急に効く
マイナスのコンベキシティ 第6章6-5 相手に「やめる権利」がある商品。上がっても下がっても不利
残高構成比とリスク構成比 第7章 超長期債は残高が小さくても BPV では主役
平均年限は分布を隠す 第8章 ラダーとバーベルは同じ平均年限でも別物
入替えの評価 第10章 利回り増とリスク増を必ず並べる
リスクウェイト0%は無料ではない 第9・12章 分母は増えないが、金利リスクは正面から抱える
規制対象外≠リスクなし 第12章 トレーディングをしない金庫ほど長く持つ

まとめとセルフチェック

一枚でわかる全体像

土台:お金は複利で増える。割引はその逆算にすぎない(第2章)。この一点が分かれば、あとは積み上げです。

  1. 債券の値段は、将来のキャッシュフローの現在価値の合計。
  2. 金利が上がると単価が下がるのは、変わらないクーポンを値引きして売るしかないから。
  3. 利回りには表面利率・直利・単利最終・複利最終の4つの言い方がある。会話は単利で聞こえてくるが、判断は複利で行う。
  4. デュレーションは実質的な平均回収期間であり、同時に金利感応度。残存が長く、クーポンが低く、利回りが低いほど長くなる。
  5. コンベキシティは価格曲線の曲がり。\(\frac{1}{2} C (\Delta r)^2\) という形なので、上下どちらでも保有者に有利だが、効くのは変動幅が大きいときだけ。主役はあくまでデュレーション。ただしオプション付き商品では符号が逆転する。
  6. BPVは感応度を金額にした数字。1bp あたり何円動くか。残高構成比とリスク構成比は別物。
  7. ラダー・バーベル・ブレットは、平均年限が同じでも性質が違う。信金の基本形はラダー。
  8. 入替えの評価は、最終利回りの向上とデュレーション/BPV の増加を必ず並べる。
  9. 同じ入替え取引に対して、会計・税務・規制・経営管理の4つのレンズが、それぞれ違う答えを返す。1つの数字を目標に意思決定してはならない。
  10. トレーディング勘定を持たない信金に FRTB は適用されないが、長く持つからこそ金利リスクは大きい。

セルフチェック(説明できますか?)

  • 単利と複利の違いを、100を年2%で5年置いた表を書いて説明できる
  • 「複利には再投資の仮定が隠れている」を、再投資リスクという言葉を使って説明できる
  • 額面100・クーポン2%・残存3年の債券の単価を、利回り2%と3%で計算できる
  • 金利が上がると単価が下がる理由を、クーポンと市場利回りの関係から説明できる
  • 表面利率・直利・単利最終・複利最終の4つを、単価90の債券で計算し分けられる
  • 単利最終利回りが複利最終利回りより高く出る理由を説明できる
  • 「残存年数の違う債券を単利利回りだけで比べてはいけない」理由を説明できる
  • 「利回りが0.3%高い」提案に対して、問い返すべき4つのリスクを挙げられる
  • マコーレー・デュレーションを、加重平均の表を作って計算できる
  • マコーレーを \((1+r)\) で割って修正デュレーションにする理由を説明できる
  • 修正デュレーションから価格変化率を予測し、実際の計算と比較できる
  • デュレーションを長くする3つの要素を挙げられる
  • 価格と利回りの関係が直線ではなく曲線になる理由を、割引の分母から説明できる
  • コンベキシティ11.23を使って、金利1%上昇時の予測を▲2.828%まで詰められる
  • コンベキシティが保有者に有利である理由と、その効果の大きさの限界(+0.056%)を説明できる
  • マイナスのコンベキシティが生じる仕組みを、期限前償還条項を例に説明できる
  • 保有額とデュレーションから BPV を計算し、金利0.5%上昇時の損失を暗算できる
  • BPV をコア資本と並べて、経営に意味のある形で提示できる
  • ラダー・バーベル・ブレットの長所と短所を説明できる
  • 「バーベルはコンベキシティが大きい」を、平均年限5年の設例で示せる
  • スティープ化・フラット化がバーベルに効く理由を説明できる
  • 「平均年限が同じならリスクも同じ」がなぜ誤りか説明できる
  • 入替え提案を、リターン増とリスク増の両面から評価できる
  • 同じ入替え取引を、会計・税務・規制・経営管理の4つのレンズで説明できる
  • 信用金庫に FRTB が適用されない理由と、その限界を説明できる

