第26巻 個人ローンとカード

― 住宅ローン・マイカーローン・カードローン・クレジットカードを、リスクと採算の言葉で読む

対象読者:信用金庫の営業店で個人ローンを扱うことになった方、および本部でリテール審査・商品企画・リスク管理を担当することになった方。第20〜23巻の融資4巻が事業性融資を扱うのに対し、本巻は個人向けの与信を扱います。

ねらい:①個人ローンの審査が、事業性融資の稟議とは別の原理(統計)で動いていることを理解すること。②住宅ローン・マイカーローン・カードローン・クレジットカードの4つを、リスクの所在・資金の流れ・採算で読み分けられるようになること。③「なぜ住宅ローンの金利は低く、カードローンの金利は高いのか」を、感覚ではなく計算で説明できるようになること。

このテキストの特徴:個人ローンの解説は「商品ごとの条件比較」になりがちです。本巻はそうしません。誰が信用リスクを負っているのかという1つの問いで、4つの商品を貫きます。この問いを持つと、保証会社・団信・保証料・加盟店手数料といったバラバラに見える論点が、1本の線でつながります。

他巻との接続:事業性融資の入口・審査・稟議は →第20巻・第21巻。期中管理と条件変更は →第22巻。回収と法的整理は →第23巻。自己査定と引当は →第14巻。リスクウェイトと自己資本は →第5巻第9章。金利リスクと期限前償還は →第7巻。個人の口座と生活口座の経済性は →第24巻。カード決済のインフラは →第25巻第8章。営業店の目標管理と顧客本位の業務運営は →第27巻第9章。


全体マップ(この一枚で流れがつかめます)

flowchart TD
    Q["【本巻を貫く1つの問い】<br/>この与信の信用リスクを<br/>実際に負っているのは誰か"]
    Q --> A["①住宅ローン<br/>担保 + 団信 + 保証会社<br/>→ 金庫のリスクは薄い<br/>→ だから金利が低い"]
    Q --> B["②マイカー・教育・フリーローン<br/>保証会社が中心<br/>→ 保証料が実質的な信用コスト"]
    Q --> C["③カードローン<br/>無担保・極度・随時利用<br/>→ 貸倒率が高い<br/>→ だから金利が高い"]
    Q --> D["④クレジットカード<br/>決済 + 与信の複合<br/>→ 収益源は加盟店手数料<br/>→ 貸出とは別の生き物"]
    A --> E["【共通の帰結】<br/>金利差は「業者の良心」ではなく<br/>信用コスト・経費率・保証料の差である<br/>(第Ⅱ部・第Ⅳ部の設例)"]
    B --> E
    C --> E
    D --> E
    style Q fill:#fde,stroke:#c39
    style E fill:#def,stroke:#39c

この図の読みどころは、4つの商品が「金利の高さ」で並んでいるのではなく、「リスクを誰が負うか」で並んでいることです。住宅ローンの金利が低いのは競争が激しいからだけではありません。担保・団信・保証という三重の保全があるため、金庫が負う信用リスクが薄いからです。逆にカードローンの金利が高いのは、無担保で、いつでも引き出せて、貸倒率が高いからです。金利は結果であって、原因ではありません。


目次

第Ⅰ部 基礎編 ― 個人与信は事業性融資と何が違うか

  1. 個人ローンは「事業性融資の縮小版」ではない
  2. 個人ローンの地図
  3. 保証会社という仕組み ― 誰がリスクを負っているのか

第Ⅱ部 住宅ローン

  1. 住宅ローンの構造 ― 長期・団信・担保・薄いスプレッド(4-3 年収倍率と返済比率/4-4 事務手数料と保証料/4-5 提携申込とローンプラザ)
  2. 固定・変動・固定期間選択 ― 5年ルールと125%ルール
  3. 【設例】住宅ローン1本の採算 ― 35年持って、初めて元が取れる(6-1 事務手数料を加えるとどう変わるか)
  4. 期限前償還リスク ― ALMから見た住宅ローン(7-1 変動金利中心とコンベキシティ)
  5. リスクウェイトと資本 ― なぜ住宅ローンは「軽い」のか(8-2 アパートローンの審査指標:DSCRとLTV/8-3 リスクウェイトの違いを採算の言葉に翻訳する)

第Ⅲ部 小口ローン

  1. マイカーローン ― 提携ルートと直販ルート
  2. 教育ローン・フリーローン ― 資金使途をどこまで問うか

第Ⅳ部 カードローンとクレジットカード

  1. カードローン ― 極度・随時利用・無担保
  2. 過剰貸付批判と自主規制 ― 総量規制は銀行に直接適用されない
  3. クレジットカード ― 三者間の資金と手数料の流れ
  4. 【設例】カードローンの採算 ― 高い金利は何の対価か

第Ⅴ部 審査・管理編

  1. 個人信用情報機関とスコアリング ― 稟議ではなく統計
  2. 延滞管理と回収 ― 事業性との決定的な違い(16-2-2 受任通知が届いたら)

第Ⅵ部 比較編

  1. 地域銀行ならどうか/国際的な位置づけ

第Ⅶ部 まとめ

  1. 実務での留意点
  2. つまずきやすいポイント総まとめ/セルフチェック/用語集/参考文献

第Ⅰ部 基礎編 ― 個人与信は事業性融資と何が違うか

1. 個人ローンは「事業性融資の縮小版」ではない

融資担当を経験した人が個人ローンに移ると、必ず戸惑います。判断の作法がまるで違うからです。

第21巻で扱った事業性融資の与信判断は、次のようなものでした(→第21巻第1章)。

  • 決算書を分析し、正常運転資金と債務償還年数を見る
  • 経営者と面談し、事業の実態と将来性を判断する
  • 稟議書に書き、決裁権限に応じて上位者が判断する

個人ローンでは、この作法がほとんど使えません。

事業性融資 個人ローン
判断の材料 決算書、事業計画、経営者の資質、取引実績 年収、勤務先、勤続年数、他の借入、信用情報
判断の方法 個別の稟議。1件ずつ人が判断する スコアリング。統計的な基準で判定する
件数と単価 件数は少なく、1件が大きい 件数が多く、1件が小さい
損失の分布 1件の損失が大きい。集中リスクが問題(→第15巻) 1件の損失は小さい。貸倒率という平均で管理する
悪化の兆候 資金繰り、売上、業界動向(→第22巻) 延滞そのもの。前兆が乏しい
再生の余地 条件変更・経営改善計画(→第22巻) 限定的。個人の収入は急には増えない

もっとも重要な違いは、損失の考え方です。

事業性融資では、1件の大口が破綻すれば大きな損失になります。だから1件ずつ精査します(→第21巻)。一方、個人ローンでは1件が小さく、件数が膨大です。どれだけ精査しても、一定割合は必ず焦げ付きます。 そこで管理の対象は「この1件が返るか」ではなく、「1万件のうち何件が焦げ付くか」になります。

⭐ポイント⭐:「事業性融資は1件を読み、個人ローンは1万件を数える」。

この違いが、審査の方法(第15章)、金利の決め方(第14章)、延滞管理の方法(第16章)のすべてを規定しています。

💡 ここでつまずきやすい:「丁寧に審査すれば貸倒れは防げる」わけではない

誤解:個人ローンでも、一人ひとりを丁寧に見れば貸倒れは減らせるはずだ。

正しい理解:個人の返済不能は、本人の資質ではなく、失業・病気・離婚・親の介護といった予測できない事象によって起きることが大半です。申込時点でどれだけ精査しても、10年後の失業は分かりません。だから個人与信では、審査の精度を上げることには限界があるという前提に立ち、貸倒れが起きることを織り込んだ金利設定と、分散(1件を小さく、件数を多く)でリスクを管理します。第15巻で扱った与信集中の議論(→第15巻第2章)の、ちょうど裏返しの世界です。

担当者の心得:個人ローンで「この人は大丈夫か」と悩むのは自然ですが、悩んだ結果を基準の外に出さないことが大切です。基準を満たさない先に情で貸せば、後の延滞は担当者個人の問題になります。逆に、基準を満たす先を主観で断れば、それは差別的な取扱いになりかねません。個人与信では、基準に従うことが、顧客と自分の双方を守ります。

2. 個人ローンの地図

本巻で扱う商品を、一枚の表に並べます。

商品 資金使途 担保・保全 期間 金利水準 主なリスクの担い手
住宅ローン 住宅の取得・借換え 不動産担保 + 団体信用生命保険 + 保証 20〜35年 最も低い 保証会社・保険会社。金庫のリスクは薄い
マイカーローン 自動車の購入 原則として無担保。保証会社の保証 3〜10年 低〜中 保証会社
教育ローン 学費・入学金 原則として無担保。保証あり 5〜15年 低〜中 保証会社
フリーローン 制限なし(証明を求める場合も) 無担保・保証付 3〜10年 中 保証会社
カードローン 制限なし 無担保。保証付が一般的 期限の定めなし(極度) 高い 保証会社。ただし保証料が高い
クレジットカード 商品・サービスの購入 無担保 翌月一括〜リボ・分割 一括なら無利息 カード会社。金庫は提携する側に回ることが多い

この表を眺めると、保証会社という名前が繰り返し出てくることに気づきます。ここが個人ローンを理解する鍵です。次章で正面から扱います。

もう1つ、期間と金利が逆に見える点も押さえてください。ふつう、期間が長いほど金利は高くなります(→第8巻第3章のイールドカーブ)。ところが個人ローンでは、35年の住宅ローンが最も低く、期限の定めのないカードローンが最も高い。これは金利の水準を決めているのが期間ではなく、信用コストと経費率だからです。第6章と第14章の設例で、この構造を数字で確認します。

⭐ポイント⭐:「個人ローンの金利差を作っているのは、期間ではなく担保と貸倒率」。

3. 保証会社という仕組み ― 誰がリスクを負っているのか

信用金庫が扱う個人ローンの多くには、保証会社の保証が付いています。これを理解せずに個人ローンを語ることはできません。

3-1. 仕組み

flowchart TD
    A["顧客(借主)"] -->|"①保証を委託<br/>保証料を負担"| B["保証会社"]
    A -->|"②借入・返済"| C["信用金庫"]
    B -->|"③保証(債務を保証する契約)"| C
    C -->|"④延滞が続いたら<br/>代位弁済を請求"| B
    B -->|"⑤金庫へ代位弁済<br/>= 金庫は全額回収"| C
    B -->|"⑥求償権に基づき<br/>顧客へ請求・回収"| A
    style B fill:#fde,stroke:#c39

この図は、第21巻で扱った信用保証協会の仕組み(→第21巻第12章)と構造がまったく同じです。違いは、信用保証協会が公的な機関であるのに対し、個人ローンの保証会社は民間の会社(信販会社、系統・地元の保証会社、金融機関のグループ会社など)であることです。

保証が付くと、金庫の立場は劇的に変わります。

保証がない場合 保証がある場合
顧客が返せなくなったら 金庫が損失を被る 保証会社が代位弁済する。金庫は元本を回収できる
金庫が負う信用リスク 顧客の信用リスク 保証会社の信用リスクに置き換わる
回収の実務 金庫が行う 保証会社が行う(求償権に基づく)
金庫の収益 金利全額 金利から保証料相当分を差し引いた額

3-2. 保証料は誰が払っているのか

ここが実務でもっとも誤解されます。保証料の負担の形は、商品によって2通りあります。

形 誰が払うか 顧客から見た表示
顧客負担型 顧客が保証会社に支払う(一括前払い、または金利に上乗せ) 「金利1.0% + 保証料0.2%」のように別表示
金庫負担型 金庫が保証会社に支払う 「金利14.0%」のように保証料込みの金利だけが見える

住宅ローンでは顧客負担型が多く、カードローンでは金庫負担型が一般的です。どちらでも、経済的には顧客が負担しています。 金庫負担型では、保証料の分だけ表面金利が高くなっているからです。

💡 ここでつまずきやすい:保証があれば信用リスクはゼロ、ではない

誤解:保証会社が付いているのだから、金庫に信用リスクはない。

正しい理解:リスクは消えたのではなく、移っただけです。残るリスクは3つあります。

①保証会社の信用リスク:保証会社が経営破綻すれば、保証は履行されません。とくに保証会社が特定の1社に集中している場合、これは集中リスクです(→第15巻)。

②免責のリスク:保証には免責事由があります。虚偽の申込内容を見抜けなかった場合など、保証が履行されないことがあります(→第21巻第12章の信用保証協会と同じ論理)。

③顧客との関係のリスク:代位弁済が行われると、顧客は保証会社から請求を受けます。顧客から見れば「金庫に裏切られた」と映ることもあります。地域に根ざす信用金庫にとって、これは無視できない論点です。

担当者の心得:自金庫の個人ローンについて、「どの商品が、どの保証会社の保証で、保証料率はいくらか」の一覧を一度作ってみてください。これを見ると、①自金庫が実際に取っている信用リスクの量、②保証会社への依存度、③商品ごとの実質的な利ざやが、同時に見えます。個人ローンの企画は、この表がないと始まりません。

ここまでの筋(3行)

① 個人ローンは事業性融資の縮小版ではない。1件を読む世界から、1万件を数える世界へ、判断の原理が変わる。

② 個人ローンの金利差を作っているのは期間ではなく、担保・保証の有無と貸倒率である。

③ 保証会社の保証は信用リスクを消すのではなく、保証会社の信用リスクに置き換える。免責事由と集中度が残る。


第Ⅱ部 住宅ローン

4. 住宅ローンの構造 ― 長期・団信・担保・薄いスプレッド

住宅ローンは、個人ローンの中で圧倒的に金額が大きく、期間が長い商品です。地域金融機関にとっては、リテール部門の収益の柱であると同時に、ALM上の最大の資産でもあります。

4-1. 四重の保全

住宅ローンの信用リスクが薄い理由は、保全が何重にもかかっているからです。

保全 内容 何をカバーするか
①不動産担保 購入する住宅と土地に抵当権を設定する 返済不能時の回収
②団体信用生命保険(団信) 債務者が死亡・所定の高度障害となった場合、保険金で残債が完済される 死亡・重度障害のリスク
③保証会社の保証 延滞時に代位弁済 返済不能そのもの
④返済比率の基準 年収に対する年間返済額の比率に上限を設ける 貸しすぎの防止

②の団信が、住宅ローン特有の重要な仕組みです。住宅ローンは20年、30年と続くため、その間に債務者が死亡する可能性は無視できません。団信がなければ、遺族が住宅ローンを抱えたまま残されます。団信によって、債務者が死亡した時点で残債は消え、遺族には住宅が残ります。

団信には、金利を上乗せして保障範囲を広げるタイプ(がん・三大疾病・就業不能などを対象とするもの)もあります。上乗せ幅は商品によって異なり、保険としての妥当性は顧客ごとに違います。

💡 ここでつまずきやすい:団信は「金庫のための保険」でも「顧客のための保険」でもある

誤解:団信は金庫が債権を保全するための仕組みだ。

正しい理解:両方です。 保険金は債務の弁済に充てられるので、金庫は回収できます。同時に、遺族は住宅を失わずに済みます。利害が一致する珍しい仕組みです。ただし、上乗せ型の団信になると話が変わります。保障を厚くすれば金利は上がり、顧客の負担は増えます。「万一に備えて」という説明だけで上乗せ型をすすめるのは、保険の販売としての適切性を問われます。顧客がすでに加入している生命保険との重複も含めて説明すべき場面です(→第27巻第9章)。

4-2. スプレッドの薄さ

住宅ローンは、競争がもっとも激しい商品の1つです。ネット銀行、メガバンク、地域銀行、フラット35など、比較サイトで金利が並べられ、0.01%の差で選ばれます。

その結果、貸出金利は極めて低い水準にあり、利ざやは薄い。第6章の設例で見るように、1本あたりの利益は小さく、長期にわたって保有して初めて採算に乗る構造になっています。

このことから、住宅ローン戦略の要諦が導かれます。

住宅ローンは、そのローン単体で儲ける商品ではない。顧客との30年の関係を作る商品である。

住宅ローンを組んだ顧客は、返済用の口座を自金庫に置きます。給与振込も付きやすい。つまり、生活口座になります(→第24巻第10章)。第24巻の設例で見たとおり、生活口座化による平均残高の増加は、1口座あたり年1,428円(税引後)の収益差を生みました。30年でみれば、住宅ローンそのものの利ざやに匹敵する規模です。

⭐ポイント⭐:「住宅ローンは利ざやで稼ぐ商品ではなく、30年の取引を買う商品」。

担当者の心得:住宅ローンの獲得競争で金利を下げるとき、必ず「何をセットで獲るか」を決めてください。給与振込、口座振替、家族の口座。これらが付かない住宅ローンは、薄い利ざやだけが残ります。逆に、金利をやや譲っても取引が広がるなら、全体としては有利になりえます。採算は商品単位ではなく顧客単位で見る ― これは第4巻(RORA)の発想を、リテールに持ち込むということです(→第4巻第6章)。

4-3. 年収倍率と返済比率(DTI) ― 二つの物差しの違い

住宅ローンの与信基準というと、多くの人がまず思い浮かべるのは「年収の何倍まで借りられるか」という物差しです。不動産情報サイトや比較記事でもよく使われますが、これは金融機関が実際の審査で使っている物差しとは別物です。ここを混同すると、審査基準の説明を誤ります。

年収倍率は、次のとおり定義されます。

\[\text{年収倍率} = \frac{\text{借入額}}{\text{年収}}\]

一方、4-1の表で「④返済比率の基準」として挙げた返済比率(DTI, Debt To Income)は、次のとおりです。

\[\text{返済比率} = \frac{\text{年間返済額}}{\text{年収}}\]

この2つは、見ているものが違います。

物差し 見ているもの 弱点
年収倍率 借入という元本(ストック)の大きさ 金利・返済期間をまったく反映しない。同じ倍率でも、金利や期間が違えば返済負担はまるで違う
返済比率(DTI) 毎年の返済負担(フロー)そのもの 現在の金利で計算しているだけでは、金利上昇後の負担増を見落とす(→第17-3節)

【設例】同じ年収倍率でも、金利が違えば返済比率は違う(すべて単純化した仮の計算)

第6章の設例(借入額3,000万円、35年、元利均等返済)を使って確かめます。年収500万円の顧客だとすると、年収倍率は6.0倍です(3,000万円 ÷ 500万円)。この借入の年間返済額を、金利だけ変えて比べます。

金利 年間返済額(概算) 返済比率
1.0%(第6章の前提) 約101.6万円 約20.3%
3.0%(仮に) 約138.5万円 約27.7%

年収倍率は6.0倍のまま変わらないのに、返済比率は7ポイント以上動きます。 金利が低い局面では、同じ返済比率でもより高い年収倍率まで借りられる ― これが、超低金利の時代に住宅ローンの年収倍率がじわじわ上がってきた構造です。金利が上昇する局面では、この関係は逆に働きます。

💡 ここでつまずきやすい:「年収倍率」と「返済比率」は言い換えにすぎない

誤解:「年収の6倍まで」も「返済比率30%まで」も、結局は同じことを違う言い方で言っているだけだ。

正しい理解:両者は金利水準を介してつながっているだけで、同じ物差しではありません。 年収倍率は元本だけを見る簡便な目安(初期の相談段階でよく使われます)、返済比率は金利と期間を織り込んだ実際の負担です。金融機関の審査基準の中心は返済比率のほうであり、年収倍率はあくまで簡便な目安にとどまります。具体的な基準値は自金庫の与信基準で確認してください。

担当者の心得:顧客から「年収の何倍まで借りられますか」と聞かれたら、倍率だけで答えないでください。 金利タイプ(第5章)と返済比率、金利が上昇した場合の返済比率(第17-3節)まで併せて示すのが、この質問への誠実な答え方です。

4-4. 事務手数料と保証料 ― 顧客が最初に払う2つの費用

住宅ローンを借りるとき、顧客は金利以外にも初期費用を払います。ここでよく混同されるのが、融資事務手数料と保証料(→第3-2節)です。支払う相手も、金庫の収益になるかどうかも違います。

融資事務手数料 保証料(第3-2節の再掲)
支払先 金庫(または提携金融機関)自身 保証会社
金庫の収益になるか なる。手数料収益として計上される ならない。金庫負担型なら金庫のコスト、顧客負担型でも金庫を経由して保証会社に渡る
主な型 定率型(借入額に比例。例:借入額の2.2%程度)/定額型(借入額にかかわらず一定額) 一括前払い型(外枠)/金利上乗せ型(内枠)
繰上返済・完済時の扱い 一般に返還されない。実行時に一時金として確定する 一括前払い型は、期間短縮に応じて一部が返還される(戻し保証料)ことがある

型によって、顧客の負担の形が変わります。 定率型の事務手数料は、借入額が大きいほど負担も大きくなりますが、その分、適用金利が低めに設定されている商品が多く見られます。定額型は初期費用を抑えられますが、金利がやや高めに設定されていることがあります。どちらが有利かは、借入額・保有期間の見込みによって変わるため、一律の答えはありません。

💡 ここでつまずきやすい:事務手数料と保証料は同じ「初期費用」でひとくくりにできない

誤解:住宅ローンの初期費用は「事務手数料+保証料」の合計額を見ればよい。金融機関ごとの比較もこの合計額でできる。

正しい理解:合計額の比較そのものは間違いではありませんが、それだけでは「誰の収益になっているか」が見えません。 事務手数料は金庫自身の収益、保証料は保証会社への対価です。とくに信用金庫は保証会社をグループ内に持たないことが多く(→第17-1節)、保証料は外部へ流出する一方、事務手数料は金庫に残ります。 商品設計・収益管理の場面では、この違いを分けて見る必要があります。

担当者の心得:自金庫の住宅ローン商品が、事務手数料型・保証料型のどちらを軸に設計されているか(またはどちらも選べるのか)を説明できるようにしてください。「手数料が安いから有利」という単純な比較は、収益構造まで踏み込むと崩れます。 事務手数料が金庫の採算にどう効くかは、次の第6-1節で数字で確認します。

4-5. 提携申込とローンプラザ ― 申込がどこから入ってくるか

ここまで、住宅ローンの中身(保全・金利・費用)を見てきました。ここで一度、その申込がどこから金庫に入ってくるのかに目を移します。商品性の議論と同じくらい、実務の設計を左右する論点だからです。

住宅ローンの申込には、大きく2つの入口があります。顧客が自ら来店・申込する店頭ルート(比較サイト経由の直接申込を含む)と、不動産会社・住宅メーカー・建設会社を経由して入ってくるルートです。後者を提携申込(業者ルート、提携ローン)と呼びます。

提携ルートが生まれる理由は、第9章でマイカーローンについて述べるのとまったく同じ構造です。顧客は住宅を買いに来ているのであって、ローンを選びに来ているのではありません。 そして住宅の売買では、売買契約の前後で融資の見通しが立っていることが取引成立の前提になります(融資が下りなければ契約が白紙に戻る特約が置かれるのが一般的です)。したがって不動産会社の担当者は、事前審査(仮審査)の回答が速く、条件が読める金融機関に顧客を案内します。

店頭ルート(顧客が自ら来店・申込) 提携ルート(不動産会社等の紹介)
きっかけ 既存取引・広告・比較サイト 物件の売買契約。業者の担当者が案内する
決め手 金利、既存取引の安心感 事前審査の回答スピードと、条件の読みやすさ
量 1件ずつ積み上がる 業者1社との関係で、まとまって入ってくる
取引の広がり 給与振込・家族取引につながりやすい 返済用口座だけで終わりやすい(顧客の主取引は他行のままになりがち)
主導権 金庫側 業者側に傾きやすい(下記の「つまずきやすい」参照)

どちらの入口が多いかは、一律には言えません。 少なくとも次の3つで大きく変わるため、「うちは提携が中心だ」も「うちは店頭が中心だ」も、自金庫の実績を数えるまでは前提にしないでください。

変わる軸 傾きやすい方向
物件の種別 新築の分譲マンション・建売住宅は、販売会社が提携金融機関を用意して申込を束ねるため提携ルートに寄りやすい。注文住宅・中古住宅は経路が分かれ、借換えはそもそも提携ルートではない(顧客が自ら比較して動く)
金融機関の属性 ネット専業は比較サイト経由の直接申込が中心。信用金庫は、地場の工務店・不動産業者との関係が効く一方、会員・既存取引先・職域からの来店も相応にある
時期 比較サイトの普及と事前審査のオンライン化により、顧客が自分で選んでから業者に伝える流れも生じている

とはいえ、提携ルートが無視できない入口であること自体は、どの金融機関にも共通します。 そして、この「速さが勝負」という性質が、店舗政策に直結します。通常の営業店は平日の日中しか開いておらず、そこには事業性融資も預金窓口も渉外もあります。住宅ローンの事前審査だけを、他の業務と並べて処理していては間に合いません。 そこで多くの金融機関が置いているのが、ローンプラザ(住宅ローンセンター、ローンセンター)と呼ばれる専門拠点です。

通常の営業店との違い 内容
営業日・営業時間 土日祝日・平日夜間に開いていることが多い。顧客が物件を見て回るのも、業者が動くのも週末だから
立地 支店網の配置とは別の論理で決まる。住宅展示場・分譲地・不動産会社の集積地の近く、幹線道路沿い、駅前
機能 相談受付だけでなく、事前審査の実施権限まで持たせることがある(持たせなければ「速さ」が出ない)
人員 住宅ローン専任。業者担当(提携先の開拓・維持)を兼ねることが多い
採算の見方 預金量では測れない。実行額・実行率・1件あたりコストで見る(→第27巻第Ⅱ部)
flowchart LR
    A["顧客<br/>(住宅を探している)"] --> B["不動産会社・<br/>住宅メーカー"]
    B --> C["ローンプラザ<br/>土日祝・夜間対応<br/>事前審査の権限"]
    C --> D["事前審査の回答<br/>(速さが勝負)"]
    D --> E["売買契約 → 本審査 → 実行"]
    A -.->|"店頭ルート<br/>(相対的に少数)"| F["営業店"]
    F --> D
    E --> G["【残る課題】<br/>返済用口座だけで終わらせず<br/>給与振込・家族取引へつなぐ"]
    style C fill:#def,stroke:#39c
    style G fill:#fde,stroke:#c39

💡 ここでつまずきやすい:提携先を増やせば住宅ローンは伸びる

誤解:住宅ローンの残高を伸ばしたければ、提携する不動産会社を増やし、金利を下げればよい。

正しい理解:提携ルートへの依存は、3つの副作用を伴います。

① 価格の主導権が業者側に移ります。 業者は複数の金融機関に同じ案件を持ち込めるので、条件の比較は業者の手元で行われます。金利引下げ競争は、顧客との交渉ではなく業者を通じた競争になります。

② 案件の質が、紹介元の質に左右されます。 収入資料・自己資金の裏付け・物件価格の妥当性といった前提は、業者の手を経て金庫に届きます。資料の真正性の確認を紹介元への信頼で代替してはいけません(→第21巻第4章、第22巻第12章)。過去には、投資用不動産向け融資をめぐって収入資料等の改ざんが問題化した事例が広く報じられています(→第8-1節)。

③ 取引が広がりません。 提携ルートで入った顧客は、返済用口座だけを開いて主取引は他行のまま、ということが起こりがちです。第4-2節で述べた「30年の取引を買う商品」という前提が、ここで崩れます。

⭐ポイント⭐:「提携ルートは"量"を運んでくるが、"取引"は運んでこない」。

担当者の心得:提携ルートの管理は、紹介元別に数字を分けて見ることから始まります。最低限、①実行額、②平均適用金利(引下げ幅)、③延滞・代位弁済の発生率、④給与振込・口座振替などの取引が付いた比率 ― この4つを紹介元ごとに並べてください。量だけを見ていると、「たくさん運んでくるが、条件が悪く、質も薄い紹介元」が見えなくなります。 ローンプラザを新設・維持するかどうかの判断も、この4つの数字の積み上げで議論すべきものです(→第27巻第Ⅱ部)。

5. 固定・変動・固定期間選択 ― 5年ルールと125%ルール

住宅ローンの金利タイプは3つに整理できます。事業性融資の金利の考え方(→第20巻第Ⅲ部)と共通する部分が多いので、対比しながら読んでください。

タイプ 内容 金利変動リスクを負うのは
全期間固定 借入時の金利が完済まで変わらない 金庫(調達コストが上がっても貸出金利は上がらない)
変動金利 短期プライムレート等に連動して見直される 顧客
固定期間選択 当初の一定期間(3年・5年・10年など)は固定、その後は選び直す 期間中は金庫、期間終了後は顧客

日本では変動金利型の利用割合が高い状態が続いてきました。金利が長く低位で推移してきたことが背景にあります。しかし金利が上昇する局面では、この構造が重い意味を持ちます。

5-1. 5年ルールと125%ルール

変動金利型(元利均等返済)の商品には、返済額の急変を和らげる仕組みが置かれていることがあります。代表的なものが次の2つです。

仕組み 内容
5年ルール 適用金利が変わっても、毎月の返済額の見直しは5年ごとに行う
125%ルール 返済額を見直すときも、従前の返済額の1.25倍を上限とする

ここで、最も誤解されやすい点を先に潰しておきます。

5年ルールが据え置くのは「返済額」であって、「適用金利」ではありません。

適用金利のほうは、商品の約定に従って年2回程度の頻度で粛々と見直されています(見直しの基準日・反映時期は商品により異なるため、自金庫の商品要綱で確認してください)。つまり、金利上昇局面では、顧客の通帳から引き落とされる額は変わらないのに、その中身では利息の割合が着々と増えているという状態が、最大5年間続くわけです。顧客からは何も起きていないように見えるのに、内部では負担が積み上がっている ― ここが、この仕組みの説明を難しくしている核心です。