用語集

用語 意味
額面 満期に償還される金額。債券の券面に記載された元本
単価 額面100あたりの取引価格
単利 最初の元本にだけ利息が付く計算。\(n\) 年後は \(\text{元本} \times (1 + r n)\)
複利 受け取った利息にも利息が付く計算。\(n\) 年後は \(\text{元本} \times (1+r)^n\)。債券計算の基礎
再投資リスク 受け取った利息を、当初と同じ利回りで再投資できないリスク。複利利回りに隠れた仮定の裏側
割引率 将来のお金を今の価値に直すときに使う利回り。本巻では市場の利回りと同じ
表面利率(クーポンレート) 額面に対する年間利息の率。契約で決まり変動しない
直接利回り(直利) \(\text{年間利息} \div \text{購入単価}\)。償還差損益を反映しない
最終利回り 償還までの損益を含めた利回りの総称。単利と複利の2通りがある
単利最終利回り 償還差損益を残存年数で均して利息に足し、購入単価で割ったもの。日本の債券実務の慣行
複利最終利回り その利回りで割り引くと現在価値の合計が購入単価に一致する利回り(IRR)。理論的に正しく、他商品との比較に使う
現在価値 将来のキャッシュフローを、一定の利回りで割り引いた今の価値
パー/アンダーパー/オーバーパー 単価が額面と等しい/下回る/上回る状態
マコーレー・デュレーション 現在価値を重みとした、キャッシュフロー回収時点の加重平均年数
修正デュレーション \(D_{\text{mac}} \div (1 + r)\)。価格変化率の感応度
コンベキシティ(凸性) 価格と利回りの関係の曲がり具合。価格変化率への効きは \(\frac{1}{2} C (\Delta r)^2\) で、上下どちらでもプラス
マイナスのコンベキシティ 期限前償還条項などにより、金利低下時に値上がりしにくく、金利上昇時は素直に値下がりする性質。保有者に不利
BPV(ベーシス・ポイント・バリュー) 金利が1bp(0.01%)動いたときの価格変化額
ベーシス・ポイント(bp) 0.01%。金利の変動を表す単位
ゼロクーポン債 利息の支払いがなく、割引価格で発行される債券。デュレーション=残存期間
ラダー型 各年限に均等に配分するポートフォリオ構築の型
バーベル型 超短期と超長期に集中させる型
ブレット型 特定の年限に集中させる型
イールドカーブ 期間ごとの金利水準を結んだ曲線(→第7巻)
スティープ化/フラット化 イールドカーブの長短の金利差が開くこと/縮むこと
中立化 国内基準の自己資本比率で、その他有価証券の含み損をコア資本から差し引かない扱い(→第1巻)
銀行勘定/特定取引勘定 期間収益等のため保有する勘定/トレーディング目的の勘定
FRTB トレーディング勘定の市場リスク規制の抜本的見直し
債券5勘定尻 国債等債券の売却損益・償還損益・償却の合計(→第3巻)
タインティング 満期保有目的債券を正当な理由なく売却した場合に、他の同区分債券まで振替を強いられること(→第1巻)

参考文献・出典

  • 日本証券業協会および取引所の公表資料(債券の利回り計算、売買慣行)
  • 財務省「国債」に関する公表資料(国債の種類・入札・償還の仕組み)
  • 日本銀行金融機構局金融高度化センターの市場リスク管理に関する各種資料
  • バーゼル銀行監督委員会の公表文書(FRTB、IRRBB の考え方)
  • 債券投資・債券数学に関する標準的な実務書(デュレーション・コンベキシティの導出)
  • 自金庫の有価証券運用規程・リスク管理規程および運用システムの計算仕様

本テキストは制度理解のための教育用資料です。本文中の単価・利回り・デュレーション・金額はすべて設例用に単純化した仮の数字であり、実際の商品の条件を示すものではありません。特定の商品の推奨を意図するものでもありません。実際の運用判断・計算にあたっては、自金庫の資金証券/リスク管理部門の規程および当局公表資料で必ずご確認ください。

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