一見、顧客に有利な仕組みに見えます。実際、返済額が急に跳ね上がることは防げます。しかし、支払うべき利息が減るわけではありません。

flowchart TD
    A["適用金利が上昇"] --> B["毎月の返済額は<br/>5年間変わらない"]
    B --> C["返済額の中身が変わる<br/>利息の割合が増え<br/>元金の割合が減る"]
    C --> D["元金の減りが遅くなる"]
    C --> E["利息が返済額を超えると<br/>【未払利息】が発生する"]
    D --> F["最終回にまとめて<br/>残る場合がある"]
    E --> F
    style E fill:#fde,stroke:#c39

未払利息とは、その月に発生した利息が毎月の返済額を上回り、返済額では利息すら払いきれない状態で生じる、未払いの利息です。この場合、元金はまったく減りません。

💡 ここでつまずきやすい:5年ルールは「返済額が増えない」であって「負担が増えない」ではない

誤解:5年ルールと125%ルールがあるから、金利が上がっても顧客の負担は限定される。そもそも5年間は金利も上がらない。

正しい理解:負担は先送りされているだけです。 毎月の返済額は変わらなくても、元金の減りが遅くなり、総返済額は増えます。極端な場合、完済時に多額の残債が残ることになります。第1巻で繰り返した「痛みは先、メリットは後」の逆で、これは「メリットは先、痛みは後」の仕組みです。顧客への説明では、この点を必ず伝えてください。

なお、これらのルールがすべての商品に備わっているわけではありません。適用の有無と具体的な内容は、必ず自金庫の商品要綱で確認してください。

担当者の心得:金利上昇局面で顧客から「固定に変えたほうがよいか」と相談されたとき、担当者が断定してはいけません。固定に変えるということは、金利上昇リスクを金庫から引き受け直すことの対価を払うということです。判断に必要なのは、①現在の返済額と、金利が1%・2%上がった場合の返済額、②固定に変えた場合の返済額、③その差額を「保険料」として払う価値があるか、という材料の提示です。答えではなく材料を渡すのが、この場面の作法です。

6. 【設例】住宅ローン1本の採算 ― 35年持って、初めて元が取れる

第4章で「住宅ローンは長く保有して初めて採算に乗る」と述べました。手を動かして確かめます。すべて単純化した仮の数字です。

前提

項目 数値
借入額 3,000万円
期間 35年、元利均等返済
貸出金利 年1.0%
調達コスト(仕切りレート。→第27巻第8章) 年0.4%
経費率(事務・システム・管理) 年0.3%
金庫が負担する信用コスト 年0.05%(保証会社付きのため極めて小さい)
獲得コスト(審査・登記関係・広告・人件費) 1件あたり15万円(初年度に発生)
実効税率 30%

前提の置き方について:調達コストとして単一の仕切りレート0.4%を用いていますが、本来、35年の貸出には長期の仕切りレートが当てられます。単一のレートを使うと、期間ミスマッチから生じる損益がこの採算表に紛れ込みます(→第27巻第9-1節)。ここでは利ざやの構造を見るための単純化と割り切ってください。

ステップ①:利ざやを計算する

項目 率
貸出金利 1.00%
▲調達コスト ▲0.40%
▲経費率 ▲0.30%
▲信用コスト ▲0.05%
実質的な利ざや 0.25%

ステップ②:35年間、完済まで保有した場合

元利均等返済では残高が徐々に減ります。単純化のため、平均残高を当初の50%とします(実際の元利均等返済では50%よりやや高くなりますが、保守的に見ます)。

項目 計算 金額
平均残高 3,000万円 × 50% 1,500万円
年間の利益 1,500万円 × 0.25% 3万7,500円
35年間の累計 3万7,500円 × 35年 131万2,500円
税引後 × (1−30%) 91万8,750円
▲獲得コスト(税引後) 15万円 × (1−30%) ▲10万5,000円
正味の利益(税引後) 81万3,750円

ステップ③:10年で繰上完済された場合

住宅ローンは、繰上返済や借換えによって途中で終わることが多い商品です。10年で完済されたとします。当初10年間は元金の減りが遅いため、平均残高を当初の80%とします。

項目 計算 金額
平均残高 3,000万円 × 80% 2,400万円
年間の利益 2,400万円 × 0.25% 6万円
10年間の累計 6万円 × 10年 60万円
税引後 × (1−30%) 42万円
▲獲得コスト(税引後) ▲10万5,000円
正味の利益(税引後) 31万5,000円

まとめ

35年完済 10年で完済
正味の利益(税引後) 81万3,750円 31万5,000円
差 ― ▲49万8,750円(約61%の減少)

読みどころ

論点 読み方
1本あたりの利益は驚くほど小さい 3,000万円を35年貸して、税引後81万円。年あたり2万3,000円。これが住宅ローンの実像
獲得コストの重さ 15万円の獲得コストは、10年完済のケースでは利益の3分の1近くを食う。獲得の効率が採算を左右する
期限前償還の影響は決定的 10年で終わると利益は約4割にしかならない。繰上返済は顧客の利益であり、金庫の減益である
だからクロスセルが前提になる 第24巻の設例で見た生活口座化の効果(税引後 年1,428円)は、35年で約5万円。単体では小さいが、家族の口座・投信・保険・次の世代まで含めれば、ローン本体を超えうる

この計算の前提:35年分の利益を現在価値に割り引かずに単純累計しています。35年後の3万7,500円は今日の3万7,500円と同じ価値ではないため、81万円という数字は楽観側の見積りです。それでも本設例の主張(1本あたりの利益は小さく、期限前償還で大きく減る)は変わりません ― 割引を入れれば、後年の利益がより強く割り引かれるため、35年完済と10年完済の差はむしろ縮まり、「長く持って稼ぐ」という話はさらに苦しくなるからです。割引は、結論を覆すのではなく、結論をより厳しくする方向に効きます。 同じ扱いは →第24巻第15章、→第28巻第10章 でも用いています。

💡 ここでつまずきやすい:繰上返済をすすめるべきか

誤解:繰上返済は顧客の利息負担を減らすのだから、積極的にすすめるべきだ。

正しい理解:顧客にとって繰上返済が常に有利とは限りません。①手元流動性が減る、②住宅ローン控除の適用を受けている期間は税務上の効果と比較が必要、③団信の保障が縮小する、という論点があります。同時に、金庫にとっては減益です。ここには利益相反の構図があります。だからこそ、担当者は「すすめる/すすめない」ではなく、判断材料を正確に示すべきです。自金庫の収益のために説明を歪めれば、それは顧客本位の業務運営に反します(→第27巻第9章)。

6-1. 事務手数料を加えると、採算はどう見えるか

第6章の設例は、金利のスプレッドだけで住宅ローン1本の利益を計算しています。これは意図的な単純化です。実際には、第4-4節で見た融資事務手数料が、別建てで金庫の収益に加わります。

【設例のつづき】定率型の事務手数料を加えた場合(すべて単純化した仮の数字)

項目 数値
事務手数料率(定率型、税込) 借入額の2.2%
借入額 3,000万円
手数料収入(税込) 66万円
うち金庫の収益(税抜) 60万円
実効税率 30%
手数料収入(税引後) 42万円

この手数料収入は、実行時に一括して計上され、繰上返済されても返還されません(→第4-4節)。第6章のステップ③(10年で繰上完済、利ざやの正味利益31万5,000円)に、この42万円を足すと、正味の利益は次のように変わります。

利ざやのみ(第6章ステップ③) 事務手数料(税引後)を加算 合計
10年で完済された場合 31万5,000円 +42万円 73万5,000円

35年完済の場合(81万3,750円)と比べても、遜色のない水準まで戻ります。 第6章では「期限前償還の影響は決定的」と述べましたが、事務手数料を定率型で徴求している場合、その影響はかなり緩和されます。 これは、第7章で見る期限前償還リスクへの、収益面からの部分的なヘッジになっています。

💡 ここでつまずきやすい:事務手数料は「顧客からむしり取る費用」ではない

誤解:事務手数料は、保証料と同じように顧客に負担を強いる費用であり、金庫にとっての意味は薄い。

正しい理解:事務手数料は、金庫にとって数少ない「期限前償還の影響を受けない収益」です。 利ざやは保有期間に比例しますが、事務手数料は実行した時点で確定します。住宅ローンの採算は、利ざや(保有期間に依存する)と事務手数料(保有期間に依存しない)の組み合わせとして設計されている、と理解してください。定額型の手数料や、保証料の金利上乗せ型を選ぶと、この防御効果は得られません。

担当者の心得:自金庫の住宅ローンの事務手数料が定率型か定額型かを確認し、期限前償還が多い商品性(競争の激しい借換え案件など)では、定率型のほうが収益の防御力が高いことを、商品設計・収益管理の議論に持ち込んでください。ただし、手数料水準は顧客への説明義務・他行との競争にも直結するため、収益だけで決められるものではありません(→第27巻第9章)。

7. 期限前償還リスク ― ALMから見た住宅ローン

第6章で見た「10年で完済される」という事象は、収益の問題であると同時に、ALM上のリスクでもあります。

期限前償還リスク(プリペイメント・リスク)とは、貸出が予定より早く返済されることで、想定していたキャッシュフローが変わってしまうリスクです。

なぜ問題なのか。第7巻で扱った金利リスクの計測を思い出してください(→第7巻第6章)。金利リスクは、資産と負債のキャッシュフローがいつ発生するかを前提に計算します。ところが住宅ローンは、契約上は35年でも、実際にいつ返ってくるかが借り手の行動によって変わります。

しかも、その行動には方向性があります。

局面 借り手の行動 金庫にとっての意味
金利が下がったとき より低い金利で借換えする。繰上返済も増える 高い金利の資産が消え、低い金利で貸し直すことになる
金利が上がったとき 借換えのメリットがないので、動かない 低い金利の資産が長く残る。調達コストだけが上がる

どちらに転んでも金庫に不利です。 これは第13巻で仕組預金について述べた「オプションは、常に持っている側に有利に行使される」(→第13巻第7章)とまったく同じ構造です。借り手は、期限前に返済するオプションを事実上無償で持っているわけです。

flowchart TD
    A["住宅ローン<br/>(契約上は35年)"] --> B["金利低下局面<br/>→ 借換え・繰上返済が増える<br/>→ 実質的な期間が短くなる"]
    A --> C["金利上昇局面<br/>→ 動かない<br/>→ 実質的な期間が長いまま"]
    B --> D["【非対称】<br/>金庫にとって<br/>どちらも不利<br/>= マイナスのコンベキシティ"]
    C --> D
    style D fill:#fde,stroke:#c39

第8巻でこの性質をマイナスのコンベキシティと呼びました(→第8巻第6章)。住宅ローンの期限前償還オプションは、債券のコール条項と同じ働きをします。

担当者の心得:ALM委員会で住宅ローンの金利リスクを議論するときは、「契約上の期間」ではなく「実際に想定される期間」で計測しているかを確認してください。過去の繰上返済実績から期限前償還率を推計し、キャッシュフローに反映するのが実務です。ここを契約期間のままにしていると、金利リスク量を過大にも過小にも誤ります(→第7巻第9章のコア預金モデルと同じ論点構造)。

7-1. 変動金利中心という日本の構造 ― コンベキシティはどこへ行ったのか

ここで、第5章で触れた「日本では変動金利型の利用割合が高い」という事実と、いま見た期限前償還リスクを、つなげて考えます。この2つを別々の話として覚えると、住宅ローンの金利リスクを読み違えます。

前節で述べたマイナスのコンベキシティは、もともと全期間固定の貸出を念頭に置いた議論です。固定で貸したからこそ、金利が下がれば借り手は借換えで逃げ、上がれば居座る、という非対称が効きます。米国の30年固定住宅ローンとそれを裏付けとする証券が、この性質の代表例として語られてきました(→第8巻第6章)。

では、貸出の大半が変動金利である日本では、この問題は消えるのでしょうか。答えは「大きく薄まるが、消えるのではなく形を変える」です。

まず、薄まる理由から。 変動金利の貸出は、適用金利が定期的に市場金利に追随します。金利が上がれば受取利息も上がるため、資産としての時価は動きにくく、金利感応度(デュレーション)は残存期間ではなく次の金利改定までの期間に近づきます。そして借り手の側から見ても、市場金利が下がれば自分の適用金利も自動的に下がるのですから、わざわざ借換える動機が弱い。固定金利の借り手が持っている「安く借り直すオプション」は、変動金利の借り手の手元には、ほとんどありません。

全期間固定が主流の市場 変動が主流の市場(日本)
金利低下時 借換え・繰上返済が大量に発生する 適用金利が自動的に下がるため、借換えの動機が弱い
金利上昇時 借り手は動かず、低金利の資産が残る 適用金利が上がるため、受取利息は増える
資産のデュレーション 長く、しかも金利で伸縮する(マイナスのコンベキシティが強く出る) 次の金利改定日までと見るのが基本
金利変動リスクの主な担い手 金融機関 顧客

ここまでなら、変動中心は金融機関にとって楽な構造に見えます。しかし、話はここで終わりません。 消えたように見えるオプション性は、次の3つの経路で戻ってきます。

①「基準金利」ではなく「引下げ幅」に対する借換えが起きる。 変動金利の適用金利は、多くの場合「基準となる金利 − 引下げ幅(優遇幅)」の形で決まり、引下げ幅は実行時の条件で固定されるのが一般的です。したがって、競争が激しくなって新規実行の引下げ幅が拡大すると、既往先は「同じ変動金利のまま、より深い引下げ幅を提示する他行へ移る」ことができます。借り手が持っているのは、市場金利に対するオプションではなく、引下げ幅の競争に対するオプションです。金利水準が動かなくても借換えは起こりうる ― ここが、変動中心市場に固有の見落としです。

②5年ルール・125%ルールが、金庫の側に新しいオプションの売りを生む。 第5-1節で見たとおり、これらのルールは金利が上昇しても顧客の返済額を一定期間据え置きます。金庫の側から見れば、これは「金利が上がってもキャッシュの受取額はすぐには増えない」という上限を、顧客に無償で与えているのと同じです。つまり、金利上昇局面でキャッシュフローの増加に蓋がされる。実質的に、キャップ(金利上限オプション)を売っていることになります。しかも、未払利息が生じるほど上昇すれば、元金の減りが止まり、資産の実質的な期間は逆に伸びます。金利が上がったときに資産の期間が伸びる ― これは、まさにマイナスのコンベキシティそのものです。

【簡単な確認】5年ルールがキャッシュフローに与える影響(すべて単純化した仮の数字)

変動金利の住宅ローン残高1,000億円を持つ金庫で、適用金利が一律に1.0%上昇したとします。

見方 計算 年間の受取利息の増加
約定金利ベース(適用金利は改定されている) 1,000億円 × 1.0% +10億円
キャッシュベース(仮に8割の残高で5年ルールにより返済額が据え置かれるとする) 1,000億円 × 20% × 1.0% +2億円

差額の8億円は、消えたのではありません。 返済額が据え置かれている先では、返済額の内訳で利息の割合が増え、元金の回収が遅れる形で現れます(→第5-1節の図)。「収益は立っているのに、資金は返ってこない」 という状態です。しかも、上昇幅がさらに大きければ未払利息となり、回収可能性そのものが論点になります。

③金利リスクが、顧客に移った先で信用リスクに変わる。 変動金利で貸すということは、金利変動リスクを顧客に負ってもらうということです。しかし顧客の返済能力は無限ではありません。金利が上昇すれば返済比率(→第4-3節)が上がり、家計の余力が薄い先から順に延滞が増えます。金庫が手放したのは金利リスクであって、その帰結ではありません。 金利リスクは、顧客の家計を経由して、信用リスクとして金庫に戻ってきます。

flowchart TD
    A["変動金利が主流<br/>= 金利リスクは顧客が負う"] --> B["①引下げ幅の競争<br/>→ 金利水準が動かなくても<br/>借換えが起きる"]
    A --> C["②5年・125%ルール<br/>→ 上昇時にキャッシュが増えない<br/>→ 元金の回収が遅れる"]
    A --> D["③顧客の返済比率が上昇<br/>→ 延滞・貸倒れの増加"]
    B --> E["【結論】<br/>コンベキシティは消えていない<br/>金利リスクの姿を変えて<br/>戻ってくる"]
    C --> E
    D --> E
    style E fill:#fde,stroke:#c39

💡 ここでつまずきやすい:変動金利中心だから、住宅ローンの金利リスクは小さい

誤解:うちの住宅ローンはほとんど変動金利だから、金利が動いても金利リスクは即座に転嫁できる。ALM上、住宅ローンは短期資産として扱えばよい。

正しい理解:「即座に転嫁できる」は、約定金利の話にすぎません。 ①引下げ幅の競争による借換えでスプレッドは削られ、②5年ルールがある限りキャッシュフローは約定どおりには増えず、③転嫁した先の顧客が耐えられなければ信用コストとして返ってきます。変動金利中心の市場では、住宅ローンの金利リスクは「小さい」のではなく「別の勘定に振り替わっている」と読むのが正確です。

⭐ポイント⭐:「変動で貸すとは、金利リスクを消すことではなく、金利リスクを信用リスクに両替すること」。

担当者の心得:ALM委員会・IRRBBの計測(→第7巻第6章、第9章)で、住宅ローンについて次の3点を確認してください。①変動金利残高を、無条件に「次の改定日でリプライシングする」と置いていないか(5年ルール適用先のキャッシュフローは約定どおりに動きません)。②期限前償還率の推計に、引下げ幅の競争による借換えが織り込まれているか(金利低下局面だけを見て推計すると、競争由来の借換えを取りこぼします)。③金利上昇シナリオのストレステストで、金利リスク(ΔNII・ΔEVE)だけでなく、返済比率の上昇に伴う信用コストの増加まで見ているか(→第19巻)。この3つ目を落とすと、変動金利中心であることの本当のリスクが、どの計測表にも現れません。

8. リスクウェイトと資本 ― なぜ住宅ローンは「軽い」のか

最後に、自己資本比率における住宅ローンの扱いを押さえます(→第5巻第9章)。

自己資本比率の分母であるリスクアセットは、資産にリスクウェイトを掛けて計算します。標準的手法において、居住用不動産を担保とする住宅ローンには、事業性の貸出よりも低いリスクウェイトが適用されます。従来は一律の掛け目が用いられてきましたが、バーゼルⅢの最終化に伴い、担保価値に対する借入額の比率(LTV)に応じた区分へと見直されています。適用される具体的な数値と時期は、必ず最新の告示で確認してください。

なぜ低いのか。理由は次のとおりです。

  1. 担保がある。返済不能時の回収率が高い。
  2. 分散が効いている。1件が小さく件数が多いので、損失が平準化される。
  3. 歴史的に損失率が低い。居住用住宅は、生活の基盤であるため優先的に返済される傾向がある。

8-1. アパートローンは住宅ローンではない

ここが実務で極めて重要な区別です。

住宅ローン アパートローン(投資用不動産向け)
返済原資 借り手の給与収入 賃貸物件の家賃収入
性格 消費者向けの与信 実質的に事業性融資
主なリスク 借り手の失業・病気 空室、家賃下落、金利上昇、周辺の供給過剰
自己査定 個人としての債務者区分 事業の採算で判断する(→第14巻)
リスクウェイト 居住用不動産としての扱い 同じ扱いにはならない。要件を満たすかを確認する

アパートローンを「住宅ローンの一種」として扱うと、リスクの評価も、自己資本の計算も、自己査定も、すべて誤ります。過去には、地域金融機関による投資用不動産向け融資の急増と、その後の問題化が広く報じられた事例もありました。

⭐ポイント⭐:「住宅ローンは人に貸し、アパートローンは物件に貸す」。

担当者の心得:アパートローンの審査では、家賃収入の前提(想定家賃・稼働率・経費率)が誰の作った数字かを必ず確認してください。販売業者が作成した収支計画をそのまま使うと、楽観的な前提が審査に持ち込まれます。これは事業性融資における事業計画の検証(→第21巻第3章、第22巻第12章)とまったく同じ作法です。

8-2. アパートローンの審査指標 ― DSCRとLTV

8-1で「収支計画が誰の作った数字か」を確認する重要性を述べました。では、その収支計画を、どういう物差しで審査するのか。事業性融資の稟議(→第21巻)と同じく、ここにも定量的な指標があります。中心となるのがDSCR(Debt Service Coverage Ratio、デット・サービス・カバレッジ・レシオ)です。

DSCRの定義は、次のとおりです。

\[\text{DSCR} = \frac{\text{年間の純収益(NOI)}}{\text{年間元利返済額}}\]

NOI(Net Operating Income、純営業収益)とは、家賃収入から、空室・未回収による損失と、運営費用(管理費・修繕積立金相当額・固定資産税等。借入金の元利返済額そのものは含めません)を差し引いた金額です。

DSCRが1を下回れば、家賃収入だけでは元利返済をまかなえず、他の収入や自己資金からの持ち出しが必要になります。 DSCRが1を上回っていることは最低条件にすぎません。金融機関は、空室率の悪化や金利上昇への余裕をみて、1を上回る一定の水準を求めるのが一般的です。具体的にどの水準を基準とするかは金庫ごとに異なるため、自金庫の審査基準で確認してください。

【設例】DSCRを実際に計算する(すべて単純化した仮の数字)

項目 数値
満室想定の年間家賃収入 1,200万円
空室・未回収による損失 家賃収入の10%
運営費用(管理費・修繕積立金相当・固定資産税等) 家賃収入の20%
年間元利返済額 800万円
項目 計算 金額
実効家賃収入 1,200万円 ×(1−10%) 1,080万円
▲運営費用 1,200万円 × 20% ▲240万円
NOI 840万円
DSCR 840万円 ÷ 800万円 1.05倍

DSCR1.05倍は、黒字ではあるものの余裕の薄い水準です。空室率がさらに悪化すれば、容易に1を割り込みます。試しに、空室・未回収による損失が15%に悪化した場合を見てみます。

項目 計算 金額
実効家賃収入 1,200万円 ×(1−15%) 1,020万円
▲運営費用 1,200万円 × 20% ▲240万円
NOI 780万円
DSCR 780万円 ÷ 800万円 0.98倍(1割れ)

空室率がわずか5ポイント悪化しただけで、DSCRは1を割り込みます。 これが、アパートローンの審査で「想定家賃・稼働率・経費率」の前提を厳しく検証しなければならない理由です(→8-1)。

💡 ここでつまずきやすい:「利回りが高ければ良い物件だ」

誤解:表面利回り(年間家賃収入 ÷ 物件価格)が高い物件ほど、審査上も有利なはずだ。

正しい理解:表面利回りは、空室・経費・借入条件を一切見ていません。 同じ利回りでも、経費率が高い物件、空室リスクの高いエリアの物件、返済期間が短い(=年間返済額が大きい)条件の借入では、DSCRはまったく違う数字になります。利回りは「稼ぐ力の見かけ」、DSCRは「返せる力の実測」 ― 審査で見るべきは後者です。

LTVも、アパートローンでは重要な物差しです。 定義は住宅ローンと同じですが(→第17-2節)、見方が少し変わります。

\[\text{LTV} = \frac{\text{借入額}}{\text{物件価格(または金融機関の評価額)}}\]

アパートローンでは、住宅ローンよりLTVが厳しく見られる傾向があります。自己資金の投入を求めるのは、収益不動産の価格が家賃相場や還元利回りの変動で動きやすく、担保としての安定性が居住用不動産より低いためです。また、評価額には物件の収益力から逆算した価格(収益還元価格)が用いられることが多く、これは購入価格や販売業者の提示価格とは一致しないことがあります。

指標 見ているもの 弱点
DSCR 毎年のキャッシュフローで返せるか 空室率・家賃下落の前提次第で大きく動く。前提の検証が審査の核心
LTV 万一のとき、担保処分でどこまで回収できるか 収益力の低い物件でも、頭金が厚ければLTVは低く出る。DSCR単独では見えない保全力を補う

⭐ポイント⭐:「DSCRは"毎年返せるか"を見る物差し、LTVは"最後に取り返せるか"を見る物差し」。

担当者の心得:アパートローンの審査では、DSCR単独でもLTV単独でも判断しないでください。DSCRが薄くても自己資金が厚くLTVが低ければ保全は効きますし、逆にLTVが高くてもDSCRに十分な余裕があれば返済のリスクは相対的に低くなります。 両方を並べて初めて、収益力と保全力の両輪が見えます。あわせて、家賃収入は空室・家賃下落・金利上昇によって変動しうることを踏まえ、保守的な前提でDSCRを計算し直す(ストレスをかける)習慣を持ってください。

8-3. リスクウェイトの違いを、採算の言葉に翻訳する

8-1で「アパートローンは住宅ローンと同じリスクウェイトの扱いにはならない」と述べました。ここでは、その違いが採算の判断にどう効くのかを、第4巻のRORAの発想(→第4巻第6章)で確かめます。「なぜ扱いが違うのか」と「だから何が変わるのか」を、続けて押さえるのがこの節の狙いです。

まず、なぜ扱いが違うのか。 標準的手法における不動産担保エクスポージャーの区分は、担保物が住宅かどうかだけで決まるのではなく、返済が担保不動産の生み出すキャッシュフローに実質的に依存しているかどうかという軸が併せて用いられます。

住宅ローン アパートローン
担保 居住用不動産 居住用不動産である場合が多い(アパート・賃貸マンション)
返済の源泉 借り手の給与収入。物件が空室でも返済は続く その物件の家賃収入。空室になれば返済原資が直接痩せる
したがって 担保物件の収益力と返済能力が切り離されている 担保物件の収益力と返済能力が同じ変数に連動している
区分の考え方 居住用不動産向けとして軽い扱い 返済が物件のキャッシュフローに実質的に依存するエクスポージャーとして、より重い扱い

この「同じ変数に連動している」という点が、規制上の重い扱いの理由です。 住宅ローンでは、担保割れ(不動産価格の下落)と返済不能(失業)は、ある程度独立に起こります。ところがアパートローンでは、空室が増えれば家賃収入が落ちて返済が苦しくなり、同時にその物件の収益還元価格も下がって担保価値も落ちます(→第8-2節)。返済能力の悪化と保全の劣化が、同時に、同じ原因で起こる。 これが「分散が効かない」ということであり、住宅ローンに低いリスクウェイトを認めた3つの理由(→本章冒頭)のうち、①担保と②分散の両方が弱くなる理由です。

⭐ポイント⭐:「住宅ローンは"人の給与"と"物件の値段"という別々の柱で立っている。アパートローンは、その2本が1本に束ねられている」。

では、だから何が変わるのか。 数字で並べます。リスクウェイトの具体的な値は告示で必ず確認すべきものなので、ここでは仮に住宅ローン35%・アパートローン100%と置いた設例として読んでください(バーゼルⅢ最終化に伴うLTV区分の見直しにより、実際の適用値と適用時期は異なりえます)。

【設例】1億円貸すのに、どれだけ資本が要るか(すべて単純化した仮の数字)

項目 住宅ローン アパートローン
貸出額 1億円 1億円
利ざや(貸出金利 − 調達コスト − 経費率) 0.30% 0.90%(金利が高い分、厚い)
信用コスト 0.05% 0.30%
税引前利益 25万円 60万円
税引後利益(実効税率30%) 17.5万円 42万円
リスクウェイト(仮の置き値) 35% 100%
リスクアセット 3,500万円 1億円
RORA(税引後利益 ÷ リスクアセット) 0.50% 0.42%

税引後の利益額で見れば、アパートローンは住宅ローンの2.4倍です。 ところが、RORAでは逆転します。 アパートローンは、同じ1億円を貸すのにリスクアセットを約3倍消費するからです。自己資本比率の分母を3倍使うということは、同じ自己資本で貸せる量が3分の1になるということでもあります。

💡 ここでつまずきやすい:金利が高い融資のほうが、金庫にとって有利だ

誤解:アパートローンは住宅ローンより金利が高いのだから、住宅ローンの薄い利ざや(→第4-2節)に苦しむくらいなら、アパートローンを伸ばすほうが合理的だ。

正しい理解:「利益額」と「資本の使い方」は別の問題です。 上の設例では、利益額で2.4倍でも、資本効率(RORA)では住宅ローンのほうが上回りました。高い金利は、高い信用リスクと重い資本賦課の対価であって、ただの上乗せではありません。第4巻で述べたとおり、分子(利益)だけを見る議論は、必ずリスクの重い商品を過大評価します(→第4巻第6章)。もちろん前提の置き方(利ざや・信用コスト・リスクウェイト)を変えれば結論は動きます。大事なのは、どちらが勝つかという結論ではなく、資本まで含めて並べなければ比較にならないという作法のほうです。

さらに、リスクウェイトの差は、単独の1本の採算では終わりません。 アパートローンを伸ばすということは、不動産賃貸業向けという1つの業種に、資本を集中させることでもあります。これは第15巻で扱った与信集中リスクの論点そのものです(→第15巻)。空室率の上昇や不動産価格の下落は、個別の物件ごとにばらばらに起きるのではなく、地域単位・時期単位でまとめて起きます。第5巻・第19巻の言葉で言えば、ストレス時に相関が立ち上がるポートフォリオだということです(→第19巻)。

担当者の心得:アパートローンの推進方針を議論する場では、「実行額」と「平均金利」だけの資料を作らないでください。 最低限、①リスクアセット消費額、②RORA、③不動産賃貸業向け与信の残高構成比とその推移、④主要エリアの空室率 ― を並べた資料にしてください。「金利が高い商品を伸ばす」という方針は、この4つを並べた瞬間に、まったく違う議論になります。 そして、自己資本比率の計算上どの区分を適用しているかは、必ず自金庫の自己資本比率算出の担当部署と、最新の告示で確認してください(→第5巻第9章)。区分の判定を営業現場の商品名(「アパートローン」という名前かどうか)で行うと、誤りのもとになります。判定の軸は商品名ではなく、返済原資が何かです。

ここまでの筋(6行)

① 住宅ローンは担保・団信・保証・返済比率基準という四重の保全で信用リスクが薄く、その分だけ利ざやも薄い。単体では稼げず、30年の取引を買う商品である。年収倍率は元本だけを見る簡便な目安にすぎず、金融機関の審査の中心は金利・期間を織り込んだ返済比率である。

② 5年ルール・125%ルールは返済額の急変を防ぐが、負担を先送りしているだけで、未払利息が生じうる。事務手数料と保証料は支払先も金庫の収益になるかも違い、定率型の事務手数料は期限前償還の影響を収益面から緩和する。

③ 申込には店頭ルートと不動産会社経由の提携ルートの2つの入口があり、どちらが多いかは物件種別・金融機関の属性で変わる。提携ルートでは事前審査の速さが勝負になるため、土日祝・夜間に開き審査権限を持つローンプラザが置かれる。ただし提携ルートは量を運んでも取引を運ばず、価格の主導権と案件の質は紹介元に左右される。

④ 期限前償還オプションは借り手が持っており、金利が下がれば借換え、上がれば動かない。どちらに転んでも金庫に不利である。変動金利が主流の日本ではこの非対称は薄まるが消えはせず、引下げ幅の競争・5年ルール・信用リスクへの転化という3つの経路で戻ってくる。

⑤ アパートローンは住宅ローンではない。返済原資は家賃収入であり、DSCR(毎年返せるか)とLTV(最後に取り返せるか)という2つの物差しで審査する。

⑥ アパートローンでは返済能力の悪化と担保価値の劣化が同じ原因で同時に起こるため、リスクウェイトは住宅ローンより重い。利益額では上回ってもRORAでは逆転しうるので、資本まで含めて並べなければ比較にならない。


第Ⅲ部 小口ローン

9. マイカーローン ― 提携ルートと直販ルート

マイカーローンは、自動車の購入資金を対象とする無担保のローンです(自動車に所有権留保を付す形もありますが、担保としての実効性は限定的です)。金額は数十万円から数百万円、期間は3〜10年程度が一般的です。

実務で重要なのは、顧客がどの経路で来るかによって、商品の性格がまったく変わることです。

ディーラー提携ルート 直販(金庫が直接獲得)ルート
顧客との接点 自動車販売店の店頭。金庫は顧客と直接会わないこともある 営業店の窓口、渉外、Web申込
競争相手 販売会社系のクレジット(オートローン)、他の金融機関 同上
金利 提携条件で決まる。販売店への手数料負担が発生することもある 自金庫の商品金利
審査 スピードが最優先。その場で回答を求められる 相対的に余裕がある
波及効果 顧客との関係は薄い。完済すれば終わりがち 生活口座・他の取引につながりやすい

ここで押さえるべき点が2つあります。

第一に、提携ルートは「速さ」で決まります。 顧客は自動車を買いに来ているのであって、ローンを選びに来ているのではありません。販売店の担当者が「すぐ回答が出るところ」を選びます。回答が翌日になる金融機関は、その時点で候補から外れます。ここが、事業性融資の稟議(→第21巻第5〜7章)とは決定的に違う世界です。

第二に、販売会社系のクレジットとは、そもそも土俵が違います。 販売会社系のオートローンは、自動車の販売そのものと一体で提供され、金利がゼロや極めて低く設定されることもあります。これは金融商品としての採算ではなく、自動車の販売促進費用として設計されているためです。ここに金利だけで対抗するのは、たいてい消耗戦になります。

担当者の心得:マイカーローンの企画を「金利をいくらにするか」から始めないでください。まず決めるべきは、どのルートで、どれだけの回答スピードで、何を狙うかです。提携ルートでボリュームを取るなら、審査の即応体制が要ります。直販ルートで取引の広がりを狙うなら、給与振込や口座振替とセットにする条件設計が要ります(→第24巻第10章)。

10. 教育ローン・フリーローン ― 資金使途をどこまで問うか

教育ローンは学費・入学金等を、フリーローンは資金使途を限定しない借入を対象とします。いずれも無担保で、保証会社の保証を付けるのが一般的です。

この2つを並べると、個人ローンにおける資金使途という論点が浮かび上がります。

資金使途を限定する 限定しない
例 住宅ローン、マイカーローン、教育ローン フリーローン、カードローン
確認の方法 見積書、契約書、請求書の提出を求める 求めない(または申告のみ)
金利 相対的に低い 相対的に高い
なぜ金利が違うのか 使途が確認できると、貸倒率が低くなる傾向がある。使途と返済原資の関係が見える 使途が分からない。他の借入の返済に充てられている可能性もある

最後の行が本質です。資金使途を確認しない借入は、多重債務の入口になりえます。 顧客が「生活費に使う」と言っているとき、その実態が「他社への返済」であれば、貸すことは問題の先送りにしかなりません。

💡 ここでつまずきやすい:「おまとめ」は本当に顧客のためになるのか

複数の借入を1本にまとめる「おまとめ」型の商品があります。金利が下がり、返済管理が楽になるなら、顧客の利益になります。しかし次の2点は必ず確認してください。

①総返済額は本当に減るか:期間が延びれば、金利が下がっても総額は増えることがあります。

②まとめた後、元の借入枠が空くのではないか:カードローンをまとめても、その枠が残っていれば再び使われます。枠の解約とセットでなければ、債務は増えるのが実務の現実です。

「金利が下がるから有利」という説明だけでは足りません。総額と枠の両方を示すのが、この商品の説明責任です。

担当者の心得:フリーローンの申込みで、資金使途の説明が曖昧だったり、既存の借入が多い場合は、基準に従って断ることも顧客のためになります。第1章で述べたとおり、個人与信では基準に従うことが顧客と自分の双方を守ります。断るときは、理由を説明し、必要なら公的な相談窓口を案内する。これは地域金融機関としての役割の一部です。

ここまでの筋(3行)

① マイカーローンは提携ルートでは「回答の速さ」が勝負であり、事業性融資の稟議とは別の世界である。

② 販売会社系のオートローンは販売促進費用として設計されており、金利だけで対抗すると消耗戦になる。

③ 資金使途を確認しない借入は多重債務の入口になりうる。「おまとめ」は総返済額と枠の両方を見なければ評価できない。


第Ⅳ部 カードローンとクレジットカード

11. カードローン ― 極度・随時利用・無担保

カードローンは、あらかじめ極度額を設定し、その範囲内で顧客が随時借入・返済できる商品です。ATMやアプリからいつでも引き出せます。

形式としては、第20巻で扱った当座貸越(→第20巻第Ⅱ部)の個人版です。しかし、リスクの性格はまったく違います。

事業性の当座貸越 カードローン
利用の実態 資金繰りの波に合わせて増減する 借りたら減らないことが多い
使途 運転資金 限定なし
保全 担保・保証を求めることが多い 無担保。保証会社の保証が一般的
モニタリング 決算書・試算表・資金繰り表(→第22巻) 延滞の有無と信用情報
金利 短プラ連動等。低い 高い

11-1. なぜ金利が高いのか

カードローンの金利は、年14%前後といった水準に設定されることが一般的です。これを「高利」と感じるのは自然ですが、その内訳を分解すると、暴利ではないことが分かります(第14章の設例で確認します)。

理由は3つです。

  1. 貸倒率が高い。無担保で、返済原資は給与のみ。失業や病気で即座に返済不能になります。
  2. 経費率が高い。1件の残高が数十万円と小さいのに、カード発行・与信管理・システム・督促の費用がかかります。残高が小さいほど、率としての経費は重くなります。
  3. 保証料が乗る。保証会社に保証を委託していれば、その保証料は金庫の負担になります(→第3-2節)。

なお、無担保の消費者向け貸付の金利には利息制限法による上限があります(元本の額に応じて年15%・18%・20%)。銀行・信用金庫のカードローンも、当然この範囲内で設定されます。

11-2. 未使用の極度枠という論点

カードローンでは、極度額を設定しても、実際に使われているのはその一部です。この未使用枠が、リスク管理上の論点になります。

論点 内容
突然使われる 顧客の状況が悪化したときほど、枠は使われる。信用が悪化した瞬間に残高が増えるという逆選択が働く
自己資本上の扱い 未実行の与信枠は、一定の掛け目を用いてオフバランス項目としてリスクアセットに反映されます(→第5巻第9章、第15巻)。使われていなくても資本を食う
与信集中の測定 与信集中の管理では、残高ではなく枠で測るべき場面がある(→第15巻第3章)

担当者の心得:カードローンの残高が伸びない一方で極度枠だけが増えている状態は、リスクだけが積み上がっている状態です。定期的に、①長期間まったく利用されていない枠、②信用情報に変化のあった先の枠について、枠の見直し(減額・解約)を行う仕組みがあるかを確認してください。枠は「設定して終わり」ではありません。

💡 ここでつまずきやすい:カードローンの極度枠は「約束」ではない

誤解:極度額を設定した以上、金融機関はその枠までいつでも貸す約束をしている。

正しい理解:カードローンの極度枠は、法的な融資義務を伴わない非コミット型の枠です。 だからこそ手数料を取らずに提供でき、担当者の心得で述べたとおり、金融機関の判断で減額・解約もできます。これに対し、法人向けのコミットメントラインは、金融機関に法的な融資義務(融資予約)を負わせる契約であり、その対価としてコミットメントフィーが発生します(→第20巻第15-1節)。「手数料を取らない代わりに約束もしない」個人向けの枠と、「手数料を取る代わりに約束する」法人向けの枠という対比で理解してください。

12. 過剰貸付批判と自主規制 ― 総量規制は銀行に直接適用されない

カードローンを理解するには、この10数年の経緯を知っておく必要があります。ここは制度の構造として重要です。

12-1. 貸金業法の総量規制

2006年の貸金業法改正により、いわゆるグレーゾーン金利が撤廃され、あわせて総量規制が導入されました(2010年に完全施行)。

総量規制:貸金業者は、原則として、個人顧客の年収の3分の1を超える貸付けを行ってはならない。

これは、多重債務問題への対応として導入された仕組みです。

12-2. そして、銀行のカードローンが伸びた

ここが構造の要点です。総量規制は貸金業法上の規制であり、銀行・信用金庫は貸金業者ではありません。 したがって、銀行等が行うカードローンには、総量規制は直接には適用されません。

その結果、貸金業者からの借入が減る一方で、銀行のカードローンが伸びるという現象が起きました。これに対して、過剰な貸付けではないかという批判が高まり、国会でも議論され、当局による実態調査も行われました。

12-3. 業界の自主規制

これを受け、銀行界は自主的な取組みを申し合わせました。主な内容は次のようなものです。

取組みの方向 内容
収入の確認 一定額を超える貸付けについて、収入を証明する書類の取得基準を厳格化する
貸付上限枠の設定 年収に対する比率などを目安として、自主的な上限を設ける
審査態勢 保証会社の審査に依存せず、銀行自身の審査態勢を整備する
広告表現 借入れを過度に助長する表現を避ける
即日融資 安易な融資を助長しないよう見直す

具体的な内容と各金融機関の対応は異なるため、自金庫の規程と最新の業界の申し合わせで確認してください。

💡 ここでつまずきやすい:3つの規制が別々にかかっている

個人向けの与信をめぐる規制は、商品ごとに根拠法が違います。ここを混同すると説明を誤ります。

商品 主な根拠法 総量規制(年収3分の1)
消費者金融・信販会社のカードローン 貸金業法 適用される
クレジットカードのキャッシング 貸金業法 適用される
クレジットカードのショッピング(分割・リボ) 割賦販売法 適用されない(代わりに支払可能見込額の調査)
銀行・信用金庫のカードローン 銀行法・信用金庫法 直接には適用されない(自主規制で対応)

同じ「カードでお金を借りる」でも、根拠法が3つに分かれている ― この構造を押さえてください。

⭐ポイント⭐:「法の外側にいる業態ほど、規律を自ら課さなければならない」。

これは第20巻で、国際規制の直接適用を受けない信用金庫について述べたこと(→第20巻第18章)と、まったく同じ論理です。外から課される規制がないことは、規律が不要であることを意味しません。 規制がない領域で問題を起こせば、結局は規制を招きます。自主規制の歴史は、その実例です。

担当者の心得:カードローンの推進目標を設定するときは、「増やす」と「適切に貸す」が対立しうることを、目標設計の段階で織り込んでください。件数や残高だけを目標にすると、現場は必ず歪みます。この構造は第27巻第9章で正面から扱います。

13. クレジットカード ― 三者間の資金と手数料の流れ

クレジットカードは、本巻の中で唯一、貸出とは別の生き物です。ここを「金利の高い借金」と理解すると、本質を外します。

13-1. 登場人物と資金の流れ

flowchart TD
    A["カード会員"] -->|"①10,000円の買い物"| B["加盟店"]
    B -->|"②売上データ"| C["アクワイアラ<br/>(加盟店契約会社)"]
    C -->|"③9,700円を支払う<br/>= 加盟店手数料300円を差し引く"| B
    C -->|"④精算"| D["イシュア<br/>(カード発行会社)"]
    D -->|"⑤翌月、10,000円を請求"| A
    E["国際ブランド<br/>(決済ネットワーク)"] -.->|"仕組みを提供"| C
    E -.-> D
    style B fill:#fde,stroke:#c39

この図で最重要なのは、③で加盟店が受け取るのは10,000円ではなく9,700円であるという点です。差額の300円が加盟店手数料であり、これがカードビジネスの中心的な収益源です。

つまり、クレジットカードの費用を実質的に負担しているのは、会員ではなく加盟店です。会員が翌月一括払いをすれば利息はかかりませんが、それでもビジネスが成り立つのはこのためです。

13-2. 収益源は3つ

収益源 誰が払うか 性格
加盟店手数料 加盟店 決済サービスの対価。利用額に比例する
リボ払い・分割払いの手数料、キャッシングの利息 会員 与信の対価。利用額ではなく残高に比例する
年会費 会員 会員基盤の維持

この3つのうち、①だけが「決済」で、②は「貸出」です。 クレジットカードは、決済サービスと消費者与信という性格の違う2つの事業が1枚のカードに同居している商品です。だから規制も分かれます(第12章の表)。

13-3. 信用金庫はどう関わるか

信用金庫が自らカード発行会社(イシュア)となる例は多くありません。実務では次の関わり方が中心です。

関わり方 内容
提携カード 信販会社等と提携し、自金庫のブランドを冠したカードを発行する。審査・与信・回収は提携先が担う
決済口座を持つ カード代金の引落口座になる。これが最大の意味(→第24巻第10章)
デビットカード 預金口座から即時に引き落とす。与信を伴わない(→第25巻第8章)

3つ目のデビットカードは、信用金庫にとって重要な選択肢です。与信リスクを負わずに、口座を決済手段そのものにできるからです。第24巻で見たとおり、決済が自金庫の口座を通ることは平均残高に直結します。

💡 ここでつまずきやすい:カード代金の引落口座であることの価値

誤解:カード代金の引落しは、月に一度お金が出ていくだけだから、金庫にとって意味はない。

正しい理解:カード代金の口座振替は、「支払いはこの口座から」という状態を作る中核的な要素です(→第24巻第10章)。しかも、カード利用は生活のあらゆる場面に及ぶため、この1本で多数の支払いを押さえることになります。第24巻の設例で見た平均残高の差(30万円 → 80万円)は、まさにこの効果です。カードそのものからの収益はなくても、口座からの収益はある。

担当者の心得:提携カードを推進するときは、「発行枚数」ではなく「自金庫の口座を引落口座にした枚数」を数えてください。他行の口座を引落口座にしたカードを発行しても、金庫に残るものはほとんどありません。第24巻第12章・第25巻第9章で繰り返した「数を目標にすると数だけが達成される」が、ここでも当てはまります。

14. 【設例】カードローンの採算 ― 高い金利は何の対価か

第11章で「カードローンの高い金利は暴利ではない」と述べました。分解します。すべて単純化した仮の数字です。

前提

項目 数値
極度額 100万円
平均利用残高 40万円
約定金利 年14.0%
保証会社への保証料率(金庫負担) 年5.0%
調達コスト(仕切りレート) 年0.4%
経費率(カード発行・与信管理・システム・督促) 年3.0%
実効税率 30%

①保証会社の保証を付けた場合

項目 率 40万円に対する金額
約定金利 14.0% 56,000円
▲保証料 ▲5.0% ▲20,000円
▲調達コスト ▲0.4% ▲1,600円
▲経費率 ▲3.0% ▲12,000円
金庫の利ざや 5.6% 22,400円
税引後 15,680円

14%の金利のうち、金庫の手元に残るのは5.6%です。 残りの8.4%は、保証料・調達・経費として出ていきます。

②保証を付けず、自金庫でリスクを取る場合

保証料5.0%を払わない代わりに、貸倒れを自金庫が被ります。貸倒率(残高に対する年間の貸倒損失の割合)を変えて見ます。

貸倒率 計算(14.0% − 貸倒率 − 0.4% − 3.0%) 利ざや 40万円に対する税引後
3.0% 14.0 − 3.0 − 0.4 − 3.0 7.6% 21,280円
5.0% 14.0 − 5.0 − 0.4 − 3.0 5.6% 15,680円
8.0% 14.0 − 8.0 − 0.4 − 3.0 2.6% 7,280円
10.6% 14.0 − 10.6 − 0.4 − 3.0 0.0% 0円(損益分岐)
13.0% 14.0 − 13.0 − 0.4 − 3.0 ▲2.4% ▲6,720円(赤字)

読みどころ

論点 読み方
14%の金利は、10.6%の貸倒れに耐えるための水準 損益分岐となる貸倒率は10.6%。100件貸して10件強が焦げ付いても、ようやくトントンという商品である
貸倒率が3ポイント動くと利益は半減する 5.0% → 8.0% で、利ざやは5.6% → 2.6%。個人無担保与信の収益は、貸倒率にきわめて敏感
保証料5.0%の意味 保証を付けるのは、貸倒率の変動を固定料金に置き換えているということ。ただし損得の分岐点は5%ではない(下の囲みを参照)
経費率3.0%の重さ 残高40万円に対して年12,000円。残高が小さいほど率としての経費は重い。これが小口与信の宿命

💡 ここでつまずきやすい:保証料率と期待損失率は同じではない

誤解:保証料率が5.0%なのだから、自金庫の貸倒率が5.0%を超えるなら保証は有利、下回るなら不利だ。

正しい理解:保証会社も事業ですから、保証料率には自らの経費と利益が上乗せされています。 つまり、保証料率5.0% > 保証会社が見込む期待損失率、という関係が成り立っています。したがって、自金庫の貸倒率がちょうど5.0%なら、保証を使うほうが不利です。損得の分岐点は5.0%より低いところにあります。

それでも保証を使う理由は3つあります。①貸倒率の振れを消せる(平均が同じでも、悪い年に大きく振れることの負担がなくなる)、②回収の実務を代行してもらえる(第16章のとおり個人の回収は手間が重い)、③審査のノウハウとデータを利用できる。保証料は「期待損失の付け替え」ではなく、「振れとコストの移転」の対価と読むのが正確です。第21巻の信用保証協会でも構造は同じです(→第21巻第12章)。

💡 ここでつまずきやすい:「金利を下げれば健全な顧客が集まる」わけではない

誤解:金利が高いから返せない人が借りるのだ。金利を下げれば、質のよい顧客が集まって貸倒率も下がるはずだ。

正しい理解:一部は正しいのですが、逆の力も働きます。金利を下げると審査の基準を緩めなければ量が集まらないという圧力がかかり、結果として貸倒率が上がることがあります。設例で見たとおり、金利を14%から11%に下げると、貸倒率が変わらなくても利ざやは2.6%に落ちます。そこで量を追って審査を緩めれば、貸倒率も上がり、赤字に転落します。金利・審査基準・貸倒率・量は、独立に決められない4つの変数です。この4つを同時に動かす議論をしていない商品改定は、たいてい失敗します。

⭐ポイント⭐:「カードローンの金利は、貸倒率という名の見えないコストの値札である」。

担当者の心得:カードローンの採算を検証するときは、実績の貸倒率を必ず自金庫の実数で押さえてください。保証会社に保証を委託している場合、貸倒れは代位弁済として保証会社側で発生するため、自金庫の損益計算書には貸倒れが現れません。すると「保証料が高い」という議論だけが残ります。比べるべきは、保証料率と、保証を外した場合に自金庫が被るであろう貸倒率です。この比較をせずに保証の要否を論じることはできません。

ここまでの筋(3行)

① カードローンは形式としては当座貸越の個人版だが、無担保・随時利用・高い貸倒率という点で性格がまったく違う。未使用の枠もリスクである。

② 総量規制は貸金業法上の規制であり、銀行・信金のカードローンには直接適用されない。だからこそ自主規制で対応してきた。「法の外側にいる業態ほど規律を自ら課す」。

③ クレジットカードは決済と与信の複合であり、主な費用負担者は会員ではなく加盟店である。信用金庫にとっての価値は、カードそのものより引落口座になることにある。


第Ⅴ部 審査・管理編

15. 個人信用情報機関とスコアリング ― 稟議ではなく統計

15-1. 個人信用情報機関

個人向けの与信では、申込者が他にどれだけ借りていて、返済状況はどうかが決定的な情報です。これを金融機関どうしで共有する仕組みが、個人信用情報機関です。

日本では、根拠となる法律・業態に応じて複数の機関が存在します。

機関の系統 主に加盟しているのは
割賦販売法系 クレジットカード会社、信販会社
貸金業法系 消費者金融、貸金業者
銀行系(全国銀行協会が運営) 銀行、信用金庫、信用組合等

そして、これらの機関は相互に情報を交流する仕組みを持っており、延滞や代位弁済といった重大な情報は、業態を越えて共有されます。

登録される情報は、おおむね次のようなものです。具体的な登録項目と保有期間は機関ごとに定められており、変更もあるため、必ず最新の各機関の公表資料で確認してください。

情報 内容
申込情報 いつ、どこに、いくらの申込みをしたか(短期間に多数の申込みがあれば警戒信号)
契約情報 契約日、金額、残高
支払状況 入金の履歴、延滞の有無
事故情報 代位弁済、強制解約、債務整理

💡 ここでつまずきやすい:「ブラックリスト」という名簿は存在しない

誤解:信用情報機関には「ブラックリスト」があり、そこに載ると借りられなくなる。

正しい理解:そのような名簿はありません。 存在するのは、延滞や代位弁済といった事実の記録です。それをどう評価するかは各社の判断であり、一定期間が経過すれば記録は消えます。顧客から「ブラックリストに載りますか」と聞かれたときに「載ります」と答えるのは不正確です。正しくは「延滞の事実が記録され、他の金融機関も参照できる状態になります」です。この違いは、顧客への説明の質を大きく左右します。

15-2. スコアリング ― 個人与信は統計で決まる

第1章で述べたとおり、個人与信の判断はスコアリングによって行われるのが一般的です。年齢、年収、勤務先の属性、勤続年数、居住形態、他の借入状況、信用情報といった項目に点数を付け、合計点で判定します。

その根拠は、過去のデータから「どういう属性の人が、どれだけの割合で延滞したか」を統計的に推計できることにあります。第15巻で扱ったPD(デフォルト率)の考え方(→第15巻第6章6-1)を、個人に適用したものです。

スコアリングの長所 スコアリングの限界
判断が速い(その場で回答できる) 個別の事情を汲めない。転職直後、自営業、非典型的な収入形態
判断が均質(担当者による差が出ない) 過去のデータに基づくため、環境が変われば当たらなくなる
大量の申込みを処理できる なぜその結果なのかを説明しにくい
恣意や差別が入りにくい モデルの設計に偏りがあれば、偏りが均質に再生産される

とくに2つ目の「環境が変われば当たらなくなる」は重要です。モデルは過去のデータで作られています。雇用形態や物価、金利の環境が変われば、過去の関係は成り立たなくなります。モデルは定期的に検証し、必要なら作り直す ― これは第14巻で扱った引当率の見直し(→第14巻第5章)や、第7巻のコア預金モデル(→第7巻第9章)とまったく同じ規律です。

担当者の心得:スコアリングで否決になった顧客に、理由を詳細に説明することは通常できません(審査の手法を明かすことになるため)。しかし、「基準に基づいて総合的に判断した結果である」ことは誠実に伝えるべきです。曖昧にごまかしたり、担当者の判断であるかのように言ったりすると、後に苦情や紛争の原因になります。断り方は、金庫の姿勢が最も表れる場面の1つです(→第27巻第10章)。

16. 延滞管理と回収 ― 事業性との決定的な違い

個人ローンの延滞管理は、事業性融資の期中管理(→第22巻)とは別の作法で行われます。

16-1. 時間軸

flowchart LR
    A["初期延滞<br/>(1〜2か月)<br/>入金案内・電話"] --> B["中期<br/>(3か月前後)<br/>期限の利益喪失<br/>保証会社へ通知"]
    B --> C["代位弁済請求<br/>金庫は元本を回収"]
    C --> D["保証会社が<br/>求償権に基づき回収"]
    A --> E["復帰<br/>(大半はここ)"]
    style E fill:#def,stroke:#39c

大半の延滞は初期に解消します。 給与の入金日と引落日がずれた、口座を間違えた、うっかり忘れていた ― こうした事務的な理由が多数を占めます。だから初期延滞の対応は、回収というより連絡業務です。

問題は、初期に解消しない延滞です。ここから先は、事業性融資とまったく違う世界に入ります。

事業性融資 個人ローン
再生の手段 条件変更、経営改善計画、本業支援(→第22巻) 限定的。個人の収入は急には増えない
交渉の相手 経営者。事業の再建という共通の目標がある 本人。生活の再建が目標になる
出口 私的整理・法的整理・担保処分(→第23巻) 任意整理・個人再生・自己破産
金庫の関与 最後まで金庫が主体 保証会社に移ることが多い

16-2. 個人の債務整理

個人の債務整理には、大きく3つの形があります。詳細な要件と手続は法令によりますが、輪郭を押さえておいてください。

手続 概要
任意整理 裁判所を通さず、債権者と個別に交渉して返済条件を変更する
個人再生(小規模個人再生等) 裁判所の手続により債務を大幅に圧縮し、原則として一定期間で分割弁済する。住宅ローンについては特則があり、住宅を残しながら他の債務を整理できる場合がある
自己破産 裁判所の手続により、免責を受けて債務の支払義務を免れる

2つ目の住宅ローンの特則は、実務で重要です。住宅を失えば生活の基盤が崩れ、再建がいっそう難しくなるため、住宅ローンは従来どおり支払いながら他の債務を整理する道が用意されています。住宅ローンを扱う金融機関として、この制度の存在は知っておく必要があります。

16-2-2. 受任通知が届いたら ― 個人ローンでは、ここが分岐点

前節の3つの手続は、たいてい一通の書面から始まります。受任通知(債務者が弁護士等に債務整理を委任したことを、代理人が債権者に通知する書面。介入通知ともいう)です。

基本的な性格と受領時の対応は →第23巻第2-2節 で詳しく扱っています。ここでは、個人ローンでは何が違うのかだけを押さえます。違いは4つあります。

①件数が違うので、個別対応ではなく手順で回す

事業性融資の受任通知は「1件ずつ判断する出来事」ですが、個人ローンでは日常的に届きます。したがって、受領から保証会社への連絡までを定型の手順として文書化しておく必要があります。担当者の記憶と善意で回している金庫は、必ずどこかで期限を落とします。

②保証会社への連絡が、最優先事項になる

これが最大の違いです。個人ローンは保証会社の保証が付いているのが基本形でした(→第3章)。したがって、

受任通知の受領は、多くの場合、期限の利益喪失 → 保証会社への通知 → 代位弁済請求 という流れの引き金になります。

そして第21巻第12章で見たとおり、保証には免責事由があります。約定された報告・請求の期限を落とせば、保証が利かなくなるおそれがあります。保証付きだから安全、ではありません。手続を守って初めて保証が機能する ― この構図は、信用保証協会のときとまったく同じです。保証会社ごとに約定が違うため、必ず自金庫の保証委託契約・約定書で期限と手順を確認してください。

③金庫と保証会社とで、適用される規律が違うことがある

第23巻第2-2節で述べたとおり、受任通知受領後の本人への直接の取立てを禁じる貸金業法の規定は、信用金庫には直接適用されません(それでも本人に取り立ててはならないことに変わりはありません)。

一方、カードローン等の保証会社は、信販会社等の貸金業者であることが少なくありません。その場合、保証会社の側には同法が直接適用されます。つまり、同じ1件の債権について、金庫と保証会社に別の規律がかかっているわけです。代位弁済後の回収は保証会社が行うため(→第16-1節)、ここを理解していないと、顧客からの問い合わせに答えられません。

④相殺と住宅ローンについて、個人固有の配慮がいる

論点 個人ローンでの注意
給与振込口座との相殺 相殺は最も確実な回収手段ですが(→第23巻第3章)、給与や年金の入金口座は、生活の原資そのものです。相殺の可否・時期の法的判断(→第23巻第2-2節)に加え、生活の維持という観点からの慎重さが要ります。必ず役席・本部の判断を仰いでください。
住宅ローンがある先 他の債務の受任通知が届いたことをもって、住宅ローンまで直ちに期限の利益を喪失させてよいかは、慎重な判断を要します。個人再生の住宅ローンの特則(→第16-2節)は、住宅ローンを従来どおり支払い続けることを前提とする仕組みだからです。機械的な処理が、住宅を残して再建する道を閉ざしてしまうことがあります。
個人信用情報 債務整理に関する事実は、個人信用情報機関に記録され、業態を越えて共有されます(→第15-1節)。「登録するかどうか」は金庫の裁量ではなく、事実の記録です。

💡 ここでつまずきやすい:司法書士からの受任通知

受任通知は、弁護士だけでなく認定司法書士から届くこともあります。ただし、司法書士が代理人として関与できる範囲には、取り扱う額による制限があります(簡易裁判所の事物管轄に対応した金額基準。具体的な金額は法令で確認してください)。

したがって、届いた受任通知の差出人が司法書士である場合、自金庫の債権額がその範囲に収まっているかを確認する必要があります。範囲を超える債権について代理人として交渉することはできないため、誰を窓口として扱うかの判断が変わります。判断に迷えば、法務部門・顧問弁護士に確認してください。

担当者の心得:受任通知は、金庫にとっては「回収局面の始まり」ですが、顧客にとっては「生活の再建に向けて専門家に相談できた」という前向きな一歩でもあります。実際、多重債務を一人で抱え込んだまま返済に追われる状態のほうが、はるかに深刻です。

だからこそ、次節の「相談先の案内は金庫の不利益ではない」という話につながります。受任通知が届いた時点で、その顧客は既に相談先にたどり着いている。 担当者がすべきことは、感情的に反応することでも、督促を強めることでもなく、手順どおりに、期限のあるものから正確に処理することです。

16-3. 信用金庫として、どう向き合うか

ここは、本巻で最も慎重に書きたい部分です。

個人の返済不能は、多くの場合、失業・病気・離婚・家族の介護といった生活上の危機と重なっています。相手は地域の住民であり、多くは会員です。事業性の回収とは、向き合い方が違って当然です。

一方で、返済されない債権を放置することは、他の会員の預金で損失を負担することを意味します。甘い対応が正義であるわけでもありません。

この緊張の中で、実務が守るべき線は明確です。

守るべき線 内容
取立ての適正さ 時間帯、頻度、勤務先への連絡、第三者への告知。法令とガイドラインの範囲を厳格に守る
記録 いつ、誰が、どのように連絡し、何を伝えたか。記録のない督促は、後に必ず問題になる
相談先の案内 多重債務の相談窓口、法テラス、自治体の相談窓口。案内することは金庫の不利益ではない
判断の一貫性 顧客によって対応を変えない。情による例外は、後の不公平と不祥事件の温床になる

担当者の心得:個人の延滞対応で最も危険なのは、担当者が一人で抱え込むことです。「返してもらえるまで自分が何とかする」という善意が、不適切な取立てや、記録のない約束につながります。個人の延滞は、必ず役席に上げ、組織として対応する ― これは顧客を守ると同時に、担当者自身を守る手続きです(→第27巻第6章)。

ここまでの筋(3行)

① 個人信用情報機関に「ブラックリスト」という名簿はない。あるのは事実の記録であり、業態を越えて共有される。

② スコアリングは速く均質だが、個別事情を汲めず、環境が変われば当たらなくなる。モデルは定期的に検証する。

③ 個人の延滞は生活上の危機と重なる。取立ての適正さ・記録・相談先の案内・判断の一貫性を守り、組織として対応する。受任通知の受領後は、保証会社への報告・請求の期限を最優先で守る。


第Ⅵ部 比較編

17. 地域銀行ならどうか/国際的な位置づけ

17-1. 地域銀行ならどこが変わるか

論点 信用金庫 地域銀行
顧客の範囲 地区内が原則。会員資格と員外規制がある(→第16巻第10章) 地区の制約がない
住宅ローンの規模 相対的に小さい。1本あたりの薄い利ざやを件数で補うのが難しい 規模を確保しやすい
保証会社 系統・地元の保証会社、信販会社の保証を利用することが多い グループ会社としての保証会社を持つ例がある。保証料が連結で内部化される
アパートローン 取り組む金庫と取り組まない金庫の差が大きい 過去に積極的に取り組み、問題化した事例も報じられた
カードローン 商品として持たない金庫もある 主力商品として位置づけた例が多く、自主規制の主な対象となった
競争相手 ネット専業銀行、メガバンク、他の地域金融機関、販売会社系クレジット 同じ。加えてネット専業との金利競争がより直接的

構造的な違いとして重要なのは、保証会社をグループ内に持つかどうかです。グループ会社が保証会社であれば、支払った保証料はグループ内に残ります。外部の保証会社に委託していれば、保証料は外部へ流出します。第14章の設例でいえば、14%のうちの5%がどこへ行くかという問題です。信用金庫にとって、この5%は基本的に外部への支払いになります。これは、個人ローンの採算を考えるうえで避けて通れない構造上の不利です。

だからこそ、信用金庫の個人ローン戦略は、単体の利ざやではなく、取引全体の広がりで評価する必要があります。住宅ローンで生活口座を獲得し(→第4-2節、第24巻第10章)、世代を越えて取引を継承する。地区から出られない業態にとって、これは戦略ではなく前提条件です(→第24巻第24-1節)。

17-2. 国際的にはどう扱われているか

個人向け与信をめぐる国際的な枠組みは、大きく2つに分かれます。

①自己資本規制におけるリスクウェイト

バーゼルの標準的手法では、居住用不動産を担保とする貸出と、小口分散されたリテール向けの貸出に、それぞれ事業性貸出より低いリスクウェイトが適用されます。バーゼルⅢの最終化では、居住用不動産向けについてLTV(担保価値に対する借入額の比率)に応じた細かな区分が導入されました。適用される具体的な数値と時期は、必ず最新の告示で確認してください(→第5巻第9章)。

考え方は明快です。LTVが低い(頭金を多く入れている)ほど、担保処分による回収の確実性が高いので、資本を薄くしてよい。 つまり、保全の実効性がそのまま資本の量に反映されるという設計です。第21巻で扱った「保全は法的有効性で決まる」という論点(→第21巻第16章)の、資本規制における現れといえます。

②借り手の返済能力に関する規制(マクロプルーデンス政策)

こちらのほうが、実務者にとって示唆的です。多くの国では、住宅ローンについて借り手の側に上限規制が課されています。

指標 内容
LTV上限 物件価格に対する借入額の上限(例:80%まで)
DSTI/DTI上限 年収に対する年間返済額の比率、または借入総額の上限

これらは、個々の銀行の健全性のためというより、住宅価格の過熱と家計債務の膨張を、金融システム全体の問題として抑えるために導入されてきました。住宅価格バブルとその崩壊を経験した国々で、とくに広く採用されています。

日本では、住宅ローンについて法令によるLTVやDSTIの一律の上限は設けられていません。 各金融機関が、自らの与信基準として返済比率の上限等を設定しています。

17-3. なぜ日本には一律の上限がないのか、そしてそれでも何を学ぶか

理由は2つに整理できます。

  1. これらの規制は、急激な住宅価格の上昇と家計債務の膨張という局面に対応するマクロプルーデンス政策として導入されてきました。日本では長期にわたり住宅価格と金利が落ち着いて推移してきたため、一律の上限を課す必要性が乏しいと整理されてきました。
  2. 一律の上限は、借りられるはずの人が借りられなくなるという副作用を伴います。地域や物件の性格によって適正な水準が異なるなかで、全国一律の線を引くことの弊害も考慮されます。

ただし、適用されないことと無関係であることは違います。国際的な規制の考え方は、業界標準の"ものさし"として、実務や当局のモニタリングで参照されます。 本巻の文脈では、次の3点が直接に使えます。

国際的な考え方 自金庫の実務での使い道
LTVで保全の実効性を測る 頭金の比率を与信基準の中心に置く。同じ3,000万円でも、物件価格4,000万円と3,100万円では意味が違う
DSTIで返済能力を測る 返済比率の上限を設定する。金利上昇を織り込んだ返済額で計算しているかが要点(変動金利の顧客に、現在の金利での返済比率だけを見るのは危うい)
家計債務を全体として見る 自金庫の住宅ローン・アパートローン・カードローンの残高が、地区の所得水準に対してどう推移しているか。1件ごとの審査では見えないものが、ポートフォリオでは見える(→第15巻)

とくに2つ目は、金利が上昇しうる局面では決定的です。現在の金利1.0%で返済比率30%の顧客は、金利が3.0%になれば返済比率40%を超えます(第5章の5年ルールにより、実際の返済額の上昇は遅れて来ますが、負担そのものは増えます)。審査の時点で金利上昇後の返済比率を計算しているか ― これは、法令に書かれていなくても、自ら課すべき規律です。

⭐ポイント⭐:「LTVは物件を見る物差し、DSTIは人を見る物差し。両方を見ないと住宅ローンは測れない」。

担当者の心得:自金庫の住宅ローン審査基準に、「金利がXポイント上昇した場合の返済比率」という項目があるかを確認してください。なければ、それを加えることは、法令改正を待たずに今日からできる規律の強化です。第20巻で述べたとおり、外圧がない業態ほど、規律は自ら課すしかありません(→第20巻第18章)。

ここまでの筋(3行)

① 信用金庫は保証会社をグループ内に持たないことが多く、保証料が外部に流出する。個人ローンは単体の利ざやではなく取引全体で評価する必要がある。

② 国際的には、資本規制のリスクウェイトがLTVに連動し、多くの国で借り手側にLTV・DSTIの上限規制が課されている。日本には一律の上限がない。

③ 適用はされなくても、LTV・DSTIという物差しと、金利上昇後の返済比率で審査する規律は、今日から自ら課せる。


第Ⅶ部 まとめ

18. 実務での留意点

①個人与信の原理

  • 事業性融資は1件を読み、個人ローンは1万件を数える。審査の精度には限界があるという前提に立つ。
  • 基準に従うことが、顧客と自分の双方を守る。情による例外を作らない。
  • 「この与信の信用リスクを実際に負っているのは誰か」を、商品ごとに必ず答えられるようにする。

②保証を扱うとき

  • 保証はリスクを消さない。保証会社の信用リスク・免責事由・集中度が残る。
  • 保証料率と、保証を外した場合に想定される貸倒率を比べる。この比較なしに保証の要否は論じられない。
  • 保証付の商品では、貸倒れが自金庫の損益計算書に現れない。実績の貸倒率は保証会社側のデータで押さえる。
  • 受任通知の受領から保証会社への報告・代位弁済請求までを、定型の手順として文書化しておく。期限を落とせば免責事由に該当し、保証が利かなくなるおそれがあります(→第16-2-2節、第21巻第12章)。

③住宅ローン

  • 1本あたりの利益は小さく、35年持って初めて元が取れる。獲得コストと期限前償還が採算を左右する。
  • 単体で稼ぐ商品ではなく、30年の取引を買う商品。給与振込・口座振替とセットで設計する。
  • 5年ルール・125%ルールは負担の先送りであり、未払利息が生じうる。顧客への説明では必ず伝える。
  • 繰上返済には利益相反がある。答えではなく材料を渡す。
  • ALMでは契約期間ではなく想定される実際の期間で金利リスクを測る。
  • 年収倍率は元本を見る簡便な目安にすぎない。審査の中心は金利・期間を織り込んだ返済比率であり、金利上昇後の返済比率まで確認する(→第4-3節、第17-3節)。
  • 事務手数料(定率/定額)と保証料(内枠/外枠)は、支払先も繰上返済時の扱いも違う。定率型の事務手数料は期限前償還リスクへの収益面の防御力になる(→第4-4節、第6-1節)。
  • アパートローンは住宅ローンではない。収支計画が誰の作った数字かを確認したうえで、DSCR(毎年返せるか)とLTV(最後に取り返せるか)を両輪で審査する(→第8-2節)。

④カードローンとクレジットカード

  • 高い金利は貸倒率と経費率の裏返しである。損益分岐貸倒率を計算してから商品を語る。
  • 金利・審査基準・貸倒率・量は独立に決められない。4つを同時に動かす議論をする。
  • 未使用の枠もリスクである。定期的な枠の見直しの仕組みがあるか。
  • 総量規制は直接適用されない。だからこそ自主規制で規律を課す。
  • クレジットカードの費用を実質的に負担しているのは加盟店である。信用金庫にとっての価値は引落口座になること。

⑤審査と延滞管理

  • 「ブラックリスト」はない。あるのは事実の記録である。顧客への説明を正確に。
  • スコアリングのモデルは環境が変われば当たらなくなる。定期的に検証する。
  • 個人の延滞は生活上の危機と重なる。取立ての適正さ・記録・相談先の案内・判断の一貫性を守る。
  • 個人の延滞は一人で抱え込まない。組織として対応する。

担当者の心得(本巻の総括):個人ローンは、事業性融資に比べて「簡単な仕事」と見られがちです。決算書を読む必要がなく、判断はシステムが出す。しかし本巻で見たとおり、個人ローンの難しさは審査ではなく設計にあります。金利と審査基準と貸倒率と量の関係を設計すること。保証を使うか自ら取るかを決めること。単体の採算ではなく取引全体で評価すること。そして、返せなくなった地域の住民とどう向き合うかを、組織として決めておくこと。これらはすべて、営業店ではなく本部の仕事であり、経営の仕事です。

19. つまずきやすいポイント総まとめ

用語・概念 章 一言で言うと
個人与信の原理 1 1件を読むのではなく1万件を数える。貸倒率という平均で管理する
審査の限界 1 失業・病気は申込時点では分からない。貸倒れを織り込んだ金利と分散で管理する
金利差の正体 2・14 期間ではなく、担保・保証の有無と貸倒率が金利を決める
保証会社 3 リスクは消えず、保証会社の信用リスクに置き換わる。免責事由と集中度が残る
保証料の負担 3-2 顧客負担型でも金庫負担型でも、経済的には顧客が負担している
団信 4-1 金庫と顧客の利害が一致する珍しい仕組み。ただし上乗せ型は保険販売としての適切性が問われる
住宅ローンの薄い利ざや 4-2・6 3,000万円を35年貸して税引後81万円。単体では稼げない
年収倍率と返済比率 4-3 年収倍率は元本(ストック)、返済比率は毎年の負担(フロー)。金利水準で両者の関係は変わる
提携申込とローンプラザ 4-5 提携ルートは事前審査の速さで決まるため専門拠点を置く。量は運んでも取引は運ばない
事務手数料と保証料 4-4 支払先が違う(金庫自身/保証会社)。事務手数料は繰上返済でも一般に返還されない
5年ルール・125%ルール 5-1 返済額は増えないが負担は先送り。未払利息が生じうる
繰上返済の利益相反 6 顧客の利益であり金庫の減益。答えではなく材料を渡す
事務手数料の防御効果 6-1 定率型手数料は繰上返済でも残る。10年完済の正味利益は31.5万円→73.5万円に回復
期限前償還リスク 7 金利が下がれば借換え、上がれば動かない。どちらも金庫に不利
変動金利とコンベキシティ 7-1 非対称は薄まるが消えない。引下げ幅の競争・5年ルール・信用リスクへの転化で戻ってくる
アパートローン 8-1 住宅ローンではない。人に貸すのではなく物件に貸す実質的な事業性融資
DSCRとLTV(アパートローン) 8-2 DSCRは毎年返せるか、LTVは最後に取り返せるか。DSCR1を上回るのは最低条件にすぎない
リスクウェイトの差 8-3 返済能力と担保価値が同じ原因で同時に劣化するから重い。利益額で勝ってもRORAで逆転しうる
提携ルートの速さ 9 回答が翌日になる金融機関は候補から外れる
おまとめ 10 総返済額と元の枠の解約の両方を見なければ評価できない
カードローンの未使用枠 11-2 信用が悪化した瞬間に使われる。使われていなくても資本を食う
総量規制 12 貸金業法上の規制。銀行・信金には直接適用されない
3つの根拠法 12 貸金業法(消費者金融・キャッシング)/割賦販売法(ショッピング)/銀行法(銀行カードローン)
加盟店手数料 13-1 クレジットカードの費用を実質的に負担しているのは加盟店
カードの引落口座 13-3 カードそのものより、引落口座であることに価値がある
損益分岐貸倒率 14 設例では10.6%。100件貸して10件強焦げてトントンという商品
金利・審査・貸倒率・量 14 独立には決められない4つの変数。同時に動かす議論をする
ブラックリスト 15-1 存在しない。あるのは事実の記録。説明を正確に
スコアリングの限界 15-2 個別事情を汲めず、環境が変われば当たらない。定期的な検証が要る
住宅ローンの特則(個人再生) 16-2 住宅を残しながら他の債務を整理できる場合がある
延滞対応の線 16-3 取立ての適正さ・記録・相談先の案内・判断の一貫性。一人で抱え込まない
LTVとDSTI 17-2 物件を見る物差しと人を見る物差し。両方を見ないと測れない
金利上昇後の返済比率 17-3 法令になくても、自ら課せる規律
受任通知は手順で回す 16-2-2 個人ローンでは日常的に届く。担当者の記憶と善意で回さない
保証会社への報告期限が最優先 16-2-2 落とせば保証が利かなくなるおそれ。「保証付きだから安全」ではない
金庫と保証会社で規律が違う 16-2-2 貸金業法は金庫に直接適用されないが、保証会社には適用されうる
住宅ローンまで機械的に喪失させない 16-2-2 個人再生の住宅ローン特則は、支払い継続が前提。再建の道を閉ざしうる

まとめとセルフチェック

○×で答えてください。

  1. 個人ローンの審査も、事業性融資と同じく1件ずつ稟議で判断するのが原則である。
  2. 個人ローンの金利差は、主として貸出期間の長短によって生じている。
  3. 保証会社の保証が付いていれば、金庫が負う信用リスクは完全になくなる。
  4. 団体信用生命保険は、債務者が死亡した場合に保険金で残債が完済される仕組みである。
  5. 住宅ローンは1本あたりの利ざやが厚く、単体で十分な収益を生む商品である。
  6. 変動金利型の5年ルール・125%ルールがあれば、金利が上がっても顧客の総返済額は増えない。
  7. 住宅ローンは、金利が低下すると借換えが増え、上昇すると動かなくなるため、金庫にとって非対称な不利がある。
  8. アパートローンは住宅ローンの一種であり、同じ基準で審査してよい。
  9. 貸金業法の総量規制は、銀行・信用金庫のカードローンにも直接適用される。
  10. クレジットカードのキャッシングは貸金業法、ショッピングの分割・リボは割賦販売法が主な根拠法である。
  11. クレジットカードで会員が翌月一括払いをすると誰も費用を負担していないので、カード会社の収益は年会費だけである。
  12. カードローンの金利が年14%の設例では、損益分岐となる貸倒率は約10.6%である。
  13. 保証付のカードローンでは、貸倒れが自金庫の損益計算書に貸倒損失として現れる。
  14. 個人信用情報機関には「ブラックリスト」という名簿があり、一度載ると生涯消えない。
  15. スコアリングモデルは過去のデータで作られているため、環境が変われば予測力が落ちる。
  16. 日本では、住宅ローンについて法令によるLTVやDSTIの一律の上限が定められている。
  17. 年収倍率が同じであれば、金利水準にかかわらず顧客の返済負担(返済比率)は同じである。
  18. 融資事務手数料は、繰上返済によって早期に完済されても、一般に返還されない。
  19. アパートローンの審査では、DSCRが1を上回っていれば、それだけで金融機関の審査上十分である。
  20. 住宅ローンの申込経路のうち、提携ルートと店頭ルートのどちらが多いかは、物件の種別や金融機関の属性によって変わる。
  21. 変動金利型が主流であれば、金融機関が住宅ローンから負う金利リスクは実質的になくなる。
  22. アパートローンは住宅ローンより貸出金利が高いため、資本効率(RORA)でも必ず住宅ローンを上回る。

解答

問 答 ひとこと
1 × スコアリングによる統計的判断が原則。1件を読むのではなく1万件を数える(第1章・第15章)
2 × 担保・保証の有無と貸倒率が決めている。35年の住宅ローンが最も低い(第2章)
3 × 保証会社の信用リスク・免責事由・集中度が残る(第3-2節)
4 ○ 金庫は回収でき、遺族には住宅が残る(第4-1節)
5 × 設例では3,000万円・35年で税引後81万円。30年の取引を買う商品(第4-2節・第6章)
6 × 返済額は変わらないが元金の減りが遅くなり、総返済額は増える(第5-1節)
7 ○ マイナスのコンベキシティ。仕組預金と同じ構造(第7章、→第8巻第6章)
8 × 返済原資が給与ではなく家賃収入。実質的に事業性融資(第8-1節)
9 × 貸金業法上の規制であり直接適用されない。自主規制で対応してきた(第12章)
10 ○ 同じカードでも根拠法が分かれている(第12章の表)
11 × 加盟店手数料が中心的な収益源。費用は加盟店が負担している(第13-1節)
12 ○ 14.0% − 0.4% − 3.0% = 10.6%(第14章)
13 × 代位弁済として保証会社側で発生する。実績の貸倒率は別途押さえる(第14章)
14 × 名簿は存在しない。事実の記録であり、一定期間で消える(第15-1節)
15 ○ 定期的な検証と作り直しが要る(第15-2節)
16 × 法令による一律の上限はない。各金融機関の与信基準に委ねられている(第17-2節)
17 × 金利が違えば年間返済額が違うため、返済比率も違う。年収倍率は元本、返済比率は金利・期間を織り込んだ負担(第4-3節)
18 ○ 実行時に一時金として確定する。定率型手数料は期限前償還リスクへの収益面の防御力になる(第4-4節・第6-1節)
19 × 1を上回るのは最低条件にすぎない。金融機関は空室率悪化や金利上昇への余裕をみて、1を上回る一定の水準を求めるのが一般的(第8-2節)
20 ○ 新築分譲は提携ルートに寄りやすく、借換えはそもそも提携ではない。自金庫の実績を数えるまで前提にしない(第4-5節)
21 × 薄まるが消えない。引下げ幅の競争による借換え、5年ルールによるキャッシュフローの頭打ち、返済比率上昇を通じた信用リスクへの転化として戻ってくる(第7-1節)
22 × 設例では利益額で2.4倍でもRORAは逆転した。リスクアセットを約3倍消費するため、分子だけの比較は成り立たない(第8-3節)

用語集

用語 意味
受任通知(介入通知) 債務者が債務整理を委任したことを代理人が債権者に通知する書面(→第23巻第2-2節)
認定司法書士 一定の研修・認定を経て、額の範囲内で簡易裁判所の代理等を行える司法書士
住宅ローンの特則 個人再生において、住宅ローンを支払い続けながら他の債務を整理できる仕組み
スコアリング 属性と信用情報に点数を付け、統計的に与信判断を行う手法
貸倒率 貸出残高に対する年間の貸倒損失の割合。個人与信の管理の中心指標
損益分岐貸倒率 それを超えると赤字になる貸倒率。約定金利から調達コストと経費率を差し引いた水準
保証会社 個人ローンの債務を保証する会社。延滞時に代位弁済を行い、求償権に基づき回収する
代位弁済 保証会社が債務者に代わって金融機関へ弁済すること(→第21巻第12章、第23巻第Ⅱ部)
求償権 代位弁済した保証会社が、債務者に対して取得する請求権
保証料 保証の対価。顧客が負担する形と、金庫が負担して表面金利に含める形がある
戻し保証料 保証料の一括前払い型で、期間短縮(繰上返済等)に応じて一部が返還される保証料
融資事務手数料 金融機関自身が徴求する手数料。定率型・定額型があり、繰上返済でも一般に返還されない(保証料とは支払先が異なる)
団体信用生命保険(団信) 債務者の死亡・高度障害時に保険金で残債が完済される保険
年収倍率 借入額を年収で割った比率。借入という元本(ストック)の大きさを見る簡便な物差しで、金利・期間を反映しない
返済比率(DTI) 年収に対する年間返済額の比率。金利・期間を織り込んだ実際の負担を見る、与信基準の中心的な指標
LTV 担保価値(または物件価格)に対する借入額の比率。低いほど保全が厚い
DSTI/DTI 所得に対する債務返済負担(または債務残高)の比率。多くの国で上限規制が課されている
DSCR(Debt Service Coverage Ratio) 年間の純収益(NOI)を年間元利返済額で割った比率。アパートローン等の収益不動産向け融資の中心的な審査指標で、1を上回ることが最低条件
NOI(純営業収益) 家賃収入から、空室・未回収による損失と運営費用を差し引いた金額。元利返済額そのものは含めない
5年ルール 変動金利型において、適用金利が変わっても毎月の返済額の見直しを5年ごとに行う仕組み
125%ルール 返済額の見直し時に、従前の返済額の1.25倍を上限とする仕組み
未払利息 発生した利息が毎月の返済額を上回り、支払いきれずに残る利息
期限前償還リスク 繰上返済・借換えにより、想定より早く資金が返済されるリスク
マイナスのコンベキシティ 金利がどちらに動いても保有者に不利となる性質(→第8巻第6章)
提携申込(業者ルート) 不動産会社・住宅メーカー等の紹介により持ち込まれる住宅ローンの申込。事前審査の回答スピードが受注を左右する。申込全体に占める比率は物件種別・金融機関により大きく異なる
ローンプラザ(住宅ローンセンター) 住宅ローンに特化した拠点。土日祝・夜間の営業や事前審査の権限を持たせ、提携ルートの速さに対応する
事前審査(仮審査) 売買契約に先立ち、申込内容に基づいて融資の可否・条件の見通しを示す審査
引下げ幅(優遇幅) 基準となる金利から差し引かれる幅。実行時の条件で固定されるのが一般的で、変動金利下での借換え競争の主戦場となる
収益不動産向けエクスポージャー 返済が担保不動産の生み出すキャッシュフローに実質的に依存する与信。居住用不動産向けより重いリスクウェイトが適用される
アパートローン 賃貸用不動産の取得資金。返済原資は家賃収入であり、実質的に事業性融資
極度額 カードローン等で設定される、借入可能な上限額
未使用枠 極度額のうち実際には借りられていない部分。オフバランスのリスクとして管理する
利息制限法 貸付けの利率の上限を定める法律(元本の額に応じて年15%・18%・20%)
総量規制 貸金業法上、貸金業者による個人向け貸付けを原則として年収の3分の1までとする規制
支払可能見込額の調査 割賦販売法上、包括信用購入あっせん業者に求められる、支払能力の調査
イシュア クレジットカードの発行会社。会員との与信関係を持つ
アクワイアラ 加盟店契約会社。加盟店から売上データを受け取り、代金を支払う
加盟店手数料 加盟店がアクワイアラに支払う手数料。クレジットカードの中心的な収益源
個人信用情報機関 個人の与信に関する情報を金融機関等が共有するための機関。業態に応じて複数存在する
任意整理/個人再生/自己破産 個人の債務整理の3類型。個人再生には住宅ローンに関する特則がある

参考文献・出典

制度は改正が頻繁です。実務では必ず最新版を参照してください。

  • 銀行法、信用金庫法、貸金業法、割賦販売法、利息制限法、出資法、民事再生法、破産法およびその関係政省令
  • 金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(顧客保護等管理態勢、与信取引に関する箇所)
  • 金融庁「顧客本位の業務運営に関する原則」
  • 自己資本比率規制に関する告示(住宅ローン・リテール向けエクスポージャーのリスクウェイト、オフバランス項目の掛け目。具体値はすべて原文で確認すること)
  • バーゼル銀行監督委員会「信用リスクの標準的手法」に関する文書(バーゼルⅢ最終化を含む)
  • 全国銀行協会の公表資料(個人向け貸付けに係る申し合わせ、カードローンに関する調査)
  • 各個人信用情報機関(全国銀行個人信用情報センター、CIC、JICC)の公表資料
  • 日本銀行「金融システムレポート」(住宅ローン・アパートローン・消費者ローンの動向に関する分析)
  • 国際通貨基金(IMF)・各国当局によるマクロプルーデンス政策(LTV・DSTI規制)に関する公表資料
  • 自金庫の個人ローン商品要綱、与信基準、保証会社との保証委託契約、事務取扱要領

注記:本文中の設例に用いた数値(貸出金利、仕切りレート、経費率、保証料率、貸倒率、獲得コストなど)は、すべて説明のために単純化した仮の数値です。実際の水準は金庫ごと・商品ごとに大きく異なります。自金庫の原価計算と実績データで必ず置き換えてください。リスクウェイト・利息制限法の上限・総量規制の内容など制度上の数値は、必ず原文で確認してください。


本テキストは制度理解のための教育用資料です。個別の処理・判断は、個別事情や最新の法令・会計基準・監督指針により異なります。実際の処理・判断にあたっては、自金庫の経理/財務/リスク管理部門および監査法人・税理士・当局公表資料で必ずご確認ください。

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